「疲れた…………」
異世界の王宮にて、各自に与えられた部屋のベッドに倒れこむ。
色々なことが怒涛のように過ぎていき、ストレスに強いハジメでもさすがに気力が持たなかった。
曰く、異世界『トータス』の人類が魔人族との戦争で滅びかけている。
曰く、人類を救うため唯一神“エヒト”と言うのが“救い”を送った。それがハジメたち。
曰く、戦う力は持ってるから戦争に参加し人類を救え。
曰く、自分たちでは無理だが、事が終わればエヒト様が元の世界に戻してくれると思う。たぶん。きっと。おそらく。そのはず。
ハジメたちからすればろくでもない話ばかりだった。
この世界は神が実在し、口も手も出してくる世界。そんな世界でハジメたちは、神が人に与えた
ただ元の世界への帰還は望みが薄いとハジメは考えていた。教皇の言葉通り好意的に見れば人類を守護し導く過保護な神だが、その“救い”に他所の世界のエヒトを全く知らない人間を使うというのが変なのだ。ただ過保護な神なら直接力を振るうなり、力を信徒に与えるなりすればいい。なのにわざわざ他から持ってくるなど、不穏な意図が感じられてならない。というか神自身は「終了後に帰還させる」と言ってすらいないようなのだから、帰らせてもらえないくらいは当然と思って備える必要があるだろう。
それ以外にも不穏な推測が出来てしまう情報は多くあった。安心できる要素などろくに見当たらない。
「今考えても意味ないな。寝よ」
自分ではどうしようもないストレス要因を無視して精神を保護するのはもはやハジメの得意技だ。クラスメイトは興奮や不安で眠れない中、疲れた体を癒すべくすぐに熟睡し始めた。
翌日からすぐに訓練と座学が始まった。異世界に慣れる時間などはないらしい。物の扱いとしては性能の確認をしているだけマシだろうか。
まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長のメルド・ロギンス―――神の使いの教育係を半端な者には任せられないという理由での人選―――が説明を始めた。
「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」
やたら高性能なアイテムだ。メルド曰く、神代の遺失技術で作られた
それに血を付けて所有者登録をすると、すぐにステータスが表示された。
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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1
天職:錬成師
筋力:10
体力:10
耐性:10
敏捷:10
魔力:10
魔耐:10
技能:錬成・言語理解
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まるでゲームのキャラにでもなったようだと感じながら、ハジメは自分のステータスを眺める。天職とはこの世界ではどういう意味だ? ステータスは平たく数字は大きくない。平均値はどれほどなんだろうか? 技能欄にある文字の意味は?
それらの疑問にメルドが答える。
天職は大体文字通り。当人に適した役割を示すらしい。戦闘系は希少だが、生産系はありふれているそうだ。
ステータスと技能は見たままで、レベルは当人の成長限界を100とした場合の到達値。現地人のレベル1の平均は10程度―――エリートである騎士たちの平均はもっと高い―――で、技能は二つか三つが平均らしい。ハジメのステータスは現地民間人の平均で、“言語理解”は異世界人標準装備だから技能の数では民間人にすら劣るようだ。
最初にステータスプレートをメルドに見せた光輝は“勇者”という天職―――なんかすごいということだけ伝わってる、具体的にはよくわからないヤツ―――を持ち、ステータスも全て100、技能の数もぶっちぎりで多く強力な物ばかりだった。他の生徒はそれには及ばずとも、メルドたちの期待を裏切らないチートスペック揃いだ。
そうこうしているうちに、また一人注目される人物が出てきた。
「おお、お前も“勇者”か! 物理に寄っていて光輝のような万能ではないが、耐性は揃っているし得意分野じゃ上をいく! 素晴らしいな!」
「あ、ありがとうございます!」
クラスメイトの高嶋友奈だ。
明るく優しく元気が良く協調性の高い美少女だが、長所と表裏で自己主張が弱いところがある。光輝たち幼馴染組の自己主張が強すぎるとも言うのだが。
そんな彼女の天職が勇者。彼女なら納得だと感じる者と、疑問に感じる者にくっきりと分かれた。ハジメは後者だ。
あの光輝と同じ立場で行動しないといけないことに同情しつつも、ハジメにだって余裕はない。合格基準に満たないだろうクソステな可能性が高いのだ。最悪「紛れ込んだ偽の神の使い」として処分されかねない。真剣に命の危機である。
幸いにして“錬成師”というのが現地の鍛冶職なら持ってるありふれた天職で、ステータスも平均程度と公表されてしまっただけで済んだ。一緒に召喚された愛子先生が似たようなステータスだと希望を見せ、実は召喚された中でもトップの有用性だった落差でダメージを受けたがそれくらいだ。
運よく最初の危機を回避できた事実に安堵する暇もないまま、前途多難なこれからのことを考えてハジメは乾いた笑いを浮かべるのだった。