ありふれた職業でも桜の勇者と共に   作:ぬがー

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懐かしきホルアド

 ハジメ達は現在、馬車に揺られて宿場町ホルアドにやってきていた。王国へ向かう道中、長旅だとどうしても必要になる休憩と物資の補給のためだ。

 なおクラスメイトたちは迷宮攻略中。毎回攻略済みの階層の魔物を倒しながら降りるという手間を省くため、不測の事態がなければ―――今までそんな事態は起きていない―――何日も迷宮に籠るのだ。そのタイミングを合わせ、遭遇することがないよう調整してこの街を訪れている。

 

「見覚えある景色が見えてきたね!」

 

「ごめん、覚えてないや。たぶん僕、その時道具の製作に熱中してたはずだし」

 

「そういえばそうだっけ。でもよく考えたら、私も眺めただけで町の中とか全然見てないや。じゃあ実質初めてくる町だね! 新発見がいっぱいあるよ!」

 

「僕もそれは楽しみだな。前来たときはスルーしたけど、ここでしかない独特な文化とかありそうだからね」

 

 ホルアドは迷宮に挑む冒険者や騎士たちの町だ。

 日々大量の魔石を迷宮より得て、それを輸出して外貨を獲得し、その金でなんでも輸入し販売するというのがホルアドの経済事情。尽きることなく安定して得られる魔石(エネルギー)は町を富ませ、ここで手に入らないものは早々ないと評判だ。また潤沢なエネルギーが魔法具の常用を可能とし、それが余裕となって新たな娯楽や文化を生み出していた。宗教の中心地である神山とは別の意味でトータスの中心地と言える地位にある町なのだ。

 トータスの町をいくつも見てきた二人にとっても新鮮な独特の雰囲気を有している。これは期待に胸が膨らむというものだ。

 

「ただ冒険者ギルドは質が低いらしいんだよね。荒くれの巣窟だって言ってたよ。今回は近寄らないってことでいい?」

 

「そういうことなら困ってる人もギルドじゃなくて他に頼んでそうだし、行かなくてよさそうだね。観光だけしてしっかり休もう」

 

 何でも屋な冒険者より、戦闘が専門の騎士や戦士の方が魔物討伐と魔石採取では上をいく。未開拓領域を切り開いてきたのは冒険者だが、もう長い間開拓は進まずホルアドの中心からは遠ざかっていた。

 そこへ教会お墨付きの“神の使徒”が現れてガンガン未開拓領域と踏破していったのだ。冒険者の立場は相対的にさらに下がり、荒れ方がひどくなったと聞く。わざわざ近づく必要はないだろう。

 

 どこから行こうかと相談しながらガイドを読む二人に、変なモノを見る目をしたシアがついに話しかけた。

 

「……あのーお二人とも?」

 

「「? 何?」」

 

「ここでハジメさんはかなりきつい目にあったって聞いてますけど、なんだか軽くないですぅ?」

 

 ぽやぽやと観光が楽しみだと語る二人に、新入りのシアが問いかける。

 ここに来る道中で、オルクス大迷宮で二人は―――というかハジメは―――同郷の者に裏切られ、別行動を余儀なくされたと聞いている。それもグループの危機から助けた直後にだ。シアがその立場ならもっと思うことがあるだろうに、二人の気軽さが信じられなかった。

 

「シアさんの方がきつくない? そっちに比べたら僕は五体満足で元気だよ?」

 

「私だってもう五体揃って元気ですぅ。それに“未来視”でどうにかなるのは見えてましたし、一時怪我してただけですよぉ。

 そんなことより、味方からの裏切りは辛いはずです! なんで平気そうなんですか!?」

 

 ハウリアという情がありすぎる一族で生まれ育ち一族総出で守られてきたシアとって、肉体的なダメージよりも裏切りの方が許せないし深く傷つく行動だ。なのにあっけらかんとしているハジメには疑問しか湧かないし、友奈が気にもしていない様子なのも理解できない。

 ただハジメからすればなんてことはない、前提条件が違うだけだ。

 

「そりゃ味方じゃなかったからね、ただの同郷。期待してなきゃ裏切られても大したことないよ。それに被害もすぐ帰って来れたからほぼなかったし」

 

 もし一人で奈落(オルクス大迷宮深層)まで落ちていれば、ハジメと言えど変わっただろう。だがそれは裏切りが理由ではない。捕食者が迫り、空腹と苦痛で心を削られ、それでも生きたいと思うから環境に適応してしまっただけだ。

 最初から味方と思ってないから裏切られても「知ってた」で済むし、報復などめんどくさい。ピンチなら見捨てるのは嫌だし助けるが、利益か実害がなければ関わろうと思うほどの興味はない。それがハジメの今のクラスメイトたちの認識だった。

 

「そういう考え方もあるんですねぇ。ハウリアでは考えられないですぅ。

 なら友奈さんは? 友奈さんもあんまり気にしてないみたいですけど」

 

「うーん、私は南雲くんが気にしてないなら私が気にするのも変かなって。

 それにあの状況だと冷静に行動はできないと思うし。暴走しちゃう人が出るのは避けられなかったって思うんだ」

 

 高嶋友奈は勇者だが、彼らは勇者ではない。

 ここで言う『勇者』は天職のことではなく、心の在り様の事であり、立場の事でもある。

 普通の人は楽な方に流れるし、諦めるし、悪いことだってするし、恩を仇で返すこともある。それが『勇者』ではない人の当たり前なのだ。唐突に大きな力を与えられ、いきなり命の危機にさらされ、信じたくないことが起きればまともな判断などできない。常に正しくあることを求めるのは酷と言うものだろう。

 もちろんやったことは許せないし怒っている。だがそれで相手を憎んで、相手が挽回するチャンスを全て潰してしまうことはない。やらかした相手でも更生できるかもしれないのだ。諦めない限り希望は消えないと知っているから、ワンチャンに賭けて負担を背負い頑張るのが『勇者』なのである。

 

「だからきちんと反省して、南雲くんに謝ってくれたら、また遊んだりしたいかな。同じクラスの仲間だしね」

 

「遊ぶ時は僕も誘ってね。あっちも態度を変えてくれるなら、これを機にクラスの奴と交友関係広げるのも悪くないかなーって思ってるんだ。

 そりゃ散々なこと言われてた、というか今も言われてるってメルド団長からの連絡で聞いてるよ。でも僕だって好意的に見てもらえること全然してなかったし、相手だけが悪いとは言いにくいからさ。普段0点ばっかり取ってるやつが120点取ったらそりゃズル疑うって。

 でもお互い負い目があれば妥協できそうし、今がチャンスだろうから」

 

「それいいね! 南雲くんの良いところ見せたら皆掌くるっくるだと思うよ! イケるイケる!

 そうなると帰ったらやりたいことどんどん増えてくなぁ! 打ち上げやって、修学旅行行って、文化祭も楽しみだなぁ。それからそれから……

 あ、そうだ確認忘れてた! シアちゃんも来てくれるよね!?」

 

「そりゃ行けるならいきますよぉ! お二人について行かないわけないじゃないですかぁ!

 あとお二人のいう仲間に関してはいまいち共感はしかねますが、理解はできたと思いますぅ! 要は気にしても無駄だから今は観光を楽しめばいいんですね!」

 

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