ありふれた職業でも桜の勇者と共に   作:ぬがー

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今回はクラスメイト視点。

原作と変わらない部分は結構スキップしています。


VS 魔人族 前編

「うっ……」

 

「鈴ちゃん!」

 

「鈴!」

 

 うめき声を上げて身じろぎしながらゆっくり目を開けた鈴に、ずっと傍に付いていた香織と恵里が声に嬉しさを滲ませながら鈴の名を呼んだ。

 鈴はぼんやりした目で周囲を眺め、ぼんやりしたまま二人に尋ねた。

 

「……ここ、どこ? なにがあったっけ?」

 

「ッ! 記憶の混乱が起きてる。石化に時間がかかったせいかな? ちょっと検査するね」

 

「鈴、説明するから落ち着いて聞いて」

 

 鈴の頭に手をかざして回復魔法を行使し状態を調べる香織。

 恵理は声が枯れている鈴に水を渡しながら、今までにあったことを説明し始めた。

 

 

 今日もいつものように迷宮の探索をしていたが、90層に入った頃から魔物が一体も現れないという異常事態が起きていた。

 今まで異常事態なんてなかったものだから油断して、引き返さずにそのまま進んで、待ち構えていた魔人族二人と配下の魔物たちに遭遇した。

 魔人族の目的は人間族側の“神の使徒”の戦力調査と勧誘。

 断ったが戦闘になり、魔人族の女の放った土属性上級魔法“落牢”―――何かにぶつかると弾け、石化効果のある砂塵を放つ球体を生み出す魔法。石化は回復魔法で解除可能だが、解除するまで苦痛と共に石化は広がり続ける―――で味方は総崩れ。それでも“土術師”の野村の警告で被害は抑えられており、恵理が土壇場でホラー苦手を克服し“降霊術”を行使出来たこともあって上層まで撤退できた。

 今は最も隠密行動に向いた遠藤単独で救援要請に向かっており、自分たちはそれを待って隠れているところ。端的に言って大ピンチ。

 

 そう説明を聞くうちに、鈴も気を失う前に何があったか思い出してきた。

 やたら余裕綽綽の魔人族と遭遇し、普通に負けたのだ。不幸中の幸いと言っていいのか、相手の目的は勧誘であり、二人いた魔人族も戦闘で動いたのは片方のみ。だから石化した者も砕かれたりはせず、全員で逃げれて生きているのだろう。

 

「大体整理ついてきたよ。結構時間経ってたんだね……あ、そうだ。カオリン、ありがとね! カオリンは鈴の命の恩人だね!」

 

「鈴ちゃん、治療は私の役目だよ。当然のことをしただけだから、恩人なんて大げさだよ」

 

「くぅ~、ストイックなカオリンも素敵! 結婚しよ?」

 

「鈴……青白い顔で言っても怖いだけだよ。取り敢えずもう少し横になろ?」

 

 鈴が香織に絡み、恵里に諫められる。行き過ぎれば雫によって物理的に止められる。全く持っていつも通りの、日本にいた頃からの光景だった。

 当然、この窮地で自然と出来ることではない。無理やりでも普段通りに振る舞い、雰囲気を明るくする。ムードメーカーである鈴に求められる行動だ。

 ただそれでも状況が悪すぎる。一部の雰囲気は明るくなったが、鈴の行動を受け入れる余裕のない者も当然いた。

 

「……なに、ヘラヘラ笑ってんの? 俺等死にかけたんだぜ? しかも、状況はなんも変わってない! ふざけてる暇があったら、どうしたらいいか考えろよ!」

 

 鈴を睨みながら怒鳴り声を上げたのは檜山の取り巻きの近藤礼一だ。声は出していないが、隣の斎藤良樹(取り巻きその2)も非難するような眼を向けている。

 光輝がそれを諌めるが、噴き出した不安は収まらない。

 そもそもリーダーの光輝が勝てなかったから不安になっているのだ。光輝の静止にこれまでのような力はない。

 今まで金魚の糞のようについて来ておいて勝手な話だが、それがモブと言うものである。窮地になっても冷静でいられるほどの強さはないし身勝手なものだ。

 

 日本にいた頃なら、鈴で手に負えない事態になれば友奈が動いていた。普段はムードメーカーの鈴がいるため目立つことはしないが、いざと言う時はあえて空気を読まない言動で場を和ませてくれていたと今になって理解する。

 だが今ここに友奈はいない。雰囲気は暗く荒れたまま、外の脅威から隠れるために黙れと雫に叱責されてようやく静かになった。

 

「……なぁ皆」

 

「黙れっての。見つかったらどうすんだよ」

 

「見つけられてもいいんだよ。提案なんだけど、降参しないか?」

 

 雰囲気がさらに暗く攻撃的になる。

 発言したのは清水。クラスでは交友関係もあまりなく、学校では自分の席で本を読んでいた大人しく静かな少年だ。トータスにおいては“闇術師”の天職を有し、敵へバッドステータスを付与する魔法を得意としている。

 普段ろくに発言しない清水が放った爆弾発言に、光輝も表情を険しくして問い質す。

 

「どういうつもりでそんなことを言うんだ。答えろ」

 

「…………敵の強さだよ。教会の話じゃ魔人族は魔物を使役して『数の不利』を覆してきたって言ってただろ。だから人間族の『質の不利』をどうにか出来る俺らが召喚されたんだ。

 なのに魔物の『質』もあの強さなんだぞ? 使い捨てても惜しくないみたいだったし、使役する魔物を強くする技術も向こうにはあるんだよ。なら戦争しても勝ち目なんかあるわけない。

 だったら条件が悪くならないうちに勝ち馬に乗った方g」

 

 光輝が清水を殴り飛ばした。

 

 清水の戦力分析自体は間違っていない。人間族最大戦力の自分たちでこの様なのだ。ならもう人間族に勝ち目などない。少しでも値が下がらないうちに売っておいた方がマシというのは短期的には正解だろう。例え戦争終結後に始末されることになる選択だとしても、戦争中に負けて殺されるよりは長生きできる。

 だがそれは、光輝の『正義』には到底認められない考えだった。

 

「そんなことしたらどうなるかわかってるのか! たくさんの犠牲者を出すことになるだけじゃない、人間を殺すことになるんだぞッ! そんなこと絶対に許さないッ!!」

 

「ちょっと落ち着いて! 声が大きい!」

 

 激昂する光輝を雫が小声で慌てながらも強く言いつけ止める。未だ窮地から脱することは出来ていないのだ。大声を出すのはマズい。

 そんな二人を見る清水の目は弱弱しくも冷たい。

 自分たちは魔『人』族と『戦争』をするために呼ばれたのだ。今も人を殺すことを望まれているのに変わりはなく、寝返っても攻撃する陣営が変わるだけだ。それとも光輝は魔人族は人間ではないとでも思っているのだろうか? 先ほど交渉だって出来ていたというのに。

 そうは思っても口には出せない。元々清水は心が強くないのだ。怒った光輝は怖いし、それに流されるクラスメイトも怖い。黙りこくるしかなかった。

 

 

 しかしそれも遅かった。ここまで深い階層に他に人はいないのだ。光輝を怒らせ大声を出させた時点で、聴覚に優れた魔物により居場所は大体絞り込まれてしまっている。

 

 

 土魔法で行き止まりに偽装した壁が粉砕され、魔物が入り込んでくる。

 

 未だクラスメイトたちは完全回復には程遠い。

 意識を取り戻したばかりの鈴は魔力こそ回復しているが戦闘どころか歩くのも覚束ないし、ずっと治療を行っていた香織と綾子(“治癒師”2人)は魔力を使いすぎ疲労困憊、休めた後衛組も魔力の回復は半分程度。

 前衛組の負傷こそ治っているものの、戦闘が行える状態ではない。だがもはやそんなことを言っていられる余裕はなくなってしまった。

 

「やーっと見つけた。手間取らせてくれるね。こっちは他にも重要な任務があるっていうのに」

 

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