ありふれた職業でも桜の勇者と共に   作:ぬがー

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VS 魔人族 後編

「やーっと見つけた。手間取らせてくれるね。こっちは他にも重要な任務があるっていうのに」

 

「そういうな。この程度出来ねば心許ない。あのお方に捧げるだけの価値はありそうなことを喜ぶとしよう」

 

 魔人族二人が余裕綽々といった風情で魔物を嗾ける。

 

 それに対し、真っ先に動いたのが光輝と龍太郎だ。光輝は壁を破ったキメラ―――ライオンのような頭部に竜のような手足と鋭い爪、蛇の尻尾、鷲の翼を持つ奇怪な魔物―――が固有魔法で透明化するまえに斬り捨て、龍太郎は外に繋がる通路に陣取って魔物が侵入してくるルートを塞ごうとする。

 

「オォオオ!!」

 

「ぐぅう!!」

 

 それを黙って見ていてくれるような、迷宮の魔物と同じ思考を敵はしない。

 龍太郎が立ち塞がった直後に、ブルタールモドキ―――ブルタールは二本足で立つ豚のような魔物。この魔物はそれを極限まで鍛え直し引き絞ったような体型で、武器(メイス)も振り回すのみならず使いこなしている―――の体当たりで弾き飛ばされる。その隙に触手を生やした黒猫が何十匹と侵入を果たし、棒立ちの後衛組に弾丸のごとき刺突を放った。

 

「―――“天絶”!」

「―――“天絶”!」

 

 体は動かせないが魔力は回復している鈴と、魔法の練度では頭一つ抜けている香織が遠隔で多重障壁を張る。短縮された詠唱に、真っ直ぐ受けず斜めに受け流す工夫はさすがのチートスペックと褒めていいだろう。

 だが疲労した状態では全力を発揮することはできない。発動する速さは落ちなかったが、その分強度が犠牲になった。

 衝撃を受け流しても、何度も何度も刺突を受ければ障壁が次々と突破されていく。普段ならこの間に詠唱を済ませ、追加で強度も高い障壁を展開するところだが、今はそれが出来るほどの余裕もなかった。後衛組の何人かが触手に貫かれ傷を負う。

 

「怪我した奴は谷口のとこまで下がれ! 他は戦闘準備だ!」

 

 永山が指示を出しつつ、龍太郎と押し合うブルタールモドキを弾き飛ばし、再度通路を塞ごうと前進する。

 怪我した者を鈴のところまで下がらせたのは、一緒にいる香織の治療が受けやすいのと、障壁を張るにしても遠隔より近くに展開する方が楽だからだ。鈴と香織の近くが今一番の安全地帯なのである。

 

「くっ、光輝! 〝限界突破〟を使って外に出て! 部屋の奴らは私達で何とかするわ!」

 

「だが、鈴達が動けないんじゃ……」

 

「このままじゃ押し切られるわ! お願い! 一点突破で魔人族を討って!」

 

「光輝! こっちは任せろ! 絶対、死なせやしねぇ!」

 

「……わかった! こっちは任せる! 〝限界突破〟!」

 

 雫と龍太郎の言葉に一瞬考えるものの、状況を打開するにはそれしかないと光輝も理解して“限界突破”を発動する。

 最初の魔人族との遭遇戦でも“限界突破”は使用した。これで本日二回目だ。本来なら使用してから一日は間を開けることが望ましいのに、ろくに休めないままの連続使用。本来の持続時間である8分も維持することはできないだろう。それでもその間に敵の指揮官を潰して連携を崩すしかないと意気込んで隠し部屋を飛び出した。

 

「神意よ! 神の息吹よ! 神の慈悲よ! この一撃を以て、全ての罪科を許したまえ!! “神威”ッ!」

 

 問答無用と、威力を犠牲に詠唱を短縮した必殺技を光輝が放つ。

 奥に控える魔人族には届かなくても、群がる魔物を蹴散らし道を切り開くための砲撃だ。しかしそれも十数体蹴散らし威力が減じたところで、透明化を解除したアブソド―――六足の亀―――に吸い込まれた。

 

「クソッ、またそいつか!」

 

 一度目の戦闘でも魔法を吸い込まれ範囲攻撃を妨害された。魔法攻撃に対してアブソドが前に出ず、むしろ他の魔物が盾になって威力を削いだ今の動きを見る限り魔力を吸収できる量にも限度はあるはずだ。だが限界値を超える攻撃が打てない光輝には厄介過ぎる相手だった。

 こうなれば遮る敵は斬り捨て一気に駆け抜けるしかない。一手のミスが致命傷だがそれしか道がないのだ。

 

 それは魔人族もわかっているから、一手誤らせるための用意もしてある。

 

「出しな」

 

 女魔人族の指示に従い、透明化を解除された魔物が何か(・・)を見せつける。

 

「……メ、メルドさん?」

 

 そこには四肢を砕かれ全身を血で染めた瀕死のメルドがいたのである。一見すれば既に死んでいるようにも見えるが、時折小さく上がるうめき声が彼等の生存を示していた。

 

「おま、お前ぇ! メルドさんを放せぇッ!?」

 

 魔人族の読み通り、激昂し我を忘れて突進する光輝。

 その進路には魔人族が連れてきた中で最強の駒、馬頭に四本腕の魔物アハトドが透明化して待ち構えている。もはや詰みは目前だ。

 

 

 

 

 

 その窮地に際し、聖剣は輝きを増す。

 魔人族が一人で魔物も半分程度なら、光輝の覚醒で勝機は残った。だがこの戦力差で負ければ“限界突破”の最終派生“覇潰”に目覚めたとしても、逆転するまで体がもたなくなる。

 ゆえにこの窮地を脱することが出来る程度まで、例外的に聖剣の機能解放が一時的に行われた。

 

「うおぉぉぉぉおおおおっ!!!」

 

 光輝の気合いと共に、聖剣が伸び枝分かれする。

 いくら鋭くとも人間用サイズの剣による斬撃では死ににくい魔物も、大きく枝分かれした剣によって複数の傷跡を刻まれれば回復も間に合わない致命傷となった。

 また聖剣の機能はそれだけに留まらない。斬撃と共に十字の光がキラキラと発生し、その全てに当たり判定が行われる。大きくない魔物は十字の光で蹴散らされ、致命傷を負っても食いしばった大型の魔物は止めを刺された。

 

 二振り、三振り、聖剣を振るうたびに斬撃は延長し、ばらまかれる光の十字は大きく数を増していく。魔人族の想定を遥かに凌駕する速度でだ。このままではせっかく連れてきた魔物も全滅するだろう。

 

「ッ、化け物め!」

 

 男の方の魔人族が意を決して光輝の懐に飛び込む。斬撃と光の十字は外へと放たれており、一気に近づいた方が危険は少ないと踏んだのだ。

 その見立ては間違ってはいない。だが別に武器が大型化したからと言って、対応力が下がったわけではなかった。

 聖剣がさらに枝分かれし、伸びた刃が魔人族の男の首を刎ね飛ばす。

 しかし男も斬撃の弾幕に飛び込んだ時点で死は覚悟している。首を無くしたまま、体だけが光輝へと迫り刃を振るった。

 

「邪魔、だぁッ!」

 

 魔法ですらない、魔力の放出で光輝が魔人族の男を弾き飛ばす。

 そのまま一直線に魔人族の女を始末すべく駆けた。

 

「まいったね……確かに詰めてたはずなのに……まるで三文芝居でも見てる気分だ」

 

 魔人族の二人が取った戦法は間違っていない。光輝たちの戦力分析にも誤りはなかった。

 ただ追い詰め過ぎれば聖剣が反則をすると知らなかった。物語のごとき勇者の活躍を演出する存在を認識出来ていなかったのが彼らの落ち度だ。

 

「ごめん……先に逝く……愛してるよ、ミハイル……」

 

 愛しそうな表情でロケットペンダントを見つめながら、そんな呟きを漏らす魔人族の女に、光輝は思わず聖剣を止めてしまった。覚悟した衝撃が訪れないことに訝しそうに顔を上げて、魔人族の女も自分の頭上数ミリの場所で停止している聖剣に気がつく。

 そして光輝の表情を見て、何に気付き、何を思ったかを察した。

 

「……呆れたね……まさか、今になってようやく気がついたのかい? 『人』を殺そうとしていることに」

 

「ッ!?」

 

 光輝は魔人族について、教皇イシュタルに教えられたことしか知らず、それを疑ってもいなかった。魔人族は残忍で卑劣な知恵の回る魔物の上位版、あるいは魔物が進化した存在であると。

 男の魔人族を殺したときも、そのイメージは揺るがなかった。相手にも戦意があり、殺し合いだったため余裕がなかったこと。そして首を刎ねられても戦い続けるなど『人』とは思えなかったからだ。

 だが抵抗を諦めた魔人族の女の言葉でその認識は覆された。自分達と同じように、誰かを愛し、誰かに愛され、何かの為に必死に生きている、そんな『人』なのだと見せつけられたのである。

 

「まさか、あたし達を『人』とすら認めていなかったとは……随分と傲慢なことだね」

 

「ち、ちがっ……! 俺は、知らなくて……」

 

「ハッ、知ろうとしなかったやつの言うことだね。

 全隊、攻撃開始せよ! 殺してもいい!」

 

 魔人族の男が死んだ時、残った配下の魔物の指揮権は彼女に移るよう調整されている。逆もまたそうだった。

 ともかく光輝に戦力を削られた分、温存していた戦力もまとめて投入する。ここが使いどころだ。

 

「な、まだこんなに!?」

 

「ここで驚いたり悩んでる暇あるのかい? ほら、お仲間を助けに行かないと、全滅するよ!」

 

 光輝は一瞬躊躇するも、踵を返して仲間の救援に向かう。この戦力では自分が戻らなくては危うい。そう考えてもいたが、あえて目を逸らした事実があった。

 そしてその甘えには、間を開けることなく報いを受けることになる。

 

「馬鹿だと分かったばかりだけど、ここまでとはね。私はまだ戦えるんだよ」

 

 一度戦意を喪失したなら、もう二度と戦意は抱けない。そんなことあるわけない。

 相手の甘さで窮地を脱したなら、次にすることは甘さに付け込んで反撃することだ。魔人族の女に止めを刺すことも、戦えないよう傷を負わせておくこともせず、背中を見せた光輝は、順当な結果として背中を刺された。

 ザラザラとした土魔法の刃が腹部を抉る。痛みと出血で“限界突破”は解除され、もう一度無理をしようものなら負荷に耐えきれず腹部から弾けて死ぬだろう。

 

「さて、これなら本来の目的に戻れるね。死人が出ると意固地になりかねないし、死んでないといいんだけど」

 

 殺していいと嗾けたが、本来の目的は勧誘だ。

 例え戦友が一人が殺されたとしても、自分が殺すのは交渉をするうえで損。むしろ魔人族側の死者を交渉材料に、精神的優位を取っていくべきだろう。

 魔人族の女は光輝の拘束を最優先し、魔物を引き上げさせ、隠し部屋から出てくるのを悠然と待ち構えた。

 




光輝は今のところ、剣術とか魔法とか連携とかの本人の努力は放り捨て、聖剣の能力だけで戦った方が圧倒的に強い。ただしそれだと成長が望めないので、聖剣側で制限をかけられています。
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