具体的にはまだ光輝たちは通路で隠れてる頃。鈴もまだ目を覚ましていません。
「ほいっと」
「ん? んん~~……わかった、こうだ!」
トータスのボードゲームで遊ぶハジメと友奈。
ハジメの手から何か感じた友奈は、少し考えて急所を突いた。
「じゃあこう」
「え? あれ?」
ノータイムで返され、友奈が混乱する。確かにハジメを追い詰める一手を打てたはずなのに、ハジメに動揺は見えない。それどころか考え込みすらしなかった誘導されたのだろうかと不安になる。
その盤面をシアが覗き込み、つい口を出してしまった。
「ハジメさん、これ詰んでないですぅ? この手もただ駒捨てただけですし」
「ハッタリ解説しないでよ!? 大ポカ分を取り返せそうだったのに!」
「あ、読み間違いじゃなかったんだ。じゃあこれ取って、初勝利! イェイ!」
連敗した後の勝利に友奈は素直に喜ぶ。ハジメは得意分野で負けてちょっと凹んだ。シアはやらかしを笑って誤魔化そうとしている。
補給と休息で訪れたホルアドにて、ハジメたちは観光を楽しみ、日が落ちた今は騎士団の宿舎でボードゲームを楽しんでいた。
普通の村や小さな町なら住人だけでは解決できない問題を抱えながら過ごしていることが多々あり、ハジメたちが立ち寄った時はその手助けをやったりして過ごしていた。だがホルアドは大きな街だ。大抵の問題は自力で解決できるスペックがあり、ハジメたちが出しゃばって何かする必要もない。心おきなく遊び倒すことが出来た。
また普通の町ならエネルギーの問題で、陽が沈めば眠る時間になる。ただしホルアドには魔石が潤沢にあり、街には明かりが灯され昼とは違った顔を見せてくれる。しばらく休んだし、もう一度観光に行くのもいいだろう。
そんな風に話していると、予期せぬ客人が飛び込んできた。
「高嶋様! 南雲様! 申し訳ありません、緊急事態です! 魔人族が出たとのこと! 協力願います!!」
「で、状況どうなってるの? 準備するにも情報が欲しい」
「大迷宮の中で遭遇した方ですが、自分も連絡を受けたばかりでして。遠藤様が今治療を受けられていますので、詳しい話は直接聞いていただきたい」
これからどう動くにしろ普段通り戦えればいい友奈とシアは鎧や武装・道具の準備を始め、状況に合わせて動きたいハジメは聞き込みのため騎士に案内され別行動。先行して話を聞きに医務室に急いだ。
そこにいたのは傷だらけの遠藤。負傷しているからか、それとも精神面がガタガタだからか、周囲の治癒師もハジメも彼の姿を見失うことはなかった。
「南雲か!? 高嶋はッ!?」
「準備中。僕が話は聞いてやることだけ伝えるよ。そっちの方が早いし。何があったの?」
「……それは、その」
遠藤が言いよどむ。
実は遠藤はメルドから「クラスメイトの現状についてハジメには伝えられている」と聞いている。つまりハジメに助けられていながら、ハジメを追い出した連中が、今もハジメが悪いと言い続けて、友奈と一緒にいられないようにしようとしてる。この事実をハジメが知っていると知っているのだ。
自分なら恨むし、現在進行形で敵だし、助けたいなんて思わない。だから救援要請は友奈の方にしたかった。ハジメだと助けを求めたら逆に追撃を受けそうだが、友奈ならまだ応じてくれそうだからだ。
だが話を聞くのはハジメだけだと言う。「もしかして詰んだ? 無理やりでも高嶋に出てきてもらうべき?」と思いつつ、香織や雫が予想するように何の裏もないことに賭けて話すことにした。
「―――大体の状況はわかったよ。
で、肝心の敵戦力は? 連れてた魔物の特徴と魔人族の戦法は? 今の遠藤君たちはどれくらい強くて、魔物とはどれくらい差があったの?」
「え、えっと、協力してくれるってことでいいのか?」
「するつもりだから早く答えて。時間ないんでしょ?」
「あ、ああ、わかった」
遠藤は戸惑っているが、ハジメはスルーして遠藤と情報交換を続ける。
その甲斐あって欲しい情報はほぼ得られた。敵戦力は見えた範囲なら十分対処可能、クラスメイトの実力も戦闘後話が拗れてもどうにでも出来そうなレベル。これならミイラ取りがミイラに、なんてことは起きないだろう。
「これだけわかれば十分だよ。準備を済ませたら一気に降りるから、傷はしっかり治しておいて。道案内は欲しいからさ」
「……なぁ、聞いていいか?」
「? 何を? 準備は高嶋さんが来てからだから時間はあるけど」
「なんで普通に助けに来てくれる流れなんだ? いや、助けに来てくれるのはありがたいけどさ。日本にいた頃からずっと、南雲への態度酷かっただろ? 今回のは正直、一緒に死んでくれって言ってるようなもんだし、信じられないんだよ。高嶋が助けてくれるならまだわかるんだけど、南雲がっていうと、その、理解できない」
「……僕としては高嶋さんなら助けてくれるって思う方がどうかと思うけどね。いや、助けてはくれるだろうから間違ってはいないけど。僕の言えたことじゃないけど、強くて優しい相手だからっていくらでも助けてもらっていいわけじゃないんだよ。
―――で僕が助ける理由だけど、色々あるけど一番はコレかな。気分の問題」
「は?」
「だから気分。知らないところで死んでれば「へー」で済ませるけど、手の届くところでなら助けるよ。だって見捨てたら僕の気分が悪くなるんだから。なんでクラスの連中の言動に僕が左右されて、不快な思いしなきゃならないのさ」
確かにクラスメイトはハジメをイジメていたし、今も嫌っているし、ハジメを殺そうとしたヤツだって混じっている。ハジメはだって思うところは当然あるし、殺人未遂の犯人については対策と特定・対処が必須だとは思っている。
だがその程度で『助けられる相手を見捨てる』という選択をするのは気分が悪い。
つまり可能な範囲のやりたいことを我慢したくないという勝手さと、見捨てるなんて面倒なことをわざわざしたくない物臭さ。ハジメが人助けをする理由なんてこんなものである。
友奈の優しさ、強さ、純粋さ。そういった綺麗なモノとはまるで違う。
しかし基本は善性なおかげで行動はで一致しているし、タイプが違うゆえに補い合えるから、ハジメと友奈は小さな歯車と大きな歯車のように噛み合い上手く回っているのだった。
「まぁ気分以外にも、クラスの皆が死んじゃったらこっちの負担が増えるとか、僕がやれば出来るって見せつけるチャンスだって打算もあるから。だからやっぱり面倒だからやーめた、みたいなことはしないから安心してよ」
「………………まぁ気分より打算の方が安心できるな。そっちメインだと思っておくよ」