「うそ……だろ? 光輝が……負けた?」
「そ、そんな……」
「や、やだ……な、なんで……」
隠し部屋から出てきたクラスメイト達が、吊るされる光輝を見て呆然としながら、意味のない言葉をこぼす。流石の雫や香織も言葉が出ずに立ち尽くしている。
かなりメンタルにダメージが入っているのを確認し、追撃すべく魔人族の女は平静を装う。
「ふーん、どうやら話が出来る状態にはなったみたいだね。こうも話を聞かないのがトップじゃ交渉もできやしない」
「……私達に何を望んでいるの? わざわざ生かして、こんな会話にまで応じている以上、何かあるんでしょう?」
「さっきも言ったじゃないか、勧誘だよ。ほら、前回は、勇者君が勝手に全部決めていただろう? あんたらは私らの手持ちで勝てる程度だけど、中々の伸びしろも感じられたし、改めてもう一度ね。で? どうだい?」
魔人族の女の言葉に何人かが反応する。それを尻目に、雫は臆すことなく再度疑問をぶつけた。
「……光輝はどうするつもり?」
「悪いが生かしちゃおけないね。こちら側に来るとは思えないし、説得も性格的に無理だろう? こっちも一人殺されてるから、心情的にも殺してしまいたいってのもあるしね」
「ッ!?」
魔人族を殺したと聞いたところでハッとなって光輝を見る雫。傷を受け消耗していたためわかり辛かったが、精神的にもかなり消耗しているように見える。戦争で人を殺すという自覚がないままだった光輝だが、この窮地で実行した後に直視してしまったのだろう。
「で、あんたらの待遇だが、まぁ当然首輪くらいはつけさせてもらう。でも安心していい。反逆できないようにするだけで、自律性まで奪うものじゃないから」
「自由度の高い、奴隷って感じかしら。自由意思は認められるけど、主人を害することは出来ないっていう」
「そうそう。理解が早くて助かるね。勇者君と違って会話が成立するってだけでかなり楽だよ」
雫と魔人族の女の会話を黙って聞いていたクラスメイト達が、不安と恐怖に揺れる瞳で互いに顔を見合わせる。魔人族の提案に乗らなければ、光輝すら歯が立たなかった魔物達に襲われ十中八九殺されることになるだろうし、だからといって魔人族側につけば“神の使徒”ではなくなる。
つまり日本への帰還手段を失うと言うことだ。クラスメイトたちは教会が信奉する神のエヒトに縋るしか、帰るための希望を持っていないのだから。
「わ、私、あの人の誘いに乗るべきだと思う!」
誰もが言葉を発せない中、意外なことに恵里が震えながら必死に言葉を紡いだ。それにクラスメイト達は驚いたように目を見開き、彼女を注目する。そんな恵里に、龍太郎が顔を怒りに染めて怒鳴った。
「恵里、てめぇ! 光輝を見捨てる気か!」
「ひっ!?」
龍太郎の剣幕に、恵理が素で怯える。彼女だって光輝を捨てたくはないのだ。だが外圧により他の手段が見つからない状況を作られている。もうどうしていいかわかっていなかった。
だが恵理が口火を切ったことで、行動を後押しされた者も出てきた。
「ッ!? ぐぁっ!!??」
急に龍太郎の全身から力が抜け、追撃の魔法が直撃する。闇属性の相手を脱力させる魔法と、火属性の高火力魔法の連続発動だ。防御も“属性耐性”で軽減することも出来なくした上での攻撃は、格上相手だろうとかなり効くと迷宮で戦う中で証明されていた。
さすがの龍太郎も奇襲でコレを耐えきる頃は出来ず、戦闘不能の大怪我を負った。
「黙ってろよ天之河の腰巾着。お前の勝手で俺を巻き込むんじゃねぇ」
「清水! あなた何をするの!」
龍太郎を攻撃したのは、真っ先に魔人族に下るべきと言った清水だった。流石の雫も冷静さを失い剣を向けるが、暴走状態の清水は胃にも介さない。
「うるさい! 俺は早く勧誘受けるべきだって言っただろうが! なのに戦って! 負けて! この様じゃねぇか! 天之河が勝手に決めて、天之河が負けたんだから、天之河が殺されるのはしかたないだろ!?
生きるための指示なら俺が出してやるから、お前らは従えばいいんだよ!!」
清水の暴走を魔人族の女は冷ややかな目で見る。
この後「勇者は生かすから全員服従しろ」と交渉するつもりだったのだ。元々裏切らせた場合に人間族に与えるダメージは“勇者”が一番大きいし、捕らえられた以上殺すつもりはなかった。だというのにそれが台無しになってしまったのだ。面倒だが、軌道修正をするしかない。魔人族の女はそう判断した。
でもちょっと遅かった。
「高嶋だってそうだ! 俺が南雲を排除してやろうとしたのに、無駄に助けていなくなりやがって! “勇者”どもが俺の好意を無駄にしなきゃ、もっといい展開にできたはずなんだ! だから俺に従うのが一番なんだよっ! わかったな!?」
「は?」
南雲を排除した、の辺りで香織がキレる。だがそれに清水は気付かず、魔物の囲まれた状態では香織も実力行使には移れず何も起こせない。ハジメを殺そうとした清水は駆除したいが、それは生き残ってハジメと再会することより優先されることではないからだ。
ただ清水と交渉してもその結論に香織が、そして雫が従うことはないだろう。この二人が従わなければ他にも従わない者が出てくる。クラスが割れて仲間で殺し合う可能性まで見えてきていた。
「(どうすりゃいいんだい、これ?)」
清水の言動で一番困っていたのは魔人族の女だ。ここで罪の自白とかされても集団の和が乱れるだけ。なのに清水は暴走状態で気付かないし、清水以外の交渉役も動揺してしまって出てこない。どうにか話をまとめようと、必死に頭を回転させているのだった。
清水に期待してくれていた人には申し訳ありません。この二次創作では原作での描写を優先しています。
清水は二次創作だとよくいい人に改造されてますけど、原作だと違います。自分の意思でクラスメイトを裏切って、愛ちゃん先生を殺そうとした自分本位な人間なんです。魔人族の勧誘もティオを支配出来ていたので断ることだって出来ただろうに、断らず契約に応じましたし。
魔人族の勧誘に応じるべきって意見だって、目先の脅威から逃れる方法なだけで全く正論ではありません。遠からず必要なくなれば殺処分されますし、日本に帰還する希望だってなくなります。のわゆで言うと「バーテックスには勝てないから、天の神を崇拝し、四国の人間殺して自分を殺すのは後回しにしてもらおう」みたいな考えです。友奈やハジメなら取らない選択です。
なので清水が降伏しようと提案したのは、冷静に事態を把握出来ているという意味ではなく、ハジメや友奈とは『合わない』人間だと言うことを意味していました。
清水がハジメを消そうとした経緯については次回で説明する予定です。