ありふれた職業でも桜の勇者と共に   作:ぬがー

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因果応報

 清水幸利は真性のオタクである。

 自室は壁が見えなくなるほどに美少女のポスターで埋め尽くされており、壁の一面にあるガラス製のラックには美少女フュギュアが所狭しと並べられている。本棚は漫画やライトノベル、薄い本やエロゲーの類で埋め尽くされていて、入りきらない分が部屋のあちこちにタワーを築いていた。

 そして清水にとって、異世界召喚とはまさに憧れであり夢であった。ありえないと分かっていながら、その手の小説を読んでは夢想する毎日だ。夢の中で、何度世界を救い多くの人から讃えられ、ヒロインの女の子達から愛されハッピーエンドを迎えたかわからない。

 その事実を知る者はクラスメイトの中にはいない。それは、清水自身が徹底的に隠したからだ。ハジメに対するクラスメイトの言動を間近で見て、なおオタクであることをオープンにできるような者はそうはいない。中学時代にイジメが原因で引きこもり、オタク趣味に傾倒していった清水ならなおさらだ。

 趣味を隠し、親しい友人を作らず、目を付けられないように行動する。クラスでの清水はまさに『モブキャラ』だった。

 そんな清水に唯一、友好的に接してくれていたのが友奈だ。特別な出来事は何もない。ただ普通に接しただけだ。

 

 だがそれで清水は舞い上がって、勘違いしてしまった。友奈に恋愛対象としては見てもらえていると。

 

 友奈はただフレンドリーなだけで、清水も『クラスの人』以上には見ていない。だが美少女に構われて冷静に判断するというのは難度が高く、清水には無理だった。

 また人間離れした美少女である香織が、オタク趣味を隠せずイジメられているハジメ(自分以下のヤツ)に好意を向けている。なら自分もチャンスがあるのでは、と例外パターンを見てしまったのも勘違いした一因だろう。

 

 そこまでなら問題にはならない。チャンスがあると勘違いはしても、行動に移すことはなかったからだ。友奈が人助けをしていた時も、清水は輪には入れず外から見ているだけだった。

 だがトータスに召喚され状況は変わった。

 クラスで一番下のはずのハジメが友奈と急接近し、その上にクラスメイトを大ピンチから救い活躍したのだ。

 湧きあがった「主人公のような活躍を自分以外がするのは許せない」「ヒロインと結ばれる主人公が自分でないというのは認めたくない」という嫉妬から目を逸らし、清水はハジメが友奈にタカリ、卑怯な手段で力を得たのだろうと考えた。そしてそんな『悪い奴』なハジメを排除すれば、自分は友奈やクラスメイト達にも称えられ感謝されるだろうとも。

 

 だが友奈はハジメを助けようとして共に落ちていき、生きて帰ってきたのに知らないうちに離れて行ってしまった。

 

 それが間違いだったのだと清水は考える。

 清水の好意を友奈が喜んで受け取り、清水を中心にクラス一丸となって行動すればこうはならなかった。友奈がいれば今も戦力は足りていて、魔人族を返り討ちにできていた。この先不利になったとしても、自分がリーダーなら上手く立ち回り、光輝と違って無駄死にを強要することもなかった。自分を殴った光輝が失態を晒し、自分が言っていたのと同じように「魔人族に降伏すべき」と言う者が出た状況に流され、清水はそんな都合のいいことを考えていた。

 

「……ダメだ……皆、逃げるんだ……こいつを……信じちゃ、ダメだ……!」

 

 だと言うのに未だに光輝が水を差す。

 満身創痍でまだ喋れるしぶとさに魔人族の女は警戒を強め、清水は苛立ちを加速させた。

 

「うるせぇ! お前の言うことなんか聞いてたからこうなったんだろうが! もう黙ってろよッ!」

 

「あ~~~、ちょっと落ち着きな。とりあえずあんたの意見としちゃ降伏するってことでいいんだね?」

 

「! ああ、そうだ! 全員で降伏する! だからこれ以上の戦闘は」

 

「両腕、やりな」

 

 魔人族の女の指示で、黒猫の触手が清水の両腕を引き千切る。

 清水は状況を理解できず、遅れてきた痛みに反応して絶叫を上げた。

 

「ぎぃあああああああああっ!!!???」

 

「うるさい。傷は塞いでやるから黙りな」

 

 黒猫の触手が清水を拘束して口も塞ぎ詠唱を封じ、魔人族の女の肩に止まった白鴉が傷を癒す。あまりの急展開に雫たちも呆然として、思わず素で質問してしまった。

 

「……なんで清水を攻撃したの?」

 

「ん? だってあんたら、こいつの決定じゃ従わないだろ? なら交渉を再開できるように、先に話を付けただけさ。

 ああ、安心していい。あんたらの扱いはこうじゃないよ。簡単に味方を売るような奴は人質取ってても信用できないからこうしただけ。さっき言った条件に偽りはないさ」

 

 清水は自分の考える『正しさ』に酔っていた。それも光輝が掲げる物より遥かに自己中心的な『正しさ』だ。正しい自分が生き残るべきだと思い、正しい自分がリーダーとして評価されて裏切った先でもマシな待遇を得られるべきだと思い、正しくない奴らの「日本へ帰りたい」「トータスで縁を育んだ相手を裏切りたくない」という思いを無視して行動した。当然、誰も付いてくるはずもない。

 だから清水の意見は清水だけの結論として、躾のため両腕を引き千切り降伏を認めた。負けた後での無条件での降伏を選んだのだから、こうなったのも仕方ない事なのだろう。

 

 ともかくこれで交渉の邪魔をする者は排除出来たし、魔人族側の容赦のなさもアピールできた。ここから少しでも譲歩すれば、クラスメイト達には大きな譲歩を引き出せたように感じるだろう。交渉は台無しになりかけたが、これで会話のペースは魔人族の女が握り、元の条件で交渉を再開できるはずだ。

 

「交渉を再開するけど、剣士のあんたが代表ってことで構わないね? また同じ展開でゴタゴタするのはごめんだよ。

 

 ……間違ってないみたいだね。じゃあ改めて言うとしようか。

 あたしら魔人族側に来ないかい? それなりに便宜は図ってあげるつもりだよ」

 

 

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