ありふれた職業でも桜の勇者と共に   作:ぬがー

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再会後のあれこれ 中編

 クラスメイトとメルドが監視する中、清水の金属化を解除する。

 清水も状況の変化には驚いたようで、周囲を見渡しハジメを見つけて後ずさった。

 

「な、なんでお前がここにいるんだよぉッ!?」

 

「遠藤くんから助けを求められたから。それでこんな場面に遭遇するのは想定外でちょっと困ってたんだけどね。

 君はどう? 僕を殺そうとして、高嶋さんも死なせかけて、今度はクラスメイト丸ごと売り飛ばそうとした清水くん?」

 

 清水がハジメを睨みつけるが、ハジメは気にもしない。これが立場、戦力共に強いと言うことだ。相手の悪感情も無理やり押さえ付けて利用できるだけの余裕がある。

 

「その表情だと自分の立場を理解出来てないみたいだから、説明しておこうか。

 君は殺人未遂の犯人で、人間族を裏切ろうとした戦犯だ。庇う人は誰もいなくて、君に恨みを持ってそうな僕に一任された。

 

 ……ただ面倒なことにね、清水くんも“神の使徒”の一員なんだよ。人間族の希望である“神の使徒”が裏切ろうとしたなんて公表したら、魔人族の思惑通りになってしまう。だから君の罪を裁いて罰を与えることはできないんだ」

 

「……ッ!」

 

 ハジメたちに清水は裁けないと聞いて、清水は途端に顔色を変えた。

 だから上げて下げて平常心を奪っていく。

 

「つまりここで殺しちゃうのが一番なんだ。死人に口なしってね」

 

「はぁっ!?」

 

 清水に戻ったわずかな余裕が一気に剥がれ、追い詰められる。ハジメはさらに畳み掛けた。

 

「清水くんが死ねば、もう誰も君に煩わされることはない。魔人族との戦いで名誉の戦死をしたってことなら角も立たない。どうも天之河くんは覚醒イベント的な何かを経験したようだし、そのための尊い犠牲でしたって言えば説得力も出るしね。これが一番確実な処理なんだよ」

 

 清水がクラスメイトを見て、光輝を見て、友奈を見る。

 クラスメイトは目を逸らすか軽蔑するように見下し、いつもは綺麗事を吐く光輝も何も言えず、友奈はハジメばかり見て清水の視線に気づくことすらなかった。

 ようやく自分の状況を理解し、表情に絶望が浮かんできた辺りで、今度はハジメが希望を見せる。

 

「でも危険だからって廃棄処分じゃもったいないとも思うんだよ。君もチートスペックだし、労働力としては優秀だ。だからチャンスを上げようと思う」

 

「チャ、チャンス?」

 

「そうだよ。“錬成師”は作った武器が本体で、その為の材料はいくらでも欲しいし、材料を買う資金だって欲しい。ライセン大峡谷で拾って修理した(って設定)の義手を上げるから、戦力低下って名目でクラスから離れて、借金返済って名目で僕に利益を出してくれるなら生かしてもいいと思ってる」

 

「本当か!?」

 

「本当だよ。ただし首輪はつけるし、それを受け入れるのは必須だ。どうする?」

 

「受け入れる! 受け入れるから助けてくれ!」

 

「………………まぁいいよ。契約成立だ」

 

 ハジメ自身で誘導しておいてなんだが、この即答は正直なところどうかと思う。恥はないのだろうか。だが望んだように動いているし、水を差す必要もない。ハジメは清水の醜態はスルーした。

 

「(馬鹿が! いつまでもお前なんかの下でいるもんか! 腕もらったら用済みだ!!)」

 

 清水は土下座で顔を隠し、内心でハジメを嘲笑う。自分の事しか考えず勝手に降伏しようとしたのだ。当然、助けてもらったからと従うつもりなどありはしない。

 

「(―――なんてこと考えてるんだろうなぁ。対策、無駄になるといいけど)」

 

 そしてそんな清水の考えなど、当然想定されている。ゆえにソレ対策も既に施されていた。

 

 

 

 

 

 南雲ハジメは“錬成師”だ。

 鉱石を始めとする無機物を加工することが本領であり、生物を改造する力は本来持たない。

 なので生物を土属性魔法で石や金属に変えて“錬成”するという手段を考えてみた。結果、魔法によって一時的に変えただけなので深部までは無理だったが、表層は加工でき亜人族の義手の接続に大いに役立った。

 今回、清水に施したのは、清水自身をマジックアイテムに加工するという手法だ。ハジメの取引を(内心はどうあれ)清水が承諾することで発動、清水が自分自身に闇属性魔法による洗脳を行う。どれだけ逆らうつもりだろうが、具体的な行動内容を思考できず、違和感も持てないと言う物だ。闇属性魔法の天才である清水を素体に、清水自身を洗脳をさせる形式だから出来た最高ランクの術である。

 

 ただし清水とて腐ってもチートスペック。自力で解除する場合に備え、肉体面のストッパーとして義手を付ける。亜人族に与えた物と同様に監視・自滅機能を搭載しているだけでなく、脳からの指令より義手経由でのハジメからの指令を優先するという機能が付いている。裏切った場合に敵陣で自爆は勿論、ハジメが完全制御して戦闘を行わせることだって可能だ。

 

 ともかくこれで清水は完全に無害な社畜になった。ハジメとしてはもう興味も薄いし、知らないところで好きに暮らして利益だけ上げてくれればそれでいい。

 

「(でもダメだよなぁ。クラスの奴らが納得しないだろうし、放置してもいいって思えるだけの希望を見せないと)」

 

 正義を掲げ、悪を仲間と共に叩きのめすのは楽しい。それをハジメは良く知っている。

 ましてや清水はどう頑張っても擁護できない裏切りを行ったのだ。それが罰則は労働だけでは納得もいかないだろう。戦力差が明らかになった魔人族との戦争という恐怖から逃れたくて、麻薬のような一方的に暴力をふるう快楽を求めることは十分予想できた。

 なので清水を放置することのメリットを提示して納得させ、さらに希望を見せることで恐怖を忘れさせることが必要なのだ。

 

「(そこまで難度は高くなさそうだね。今は特に聞きたい言葉が分かりやすい)」

 

 しかし納得させるのはクラス全体でなくていい。

 クラスメイト達は、良くも悪くも『光輝のクラスメイト』なのだ。光輝が好調なら調子が良く連携し、光輝が不調だと不和があふれ出る。光輝さえ納得させられれば他は流されて黙るだろう。

 好都合な事と言っていいのか、光輝は初の人殺しで精神面がぐらついている様子。それに付け込み清水の処遇に納得させれば、すんなりと乗ってきてくれるとハジメは見抜いた。

 そこまでいけばハジメの仕事は完了だ。光輝を含むクラスメイトは希望を見出し、清水はやり直すチャンスを得て、ハジメ達は恨まれることなく利益を上げる。これにて三方よしが完成するのだ。

 

「(ゴールは見えたし、あと一仕事。高嶋さんにお願いするご褒美は何にしよっかな)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………まぁいいよ。契約成立だ」

 

「「「「「―――」」」」」

 

 ハジメが清水の降伏をあっさりと受け、クラスメイトに不穏な空気が広がる。

 友奈がそれをハラハラしながら見つめていた。ハジメはいい感じの落としどころを見つけると言っていたが、友奈には手段が思いつかない。ハジメのことは信じているが先が読めず、失敗してしまった場合のハジメの立場が心配で落ち着けなかった。

 

……(へにゃ)

 

「!」

 

 それもすぐに吹き飛んだ。

 ハジメが友奈の方を見て、思わず漏れた感じの緩く崩れた表情を一瞬浮かべたのだ。アレは友奈の希望を達成する算段がついて「お願い」を考えている時の顔だ。ならもう心配はいらないだろう。

 ちなみに内容は大抵耳かきとかマッサージ、たまに観光や新開発の浪漫武装試運転だ。友奈としては普通に頼まれればそれくらいするのだが、ハジメ曰「ただしてもらうのと、障害を乗り越えて掴み取るのじゃ全然違うんだよッ!」とのこと。あまり見ないレベルの熱弁だった。

 

「(何がお願いしてくれるのかな。前に耳かきしてから日が経ってるから、やっぱり耳かき? 南雲くんはそれで満足だろうけど、今回は大事だったしもうちょっとしてあげたいな。観光はしたところだから、マッサージしてから耳かきして、そのまま膝枕でお昼寝とか? でもそれじゃいつもと変わらないし……メイドさんの制服を借りようかな。そっちのほうが喜んでくれるよね!)」

 

 最早心配することは何もない。友奈は無邪気に事が済んだ後のことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――まず清水くんの状態について説明しておこうか」

 

 ハジメがクラスメイトの説得を始める。

 具体的には、清水は自身の“闇属性魔法”による洗脳で裏切り行為はもうできないこと。

 自身は使わないこと、実戦訓練を重視し座学を軽視していたことから“闇属性魔法”について疎かったクラスメイト達。清水の現状を理解すると、あまりの枷の厳重さに驚くと共に安堵を覚えた。手段はどうあれもう清水が裏切ることはない。清水は裏切ったが実害は出せなかったこともあって、一番安全な相手になったと理解でき敵対心も多少は薄れたのだ。

 

「清水くんにはさっき言った通り、魔石とかの資材集めに集中してもらうつもりだよ。魔物を従えて一人軍隊できる“闇術師”はこういうのに向いてるし、バリバリ働いてほしいんだ。裏切れないけど、やる気出させられるわけじゃないからねー。

 集めた資材は僕が作る全員分の装備に使う。強い武器作れても、僕らだけじゃ運用しきれないからね。防衛線張るにしても人手がいるんだよ」

 

 魔人族をあっさり倒したハジメ製の装備。これがクラスメイト達のメリットだ。強い武器を使って、強い防具で身を守れば、相対的に敵が弱くなるので安全にはなる。

 

「それなら全員で魔物狩りした方がいいんじゃないか? そっちの方がたくさん集まるだろ?」

 

「それはもったいないと思うよ。基本的に強い武器を強い人が使った方が強いから、皆には強くなっておいてほしい。

 オルクス大迷宮は罠を避けて魔物と正面から戦うだけだし、少人数で挑むか旅でもしてればもっと伸びたでしょ。今回負けたのは鍛え方間違えたせいってのも大きいよ」

 

 武器頼りの楽な方に流されたいクラスメイトに反論しつつ、本命である希望を見せる。

 すなわち今回負けてしまった理由と、次は負けない方法だ。

 ちなみに言っていることに嘘はない。オルクス大迷宮の表層は他の迷宮に挑める地力を付ける訓練施設を兼ねた篩だし、大人数で挑んでは足止めして大火力ブッパでクリアできてしまい成長にはつながらない。座学で応用の幅を広げるか、外で実戦経験を積んでいればもっと強くなっただろう。ハジメほど特化している者はいないため神代魔法には届かずとも、近いレベルまで行く者がいてもおかくしはないとハジメは思っていた。

 

「特に天之河くんは伸びしろデカいよ。その聖剣、僕でも構造が読み切れない。今回覚醒イベントが起きたみたいだけど、まだまだフルスペックには程遠いと思う」

 

「……コレにそんな力が?」

 

「ある。聖剣持ちの“勇者”が特別なのも納得の性能のはずだよ。その力があれば勝つだけじゃなく、納得できる手段を選べたかもね。

 ただ意識があるっぽいから、嫌われるようなことはしないように。へそ曲げちゃったら、今以上の力は出してくれなくなるかもしれないよ?」

 

 そして光輝を持ち上げる。そうすればクラスは勝手に光輝の下に団結するのだ。自然と清水に罰則がないことなどどうでもよくなるし、友奈に付いて行こうともしなくなる。

 実際にクラスメイトの視線も清水から外れ、光輝に集中している。もう細かいことは気になっていないだろう。

 

「話を戻すけど、清水くんの対処はこれが全員の最大利益を出せる案だと僕は思う。異論はないかな?」

 

 クラスを見渡すが反論する者はいない。最後にメルドに視線を向けるが、こちらも首肯で返された。

 

「ならこれで決まり、早く迷宮の外に戻ろう。しなきゃいけないことはまだあるんだから」

 




ハジメ視点の清水
 →友奈といちゃつくためのダシ

 殺そうとしてきた危険人物ではあるけど、何もできてないので恨みとかも特になしです。庇うのに抵抗とかはありませんでした。
 なおハジメも友奈も相手の認識は「大事な友達」である模様。数か月二人で野宿とかする生活してたせいで距離感が変になってます。

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