ありふれた職業でも桜の勇者と共に   作:ぬがー

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今回の話は少し巻き戻って香織視点。


再会後のあれこれ 後編

 絶体絶命の窮地に鉄粉の嵐が巻き起こる。

 誰もが理解できず混乱と共に飲み込まれる中、香織だけは別の思いを抱いていた。助かったと。

 香織自身も訳の分からない思考を信じ、皆が咄嗟に抵抗する魔法を自ら受け入れる。抵抗していれば多少は痛みを伴ったであろう金属化も無痛で済み、すぐに意識が途切れた。

 

 そして暖かな光と共に意識が戻った時、目の前にはいるはずのない好きな人。唐突過ぎる急展開に誰もが戸惑いを深める中、香織だけは彼が助けてくれたのだと確信して飛び込んだ。

 

「ハジメくんっ!!!」

 

 括りつけられた覚えのないロープが足を引き留める。思い切り勢いをつけて飛び込んだ香織は、その勢いのまま地面へと顔から落ちていく。

 

「へぶぅっ!!!???」

 

 頭にもいつの間にかエアバッグのような物が取り付けられていて、顔面強打で鼻血ダラダラといった事態は避けられた。それでも痛いものは痛いし、香織視点で感動の再開を邪魔された悲しみは大きかった。

 

「ううう、なんでぇ……!?」

 

「いや、だって危ないから。悪いとは思ってたけど、必要だったでしょ? というかなんで名前呼び? まぁともかく今は大人しくしてて」

 

 仕掛けたのはハジメ当人だったらしい。他の誰かならロープを斬るなり床を砕くなりして行動再開したが、ハジメがしたのなら意味があったと香織は考え、ようやく理由に思い至った。ハジメはトータス民間人クラスのステータスだが、香織はハジメの初期ステータスしか知らない。ここまで来れたのだしクラスメイト達と同等の強度があると思って疑わなかったが、初期から変動が小さければ香織のタックルは確かに危険な行為だ。流石に自重し大人しく外してくれるのを待つことにした。

 

 そこからは怒涛の展開だ。

 魔人族は配下の魔物も含めて制圧済み。敵に捕まっていたはずの光輝とメルドは既に救出されていて、後は治療をするだけ。

 誰がどう裁いても後々荒れそうだった清水(うらぎりもの)の問題も、ハジメが汚れ役やると買って出てくれてクラスメイト達の手からは離れていった。ハジメが合流を望まないなら、クラス一同は何も問題を抱えることなく危機を脱することが出来たと言えるだろう。

 

 そしてそこでは終わらない。

 清水への裁きは苦痛や死などの罰ではなく、首輪と労働による贖罪になった。

 それによる利益と共にクラスメイトにも希望が示され、異論は出させない。終わってみると(ハジメの持ち出しが多いが、というかほぼそれだけだが)皆が得する結果を出せていた。

 

「(ああ、やっぱりハジメくんは凄くて優しくて強い、特別な人なんだ)」

 

 その結果に香織は以前からの認識を強める。

 光輝が悪い人を見つけて暴力で問題を解決していたように、強い者が力でねじ伏せ、強引にまとめ上げる方が簡単だ。清水だって後の危険を考えるなら殺せばいいし、裏切り者の悪は悪らしく正義(クラスメイトたち)に叩きのめさせればいい。そうすれば問題は片付き、精神面でも愉悦で恐怖を忘れられ、同郷の者を殺したという罪でバラバラになりかけたクラスをまとめ直すことだってできた。

 だがハジメは安易な手段は取らず、正義と悪で単純に二分することもせず、誰も傷つかない選択肢を作って見せた。

 これは香織や光輝には出来ないことだ。

 ただ強いだけでは出来ない。安易さにも周囲にも流されず、人を傷つけることを楽しまない悟性と善性を持ち、それを実行出来る手段や能力を持つ。ここまで揃って初めて出来ることなのだ。

 それが出来るハジメは、香織にとって特別な人間で、離れていた間にようやく自覚できた好意を「間違ってはいなかった」と確信したのだった。

 

 

 

 

 

「ありがとうございます、勇者様。彼らを連れてきてくださって……ッ!」

 

「……その人たちは最後まで戦った痕跡が残っていました。丁寧に弔ってあげてください」

 

「勿論です! 本当に、ありがとうございましたッ!」

 

 清水の問題を片づけた後は、全員で亡くなった騎士たちの遺体を拾い集めて地上へと帰還した。

 ここでも率先して動いたのはハジメと友奈、シアに加えて、惨状を既にみていた遠藤だ。もう乾きかけの血やまき散らされた臓物、こぼれた糞尿で汚れることも気に掛けず、遺体を繋ぎ合わせて整えハジメが作った台車に乗せて運んでいった。クラスメイトからは一部の者が手伝ったが、他は死体を見て怯んでいる内に作業は済んだ。

 クラスメイト達の大半にとって、メルド以外の騎士たちは交流が薄い他人だ。初期の訓練で関わった程度でそれ以降会話もなく「転移拠点を守っているらしいモブ」でしかない。ゆえに行動が遅れたのだが、さらに接点のなかった友奈とハジメの行動に自身を見つめ直さざるを得なくなった。

 死の危機が間近に迫り、唐突に消え失せるという衝撃展開だったとはいえ、クラスメイト達は文字通り死ぬまで戦っていた騎士たちの事を忘れていた。もしもの話だが、香織や雫と並ぶか上回る美少女が助けに来た(今回シアは自己主張せず気配を薄れさせていたため除外)なら、物語のイベントか何かのように思い騎士たちの事を忘れてはしゃいでいたまであり得る。自分たちはそんな薄情な連中なのだと突き付けられたのだ。

 その事実に根は善良な者は自分の汚さに打ちのめされ、そうでない者は自分との違いをおぼろげにだが理解し、香織はハジメへの恋慕を募らせた。

 

 

 

 

 

「じゃあここらで解散かな。僕らは泊まるとこ別だし、清水くんの義手を取り付けたり今後の手配しないといけないから」

 

「またね皆。体には気を付けてね」

 

 しかしハジメ達は香織たちとずっと一緒に行動するわけではない。

 チームは別だし、共に行動する義理も利益も思い入れもない。救けて終わったのだから、後は騎士団に世話を頼んでそれでお終いだ。オルクス大迷宮を規定地点まで探索できれば再編成と言われていたが、実力差がはっきり理解した以上ハジメと友奈は別枠のままだろう。ここで別れれば次にいつ接点が出来るかわからない。

 今を逃せばチャンスはない。そう判断すると香織は躊躇いを放り捨て、いつものように突撃をした。

 

「ハジメくん!」

 

「? 何?」

 

「貴方が好きです! 一緒に行かせてくださいっ!」

 

「僕は白崎さんの事、好きじゃないし苦手だよ。偶に会うならともかく、一緒にはいたくないな」

 

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