ありふれた職業でも桜の勇者と共に   作:ぬがー

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最弱とイジメ対策

 ハジメが自分の最弱ぶりと役立たず具合を突きつけられた日から三日が経った。

 

 この三日間、クラスメイトたちは己のスペックの把握に努め、レベルも上がったそうだ。

 ハジメはというと、戦闘訓練に参加させられるも成果は上がらず、レベルも当然上がっていない。天職が戦闘系でないのだから戦闘訓練で育つわけがないのだが、ハジメは国のお抱えの錬成師と比べるとスペックが劣っているようにすら見える。だから錬成師として運用すると判断もしづらく、他に合わせて戦闘訓練をすることになっているのだった。

 

 強制かつ意味の薄い訓練とはいえサボるわけにはいかない。衣食住どころか人権も握られているうえ、クラスメイトと違って養うメリットを提示することすらできていないのだ。冗談抜きに怠慢は死に繋がる。

 支給された防具を身に着け、同じく支給された細身の剣で素振りをしていると、突然背後から衝撃が襲ってきた。

 

「ッ!!??」

 

 危うく転倒して手に持った剣で自分を貫きかけた。

 どうにか踏みとどまって振り返ると、そこには檜山率いる小悪党グループがいた。チートスペックの把握が終わり、殺さない程度の力加減を習得できたのでついにちょっかいを駆けに来たようだ。人を殺してしまい責任を負うのを避ける程度にみみっちさがあるのは助かるが、どうせならハジメのことは忘れる所まで行ってほしかった。

 

「よぉ、南雲。なにしてんの? お前が剣持っても意味ないだろが。マジ無能なんだしよ~」

 

「ちょっ、檜山言い過ぎ! いくら本当だからってさ~、ギャハハハ」

 

「よく訓練に出てこれるよなぁ~。俺なら恥ずかしくて無理だわ! ヒヒヒ」

 

「なぁ、大介。こいつさぁ、なんかもう哀れだから、俺らで稽古つけてやんね?」

 

「あぁ? おいおい、信治、お前マジ優し過ぎじゃね? まぁ、俺も優しいし? 稽古つけてやってもいいけどさぁ~」

 

「おお、いいじゃん。俺ら超優しいじゃん。無能のために時間使ってやるとかさ~。南雲~感謝しろよ?」

 

 一方的にそんなことを言いながら馴れ馴れしく肩を組み人目につかない方へ連行していく檜山達。それに何人かのクラスメイト達は気がついたようだが見て見ぬふりをした。

 ハジメも一応抗弁はするが力に差が大きすぎるし、監督する騎士たちにとって無能(ハジメ)有能(檜山たち)の価値は違う。抵抗もむなしく訓練施設から死角となっている人気のない場所まで連れ出されてしまった。

 

「ほらしっかり防げよ! そんなんじゃ死んじまうぞ~」

 

「寝てんじゃねぇ、さっさと立てよ。オラッ!」

 

「この程度でへばってちゃ焦げるぞ~。ここに焼撃を望む――〝火球〟」

 

「まだ終わりじゃないぞ。ここに風撃を望む――〝風球〟」

 

 剣の鞘で叩かれ、蹴飛ばされ、転がって炎の球を回避し、躱しきれなかった不可視の風の球が直撃する。

 コレを受けるのは流石にヤバいと感じ、必死に避けた火球は別として、どれもチートスペックと彼らに支給された高性能アイテムのせいでかなりの威力が出ていた。嘔吐感も強く、骨もヒビくらい入っているかもしれない。

 ハジメは小さい頃から、人と争ったり誰かに敵意や悪意を持つということがどうにも苦手だった。誰かと喧嘩しそうになったときはいつも自分が折れていた。程度を見極めて派手に折れれば悪者になりたくない相手はそれ以上やってこないし、恨みも買わずに話も納まる。だがトータスではそうはいかないようだ。敵わずとも反撃くらいはするべきなのかもしれない。

 

 しかし決断することは出来ず耐え続けていると、ついに誰かが見つけたのか女子の声が聞こえた。

 

「…………何してるの?」

 

「高嶋か。いや、誤解しねぇでほしいんだけどよ。俺らは南雲の特訓に付き合ってやってただけだぜ」

 

「そっか。じゃあもういいよ。南雲くんはこっちで預かることになったから連れていくね。もう南雲くんには関わらないでいいから」

 

「は? いやどういう……―――」

 

 割り込んできた誰かが檜山達を押しのけ、ハジメを担いで移動する。檜山達は止めることも出来ず呆気に取られているままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「怪我はもう大丈夫?」

 

「うん、全部治ったよ。本当にありがとう」

 

 友奈に連れて来られた部屋で、ハジメは治療を受けた。

 回復魔法というのは便利なもので、意識が朦朧とするほど暴行を受けていたのにもう全快だ。回復魔法を施した騎士は訓練している他の生徒の治療もあるので早々に退室している。

 

「ごめんね。もっと早く助けられたら良かったんだけど……」

 

「何言ってるの。たった三日でここまでやるとかすごいことだよ。おかげで僕は助かったし、不満なんかあるわけないって」

 

 治療中に聞いた説明によると、ここは友奈の確保した錬成師用の工房で、ハジメは友奈専属の錬成師という立ち位置になったらしい。

 名目としては格闘戦メインの友奈にとって高性能な武具はあってもしっくりくる武具はなかった事。ハジメは転移者の錬成師ゆえ伸びしろも多いだろうという予測。訓練時間と道具の製作時間の兼ね合いで、全体ではなく個人専属という風に説得し通させたそうだ。

 実態としてはイジメを受けているハジメの隔離と、クラスメイトと一纏めでは受けられない錬成師としての訓練のためだ。ハジメのような木っ端が言ったのでは通せない、“勇者”である友奈だから取れた手段である。

 

 だと言うのに友奈の表情は明るくない。助けた側だというのに、まるで悪いことをして叱られると思っているかのような顔だ。

 

「そうじゃなくて、その、向こうにいた時のこと含めてなんだけど」

 

「………………………………????」

 

 心当たりが全くなく、困惑し続けるハジメ。やむなく友奈の方から理由を説明する。

 

「イジメ、見て見ぬ振りしてたでしょ。それを止められないまま放置しちゃったから今回の事態になったわけだし……」

 

「…………ああそれ! それはむしろ助かったよ。高嶋さんに助けられちゃヘイト溜まるだけだし逆効果だから」

 

 ハジメがようやく友奈の状況を理解した。

 どうも出来ないどころか、やれば被害が大きくなるようなことをやらなかったことに罪悪感を感じていたらしい。何もしないのは共犯と同じという考えだろうか。

 今回の行動を見れば、周りを見て考えて行動してるのは一目瞭然。高校でのスルーもハジメに配慮しての行動だろう。それに見当違いな恨みを向けるなどあり得ないことだとハジメは思った。むしろお人好しが過ぎるくらいだろうに「何もしない」を選択できる意志力に好感を持った程だ。

 

「でも、きつくないわけじゃないでしょ? 味方が一人でもいるかいないかじゃ全然違うし……」

 

「あはは、巻き込む方が嫌だって。アレなら僕一人が我慢すれば済むし、無視できる範囲だから。逃げ道だって親が用意してくれてたし、高嶋さんが気にするようなことじゃないよ」

 

 ハジメは無視できる範囲というが、絶えず周囲の全てから敵意を向けられ、些細なことでも呼び出され恫喝されるなど負荷は大きい。おまけにやってる連中は香織や雫の美貌、光輝のカリスマの影響でメンタルもおかしく、効かないからと諦めて手を緩める相手ではない。効くまで出来ることをやり続ける、そういう手合いだ。ハジメでなければとっくの昔に折れていただろう。

 それだけのことを看過していた、という友奈の罪悪感はかなりのものだ。直接手を下していなければイジメには参加していない、などと言える精神をしていない。だから「今まで無視しておいて何をいまさら」と言われるのだって覚悟して手を差し伸べたのだ。全く気にしていなかったのはさすがに想定外である。

 

 とはいえ友奈には相手が強ければ何をしてもいいと考えることも出来ない。これ以上の謝罪は相手は望んでいないと理解して、これからで返していくことを改めて決意する。

 

「わかった。じゃあこれ以上は言わない。

 

 でもこれからは“勇者”高嶋友奈チームの仲間で友達! 困ってたら助けるから! よろしくね」

 

 笑顔で握手を求め手を差し出す友奈。

 ハジメは突然できた初の友達に戸惑いながら握手を返した。

 

「……うん、よろしく。でも助けられっぱなしってのは嫌だから、こっちで出来ることはさせてもらうね」

 

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