ありふれた職業でも桜の勇者と共に   作:ぬがー

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拒絶と突撃

「貴方が好きです! 一緒に行かせてくださいっ!」

 

「僕は白崎さんの事、好きじゃないし苦手だよ。偶に会うならともかく、一緒にはいたくないな」

 

 突然の香織の告白にクラスメイト達は動揺する暇もなく、ハジメの拒絶で困惑に落とされた。急すぎて何が何だかわからない、そんな状態である。

 そんな中でも動ける者もいた。香織の唐突な突撃に慣れていて、香織第一で動く雫だ。

 

「え、ちょ、香織何を言って……というか南雲君、香織のどこがダメなの!?」

 

「落ち着いてよ。白崎さんの暴走はいつものことだけど、八重樫さんにまで暴走されたら止まらなくなる。

 でどこがダメかだけど、むしろなんでダメじゃないって思ったのさ?」

 

 確かに香織の見た目はいい。

 転移前に学校で二大女神と言われていたように、人間離れした美貌だ。友奈も美少女だがそれは人らしい範囲で、顔やスタイルを比べれば軍配は香織に上がる。普通の人では耐えられない呪い染みたレベルの魅力なのだ。

 だがその魅力もハジメには通じないし、逆に被害ばかり被っていた。

 

「学校での事思い出してみてよ。白崎さんに絡まれたせいで、僕の立場ってどうだった? 僕の行動にも問題があったし、開き直って改善もしなかったのは認めるよ。だけどアレ頑張ってどうにかできるヤツだった? 僕からすれば白崎さんは疫病神みたいなものだよ」

 

「それは、その……」

 

「我慢できる範囲ではあったけど、何も思わないわけじゃないからね? 正直、僕の知らないどこか遠くへ行ってほしいって思ってた」

 

 学校中の蔑視と、偶に直接的暴力。ハジメ自身の立ち回りと勘の良さで実害は抑えていたものの、異世界へ来て法律や慣習などの制約が薄れれば死を覚悟しないといけなくなるレベルの悪感情だ。きつくないわけがない。ハジメは自身の感情を棚上げするのが得意なだけで、何も思わないわけではないのだから。

 そんな当たり前の話に、問いかけた雫はひどく動揺する。

 雫にとってハジメは「自分とは違い、周囲の圧力などものともしない強い人」だったのだ。そんな強さに憧れ、香織が暴走しても受け止めてくれるだろうと甘えていた。だがハジメ自身が普通に辛いことは辛いし、嫌なものは嫌だと言う。自分を省みることが出来た雫は、ショックと共に自身の行動を恥じダメージを受けていた。

 

「まぁ白崎さん自身が悪いわけじゃないけど、自分の影響力を把握できてない所も、僕が受けてる被害を気にもかけずに突撃してくる所も、迷惑だったし苦手になったよ。ここから関係改善が出来たとしても偶に遊ぶクラスメイトって距離感までで、恋愛対象とは思えないし思われたくない」

 

「―――ッ!」

 

 ハジメも香織も、自分本位な人間だ。自分が好きな所で、自分が好きな事を、自分が好きな人とやりたいと思っている。

 だがハジメの好きなモノと香織の好きなモノは一致しないのだ。どちらも譲る気がない以上、衝突は避けられない。香織が自分の意を通そうと踏み込めば、ハジメがそれを拒むのは当然の帰結だった。

 

 もしハジメに友奈という頼れる友達が出来ず、裏切りの心配がない相手が香織だけなら、日本で大きくマイナスに振れていた好感度を稼ぎ挽回することが出来たかもしれない。ハジメの好きなモノの一つに香織がなる可能性だってあった。

 だがそうはならなかった。ハジメにとって香織は「厄介な他人」で、それ以上の存在にはなれなかったのだ。

 

「………………………………」

 

「(ちょっと言い過ぎたかな。でもこれくらい言わないと理解してくれないだろうし、仕方ないか)」

 

 ハジメが香織を苦手と思っているのは、あくまで香織の行動が理由だと理解させておきたい。万が一にも「友奈がハジメの傍にいるせいで思いを受け取ってもらえないんだ」などと思われ飛び火するのは避けたいのだ。香織のことはハジメの問題だし、友奈に助けを求めても泥沼になるだけだから。

 また言っていることも嘘はない。香織たち幼馴染組は異世界転移でもしていなくなれ、と思っていたのは本当だ。トータスに召喚されたのが香織たち四人だけなら、ハジメは安否の心配はするが喜びもしただろう。事実と本当に思ったことを素直に言うのがこの場の最適解だと考えたのだ。

 

 その甲斐あってか、香織も言葉を返せず黙り込んで俯いている。

 上手くいったか、そうハジメが気を緩めた時、香織が小さな声で話し始めた。

 

「本当の気持ちで答えてくれてありがとう。うん、そうだよね。私自身も理解できてなかった感情を押し付けても困るよね。私がバカで、私の取った手段が悪かったんだ。それで嫌われちゃったのなら自業自得。

 だから―――――――――」

 

 俯いていた顔を上げる香織。

 そこには凡そは変わらぬ美貌があって、蛇のごとき眼球だけが異彩を放っていた。

 

 

 

 

 

ハジメくんに私の事を好きになってもらえるよう(が私から離れられなくなるよう)頑張るね

 

 

 

 

 

「―――! “錬成”ッ!」

 

 背後にナニカを浮かび上がらせる香織に対し、ハジメが今日初めて警戒態勢に入る。

 複数の属性での多重結界や障壁魔法、土属性魔法と錬成を組み合わせた物理障壁、接近した相手を自動迎撃する各属性の攻撃用魔法具などなど。クラスメイトの目も周辺被害も考慮に入れない、出したらマズいアーティファクトを除いたハジメの全力だ。

 

 そんな『魂の宿らぬ守り』を香織から現れた般若はすり抜け、実体のない短刀をハジメに突き刺した。

 

「は??????????」

 

 現在の香織では突破不可能なはずの守りをするりと無視した痛みもない攻撃に、さすがのハジメも混乱する。そしてそのまま何も理解できずに眠りに落ちた。短刀を刺したとき、魂に作用する毒が流し込まれたのだ。

 ハジメを眠らせた後、般若は実体を持ちハジメを担いで逃走する。香織自身も蛇のごとき動きでそれに追随し、どこかへ走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「………………」」」」」

 

 瞬く間に起きた急展開に周りはまるで付いていけない。香織の目の変化はクラスメイトからは見えていなかったし、ハジメの防御に巻き込まれないよう退避するので精一杯だったというのもあるからだ。

 ゆえに状況把握が早かったのは二人。ハジメの後ろにいて危険はなかった友奈と、「香織はそういうことする」と薄々は理解していた雫である。

 

「南雲くんが浚われたーーーーーーッ!?」

 

「香織、本当に何やってるのよーーッ!?」

 




生成魔法を使ったアーティファクト級の魔法具を使っていれば時間は稼げました。その間に友奈かシアが香織を倒すことも出来たでしょう。

ですがハジメは神代魔法を認識していて、それを隠せるように「神代魔法には至っていないように見えるレベル」で能力を行使するようブレーキをかけていました。
一方香織は覚醒したてで、神代魔法の知識もなし。どこまで見せたらマズいかなんて認識もなく、アクセル全開だったので押し切られました。
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