ありふれた職業でも桜の勇者と共に   作:ぬがー

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事件の後

「本当に、申し訳ありませんでしたッ!!」

 

「ちょ、ストップ! 南雲くんが謝ることじゃないよ!? 顔を上げて!」

 

 ハジメが友奈に土下座していた。額が床にめり込むかのような全力土下座である。

 友奈はハジメに土下座されたいとも、謝られたいとも全く思っていない。なので困惑し、必死にやめさせようと声をかけ、肩をゆすっていた。

 

 なぜこんなことになっているか、簡単なような面倒なような経緯をここに記す。

 

 

 

 

 

 ハジメが香織にさらわれた後、友奈と雫、メルドたち騎士団はその追跡を行った。

 幸いにして香織の逃走能力こそ高いものの逃げ続けはせず足を止めたことに加え、地の利が騎士団にあるためハジメはすぐに見つかった。そこからクラスメイトが包囲し逃げ場を無くし、友奈とシアで突入したのだ。

 能力上昇自体もしぶとさと機動力は大きく伸びていたが、戦闘能力は大きくは変動していなかった。また般若さんはハジメを拘束していて戦闘も出来なかった。そんな状態では友奈とシアの敵ではなく、香織は気絶し拘束され、ハジメを奪還することには成功したのだ。

 問題が起きたのはここからだ。

 救助した時、ハジメはまだ眠ったままだった。起きる様子がなければ香織への本格的な尋問も必要になる所だったが、少ししてハジメは目を覚ます。しかし明らかに異常な状態でだ。

 具体的には『発情』と『精力増強』の強力なヤツ。どうやら香織は目を覚ましたハジメとエロいことする気満々だったらしい。

 しかし症状は出ているのに薬物反応などは出ない。どうも般若と同じで常識では測れない何か―――友奈はミレディからの知識で魂に作用する力と察することが出来た―――の影響らしい。

 そこで友奈が行動した。

 日本にいた頃からできた快楽のツボを指圧するマッサージに“精神保全・他”と“体調管理・自他”の技能ブースト。これがハジメを助ける最適解だと言って二人で部屋にこもったのだ。

 友奈は顔を真っ赤にしながらハジメから色々な体液を絞り取って落ち着かせ、ハジメは落ち着いてしまったので現状を理解出来た。

 そこから冒頭の土下座に繋がったのである。

 

 

 

 

 

「今回のは僕が悪いんだ……! 高嶋さんにあんなことさせて本当に申し訳ない……ッ!」

 

「南雲くんは被害者でしょ!? 南雲くんが悪いなんて―――」

 

「白崎さんを甘く見てた。自分を過信して油断してたからこうなったんだ。僕が悪い」

 

 迷宮で見た香織のレベルなら、激昂したとしても簡単に抑えられる程度だった。失恋ショックで何か技能を覚醒してもまだ問題ないと思っていた。

 その見通しが甘かった。

 日本では十分感じ取れた香織の執着、それを忘れてしまっていたのだ。拒絶されれば、それ以上の力で押して押して押して押して押して押して押し続ける。そんな道理も常識も吹っ飛ばす厄介さを感じられたから、のらりくらりと躱すことで無事でいられただけだったことを。

 相手より強くなっただけで慢心してしまったのだ、何をしてきても防げると。意思を示して強く拒めば、それ以上の力で押し切れるまで押してくる相手だとわかっていたはずなのに。道具の守りを抜かれてしまえば、素の自分は弱いままだと知っていたはずなのに。

 対抗できる手札を作っていたとしても、使えなくては意味がない。非常時も十分に想定し備えてこそ真価を発揮する“錬成師”がなんという無様。顔見せできないとはまさにこのことだ。

 

 ハジメの落ち込みがガチすぎて、友奈は見ていられない。堪らず友奈は言うのは無理だと思っていた実情を羞恥をこらえて口に出す。

 

「な、南雲くんが悪いんじゃないよ! 他の人でも出来たけど、私がするって言ったの! だから気にしないで!」

 

「……へ?」

 

 ハジメは理性も保てない危険な発情状態だったが、言ってしまえばそれだけだ。香織にハジメを壊す気はなく、やらかしてしまうだけで危険性はゼロだったのだ。抜いてしまえば落ち着くのは誰がやっても同じで、友奈がする必要は実はなかった。友奈は“精神保全・他”と“体調管理・自他”の派生技能、ミレディからの神代魔法の知識によりそれを把握できていたから尚更である。

 加えて、今いる街は冒険者の街ホルアドだ。オルクス大迷宮で魔石を狩った冒険者や騎士たちが多数滞在し、命のやり取りを潜り抜けた彼らを癒す夜の店も多く存在する。ハジメが目覚めたばかりで我慢出来ている内に、そういう店に勤める本職を呼んで来れば楽に片付いただろう。

 なのに友奈はそれを誰にも言わず、自分がやるべきと言ってハジメから色々抜いたのだ。「友奈にこんなことをさせた」でハジメに落ち込まれると、友奈の罪悪感がどんどん大きくなってしまう。

 

「……えーと、なんで?」

 

「えっと、その、他の人と南雲くんがそういうことするのは何だかやだなって思ってつい……」

 

 友奈に友達は多いが、ハジメは今までいたことのないような相手だ。

 ハジメは他人に期待することは少なく、あくまで他人と認識する。ゆえにハジメの傍ではありのままでいることも出来るし、見せたくない面を探られることもなく気楽だ。周囲に気を使ってばかりで自分を出すのが下手な友奈でも、ハジメといる時は好きにできた。

 ハジメは根は善良だが正しさに拘ることはなく、感情や思いを元に筋道を立てて行動できる人だ。日本にいた頃と違って、トータスでの友奈は“勇者”だ。他人から相談されたり助けを求められた時、その内容は猫探しやお手伝いなどのようなとにかく頑張ればいい物ではない事も多い。そんな時ハジメは清濁併せ呑み“錬成師”としての手札の多さや交渉で、友奈がどう頑張ればいいかを示してくれる。ハジメは友奈には出来ない「立案、交渉、準備、後始末など」を行い、友奈は実働とハジメには出来ない「裏のない善意からの行動だと伝え、信じてもらう」ことで信頼を得るという連携だ。一人で無茶をする必要もなく、支え合いながら助けた人が喜んでくれる姿を共に見れるのは楽しかった。

 ハジメは興味のない相手にはとことん興味がないが、その分興味を抱いたモノへの関心はとても強い。友奈の外からは分かりづらい頑張りや、友奈のちょっとした変化も見落とすことはない。そして友奈が喜んでいる所を見てハジメ自身が喜ぶため、細やかな気遣いも全く苦にせず自然と行う。小さなことでも友奈に嬉しいと思わせてくれていた。

 

 そんなハジメを他の人に取られるのが嫌だったのだ。友奈の人生で初かもしれない、独占欲の現れである。自白している友奈の顔は真っ赤だ。

 友奈が黙ってしまってからしばし無言が続いたものの、ついに友奈が耐えられなくなって立ち上がった。

 

「じゃ、じゃあ私はもういくね! また明日!」

 

「あ、うん。また明日」

 

 バタバタと友奈が部屋を出ていく。

 ハジメはそれをボケッと眺め、しばらくしてからようやく動き出した。

 

「…………………………夢、かな? (ぐにぃー)いひゃい。てことは、あれ???」

 

 正常起動するまで時間はまだまだかかりそうだった。

 

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