「好きな人の魔力に包まれるこの感じ……! ハジメくんに抱きしめられているような、脳髄までしびれる多幸感……ッ! 生きてて良かった……ッ!!」
「ヒェッ」
「(大袈裟だなー)」
香織暴走事件の翌日、あの事件の影響で対策を取ることになった。
対策というのは、つまるところ香織の処遇だ。
前提条件として体面上“神の使徒”を犯罪者として裁くわけにはいかない。だが放置すると行方をくらまし、またハジメを誘拐する可能性がある。次にやらかした時、制圧担当の友奈とシア、調査担当で地の利のある騎士団に、逃走防止のクラスメイトが揃っているとは限らないのだ。
ゆえに旅への同行は許すが、ガチガチに縛っていざと言う時はいつでも気絶させられるようにすることになった。友奈が気絶させた後、香織が出していた般若は消えたので、この手段は有効と実証されていたためだ。餌を与え手綱を握っていた方が、怪物を野放しにするよりはマシという判断である。
そのために平時は勿論、寝ている時や風呂やトイレでも外せないハジメ製の高性能拘束具を山のように付けたのだが、恍惚の表情を浮かべていてハジメは引いた。普段からハジメ製の武具や日用品を使用している友奈は「その程度のことで何を騒いでいるのだろう?」と不思議なモノを見る目で警戒を続けている。
「……白崎さん、反省とか後悔とか、そういうのないの?」
「? 失敗したことは後悔してるよ? 次は性交させてみせるから、楽しみにしててね! いっぱい気持ちよくしてあげるから!」
「違う、そうじゃない……ッ!」
あっけらかんとした香織にハジメがつい質問するも、まるで動じることがない。コレをどう扱っていいものか、さすがにハジメも困り果てていた。
「その、香織ちゃん? そういうの、良くないと思うよ? もっと時間を掛けて仲良くなるとこから―――」
「友奈ちゃんは甘いね。そういうとこ好きだよ!
でも私は違うの! 恋は戦争ッ!! 愛は征服ッ!!
過程が良くても負けちゃ意味ないの! 過程が酷くても勝てばイイ話だったことにできるんだから!
ハジメくんが自分の子供見捨てられるわけないからね! まず切れない関係性を築いて、そこから愛を育めばいいんだよッ!」
「!?!!!??!!!!!??????」
あまりにもヒドイことを堂々と言い放つ香織。
友奈は友達の感覚でハジメと手を繋いで歩いたり、何か嬉しい事があった時にハグするくらいまでなら出来た。だがそれ以上は出来ないし、色々あって自分の感情を整理してしまった現在はそれすら無理だ。だって恥ずかしい。
ハジメが「普段通りにしたい」と思い振る舞う友奈を尊重し、付かず離れずな距離でいてくれるから今は平静を取り繕えている。しかしハジメが距離を詰めてきたり、逆に冷却期間と距離を置いていたら混乱状態に陥っていただろう。それくらい友奈はこういうことに関しては免疫がないのだ。
あまりに違い過ぎる感性に、友奈は口をパクパクさせ狼狽えることしかできなかった。
ハジメもこの作戦に対して、実はかなり困っていた。逆レされたところで香織自身には情は湧かないので、切り捨てることは出来ると思う。だが妊娠していた場合に自分の子供を見捨てられるか、もしくは母親から引き離せるかと聞かれると自信がない。子供に縋られるがまま、逆レ加害者とも関係を維持してしまいそうだ。香織の作戦はハジメを陥落させると言う意味では非常に有効だと認めざるを得なかった。
またこの作戦のヒドイ所として、香織の妊娠確率が挙げられる。普通なら一回やった程度では博打だし、魔法の薬でどうにでも出来る。だから香織は逆レが失敗して他の誰かが処理したとしても、それだけで終わると考えて誰がやったかすら興味なさそうな様子だ。だが香織はこの直前に覚醒を迎えていた。
回復魔法の派生技能“魔力操作(回復魔法)”に“自己改造”だ。これにより詠唱もなく自分を改造できる。孕みたい時に孕めるし、堕胎だって防げるのだ。さらに“自己改造”によって習得した技能“
「……ごめんなさい、南雲くん。香織の介錯して私も腹を切るべきかしら?」
「……いいよ、別に。これは誰にとっても予想外だし、体が死んだら化けて出そうだ」
あまりにブレない香織に、雫の方が折れかける。
なおハジメが介錯は止めたが、実はそれで正解だったりする。般若さんは魂魄魔法スレスレの技能。肉体はむしろ檻であり、解き放たれれば実体も核たる魔石も持たない悪霊としてハジメに取り憑くだろう。まだ対策を持たないハジメでは衰弱死し、魂を持ち去られる可能性すらあった。
「一応オルクス大迷宮をお前たちが行き着いた階層まで到達するまでチーム変更なしと言うのはまだ有効だ。今のうちに対策を探しておけ」
「ありがとうございます、メルド団長。一旦神山に向かい、報告ついでに役立ちそうな魔法について調べてみるつもりです」
普通にハジメを心配するメルドも声をかける。
騒ぎを起こしておきながら特例を認められるという前例が出来るのを防ぐため(という名目で)、チーム分けにはオルクス大迷宮チュートリアルの最下層まで向かうことが義務付けられた。ゴールは見えているため、香織もこれに反抗はしなかったと言う。僅かな期間だが対抗策を用意する時間を作ろうというメルドの気遣いだった。
ただ香織は前衛に雫だけ連れて、マップの完成は無視して一気に攻略するつもりでいる。時間は多くはかからないだろう。
それでも稼げた時間を全力で活用し、対策を取らなければならない。般若さんに抗えないとハジメの将来は暗いのだ。
メルドには神山で魔法を調べると言ったが、本命はそこにある神代魔法の一つ、魂魄魔法だ。般若さんの源流と思われる魂魄魔法を用いた防護魔法具を作れば対策となり得るだろうという希望的予測から向かうことを決めた。これには「香織に魂魄魔法を習得させないため、合流前に攻略し、もう寄らないようにする」という理由もある。般若さんが魂魄魔法で強化されてしまったら、目も当てられないことになるのは予想できるからだ。
ちなみに神山こと【バーン大迷宮】は普通に入ろうとすると大迷宮攻略の証が二つ必要だ。全うな方法では入れない。また神の膝元と言う名の敵地ゆえに危険が伴う。本来であれば神代魔法をあと二つ習得してから向かう予定だったが、香織の般若さん対策が必要になり変更した。それだけ香織は脅威だったのだ。
なお魔法を調べるのも全くの嘘ではなく、魂に作用しているとされる降霊術、精神に作用する光属性魔法と闇属性魔法について調べ直すつもりもある。魂魄魔法を習得したとしても、こちらの成果で対策が取れたと対外的には示す予定だ。
「高嶋、ちょっといいか?」
「? どうしたの坂上くん?」
香織の拘束と大迷宮送りも終わり、後回しになっていた清水への義手装着に向かっていると、友奈が声を掛けられた。相手は坂上龍太郎だ。
「ちょっと注意と言うか警告つーかな……幼馴染がやらかしたとこだし、日本にいた頃はイジメられてんの無視してたから、南雲には話しかけづれぇんだ。悪いが聞いてくれ」
「南雲くんは坂上くんなら気にしないと思うけど……私もその辺りは一緒だし」
「悪化させないよう手を出さなかったのと、止めれるのにめんどくさがったのは違うだろ?」
龍太郎は彼なりの思考で気にしていたが、ハジメの方は友奈の言う通り気にしていなかった。
というのも龍太郎はクラスメイトの中で、ハジメ視点で立ち位置が違う相手だったのだ。
ハジメがいじめられているのを無視はしていたが、それはハジメの素行にも問題があって興味が持てなかったから。香織に好意を向けられていることに嫉妬もしないし、香織への対応で怒ったり嫌悪したりもしない。ハジメを慮って不干渉だった友奈に次ぎ、遠藤と並んで中立的な立場でハジメを見ていたのが龍太郎なのだ。
もしもの話だが、龍太郎がハジメの長所を見つけていれば、ハジメの評価を改め、らしくないことをする光輝に疑問を投げかけたりくらいはしていただろう。それでイジメが止まっていたかというと止まらなかっただろうし、ハジメの磨いた技術力を学校生活で見抜けというのは無茶振り過ぎるので意味の薄い仮定ではある。それでもハジメに取って、学校では数少ない居ても害のない相手だったのだ。
「で注意っつーのは雫のことなんだが……」
「やっぱり、クラスから反対する人出てきちゃった?」
香織のハジメチームへの同行に当たり、監視兼ストッパーとして雫も同行したいと言い出した。香織の親友として、流石に今の香織をハジメと友奈に丸投げは出来なかったとのことだ。
ハジメと友奈としても、香織の監視ができる人はシア以外にも欲しかった。ハジメが香織の傍にいるのは本末転倒だし、友奈が香織の監視に付くとハジメが寂しさから趣味に走って暴走する。シアに丸投げはシアの負担が大きすぎるし、同行する王国騎士では実力不足。そんなわけで消去法で監視者を選定した結果、雫の同行を認めたのだ。
この話が出た時、光輝は「俺は今まで何を見ていたんだ……。どう見ても南雲が被害者じゃないか……」と香織の暴走と
「いや、そっちはねぇ。俺からすると香織は前からああいうヤツだったけど、光輝やクラスの連中にはそうじゃなかったみたいだしな。ギャップがヒデェせいで掌返して南雲の心配してるのが優勢だ」
香織の暴走の影響でハジメのクラス内での評価は一転した。「学校の二大女神に好かれるような長所の見当たらない、そのくせ好意を受け取りも拒否もせずキープしてる妬ましいヤツ」から「怪物に好かれてしまい、それでも今日までどうにか逃げ続けてた哀れな男」にだ。百年の恋も冷める香織の醜態で、クラスメイトのハジメを見る目も変わったのである。
なお後日、ハジメはコレに気付いてそれなりに拗ねた。実力を見せつけ掌を返させるならいいが、哀れまれて対応が変わるのは全く望んでいないのだ。自分の力で環境を変え認めさせるのと、可哀そうなモノと見做され変えられてしまうのとでは全然違うのである。
話を龍太郎の警告に戻す。龍太郎の表情はかなり深刻そうだ。
「雫はアレだ、本人にやる気はあるんだがストッパーとしては期待すんな。無理だ」
「え?」
「昔からあいつら見てたからわかるんだが、雫が香織を止められるわけがねぇ。昔香織に助けられたせいか、雫は香織が大好きすぎるからな。直前まで本気で止めるつもりでも、引きずられて一緒にやらかすに決まってる。
で、香織も雫が大好きだ。南雲を雫が守ってても、香織にはカレーにカツが乗ってるみたいな感じだろうよ。ブレーキかかるどころかアクセル全開だ。
雫のことは鳴子みたいなもんだと思って、それ以上は期待しねぇでくれ」
ハジメと雫がまとまっていれば、嬉々として二人まとめて性的に食う香織の姿が龍太郎の目には浮かんでいた。それに口だけでは抵抗しつつ、実力行使は全く行わず流される雫の姿もだ。
学校での香織と雫しか知らない友奈たちには気付けない、特大のセキュリティホールが存在していたのだった。
全く油断できる状況ではないと改めて理解し、友奈も気合いを入れ直す。
「うん、わかったよ。南雲くんの貞操は、私が守る!」
「そうしてくれると助かる……。なんで俺がこんな話してんだろうな? 俺、こんなキャラじゃねぇはずなのに」
龍太郎が比較的フラットな視点からハジメを見れたのは、香織も雫も龍太郎の好みからは外れているため。もっと顔は幼い感じの方がいいし、胸は無い方がいいし、尻も小さい方がいいし、背も低い方がいい。つまり外見的好みはロリコンなので魅了されませんでした。
雫は香織を止める気なのは本当だし、最悪斬る覚悟も決めてる。ただ香織の押しを止められるほど心が強くないし、香織の好意を拒絶する気になれるほど香織への好感度が低くない。結果、土壇場で初志を貫徹できず、何も出来ないまま押し倒されてしまうのです。
光輝は香織の暴挙にご都合主義解釈も出来なくなって覚醒? 香織に対して夢見てたことを(描写外で)龍太郎に驚かれたのも結構効いてます。
そして幼馴染組で一番ヤバい香織さん。反省も後悔もありません。この事件で友奈が一歩進んだけど察してはいない。それに一歩進んだとしてもそれだけで、ゴールできるタイプじゃないと見切ってるので友奈に対しては好意的で無警戒。
光輝パーティから人が抜け、今では四人に。
鈴は龍太郎の好みドストライクなので構われることが多く、自然と光輝は恵理と行動するように。
恵理「あれ? もう暗躍とかする必要なくない?」