ありふれた職業でも桜の勇者と共に   作:ぬがー

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神山【聖教教会】改め【バーン大迷宮】

 最初にオルクス大迷宮に向かって以来の通路をハジメと友奈が歩く。亜人のシアは神山の外で留守番だ。

 普段は並んで歩くのだが、神山では階級に差がある。“勇者”である友奈が先を歩き、その仲間のハジメは少し後ろを歩いて付いていっていた。

 そうして歩くことしばし、広間まで行き着いた。

 

「おお、高嶋様。お久しぶりですな。報告は受けておりましたが、お元気そうでなによりです」

 

「ありがとうございます、イシュタルさん」

 

 待っていたのは教皇のイシュタルだ。神山に戻った理由は大迷宮への挑戦で、表向きの理由は魔法技術の調査だが、さすがにそこにいる宗教のトップに挨拶もなしとはいかなかった。“神の使徒”が王を足蹴にするくらいなら許されたりもするが、教会の重鎮は蔑ろに出来ない宗教が上位の世界がトータスなのだった。

 対応するのは勿論友奈。宗教上メインは“勇者”で、ハジメはその添え物でしかないためだ。

 “勇者”には劣るとはいえ相手は教皇、代理人のハジメに交渉は任すと言ったこれまでやってきた対応は取れない。腹黒い宗教狂い相手に言質を取られないよう、友奈も警戒し緊張していた。

 

「いきなりで申し訳ないのですが、外での騒ぎについて聞かせていただけますかな。なんでも“神の使徒”たる白崎様が乱心なさったとか。人づてに聞くことしかできていないのですが、一体何があったのでしょうか?」

 

 エヒトからの啓示も何もないためか、らしくもない不安をのぞかせるイシュタル。

 神から人間族の守護のために送られた“使徒”が乱心するなど全く想定していなかったのだ。神を疑うことなどしたくもないが、あり得るはずのなかった事態に不安もよぎる。自分の勘違いであってくれと祈るような表情だ。

 

「心配ありません。魔人族の切り札によって錯乱させられ、幻影を被せられていただけです。それももう対処して対策も取りました。これから対策のさらなる改善を行いますし、むしろ切り札を一つ切らせた分有利になってます。

 魔人族は仲間割れをさせようとしたのかもしれませんが、このくらいで揺らいだりはしませんから」

 

 香織の暴走は本人の意思ではなく、敵の切り札。

 香織の変貌は実際に変化したのではなく、幻を見せられていただけ。

 人間族に動揺を走らせないため、香織のことは庇わなければならない。その為に考えた偽情報だ。

 

「おお、真ですか……ッ! いらぬ心配をしてしまいましたな。申し訳ない、不敬でした」

 

「大丈夫です。ちゃんと先の事を考えてくれてるってことですから。神様もそういう人がまとめてくれてると安心できてると思います」

 

「もしそうなら光栄ですな」

 

 友奈の嘘にイシュタルは一気に表情を明るくする。信じたいことを信じたとも言うが、友奈の言葉に嘘が全く感じられなかったからだ。

 勿論友奈に老練なイシュタルを騙せるほど上手に嘘をつく技術はない。なのになぜ出来たかと言うと、現在の友奈もそれが事実だと思っているせいだ。

 神山に来る前に、ハジメの魔法具による闇属性魔法で洗脳を行った。内容は先ほど話していた情報が真実だと思い込むこと。普段なら意識しなくても弾くが、自発的に“全属性耐性”などの技能をOFFにして受け入れたため、魔力の残滓も残さない程度の出力で完全に効いているのである。指摘されて違和感を抱いてしまえば即解けてしまう程度の洗脳だが、指摘できるのがハジメだけのためボロが出ることもなかった。

 

 その後も少し話をして、技術収集後の動きを決めて解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「南雲くん、いいの見つかった?」

 

「光属性魔法は結構いい感じの見つかったよ。闇属性もまぁ出力上げてゴリ押しすればいけそう。でも降霊術系は術者の才能依存で使えるのが少ない……! これが一番効果的だったはずなのに」

 

 聖教教会の書庫にて、友奈が運んでハジメが一気に目を通すという流れ作業で発掘が進んでいた。

 しかし得られた技術は多くない。光属性魔法については、あくまで「ついでに調べた程度にしては」結構いい感じなだけなのだ。本命に近かった降霊術の技術書がなかったのは痛かった。

 

 とは言えハジメたちの本命はこれではない。

 神山改め【バーン大迷宮】で習得できる魂魄魔法、こちらさえ得られれば他が成果ゼロでも十分だ。

 

 本来はもっと後から習得しに来る予定だった。

 大迷宮に挑むには攻略の証が二つ必要で、そもそも普通には入れない。また神山は敵地でもあるし、習得するための魔法が起動すればエヒトに察知されるかもしれない。

 でも挑まないとヤバいのだ。それだけ振り切れた香織は脅威だった。

 

「今日はこの辺で切り上げようか。そろそろ疲れてきたよ」

 

「じゃあ片付け司書さんに頼んでくるね」

 

 本当にのめりこんでいる時のハジメなら何徹でもして調査と研究を続けるが、流石に今そこまではしない。普通に疲れが出てきたと周囲が信じる程度でやめた。

 

 

 

 

 

 【バーン大迷宮】は入り口が隠されている大迷宮だ。

 入り口をチュートリアルにしている【オルクス大迷宮】はともかく、他の大迷宮だって天然の広大な要塞の中に隠れている。だがそれは広く過酷なため入り口を見つけるのが困難なだけで、より険しい道を選んで進めば辿り着ける。もしくは道しるべが用意されているのだ。

 しかし【バーン大迷宮】は敵地である教会(人の住む場所)に配置されている大迷宮。敵に見つかり利用されたり、入り口を塞がれるのを防ぐため隠す必要があった。当然あからさまな障害も、大掛かりな仕掛けも用意できない。細心の注意を払い観察しても手掛かりはゼロだ。神代魔法を全て使えるようになった者が見てもそれは変わらないだろう。

 ゆえに辿り着く方法は【聖教教会】を丸ごと吹き飛ばすなどの雑な方法を除けばただ一つ。

 

 ミレディに教えてもらう。

 

 コレだけなのである。本来は複数の大迷宮を突破し力を付けた後でも、ミレディに気に入られる人格・立場を維持していないと知ることは出来ない。友奈がコミュ力モンスターでなかったら、ハジメ達もまだ知らないままだっただろう。悪用しやすい魂魄魔法を管理している大迷宮だけあって、審査の厳重さが非常に高かった。

 事前に何が目印かわかっていれば、宗教的な意味合いに隠された入り口を塞がれないための仕掛けを見つけられる。ソレに誘導されて進めば目立つことなく、姿を長時間眩ますでもなく、大迷宮に挑めるのだ。

 

「これ作ったヤツ頭おかしい」

 

「そんなに? 私はすごいなーくらいしかわからないけど」

 

「そんなにだよ。大迷宮の試練がこのレベルだったら攻略者なんか一人も出ない。解放者との実力差を叩きつけられた気分だ」

 

 戦闘系の友奈はともかく、生産系のハジメには刺激が強い。今の自分では気付くことすらできない超高等技術が異常なほど効果的に使われた建築物を作れる解放者に、それに勝った神という脅威。ただ強くなるのではダメだと突き付けられているのだろう。迷宮を越えられれば強くなれているだろうに、それ以降も全く安心できないことが保証されたようなものだった。

 

「……ともかく迷宮に挑もうか。あまり時間かけたらマズい」

 

「それでも少しくらいなら休めるよ。今すぐで大丈夫?」

 

「うん。別に時間おいてもマシになるもんじゃないしね」

 

 ハジメが大迷宮挑戦のための台座に手を伸ばす。

 本来であればこの台座に大迷宮攻略の証を二つはめ込まないと挑むことは出来ない。だが何事も抜け道というのはあるものだ。

 

「“錬成”」

 

 これが生成魔法習得が一番最後に回されている理由だ。

 生成魔法によって迷宮の入り口を一時的に解体あるいは改造、認証を誤魔化し条件をクリアしていることにする。下手をしなくても大迷宮攻略より難度の高い方法なのだが、天職が“錬成師”であるハジメには可能だとミレディに太鼓判を押されていた。

 

 こうして大迷宮の試練が始まり、ハジメと友奈の魂魄だけが迷宮へと引き込まれた。

 

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