その間は「無難にいつも通りの行動を取った」という存在しない記憶が刷り込まれ、認識が変化させられる仕様になっています。
【バーン大迷宮】のコンセプトは『神の力が作用する何らかの影響に打ち勝つこと』。
つまり神の力が作用する最も身近なモノ=人間族の社会そのものに負けないことが求められます。
現在、人間族の領域は魔人族に侵攻に晒され、人間族の未来は風前の灯となっている。
生存領域を切り詰め敵の征路を制限し、神の加護を受けた騎士団の活躍でなんとか持ちこたえているのが現状である。
精神世界に取り込まれたハジメと友奈に、この世界での設定が刷り込まれる。
神に庇護され、恩恵を受けなければ生きていけない世界。それに馴染まない者を矯正、あるいは排除する同調圧力。そしてそれに流される多くの弱者。
これは魔人族が優勢で、人間族の神に縋る感情が強かった時期の環境だ。ハジメ達が転移した戦争も始まっていない平和な時期とは違って余裕のない時代であり、神がいつでも意図的に築く事の出来る時代でもある。
南雲ハジメ、高嶋友奈の両名は神の威光の行き届かなかった辺境の民だ。
故郷は切り捨てられた土地に含まれ、この地で生きることを余儀なくされた。
「南雲くん!」
「用意出来てるよ」
「わかった! じゃあ行こう!」
魔人族の攻勢を防ぐために戦力を集中させているため、縮小した人間族の領域内ですら発生した魔物への対処が追い付いていない。そうした魔物に襲われる町や村もあり、ハジメと友奈は彼らの保護と大きな都市への護送を行っていた。傷つく者を見捨てるのは嫌だと言う善性と、民衆の保護を行えたという実績で大きな勢力に参戦するためだ。人類絶滅が迫る状況で、力があるのに人任せは怖い。力があっても二人では手が足りないため、詰みに陥る前に行動できる立場になりたかったのだ。
二人は善性からこのような行動に移ったが、悪性でも知恵が回れば同じ行動を取る者もいただろう。人は一人では生きていけない、あるいはとても不便になる。略奪できる相手だって十分な数は残っていないのだ。非生産的・非効率的な悪行で生きていける余裕など人類社会にはなくされていた。
こうして彼ら力ある者は前線へとまとめられ炙り出された。
教会を中心とした人間族の主力と合流した二人は、能力を評価され最前線に配備された。
そこにいたのは邪神の加護により異形化した魔人族。対話をする機能すら消失しながらも、受けた戦術や技術を学習し変貌・進化を続ける怪物と化していた。
もはや宗教戦争どころではない、激化していく一方の絶滅戦争が繰り広げられていた。
「勇者パーンチ!」
「こんなこともあろうかと!」
そこでハジメと友奈は頭角を現していく。現さざるを得なくなっていく。
友奈の基礎スペックだけでも騎士団員より上だ。加えて非常に高い精神力。皆が疲弊していく中、誰よりも挫けない強さで最も厳しい戦場で戦い続けた。
ハジメはスペックこそ低いが、その万能性で窮地を脱する手段を多く有している。製造した高品質の武器も騎士団全体の戦力向上に大きく貢献した。
だが状況は良くならない。
そもそも攻めてくる敵を撃退しているだけなのだ。相手が再度攻められる戦力を確保するまでの休戦期間はあるが、領地を奪還する余裕などなく人間族も休んでいるだけで休戦期間は終了する。ずるずると人間族が不利になっていくだけなのは明白だった。
そんな状況下では正しいことしかする余裕がなくても、自殺のような正しくないことをしてしまう者が出てくる。
「出し惜しみをするな! 隠している技術を公開しろッ!」
「神の意志に背く気かッ! 恥は無いのかッ!!」
「出て来い! 今日こそは話を聞いてもらうぞ!」
「もう門壊して引っ張り出してやr、グワーッ!?」
「~~~、お、良い感じ。なるほど、こうなってるんだな」
「えっと南雲くん、外ですごい騒ぎになってるけど大丈夫なの?」
「ん? ああ、平気平気。時々あるんだけど、気にしても無駄だし無視が一番。あの人たちは弱いから何もできないよ」
硬直した状況を打破できる
ハジメが秘匿している技術を公開すればそれで勝てると思っている、いや思いたいのだ。だからそれを事実ということにして、罵詈雑言で追い詰め技術を奪い取ろうとしている。
実際は魔人族は新しい技術を見せれば対応してくるし、迂闊に手札を切り過ぎれば負ける。ギリギリ負けない程度で撃退するのが現状の最適解なのだが、それを続ける根気を彼らは使い切ってしまっていた。
そのような現実逃避に走った彼らをハジメは敵視しない。する価値がないと見切っているし、友奈はハジメがすることを意味のあることだと理解して信じてくれるからそれで十分。今稼いでいる時間で、敵の解析と、本当に状況を打破できる力を開発するのに注力できていた。
「………………」
そんなハジメを友奈は心配そうに見ていた。
必要な事をしているだけなのに、ハジメの立場がどんどん悪くなっていく。友奈が何を言ってもそれを止めることは出来ない。どころか友奈が何を言っても火に油を注いだような結果にしかならない。
それが
「(理由はともかく、南雲くんが皆を守ってる。だから私が南雲くんを守るんだ)」
友奈だけでは皆を支えきることは出来ない。ハジメだけでもいつか決壊してしまうだろう。だが力を合わせていけば大抵何とかなる。今回だってそうするんだと決意を新たにした。
しかしそう上手く行き続けはしない。
高嶋友奈は前線で釘付けになり、孤立したハジメを助けようとする者がいなかったために、南雲ハジメは戦闘で負傷。両脚を失った。
「さすがにきっつい」
「よしよし、お疲れ様」
ハジメは友奈の膝枕で癒されていた。
結局ハジメは自力で窮地を凌ぎ、戦闘後も自力で足を金属化・改造して義手を取り付けた。他者への改造と異なり、自身の改造は全身金属化ではなく部分金属化となる。金属化が進行すれば改造に差し障りが出るため力を抜けず、心身をかなり疲労する。
なので今回は珍しく単純な疲れから癒しを求めた。ハジメは辛さも棚上げして無視できるが、今回はちょっと許容値を超えていたのだ。
「やっぱり欠損はきつかった。他人には義手義足つけて問題解決!ってしてるから自分がなっても平気だと思ってたけど、無理だこれ。かなり堪える。高嶋さんは気を付けてよお願いだから」
「わかってるよ。それより今は休んで。ほらこういうのどう?」
「ああ~~~いい感じ……」
膝枕をしたまま、頭部のマッサージを行う友奈。男のトロ顔など誰得だが、とりあえず友奈はハジメが癒されていることに安心感を覚えていた。
「………………………………」
ハジメへのマッサージは継続しながら、友奈の表情が以前よりも深く曇る。
異形化した魔人族の最大の脅威は学習力だ。だからギリギリ負けない程度の戦力で瀬戸際の勝利を繰り返すことが、結果として最も生き延びられる戦術になる。
ゆえにこの負傷も許容範囲内。他の手段よりも被害は抑えられているのだ、仕方のないことだった。
「(……違う。別の方法もあった)」
今回ばかりは友奈にも仕方ないと納得は出来なかった。
戦場においてハジメは敵によく狙われる。技術を秘匿する以上、道具を貸し出すわけにもいかず自分で使うからだ。だから魔人族には最優先で倒す相手と見られていて、最も危険に晒されている。
友奈はその逆。誰よりも前に出て戦うが、守りは素のスペックとハジメの贔屓で渡された装備により最も堅い。他の誰かなら一発で死ぬ攻撃が飛び交っても、友奈はかなり耐えられる。誰よりも果敢に戦っているようで、戦場では誰より安全な所にいたと友奈は認識していた。
だから友奈は自身に割いているリソースをハジメの守りに回せばこんなことは起きなかったはず、そう思えてならなかった。
「ねぇ、南雲くん」
「ん~、なに?」
「もうちょっと自分の安全を優先してほしいな。私は大丈夫だから」
「ヤダ」
躊躇のない即答だった。友奈も予想していたから驚くことなく悲しげな顔をするだけだ。
「高嶋さんと同じで、僕にも優先順位があるからさ。心配させてるのは本当に悪いと思ってるけど、そこは譲る気ないよ」
「……だよね。私が選べても同じことしてた」
友奈もハジメも自分より相手の方が大事なのだ。だから言い争っても絶対に答えは変わらないとわかっていた。それでも口に出してしまった。友奈も初めを癒すという役割で気を紛らわせているが、相当に堪えていたのだろう。
その辺りを察して、茶化すようにハジメが言葉を重ねる。
「それに僕は小物だからね。ヤバくなったら逃げるし、その前に高嶋さんに泣き付くよ。その時助けに来れるよう体調崩さないでよ?」
「ふふっ、じゃあ準備して待ってるね。泣き付いてきたら甘やかしてあげる」
「さっさと折れたくなること言うのやめない?」
「私は折れてくれた方がいいかな~」
友奈の表情も少しは晴れた。
ハジメも行動を変える気はないが、痛い目見たし友奈に心配させたくないのも本当だ。今後は詰めを誤らないよう立ち回っていくだろう。
だが敵も負けてばかりではいない。戦力増強に戦力増強を重ね、人間族側の余裕はどんどん減っていった。
ハジメもギリギリで戦い、両腕と片目を魔法具に置き換えることになる。
そしてまた、性能が不足したいくつかの臓器を魔法具へと置き換えた。
「……南雲くん」
「大丈夫大丈夫。怪我じゃなくて改造だよ? 元の体も保管してるからいつでも戻せる。気にすることないって」
あっけらかんとした表情で言い切るハジメ。言っていることに嘘はなさそうだ。
だがもうハジメの言葉で友奈の表情は晴れない。
魔人族との戦いの中でハジメは痛みに強く、そして鈍くなった。足を無くして自分を改造し、メンタルダメージを受けていた頃の弱さはもう見当たらない。
つまりハジメの「大丈夫」が、友奈には信用できないものになってしまっていた。
「………………………………………………」
「高嶋さん? どうかした?」
「ううん、なんでもないよ。大丈夫」
仕方のない事だ。
今の状況では誰かが身を削って戦わないといけない。最も負担がかかっているのがハジメと言うだけの話だ。ハジメ自身も考えて選んだことなのだから、友奈が口を出すべきではない。
「(私だけが綺麗なままだ)」
友奈は五体満足だ。
ハジメが友奈を大事にするから怪我をするほど追い込まれないし、友奈が使うなら義手よりも友奈自身の腕の方が結果を出せる。ハジメの意地と合理的な戦略の結果、周囲がボロボロになっていく中で友奈だけが無傷だった。
友奈は心が強い。戦えない誰かのために自分が貧乏くじを引いて戦うことになっても恨みは持たないし、共に戦う味方の窮地に迷いなく踏み込むことが出来る。これは間違いなく“勇者”としての強さだ。
だがその強さが空回ることもある。今の友奈は誰かに守られることに罪悪感を感じ、皆と共に傷つけないことに孤独を感じていた。
そして、それでも友奈は強いから口には出さない。友奈を守りたいと思っているハジメ、友奈が大きな傷を負わないことを神聖視し「我らの希望」と認識している騎士たち。彼らの期待に応え、友奈らしい強さとは食い違う役割に徹していた。
「(高嶋さんがマズい。どうにかストレスを吐き出す場を作ろう、すぐにでも)」
ハジメはそんな葛藤には気付けていた。気付けて、しかし今まで何も出来ていなかった。まるで過程を飛ばしてこの事態に辿り着いたかのように、変化する道中で行動を変えることが出来なかったのだ。
そんな失態を償うべく、友奈と話し合う場を作ろうとする。
ハジメは友奈を守ること自体は譲る気はないが、友奈の心情を無視しているわけでは決してない。体を守っても心に致命傷を与えては意味がないし、バランスは考えるつもりだった。そこの所についてしっかり話し合いたかったのだ。
「(それに今後のこともある。話せる内容は限られてるけど、高嶋さんにも準備してもらわないと)」
ハジメは友奈以外から孤立しているため、そもそも接触がなく情報を秘匿しやすい。逆に友奈はハジメと他の騎士の繋ぎをすることもあるため、情報を隠していても知らないうちに抜かれる危険性がある。
些か以上に危険な情報のため内容を伝えることは出来ないが、そういう情報があると言うことくらいは伝えないとマズい。それくらい切羽詰まった状況に気付けばなっていた。
残念ながら話し合う機会を持てないまま時間は過ぎていく。
そんなある日、ハジメの目を掻い潜り、友奈だけと話をしに教会の重鎮が中央から前線までやってきた。
「お久しぶりです“勇者”高嶋。御健壮なようで何よりです」
「……ありがとうございます。今日はなんで前線まで?」
中央の重鎮が安全地帯から出てくることはまずない。現場に指令を飛ばすだけの宗教狂いな胡散臭い連中、しかしいないと指揮系統が成立しない必要なパーツでもある。これが友奈とハジメの彼らに対する認識だ。
そんな重鎮がわざわざお忍びで友奈だけに会いに来る。何か厄介な事になっていると言っているようなものだった。
そして想像通り、ろくでもないことが彼の口から語られる。
「神託が下りました。“勇者”高嶋の身に神の御力を宿し、一気呵成に魔人族を撃破する。もはやこれ以外に勝機はなりませんが、これで勝利を得られれば戦争は終わると。
申し訳ありませんが、“勇者”高嶋には決断していただく必要があります」
偶に会った時はいつも命令口調だった重鎮から、らしくもない声が絞りだされる。
「決断っていうのは一体何なんですか?」
「邪神の軍勢は強大ゆえに、必勝とはいかないとのことです。もはや人間族の命運は“勇者”高嶋に託す他ないために、実行するかも貴女の意志に任すと。今死ぬやもしれぬ決戦に挑むより、一日でも長く生きたいのなら非難することはあってはならないとの御告げです。
……主の御力を宿すなど名誉な事。叶うなら代わってほしいとは思いますが、選べる事は貴女の権利です。どうぞご自由に」
本心から悔しそうな声に戸惑いながら、友奈もこの後について考える。
考えて、ハジメに相談しに行こうと決めた。友奈の中で結論は出ているが、ハジメなら問題があれば指摘してくれる。行動するのはそれからだと。
しかしその行動は重鎮に止められた。
「ただし南雲殿に相談だけは認められません。彼は“勇者”高嶋が命を賭けることには理由が何でも反対でしょう。貴女と並んで重要戦力である彼が前線で足並みを乱すことをすれば、準備の時間もなく人間族は滅びます。彼に情報を与えてはいけません。
それに決断の権利は貴女にあるのであって、南雲殿にあるのではないのです。決断を彼に委ねることを、私は認められません。それでも彼に話すというのなら、私を死なせてからにしていただきたい」
彼ら教会の重鎮の信仰心は本物だ。本当に友奈が殺すまで邪魔しようとするか、進もうとする友奈の目の前で自殺して見せるだろう。殴って気絶させればいいのだろうが、心優しい友奈にはすぐには思いつかなかった。
「(どうしよう……)」
友奈とハジメは二人で組んで戦ってきた。ハジメが意地を通すことも多いが、きちんと友奈に話してからだった。教会重鎮の言うような、友奈の言葉を無視して押さえ付けるようなことをハジメはしないと思う。
だがそれを目の前の教会重鎮に理解しろと言っても難しいだろう。どうすれば理解してもらえるか、友奈の思考はそこに集中していた。
しかしここで友奈に疑念が浮かぶ。
戦争が始まる前と今ではハジメも変わってしまった。本当に自分の意見を聞いてくれるだろうか?
それに勝手をしたのはハジメも同じだ。なら自分が勝手をしても、傷ついても、彼と同じになれるだけなのでは?
「―――わかりました。今すぐに神山に向かいます」
「おお! ではこちらへ。既に移動手段は用意してあります」
それでこそ神に選ばれた者、と安堵したような表情の重鎮。
それとは反対に張り詰めたような、あるいは自分の行いに戸惑いを感じながらも止まれないやけっぱちのような表情の友奈が続いて歩いた。
「(私が、守るんだ。南雲くんも、人間族の皆も。もう誰も傷つかせたりなんかさせない)」
社会全体が同調圧力かけたり、コミュ妨害したり、負担をわざと偏らせて不和を生んだり、逆に罪悪感を抱かさせたりするのが【バーン大迷宮】の試練でした。
友奈は神の力に縋ったので脱落寸前です。
あとは大迷宮の試練並みに強化された騎士たち+αとの戦闘が残ってます。
追記
バーン大迷宮の問題とハジメ達の得点をせっかくなので表記しておきます。
①人間族の危機
迷宮に挑んだ者すべてに対しての試練で、助けに行かないと孤立して状況が悪化し続けます。
それでもどうにかできる能力があるなら問題なしで次へ進める仕様です。
ハジメと友奈は人助けをし、集団と合流したのでクリア。
②実力者の炙り出し
神に目を付けられずに行動できるか、という試練です。
ハジメと友奈は目立ってしまい、今後妨害と介入を受けることになりました。
③状況の悪化
余裕が無くなっていき、同調圧力を受けるようになります。
ここで圧力に負けて手札を晒し過ぎると敵が強くなって脱落です。洗脳で大迷宮について忘れさせられ、放り出されます。
ハジメと友奈は自分の戦略を貫きクリア。
④状況のさらなる悪化
負担が偏る形で状況が悪化します。
負担が大きい方の不和や、負担の軽い方の罪悪感などで連携を崩します。
友奈がハジメを癒し、ハジメが友奈に甘えて罪悪感を薄れさせクリア。
⑤状況の改善チャンスをスキップ
状況が良くならないだけでなく、相手が状況を良くしようとする努力もしてないように見えます。
また挑戦者はかなりな期間戦場にいたような感覚が刷り込まれるため、負担が大きいと迷宮挑戦前と少し感性が変わってきます。
⑥神の誘い
状況を改善する(見せかけの)チャンスを与えて弄びます。
神のマッチポンプに気付くか、気付いている仲間に相談する、辺りを選べれば良し。自分優先で逃げ出しても良しです。
解放者はその名の通り「人を神から解放する者」であって「世界を救う者」ではありません。善性よりも勝手さを評価することもあります。
友奈はハジメに相談する意志を曲げなかったのでクリア。
⑦洗脳
教会重鎮と会話しようとする=洗脳をかける隙を見せてしまう、です。
話は通じないのですぐに殴って押し通るが正解でした。神の支配下にある相手と理解し合おうとする善性は、弱点でしかありません。
友奈、トラップに引っかかって大幅減点。脱落手前です。