ありふれた職業でも桜の勇者と共に   作:ぬがー

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【バーン大迷宮】の試練②

 友奈が神山へと下がると同時に、魔人族の大攻勢が始まった。逆転の目を潰す気だ。ここで前線の突破を許せば、友奈が神の加護を授かったとしても勝ち目は残らないだろう。

 ハジメを含む前線にいる戦士たちは決死の覚悟で時間稼ぎに向かった。

 

「―――――――――ッ!」

 

 ハジメは違和感も持たないまま、友奈を追うこともせずに戦場に向かっていた足を止める。

 いくら何でもこれはおかしい。

 友奈の決断を人伝に聞いた記憶はある。自分が体を張って時間を稼ぐ決意をした記憶もある。これは本当に自分の記憶か?

 そんなことしたくない。認めない。何より他の手もあるのに「それしかない」などとふざけたことを言う奴に友奈を任せるなどあり得ない。

 明らかに直前までの自分はおかしい。行動制限などで積もり積もった違和感がついに限界を超え、ハジメは自分に向けて闇属性魔法による攻撃を行った。

 

「~~~~ッ! ふざけたことしやがって……ッ!」

 

 らしくもなく口調が荒れる。闇属性魔法の精神干渉で洗脳を解いた副作用だ。

 決意が固く、迷いがあっても突き進む性質だとこうは出来ない。生存欲求や自分の思いに素直で、状況に流されない勝手さを持つ俗人だからこそ出来る選択。また気づけたのはギリギリだが、終わる前に気付いて行動できるなら希望は残っている。これをなせる事こそが解放者が挑戦者に求める資質だった。

 

 なお思考誘導や行動制限には気付けても、ここが現実をコピーして作られた精神世界と言うことまでは暴けなかった。その辺りは魂魄魔法とその劣化版に過ぎない闇属性魔法の差が大きいし、気付けというのは無茶だ。試練を突破した後なら気付けるようになるだろう。

 

「おいどうした!? 何をやってるんだッ!?」

 

 いきなり自分を攻撃するというハジメの奇行に、周囲の騎士たちが反応する。

 そんな彼らを洗脳された被害者、一応戦場で一緒に戦ってた同僚と認識しているハジメは、友奈の所に行く時に邪魔になるのでさっさと眠らせることにした。魔人族の攻勢が始まれば生かして制圧するのも出来ないからだ。

 

「“錬成”」

 

 パチリとハジメの手元から光が広がる。

 しかし一見何も起きず、一瞬訝しんだ後にバタバタと騎士たちは気を失っていった。

 やったのは単純に大気の錬成だ。金属の成分を変えるように、空気の成分比率を弄るくらいハジメには簡単なことだ。呼吸を必要とする真っ当な生物でいる限り、ハジメに先手を取られて勝機は残らない。

 

「これで障害は一つ突破っと。次はあっちか」

 

 全員倒れこんだ元仲間を端にまとめ、襲来する魔人族に単身で向き合う。

 ここで魔人族を無視して友奈の所へ向かえば、前線に近い位置に住んでいる者たちは全滅だ。そちらを狙わず真っ直ぐに神山に向かうとしても、ハジメは背後からも殴られることになる。どちらにしてもハジメの望むところではない。

 ゆえにここで後続―――敵地では魔人族を改造する非効率的な形態から、巣のような設備で改造魔人族を量産する形態に移行している。そこに予備戦力が蓄えられている―――も含めて全滅させる。

 

「他の皆の視点って低いんだよね。上って言うか宇宙(そら)を目指してない」

 

 トータスは魔法文明世界であり、その源流の一つは星の力を扱う神代魔法である重力魔法だ。そのせいか探求を進めるとしても星の内部や在り方に向けてで、上や外に視線が向かわない。精々鳥が飛ぶ範囲までだ。

 だからハジメ単独で魔人族の領域を監視し、戦力を生産している巣を全て破壊しつくせるほどの準備が出来ていた。

 大きな動作もなく魔法具を起動。誰も意識を向けていなかった宇宙で、ハジメが日課のように打ち上げていた兵器たちがついに牙をむく。

 

 衛星軌道上から感応石の金属棒を地表へ向けて射出。重力魔法と錬成の応用で空気抵抗による摩擦熱を全て魔力、魔石の順に変換。激突による破壊力で巣を破壊すると共に、生成した魔石の一斉解放。辺りに熱波や雷撃がまき散らされた。

 個性も意識も失った代わりに情報共有による学習能力と成長性を加えられた改造魔人族に、学習のし様もない高速かつ複数拠点同時攻撃で大量破壊兵器が降り注いだのだ。もちろん生き残りは無しだ。

 

神の杖(ロッズ・フロム・ゴッド)……ん~これから神のとこに殴り込みかけるのに、この名前は変だな。後で別の名前付けよ」

 

 元ネタとなる兵器の名前そのままにしていたが、状況にそぐわなくなってしまった。若干の残念さと共に改名することを心に留めておく。

 そんな余計な事も考えながら、手は止めない。破壊兵器の余波を魔石に変換して無効化し、それで移動用の魔法具を製作する。普段なら見栄えも凝るが今は非常時、性能だけを追求した使い捨てだ。

 どうせ見つかるからと隠れることもせず、一直線に神山へ向かって突き進む。

 

 当然のように歩みを阻む者たちが現れた。教会の最大戦力“三光騎士団”の一つ“獣光騎士団”だ。

 

「そういえばこいつらがいたっけ。考えるのも思い出すのも封じやがってむかつくなぁ……!」

 

 ハジメの脳内に新しい知識が、呪縛が解けて自然と思い出したかのように追加される。

 “獣光騎士団”は三大戦力の一つであり、強力無比な聖獣を操るという騎士団だ。汎用性に長けた戦力だが、いくら切迫しようが彼らが前線に来る事は無かった。それに気づけさえしなかった―――そんな知識は元々ないし、彼らも今精神世界に追加されたばかりなのでどうしようもなかったのだが―――事実にハジメの苛立ちが募る。

 加えて彼らを遠視の魔法具で観察する限り、空気成分調整対策の呼吸補助具を身に着け、大火力攻撃で全滅しないよう距離を取ってハジメに迫っている。まるで改造魔人族の如き適応力でハジメに備えていた。

 

「戦争はマッチポンプの遊びだった、で合ってたかな。駒にされる側としちゃ堪ったものじゃない」

 

 大迷宮の介入による行動スキップ中は普段通り以外の行動は出来ない。だが逆に言うと、普段通りの行動は出来るのだ。

 ハジメは神の存在や恩寵、魔人族の征路制限についても一応(・・)疑ってみて過ごしていた。平時なら気にもかけなかっただろうが、戦時になって依存率が大きく上がったからだ。そこに罠が仕掛けられていたら目も当てられない事態になる。

 そして案の定、それらしい傾向は見つかった。しかし証拠になるものとなると全く見つからない。それで情報開示を躊躇っていたのだが、今回の件で敵も開き直ったようだ。交渉もなくハジメの足止めで戦力を使い潰す気な辺り、友奈とハジメで遊ぶつもりなのを隠す気がない。

 

「邪魔。僕は君らに用はないんだ」

 

 獣光騎士団を無視して突き進む。敵の目的は足止めだ。素通りしようとすれば突っかかってくる。

 そして次々と潰れていった。

 

 防御用魔法具に阻まれた結果だ。一応聖獣は死んでも騎士は気絶で済ませている。

 使ったのは魔力で操作できる“感応石”の大気バージョン“感応気”を素材とした魔法具だ。金属への生成魔法と空気への生成魔法では、キャンバスに絵を描くのと米粒に絵を描くくらいの難度の差がある。だが難度が違うだけでハジメに取ってはやれば出来た事に変わりはなかった。

 見た目はただの空気なので気付くとしたら魔力の濃淡で見分けるしかない初見殺し。それでも平時なら勘で気付けたかもしれないが、突貫での改造を施された者達では見抜くことは出来なかった。

 

 3つの障害の迅速な処理により、神も時間が足りなくなった。“白光騎士団”を連れた友奈が、不完全な調整のままハジメへの刺客として放たれる。

 

「―――私が、皆を守るんだ。私は“勇者”なんだから」

 




今回は大迷宮の試練が三つ。

①前線の肩を並べて戦っていたと言う記憶のある騎士
②続々と援軍が来る魔人族の軍勢
③教会最大戦力の一つ“獣光騎士団”

これらで足止めを受けるほど友奈の洗脳は深く深刻になる仕様でした。
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