ありふれた職業でも桜の勇者と共に   作:ぬがー

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赤字で大迷宮の洗脳で言わされてる+自己洗脳してる言葉、青字で闇属性魔法による洗脳効果のある言葉になっています。


【バーン大迷宮】の試練③

 騎士団を率いて現れた友奈に、ハジメは普段通りのように声をかけようとした。肉体的な状態は魔法具である義眼で見れる範囲には問題がなかったため、次に精神状態を確認するためだ。

 しかし実行する前に、友奈の方から話しかけてきた。

 

「ねぇ南雲くん、話し合い出来ないかな」

 

 予想外な交渉の申し出。何を話すつもりなのかすら不明だが、友奈と接する時間が増えれば、情報も得られ出来ることも増える。好都合な展開だ。

 好都合だが好都合すぎ、さすがのハジメもためらいを見せた。

 その感性は間違っていなかったのだろう。突然友奈の表情が強張り、ぶつぶつと何かつぶやき始めた。

 

違う、時間がないんだ。早く戦いにいかなきゃ。そのために南雲くんを殺すんだ。……おかしいよ、そんなことあるはずない。なんでこんな神様の言うことに間違いはないから、皆を守るために役目を果たさなきゃいけないんだ。そんなことしなくていい、私が止めれば南雲くんはそんなことしない! そうだよね南雲くんッ!?」

 

 友奈を洗脳する言葉が、友奈自身から吐き出され続ける。洗脳解除を防ぐための対策だろう。解除してもすぐに再洗脳されては意味がない。効果的な方法で、友奈の意識も残るためにより苦しめることが出来る。ムカつく悪趣味な遊びだ。

 だがそんな遊びをしているから友奈も抵抗出来ていた。洗脳で刷り込まれた「それしかないと確信している情報」と同等以上にハジメのことを信じてくれているから、自分の思考を見つめ直しおかしいと気付けるのだ。

 友奈の精神力なら、問題ないと答えればそれだけで洗脳効果を堪えてハジメの話を聞いてはくれるだろう。もしかすると洗脳に反する行動もある程度は取れるかもしれない。

 そのことを理解しているハジメはメガホンを錬成し、闇属性の魔力を込めた返事を返した。

 

僕を倒して進まないと世界がピンチで合ってるよ

 

 友奈なら洗脳に抵抗できる。だからこそさせるわけにはいかない。

 洗脳を振り払っても、再度友奈自身で友奈を洗脳してしまう状態だ。その度に振り払うことは出来るだろうが、友奈の負担が大きすぎる。いくら友奈が頑張れる人だとしても限度はあるのだ。戦うことでの体のダメージ、ハジメを攻撃することでの心のダメージも考慮したうえで、総合的に見て頑張ることも辛い思いも出来るだけしなくていいように動くのがハジメだ。

 

 ハジメの洗脳音声の後押しを受けたことで、全否定していた洗脳で焼きつけられた情報を受け入れる友奈。結果、友奈の精神状態が安定した。

 

「わかったよ。私は南雲くんをやっつける。でも絶対殺したりしない。南雲くんを殺さなきゃ他の皆は救えないなんて受け入れない! 私は勇者ッ! 南雲くんも、皆も、助けるんだッ!!

 だから私が勝ったら話をしよう。そんな時間はないって神様は言うけど、私が頑張って時間を作る。そしたらみんなを助ける方法を一緒に考えてね? 私一人じゃできないだろうから」

 

 誰かが庇って助けてくれるからと、甘えて頑張ることをやめる友奈ではない。

 ハジメを殺さないと皆が死ぬ、それ以外の方法を探す時間などない。そんな状況を受け入れたうえで、前提条件をひっくり返す方法を探し続ける。思考停止し諦めることのない、洗脳に抗う強さを大迷宮の試練に対して示して見せた。

 

「“勇者”高嶋!? そんなことしている場合では―――」

 

「いいね、そうしよう。じゃあその前に邪魔な人にはどいててもらおっか」

 

 予備動作もなく重力魔法と錬成の合わせ技で、周囲の温度がまとめて魔石に変換される。錬成範囲外の空気と混ざれば元に戻るとはいえ、呼吸対策はしてきた騎士団も魔力の影響しない冷気に対する対策は十分ではない。一瞬身が竦み動きが止まった。

 そこへ錬成された魔石から光属性魔法の杭が撃ち込まれ、騎士団全員の魔力が封じ込められる。空間ごと削り飛ばす“聖獣の牙”も、敵対者から強制的に魔力を奪う“献身”も、それ以外の騎士たちが保有する固有魔法も、どれも使い手の魔力依存であることに変わりはない。根本を抑えてしまえばただの案山子だ。派生技能“魔力操作(錬成)”により、予備動作なしで錬成だけは行えると隠してきた成果が表れていた。

 杭に次いで現れた光属性の鎖が騎士団を拘束し、遠くへと運んでいく。これで戦っている最中に邪魔になり殺さないといけなくなることも、ハジメと友奈の敗れた方が騎士団に殺されることも予防できた。

 

「やぁっ!」

 

 戦う準備が整ったのを確認した後、同時に戦闘態勢に移行した。

 先手を取ったのは友奈。だがハジメは戦う前に備えている。魔法の防護壁が展開され、殴られた衝撃を吸収、即座に吸収したエネルギーも上乗せして弾けた。

 

「“錬成”」

 

 ハジメは錬成限定で予備動作なしで発動できる。だが今回使う技術は難度の高さから詠唱して発動させた。

 

 重力魔法は正確には「星のエネルギーに干渉する魔法」だ。そのことに目を付けたハジメは、錬成と生成魔法で物質を変質させる際に余った『質量』を魔力に変換させる技術を考案していた。

 つまりやってることは『核融合』である。ただし発生したエネルギーを全て魔力に変換、魔法を通して出力するために、原子力発電や核爆弾などとは効率が段違いに高いのだ。

 

 これにより無尽蔵の魔力を得ることが出来たハジメ。

 障壁を再展開し友奈と距離を取ると共に、光属性の飽和砲撃を友奈を包み込むように放つ。こういう時に相手を傷つけず拘束、あるいは動けないほど弱体化させることのできる光属性魔法(と闇属性魔法)は便利だ。

 

「勇者、パァァアアアンチッ!!!!」

 

 それを殴って防ぎきる友奈。搦め手も物量も効かない一騎当千の“勇者”がそこにはいた。

 友奈もまた無尽蔵の動力源を有している。原理はハジメより単純で、重力魔法により星の生命力を直接運用しているのだ。これもハジメの核融合同様、今日まで隠し続けた友奈の切り札である。本来なら星に根を張る大樹ウーア・アルトの化身でもなければ出来ないことだが、友奈自身の重力魔法への適性の高さゆえに可能としていた。

 

 星を使い切らない限りエネルギー切れとは無縁の二人。初手の勇者パンチで勝負がつかなかった以上長期戦にもつれ込むが、刻一刻と一方的に形勢は傾いて行った。

 

「おおおおおおおおおおっ!」

 

「が、ぐぅッ………………!」

 

 体外で魔力を運用するハジメと、一度星の力を自分の体に移してから振るう友奈。条件ではハジメ有利にも関わらず、一方的に友奈が押す展開が続いていた。

 しかしそれも仕方のない事。ハジメはどこまで行っても「造る者」でしかなく、友奈は守るため「戦う者」だ。戦いと言う土俵で友奈にハジメが勝てる道理などどこにもない。

 あるいは一人で奈落に落ち、勝って生き残るために戦う経験があれば、生まれ持った生き汚さで勝ちをもぎ取ることが出来たかもしれない。だがこのハジメは一人ではなく友奈の友達で、助け合い役割分担しながら一緒に旅し戦ってきたのだ。当然そんな経験は積んでいなかった。

 

 そして戦いは続き、順当に友奈がハジメに王手をかける。

 巨大な籠手の拳をほどき、掌でハジメを抑えつけようとした。これでハジメが何かしようとしても、先に友奈が握りつぶして止められるようになる。そこまでいけばもう詰みだ。

 

「これで殺すッ!!

 

 ここぞと言う場面で、仕込まれた悪意が牙を剥く。

 元々友奈がハジメを殺せる場面になるか、友奈の洗脳を解除しようとした場合の備えとして仕掛けられていた機能だ。思考誘導などではなく、抵抗を続ければ解呪前に負荷で人格が壊れ戦闘兵器にできるよう調整された出力の洗脳である。

 

「ッ、ぁぁぁあああああああああああああああああっ!!!!!!」

 

 ハジメに致命の一撃を放ちかけた直前で、友奈が気合いと根性を振り絞る。洗脳と意志力で後者が一時的に上回り、取り押さえる寸前で体が硬直した。

 普通に戦っていては絶対に出来ることのなかった大きな隙だ。

 

「ありがとう高嶋さん。ここで頑張ってくれるって信じてた」

 

 それらも全てハジメの想定通り。洗脳を仕掛けて遊ぶならハジメも似たような措置を施すし、友奈ならそれに歯向かってチャンスを作ってくれる。友奈へ頼るポイントを決め、そこへ向けて戦いながら準備を進めていたのだ。

 義体に蓄えられた魔力が一斉に解放され、友奈は光属性魔法の奔流に飲み込まれていった。

 

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