「まさか瞬く間に解決してしまうとは……! 南雲殿! 感謝致しますぞ!」
ビィズの感極まったかのような声が響く。
アンカジ公国到着後、ハジメ達は領主への挨拶もそこそこで終わらせ、早々に問題解決のために動くこととなった。水不足が限界に近く、もう毒が入っていようが飲まなければ乾いて死ぬという段階が迫っていたのだ。
とは言えハジメに取って解決が難しい問題ではなかった。なにせ水も錬成できる物の一種でしかない。
水源に沈んでいた魔人族製のモンスターは周囲の水が突然気化したことで圧殺+気化熱で凍結されて排除され、飲み水も成分調整感覚で錬成すれば毒だけを抽出できた。動力には持ってきた魔石があったし、相転移や濃度の調整などだけで済んだので魔法的な効果を付与するよりずっと楽だったというのがハジメの談だ。
これがアンカジ公国のお抱え錬成士レベルでは無理だったのは、それ用に訓練していないから出来ないだけだろう。武器防具や設備などの細やかな錬成だけでなく、大きな物の大雑把な錬成に慣れていればこの程度は出来るようになっていたはずだ。これだけ伝えれば後は自力で対策を取れるようになるとハジメは見ていた。
「じゃあ次、治療の話を進めましょうか。静因石ってのを液化して飲ませればいいんでしたっけ?」
現在、先に治療院に向かった香織(と護衛の雫)が暴走した魔力を抜いて応急処置しているが、体の負担は減らせても魔力の暴走自体は止められない。そのため魔力を鎮める静因石はどうしても必要になるそうだ。これがなければ毒が抜けるまで素の生命力で生き延びることを祈るしかない。
「ああ、そうだ。それを高嶋殿たちに取ってきてもらいたい。今採取に行っているティオ殿が戻ってからなら案内してもらえるから、手早く採取できるだろう」
人手が増えれば取って来れる静因石の量も増える。異空間に道具を収納しておけるアーティファクトなんてあるはずもないし、車を動かすのに必要(だとビィズは思っている)香織は治療院でかかり切りだ。ゆえに危険は伴うが残りのメンバーで何度か採取に行ってほしいと言うのがビィズの、ひいてはアンカジ公国の要望だった。
ただその流れはハジメたちに取っては美味しくない。なので利の多い方向へと誘導することにした。
「まぁそっちでもいけますけど、まず作ってみましょう。高嶋さんたちも帰ってきたみたいですし」
「は?」
「南雲くーん! 土取ってきたよ!」
「言われた通り別の場所で取ってきたですぅ!」
水問題解決では役に立てない友奈とシア、彼女らは次の問題解決のために別行動をしてもらっていた。
具体的には【グリューエン大砂漠】の砂の採取。どれほど暴風が吹き続けようと一定範囲から飛散する事は無い特別な砂だ。【グリューエン大火山】でしか採れない静因石と同じく、この土地の影響をもろに受けている。錬成素材としては結界内部の土よりは適しているはずだ。
実際に適していたようで、天然の静因石を複製する形で錬成したところ、ハジメには作ることが出来た。錬成を行う魔力さえ確保してしまえば―――魔石を集めたり魔力が回復するまで時間を掛ければ必要数を確保することだってできるだろう。
「いやいやまさかこんなことが出来るとは! さすが南雲殿と言うべきか!?」
「南雲くんはすごいんです。言った通りだったでしょう?」
「そうだな高嶋殿。いや、今の今まで信じられなくてすまなかった」
故郷が救われると確信できる展開にビィズのテンションはうなぎ登りだ。
だがこのまま静因石を作り続けると言うのもハジメは歓迎できない。大迷宮に隠れて挑む口実が欲しいのだ。
だからここから作業効率を上げてアンカジの民を救えるペースを改善するという名目で、大迷宮に向かえるように誇張も交えて説得する。
「ここで錬成しても効率はあんまり良くないですね。作れることは作れるけど時間がかかります」
「む、そうなのか。確かに出来るだけ早く民に行き渡るようにしてやりたいが、南雲殿に万が一が起こるのが一番まずい。時間がかかってもここで錬成を続けるのではダメなのか?」
「ダメではないですけど、多少の危険ならどうにか出来るので早めた方がいいかと思うんです。もちろん民間人の治療中な白崎さんと八重樫さんを連れていくなんてことはしませんけど、それでも問題ないと判断しています。
大火山では静因石は自然に出来ているんでしょう? なら現地の石を素材に使い、現地の環境で錬成すれば作り易くなります。一度に持ち帰れる量に限りがあっても、ここで錬成するより効率がいいでしょう」
人の目がないところでなら自重をやめて錬成できる。一度に必要量全部錬成しておいて自動で小出しにしながら、シアとティオという冒険者に何往復かして運んでもらえば、街に残って手札を伏せたまま錬成を続けるより効率を良くできるのは確実だ。
そしてその間に、ハジメと友奈は大迷宮に挑むことも出来る。ここで挑めないと言い訳を作るのが面倒だし、ここに挑めないと次に進めないためどうしても挑んでおきたかった。
またこの方法なら「工房を作って籠って錬成し、成果物だけは出来た傍から放り出している」とすれば一応言い訳にもなるので神とやらに目を付けられずに済む。ビィズを始めとするアンカジ公国の者には多少怪しまれても確証は持たれないから、ここは押し切るべき場面だった。
「うーん、だがなぁ……。凄腕とはいえ南雲殿は錬成士だ。荒事は専門ではないし、万が一が起きれば損失は計り知れん。危険を冒させるわけには……」
「大火山にいる時はこの“勇者”高嶋友奈が守るから大丈夫です! 安心してください」
「……ははは、それもそうだな! 確かに高嶋殿がいるなら私の心配は杞憂だろう。では改めて頼ませてくれ、我らの民を一刻も早く救ってほしい」
「はい、任せてください!」
ハジメがどうにか押し切る前に、友奈の言葉で説得されたビィズ。その表情には不安はなく、むしろ安心感すら浮かんでいた。
ハジメが自分の都合を通すために動いたのではこうは出来ない。いくら言ったままの事を実行できようと、実績で殴れなければそれを信じてもらうことが出来ないから、相手を安心させることも出来ないのだ。
でも友奈は違う。ハジメが言うなら本当に出来るのだと信じて行動でき、それを補強して他人も信じられるようにに伝えられる雰囲気がある。それは友奈が曇りない善意で行動し、強い心で常に頼れる“勇者”を遂行しているから出来るようになったことだ。
ハジメは友奈のこういうところが凄いしカッコいいなと思い、友奈はそこまでの道筋を築けるハジメのことが本当に心強いなと思っていた。
「じゃあティオさんって冒険者が戻って、また出られるようになった時に僕らも行けるように準備しようか」
「それなら明日には戻ってくるはずだ。だから次に出るのは明後日の晩くらいになると思う。休みなしで挑めるような場所ではないが、余裕もないので無茶をしてもらってこのペースだ。怪我などしていれば後ろにずらすことになるな」
「わかりました。じゃあ休んだ後にでも挨拶しに行こうと思うので、言っておいてもらえますか?」
「ああ、伝えておこう。“勇者”である高嶋殿から声をかけるなら彼女も喜んでくれるだろう」