「快適な旅じゃったの~。錬成師ってこんなんじゃっけ?」
「ハジメさんが変なだけですぅ。一緒にしてると普通の人たちが泣きますよぉ?」
ビィズ推薦の冒険者、ティオの先導の元、ハジメ達はグリューエン大火山の麓まで辿り着いていた。
道中の砂塵や魔物、高熱にと厄介な障害はあったが、ハジメ製の魔法具とシアの超魔力量で解決した。どころか“錬成”で一時的に砂地を舗装路に変えたことで歩くのも楽になった。魔法具を担いだシア、ハジメを背負った友奈は最悪なくても問題なく駆け抜けただろうが、現地人のティオはこうしないと進むのに時間がかかるだろうと考えて少し多めに手札を晒した結果だ。
しかしティオは思ったより優秀で、ここまでの介護は必要なかったかもしれない。ハジメが大迷宮に籠った後はシアとティオに往復してもらうことになるので、片方が足を引っ張らないと言うのは嬉しい誤算だった。
「しかしここからが本番じゃ。見ればわかるが壁みたいじゃろ?」
「そうだね。これだと魔力足りるかな?」
「いけると思いますよぉ。ティオさん一人でも進めた程度ですし、往復分でも余裕をもって」
「一人で進むのと複数人で進むのは勝手が違うんじゃが……シアなら本当に持ちそうじゃの」
【グリューエン大火山】は七大迷宮の一つとして周知されているが、【オルクス大迷宮】のように冒険者が頻繁に訪れるということはない。それは来ても魔石などの成果物がほぼ得られないというも大きいが、一番の理由は入り口に辿り着くことすら困難だからだ。
道中でさえ砂塵が吹き続ける過酷な道のりだったというのに、【グリューエン大火山】をすっぽりと覆うように特濃の砂嵐が渦巻いている。もはや竜巻というより流動する壁である。
そして一人で進むなら自分だけ風属性魔法などで守ればいいが、複数人で進むとなると大きく安全域を確保する必要がある。なぜなら魔物に襲撃された時、砂嵐を弾いた空間からはぐれてしまえばアンカジ公国まで戻りでもしなければ合流できないからだ。大人数なほど辿り着くために多くの魔力が必要となるのが【グリューエン大火山】という環境だった。
「どう南雲くん? いけそう?」
「んー、いけるだろうけど、これだと地中を進んだ方が楽かな。歩けるくらいしか砂が動いてないし、トンネルを掘れそうだ。魔物が出る度に戦うスペース確保したとしてもそっちの方が効率はいいと思う」
そんな障害もハジメにかかれば丸裸だ。“鉱物系探査”で砂を探れば、濃度の変化から流れを理解できる。おそらく装甲車のような物でも用意して足元だけ錬成で固めて進めば、魔物に対処出来れば真っ直ぐ進むだけで突破できるだろう。なら砂の動きが少ない地中にトンネルを作って進んだ方が楽だ。
幸いシアの超魔力量で魔石は温存出来ているので、隠した技術を使わなくても足りるくらいの魔石は温存出来ていた。
「なら頼らせてもらいたい。帰りは普通に歩くことになるんじゃから、楽できるところは楽したいしの」
「ええ、任せてください」
ティオの頼みも受け、ハジメがトンネルの製作を行う。人目がなければ砂漠の熱気を魔力に変えてトンネルを掘るところだが、今はティオがいるので魔石を使用していた。
そんなハジメを、誰にも怪しまれず、しかし念を入れてティオは観察する。
「(やはり底が見えんの。手札を伏せているのは挙動から察せられるが、内容までは無理じゃな。まぁ妾は本職でもないし仕方ないか。
それより手札を伏せてもこの技術力。味方なら頼もしく、敵なら厄介じゃな。はてさて、どうすべきか)」
ティオはただの腕の立つ冒険者として活動しているが、その正体は既に滅んだとされる竜人族―――高潔で清廉で強大、しかし面白みがなく神に潰された種族―――その生き残りの中でも姫と呼ばれる高貴な存在である。
そんなティオが隠れ里を離れ、人間族の領地を旅していたのには勿論理由がある。
簡潔に言うと友奈たち
友奈PTは移動し続けており捕まえづらく、オルクス大迷宮に挑んでいる方は接点が作りづらい。その為に冒険者として地位を築き、実を結んだのが今回の出会いだった。
「(勇者の方は善良なのは間違いない。ついて来とるシアもあり得ん位強いが、亜人族として善良じゃ。しかし錬成師の方は言い切りづらい。勇者が拒んどらんから悪性ではないじゃろうし、善寄りの凡俗と言ったところかの?)」
竜人族は長命で、若く見えるティオもこれで500歳越え。しかもその年月を人間と同じような時間間隔で自身を磨き続けている貴種だ。人を見る目も、相手の目を欺く技術も、ハジメ達若輩とは比べ物にならない。
当然のごとくハジメたちの性質はほぼ見通された。
友奈は窮地にあっても折れず誰かのために戦え、シアも戦士として意志を貫き、ハジメは状況が変われば流されて変わるだろう。
「(ゆえにこそ錬成師は期待できそうじゃの。勇者も単体では負け続けじゃが、ストッパーとしては最適。素直に素性喋って協力願えんかの~)」
強く善良なだけでは神に勝てないのは竜人族の敗北によって証明済み。神による被害を防ぐにしろ、逆に神を倒しに行くにしろ、良く言えば柔軟なハジメが重要で、このチームは理想的な構成だと言えるだろう。
オルクス大迷宮挑戦組の情報は得られていない状況ではあるが、もうこちらに全賭けしたいくらいだった。
「(まぁ今は聞き分けよく深入りは避けておくかの。聞かれたくないことありそうじゃし、繋がりを作れば十分じゃな)
ここを通っていけばいいのか? 本当に助かるの~」
「ティオさん、スゴイ人だったね。アンカジの人たちが言ってた通りだったよ」
「そうだね。こんな面倒な仕事よくやれてると思うよ。状況的にやらないのも逃げるのもきついって言ったってさ」
【グリューエン大迷宮】に辿り着き、運搬組とは別行動をとるハジメと友奈。
必要量の静因石と、それを外部に少しずつ出す仕掛けと収納箱を設置し、大迷宮攻略を始めていた。そこで話す内容はつい先ほどまでいた現地人、ティオのことだ。
トータスの現地人は基本的に転移者に比べてスペックが低い。だがティオには(彼女が見せた範囲だけで)抑えたシア並みの実力があった。それだけで驚異的なのだが、二人が話すのは精神面でのことだ。
大迷宮とアンカジ公国の往復は過酷だ。ただ往復するだけでも命懸けで精神を削り、魔物も他より強く気が抜けない。余裕をもって往復できる実力者だろうと、ティオと同じペースで静因石を運び続けていればあっという間に疲弊するだろう。少なくともハジメには無理だし、友奈でも続けられはするが疲弊を隠せなくなる。
だがティオはそんな素振りも見せない。自然な明るさを曇らせることもなく、縁もゆかりもないアンカジ公国の人々を助け続けている。浮世離れどころではない、超常的な精神性だと言えた。
「ああいう人とは繋がりを作っておきたいな。悪さするんじゃなきゃ大抵力になってくれそうだ」
「そうだね。何かあっても助けられるし、助けてもらえる! こういうのっていいよね」
ハジメはこういう時に他人を巻き込むことを躊躇しないが、友奈は基本的に自分が頑張るタイプだ。だからこういう風に他人を巻き込む際には意見が分かれ話し合いになるのだが、自然と友奈はティオを自身と同じく「他人のためになることを勇んで行える者」として一方的に守り助ける対象ではないと見做していた。
ケツの穴に杭を打ち込まれ、理想のご主人様を見つけてしまい、被虐性癖に覚醒した時だろうと(途中グダグダになるが)結果は変わらないだろう。これがティオ・クラルスという貴種の在り方ゆえの結果だった。
「それにしてもこの大迷宮、熱い以外何もないんだね。魔物も一体も出ないし。何か仕掛けられてないかな?」
「―――確かに最初に挑める大迷宮の一つにしても余裕だ。警戒網を厚くしておくよ」
二人は改めて警戒を強めたが【グリューエン大迷宮】は楽な環境では決してない。
【グリューエン大迷宮】のコンセプトは『過酷な状況下における集中力の阻害と奇襲への対応を磨くこと』である。魔物肉を食って限界突破した超人でも汗だくになるほどに気温が高く、かつマグマが流れ足場が限定された通路。空中にもマグマが川のように流れ、兆候もなく弾けてマグマが噴出する。トータス現地人では最高位の冒険者でも歩いているだけで命懸けだ。
だが重力魔法を習得したハジメにとっては何の障害にもならない。気温が高ければ適温になるまで熱を魔力に変換すれば補給も出来て一石二鳥だし、マグマだって同じように熱を奪って石に変えれば全く脅威ではない。気付かないうちにマグマに潜んだ魔物を冷やし固めて倒してしまっているため、文字通り無人の野を行くがごとく素通り出来てしまっているのだった。
「「…………………………」」
二人は警戒したまま進み続ける。
しかし大迷宮メタと言うべき対策を取っている以上、苦戦することは出来なかった。最終関門を含めて全ての障害を無効化しながら進み、結局何もないまま二人は【グリューエン大迷宮】を攻略するのだった。
どうにか盛り上げようと考えました。
でもハジメの技術がグリューエン大迷宮メタ過ぎて無理でした。熱いだけとかハジメにとってはエネルギー潤沢に用意してくれてるだけなので。