ありふれた職業でも桜の勇者と共に   作:ぬがー

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ベヒモス

 通路側の小さく多い魔法陣から剣を携えた骸骨“トラウムソルジャー”があふれ出す。

 本来三十八階層に現れる魔物で、素のスペックもさることながら、集団戦闘を行う性質も持っている。連携もしなかった二十階層より上の魔物とは一線を画す戦闘能力を持った脅威だ。

 それがわらわらと湧き出し、あっという間に100を超え、そしてまだまだ増え続ける。

 

 だというのに眼前の骸骨の軍勢よりも、背後の一体の方が遥かに脅威だとハジメは感じていた。

 

 通路側の魔物は、地球の生物だとトリケラトプスが近いだろうか。ただし角からは炎を放ち、鋭い爪と牙を有しており肉食恐竜のような攻撃性を感じさせる容貌だ。

 そのベヒモスとメルド団長が呼んだ魔物は、大きく息を吸い凄まじい咆哮を上げた。

 

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

 

 ただの威嚇か、ロックマウントのようなスタン効果はなかった。それでも恐慌状態に陥りかねない咆哮だが、逆に正気に戻ったメルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

 

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

 

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら六十五階層にいるはずの化け物、今のお前達では無理だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

 メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる光輝。

 どうにか撤退させるため再度メルドが光輝を説得しようとするが、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは撤退中の生徒達を全員轢き殺してしまうだろう。

 それだけは防ぐため、ハイリヒ王国最大戦力が全力で多重障壁を展開する。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」」」

 

 事前に準備した最高の触媒で補強された最高位の防御魔法の同時発動。嵩張る触媒一つにつき一度きり、一分だけの防御ではあるが、間違いなく王国最高の守りがここに顕現した。

 

 だというのにまるで心許ない。ベヒモスの突進は防いだものの、凄まじい衝撃が発生し、ベヒモスの足元は砕け橋全体も大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。

 

 だがしかし、絶望的な状況でこそ希望が輝くものでもあるのだ。

 

「大、丈夫ッ!」

 

 友奈の飛び蹴りがトラウムソルジャーを数体まとめて派手に蹴散らす。

 後ろではハジメが錬成を発動し、同様に足場を変形させまとめて動きを封じて見せた。後続のトラウムソルジャーは動けなくなった同族の上を通ってきているが、それでも機動力を大幅に削ぐことはできていた。

 

「こいつらそんなに強くない! みんななら負けっこないよ!」

 

 “勇者”高嶋友奈が皆を鼓舞する。

 友奈に引かれてクラスメイトが攻撃してみれば、確かに倒せる。今まで相手にしていた魔物に比べればはるかに強いが、チートスペックな彼らなら訓練通りにやれば倒せる範囲だ。

 クラス一丸となってトラウムソルジャーを押し返す。次から次へと敵の増援が召喚されているが、数の差をを質で埋め、拮抗状態に持ち込めていた。

 

「(……失敗したかも。高嶋さんじゃこいつらを突破できない)」

 

 友奈の光に惹かれて奮起したクラスメイトはともかく、ハジメと友奈は現状のマズさを理解していた。

 友奈の装備は「洞窟で」「少数の敵と」戦うという今回の訓練内容に合わせた装備だ。ゆえに崩落を起こさないよう、火力は高くても攻撃範囲は狭くなるよう改造が施されている。

 それせいでトラウムソルジャーを倒すには過剰火力かつ手間がかかりすぎ、退路を塞ぐ軍勢を突破することは出来そうになかったのだ。

 

「高嶋さん!」

 

 時間をかければかけただけ不利になると判断し、身振り手振りで友奈に合図を出す。友奈はそれを完璧に理解し、行動した。

 

「みんなっ! これから天之河くんと交代してくる! 天之河くんの攻撃なら突破できるから、あとちょっとだけ頑張って!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベヒモスは今だ障壁へと突進を繰り返していた。

 障壁はひび割れ、メルド団長も障壁の展開に加わっているが、突破されるのは時間の問題だった。

 

「ええい、くそ! もうもたんぞ! 光輝、早く撤退しろ! お前達も早く行け!」

 

「嫌です! メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」

 

「くっ、こんな時にわがままを……」

 

 メルド団長は苦虫を噛み潰したような表情になる。

 橋の上という限定された空間では巨獣の突進を回避するのは困難だ。だから逃げ切るなら障壁で突進を受け、押し出されるように逃げることが必要になる。その微妙なさじ加減は戦闘のベテランだから出来ることであって、今の光輝達を庇いながらでは難しい注文だ。

 その辺の事情を掻い摘んで説明し撤退を促しているのだが、光輝は「置いていく」ということがどうしても納得できないらしい。また、自分ならベヒモスをどうにかできると思っているのか目の輝きが明らかに攻撃色を放っている。

 まだ若いから仕方ないとは言え、少し自分の力を過信してしまっているようである。力は強くとも戦闘は素人の光輝達に自信を持たせようと、まずは褒めて伸ばす方針が裏目に出たようだ。

 

「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

 

 雫は状況がわかっているようで光輝を諌めようと腕を掴む。

 

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」

 

「龍太郎……ありがとな」

 

 一瞬迷うも、龍太郎の言葉に更にやる気を見せる光輝。それに雫はふざけるなと怒鳴りつける。

 

「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿ども!」

 

「雫ちゃん……」

 

 苛立つ雫に心配そうな香織。状況は理解できていないが、雫の様子から撤退した方がいいのはわかった。だが彼女も光輝寄りのメンタルをしているため、それを行動に移せないでいた。

 

 そこへ友奈が駆けつけてきた。

 

「四人とも! 向こうの撤退準備終わったよ! あとは天之河くんがいればあっちは大丈夫!  こっちは私たちが残るから移動して!」

 

「! ほら、聞こえたでしょ光輝! あっちに行った方が皆助かるのよ! だからさっさと撤退するわよ!!」

 

 友奈の声に真っ先に雫が反応する。ようやく光輝が納得できそうな撤退する理由が出来たのだ。ここぞとばかりに押していく。

 だが光輝はまだ躊躇ったまま撤退しようとしない。

 

「友奈はどうするんだ!? 君を置いていくわけにはいかない!」

 

「私は一番逃げ足早いから大丈夫! それより早くみんなを助けてあげて。ガイコツを突破できるのは天之河くんだけなの。だから、お願い!」

 

 ここで単体との戦闘なら友奈の方が光輝より強いと言うとか、何かをしろと指示を出せば光輝は渋る。だが納得できる理由を付けた上で、美少女のお願いなら別だ。友奈は天然に見えて人をよく見ているため、誘導もやろうと思えばできるのだ。

 

 言いくるめられた光輝と龍太郎に、逆に残ると言い始めた香織を担いだ雫が撤退する。

 すぐ後に、メルド団長を説得していたハジメが駆け寄ってきた。

 

「無茶な指示しちゃってごめん」

 

「大丈夫! 私じゃすっごく頑張るくらいしか思いつかなかったしね! 何をすればいいの?」

 

 全員で生き残るためとはいえ、友達に無茶ぶりしたことを悔いるハジメ。まるで気にしてなどいない友奈はその方法を尋ねた。

 

「じゃあ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇者、パーーンチ!!」

 

 障壁の展開も限界を迎えた騎士たちの撤退を援護するため、まず友奈がベヒモスに殴りかかる。

 体表の硬いベヒモスでも友奈の一撃であれば煩わしいと思うくらいはするようで、意識がそちらに向いた。無視されればさらに殴らないといけなかったが、意識を引けたなら友奈は距離を取って視線を誘導する。

 ベヒモスが体の向きを変え、そちらに突進しようと重心を移そうとした時、ずぶりと足が一本沈み込んだ。

 

「ッ!!?? グルアアァァァァッ!」

 

 困惑しつつも本能的に仕掛けてきた相手を探すベヒモス。ハジメが沈んだ足側に隠れたのは察知したのか、強引に床を砕いて足を引き抜き飛び掛かろうとする。

 

「“錬成”!」

 

「グルォッ!!!!!?????」

 

 だがもう片方の足も沈んだ。そちらに目を向けると、友奈が何か道具を地面に押し当てている。

 “錬成範囲拡大”を補助するハジメ製のアイテムだ。ベヒモスの上半身を挟むように配置することで全体を錬成の射程に収め、生き埋めにしてよくて撃破。悪くても足止めを狙う作戦だ。

 ベヒモスも凄まじいパワーで床を砕き脱出しようとするも、再度錬成してさらに埋めていく。あまりの大きさゆえに一気にとはいかないが、あと少しで脱出に手間取る程度には埋められるだろう。

 一発でも当たればそのまま死ぬのに決行したハジメと、少しでも尻込みすれば気を引けなかっただろうが見事に囮作戦を成功させた友奈の勝利だ。

 




この作戦の原作との違い

・ハジメが体の動かし方を鍛えられていないため、ベヒモスに接近するのが難しい。
 →友奈が注意を引き付けている間に接近。

・原作ではベヒモスの頭に近づいたが、燃えてる上に振り回すので危険。
 →友奈とはさんで錬成範囲に含み、近づかずにベヒモスを拘束。火傷ダメージ無し。危険性低下。
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