通路の高さが高いところで8メートルだから、階層一つにつき天井込みで10メートルくらいとすると、これからハジメたちは500メートルくらい落ちていく。
暗闇の中を落ちていく。
勇者の力も錬成師の力も、こうなると完全に無意味だ。足場はなく、錬成するものもない。ただ重力に引かれ、何かに激突するその時を待つしかない。
だからこれは不幸中の幸いと言えるだろう。
「ッ!?」
横から鉄砲水のごとく噴き出してきた水に押し流される。落下したものへの救済措置のつもりなのか、そんな噴水がいくつもあり、ハジメたちはまとめて横穴へ流し込まれた。
「ッ!!!!????」
だが助かったわけではない。横穴に放り込まれた衝撃が全身を打ち、激流に翻弄され壁面へ激突することもある。
肉体的に強くないハジメが意識を保っていられたのは、友奈が庇い続けてくれているからだ。
「(高嶋さんは、友達、なんだ! 守られてばかりで、いられるもんか! 僕も、高嶋さんを、守るんだ!!)」
ハジメには友達というのがなんなのか、実感としては理解できていなかった。今まで出来たことがないからだ。
だが友奈はハジメの友達になってくれた。話をしてるだけで楽しかったし、喜んでもらえるととても嬉しかった。そして今、命を懸けて助けてくれている。たぶんこういうのが友達なのだろう。
ならハジメが友奈の友達を名乗るならば、助けられてばかりでいるわけにはいかない。
決意を固め、再び限界を超えた錬成を発動する。
まず友奈に触れ、口腔や肺の空気を錬成。口を開いてしまっても漏れないように変形させ続け、二酸化炭素を酸素に変えて酸欠を防ぐ。余裕があれば自分のもやるが、友奈が庇ってくれるおかげで空気を吐き出すことは少ないので後回し。友奈の呼吸を維持する方を優先した。
次に水を錬成。魔力を通すことで粘りと弾力を持たせジェル状に変える。これで衝突の衝撃を削ぎ、摩擦で減速する。魔力を込めて変質させているだけなので、変質してない水と混ざってどんどん削られるが、また錬成して纏えばいい。
時折滝から投げ出されたときは、空気ごと滝壺を錬成対象と認識。“錬成範囲拡大”によって空気とジェルに錬成してクッションに。魔力は多く消費するが、そのまま叩きつけられるよりはずっとマシなはずだ。
「(止まるまで続ける! 絶対、諦めるもんかっ!!)」
「ガハッ! ゲホッ、ゲホッ!」
ハジメが息を吐き、むせ返る。
状況が理解できずにいると誰かに抱き着かれた。
「た、高嶋さん? 何この状況?」
息が落ち着いてから尋ねるが、友奈は「良かった。良かった」と呟き泣いてばかりで応えてくれない。ハジメは説明してもらうのは無理そうだと、状況理解を放棄した。
全身に重くのしかかる疲れとだるさもあって、一先ず暖かく心地よい体温を感じながら眠ることにしたのだった。
「水路から出られた時、南雲くんは息もしてなくて、心臓も動いてなかったんだよ! なんであんな無茶したの!!」
話を聞くと、どうにか行き止まりまで流されたのは良いものの、ハジメは無茶のし過ぎで死んでいたらしい。友奈の蘇生処置が上手くいったので目を覚ますことが出来、感極まって泣いてしまったという流れだそうだ。
見たことのない怒りの表情を浮かべる友奈に対し、ハジメは友奈を守れたこと、そして自分を心配して怒ってくれたことが嬉しくてつい笑ってしまった。
「なんで笑ってるの!」
「ごめん、つい。
初回だから使い過ぎたけど、次は加減して使うよ。もう同じ失敗はしないよう気を付ける」
ステータスプレートを見てないので正確に把握はしていないが、体感で理解はしているハジメ。
今回仮死状態になったのは“錬成”の派生技能“限界突破(錬成)”の反動だ。本家の“限界突破”と違って“錬成”を発動するときしか効果がないが、派生技能で段階を踏んで強化するわけではないので気合いと根性次第でどこまでも無茶が出来てしまうのが特徴である。ハジメの言う通り、練習すれば同じ失敗は避けられるだろう。同じ状況になれば、同じように無茶することはやめないだろうが。
言った言葉自体にウソはないので、友奈もハジメは反省したと見做し怒りを収めた。
「……本当?」
「本当だって。というか、高嶋さんにだけは無茶し過ぎって言われたくないな。先に無茶したの高嶋さんじゃないか」
友奈の怒りが収まって、逆にハジメに怒りが浮かんでくる。ハジメが無茶しなければ、無茶して助けに来た友奈の方が死んでいた可能性は十分あったのだ。人間、当たりどころが悪ければ頭を一回打っただけで死ぬのだから。
なんであんなことしたんだ。もっと自分を大切にしろ。そんなブーメランを自分のことは棚に上げて勢いよく投げつける。
そうなればもう言い合いだ。どちらも自分は気合いと根性でどうにかするつもりだったと言い張って、一歩も譲ることはない。疲れた体を怒気で動かし、限界まで言い争いを続けた。
「ああもう、私こんなに言い合いとかしたの初めてだよ。疲れちゃった」
「僕も。というかここどこだろう?」
「わからないよ。まだ岸に上がったばかりだし。だからこれから探らないと!」
グッと体に力を入れる友奈。ハジメも釣られて力を入れ、疲れた体に鞭打ち立ち上がった。
「じゃあそろそろ探索しようか。いつまでも火に当たっていられないし、飢える前に地上に戻ろう」
「そうだね。結構落ちてきたと思うけど、二人ならきっと大丈夫!」
二人は慎重に慎重を重ねて迷宮を進む。
二人にトラップを感知するような技能はない。だから意識を研ぎ澄まし、警戒しながら慎重に進むという手段以外採れないのだ。
だが一向にトラップが発動しない。魔物だって現れない。さすがにおかしいと思いながらも、結局何も起こらないまま突き当りまで辿り着いてしまった。
「何も起きなかったね」
「そうだね。ただココには何かありそうだよ」
派生技能“鉱物系探査”により、床の下に別種の石の塊があるのをハジメは感知していた。
近づくと想像通り石の塊がせり上がり、そこにはこう刻まれていた。
“六つの証を有する者に新たな試練の道は開かれるだろう”
「……どういう意味かな?」
「―――あーなんかわかってきたかも」
「本当!?」
ハジメはゲーム会社社長の息子で、ゲーム製作にも携わってきた。つまり仮想とはいえ試練を作る側だったことがあるのだ。
その経験からこの大迷宮の意図を推測する。
「ここまでの迷宮はチュートリアルとかで、ここから先の迷宮が本番なんだよ。それも七大迷宮の最後に挑む高難度ダンジョン。
たぶん稼ぎのいい迷宮で冒険者を釣って、他の迷宮にもこの先を餌に挑ませるつもりなんじゃない? 誰も辿り着けてないみたいだけど」
その場合、迷宮製作者には迷宮に挑ませたい理由があることになるが、そもそも理由もなく作るわけがないので省略する。
また難度調整をミスしている気もするが、もしかするとコレで適切なのかもしれない。それだけの実力が求められる目的があるなら納得できるからだ。
「でも、なんで? なんでそんなことしてるんだろ?」
「そこまではわからないけど、王道なのだと怨敵を倒せる人材育成とかかな? それも自発的に動くタイプじゃなくて、普段は引きこもって暗躍してる奴の打倒が目的。大迷宮は【反逆者】が創ったって話だし、エヒトってのが実は人を弄ぶ悪い神で、いつかその支配から脱却するために創ったとかなら違和感なさそうだね」
ゲームの考察を語るようで少しテンションが上がるハジメ。だが状況を思い出してすぐに切り上げた。
「まぁここで得られる情報はもうなさそうだし、脱出方法探そうよ。ゲームとかだとこういう場所には帰還のための魔法陣設置してたりするし、もしかしたらあるかも」
あった。
奈落への旅路
ただし途中で引き返す。