可愛いキリン娘と思ったら違ってた   作:横電池

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可愛いキリン娘と思ったら違ってた

 

 

 

 愛が欲しい。

 

 こう、甘酸っぱいような、青春を感じさせる愛が欲しい。

 

 もしくは爛れた大人の関係をにおわす愛を欲しい。

 

 まぁとりあえず恋愛がしたい。

 

 それと、巨乳が憎い。

 

 だけど憎しみと同じぐらいに、巨乳が羨ましい。

 

 そんな風に思ったのはいつからだったか。

 

 数年前はそんなこと思わなかったのは確かだ。むしろ巨乳を見るたびに「重たそうだな」と、同情に近い眼差しを向けていた。

 だが今はどうだ。巨乳を見るたびに「もいだろか」と、敵意を向けてしまっている。もちろん実行に移したことはないが。

 

「ジョンのやつ、引退したんだってよ」

「お前、その情報古すぎだろ。1年前には引退してたじゃねぇか」

「マジか。なんで引退したんだ?」

「結婚して家庭を持ったんだよ。いいよなー、巨乳の美人さんと結婚だってよ」

 

 酒が不味くなる話が聞こえた。

 ダメだダメだ。人の話を盗み聞きするのはよくない。よく知った幼馴染の名前が出た気がするが、あんな名前、とてもよくある名前だ。

 

「あれ? ジョンの恋人って貧乳じゃなかったか? 絶壁のよ」

「恋人じゃなかったらしいぜ。あの絶壁」

 

 よし、ぶっころそう。

 知らない人について話しているだけかもしれないが、不幸な条件一致により事故は起きるのだ。常日頃、全身をグラビドXシリーズで包んだ私の筋力がジャーマンスープレックスによる悲しい事故だ。

 

 席を立ち、背後の輩どもへと突撃しようと振り向いた時、

 

「でもあの絶壁、結構タイプだったんだよなぁ。アタックしときゃよかった」

 

 だいしゅき。

 

 許す。今からアタックに来るがいい。

 私は私を好きになってくれる人が大好きだ。だから先の絶壁発言は許す。

 

 どうしよう、今から告白されるのでは? 防具汚れてないかな。昨日は沼地で狩猟してきたし、沼臭くないかな? あー、緊張してきた。

 

「あ、あの子かわいい」

「うん? あー、確かにかわいいな。キリン装備とかいいよな……」

「いい……。しかも美乳だな」

「ちょっと声掛けてくるわ」

「あ、俺も行く」

 

 ぶっころ。

 突然の浮気とか許しがたい所業。いや、まだお付き合いしてなかったけど。お付き合いまで秒読みではなかったのか。

 黒き神でも白き神でもなんでもいいから神様、駆け足で件のキリン装備の元へ行く男連中に罰を、NTRする巨乳に裁きを。

 

 例のキリン娘を見れば、なんともまあ弱々しい印象を受ける姿だ。

 キリン装備ということを考えれば、幻獣狩猟経験があるのだから見た目通りの強さではないのだろうけど、それを踏まえてもなんというか、小動物チックだ。

 男どもに囲まれ、震えながらうつむいている姿は庇護欲をそそられるのだろう。だが私は騙されない。絶対ブリッコだあんなの。そもそもハンターだぞ? どんな見た目だろうとゴリラに決まってるじゃねぇか。

 

 心中でやさぐれていたが、ふと冷静に考える。

 あのキリン娘の乳のサイズは私より大きいが小ぶり。そしてハンターなのだから、ゴリラなのは間違いないだろう。だが、ゴリラであることを隠せば小ぶりの乳でもああもモテるのだ。

 

 私に足りなかったのはゴリ要素を隠すことではないか? 隠しきれば、幼馴染が巨乳に奪われることもなかったのではないか?

 

 あのキリン娘、見れば見るほどゴリラ要素を感じさせない。

 今もなお震えながら、目じりに涙をためている。ていうか周囲のやつらは気づかないのか。明らかに迷惑がってるじゃないか。

 

 仕方がない。

 キリン娘の猫かぶり技術を盗むためにも、私が助け船を出してやろう。

 

「ほら、散った散った! 通行の邪魔なんだよ!」

「うおお!? 急に押すなよ!」

「はい、それじゃあ今から走るねー! どけー! グラビド防具の硬さを体感しろー!」

「何考えてんだコイツ!」

 

 宣言しながらクラウチングスタートの構えを取れば、道を空けるように集団が2つに別れた。

 奥にいたキリン娘は目をパチクリさせている。向こうから見れば、突然人だかりが割けて、その先にはクラウチングスタートを切るグラビド姿だ。

 

「よーい、ドン!」

「え? ひぇぇぇ!?」

 

 優しい私はスタートの合図まで出したというのに、キリン娘は戸惑うばかりで逃げようともしない。仕方ないから突進だ。まったく、判断が遅い。

 私の姿を見て逃げる判断をしなかったキリン娘が悪い。私は悪くない。

 

 困惑するキリンを肩に担ぎながらUターン。そして再び走りだす。

 

「ゆ、誘拐だ! 人攫いだ!」

「追え! 追えー!」

 

「はっはー! 追いつけるわけねー! 日ごろランスの突進で鍛えた脚力舐めんなー!」

「な、何が起きてるのぉぉぉ!?」

 

 

 

 

「この辺りなら大丈夫かな」

「ひっ……」

 

 突進運搬によって男どもを撒いた後、人気のない場所でキリン娘を降ろすと小さな悲鳴。こいつ、私のことを犯罪者か何かを見るような目で見てくる……

 

「そんなに怯えない怯えない。ただ困ってそうだったから助け出しただけだっての」

「そ、そう……なんですか……? ありがとう、ございます。いっぱい囲まれて、こわくて……」

「……」

 

 これ本当にゴリラ(ハンター)か?

 ここまで完璧な猫かぶりされると実は違うんじゃないかと思えてくる。ひょっとして一般人のキリン装備のコスプレか?

 

「あの……?」

「ああ、なんでもない。次からは気をつけるんだね。ぼーっと突っ立ってたら、声を掛けられ待ちって変な勘違いするやつもいるんだし」

「あ、ありがとうございますっ」

 

 まあ私は突っ立ってても声を掛けられたことはないけど。

 なんでだ? 私とコイツ、大した違いはないだろうに。

 

「あ、あの、ボクはメーイルといいます。フラヒヤ山脈近くでハンターをやってたのですが、最近この辺りに来たばかりで……」

 

 ボクっ子かぁ。

 なるほど、ボクっ子かぁ。あざとさの塊かよ。しかもやっぱりゴリラ(ハンター)なのか。

 

「私はプレシパス。数年前からこの辺を拠点にしてるハンターだよ」

 

 自己紹介をされたから、こちらも名前を名乗る。

 だがもう関わることは滅多にないだろう。このボクっ子のゴリラ隠し術は私に真似できそうにないし。

 

「あのっ。良かったら一緒に狩猟に行きませんかっ」

「そうきたかあ」

「だ、だめ……ですか……?」

 

 ダメな理由はない。別に予定があることもないし、あざとさの塊だとは思っているが、嫌ってるわけではないし。

 

「まあいいよ。私が人避けになってやろうじゃないか」

「そ、そういうわけじゃ……それもちょっとありますけど……」

「正直か」

 

 メーイルだけ戻ってもまた囲まれてしまうだろうしと、誘いを了承した。

 それに私としても都合が良い。大丈夫だとは思うが、人攫いとして通報されている可能性もないわけじゃないのだし。

 

「ちなみに何を行くつもりなのさ」

「あ、ディアブロスです。砂漠地帯は慣れてなくて、誰かと一緒に行きたかったんですよっ」

 

 ……可愛い顔してターゲットはディアブロスとか、やっぱりゴリラじゃないか。

 

 

 

 

 

 角竜ディアブロス。

 砂漠に見られる草食の飛竜種だが、その戦闘力は馬鹿高く、そして凶暴な竜だ。

 頭部にはこの竜の象徴とも言える2本のねじれた角を持ち、その角がまた堅牢なためやつの武器にも盾にもなる厄介な性質。

 地面に潜った際、敵を音で判断しているためか、音爆弾による高周波にひどく弱い。しばらく平衡感覚を失うのか、自由に動くことができなくなる弱点を持つ。もっとも、怒りに我を忘れているときは音による攻撃も無意味になるが。

 

 と、まあ色々ディアブロスの特徴をあげてみたが、幻獣の狩猟経験のあるだけあって、これといった苦戦はなく終わった。やっぱりゴリラじゃないか。

 

「手際のいいことで」

「いえ、そんなっ。プレシパスさんの助けがあったからですよっ」

「私何かしたっけ」

 

 助けっぽいことをした覚えがない。

 ランスの大盾でかっこよく守ったわけではなく、ひたすらチクチクぶっ刺しただけだ。

 

「ディアブロスの突進を止めたじゃないですかっ」

「横から足を小突いただけだし……」

 

 その後転んだディアブロスの角を大剣で叩き折った君の姿を私は覚えているよ。

 

「あとはギルドから迎えを待とうか」

「はい。それにしても、クーラードリンクを飲んでもやっぱり暑いですね……」

「まーね。迎えが来るまでオアシスで水浴びでもする?」

 

 この暑い中、糞真面目に待つ必要はない。

 

「え、大丈夫なんですか?」

「砂漠での狩猟後はだいたいの連中はオアシスに移動してるよ。ターゲットを捕獲した場合は別だけど、今回は完全に狩猟したし」

 

 まぁベースキャンプで待機が本来推奨されているが、オアシスにいる連中が多いのかだいたい真っ先に探されるのはオアシスだ。

 

「で、でも……」

「めんどい! 行くぞー!」

「ええっ!?」

 

 何か言い淀むメーイルを無理やり引きずってオアシスへと向かった。

 

 

 水場には何頭かアプケロスがいるが、今は繁殖期からズレているため刺激しなければ襲われることはない。少し離れて水に触れる。

 

「うん、冷たくて気持ちいい。ほら、入るぞー!」

「え、で、でもっ」

 

 やれやれ。

 たしかフラヒヤ山脈から来たんだっけか。雪原地帯の人間には水浴びの楽しさを知らないらしい。どれ、手本を見せてやろう。

 

 グラビド防具を脱いで、音を立てながら水へと跳び込んだ。

 跳ねた水飛沫にアプケロスが不満そうな動きをしたので少しだけ後悔。これ以上騒いだら攻撃されそうだ。

 

「い、今のは悪い例だけど、気持ちいいぞー! 大きな音を立てずにゆっくり入るんだぞー!」

「ぬ、脱がないでくださいよっ」

「? 防具を着ながら水浴びはおかしいだろ? 迎えがいつ来てもいいようにインナーは着てるんだし」

 

 雪原地帯の人間はひょっとして肌を見せるのが恥ずかしいとか? いや、でもコイツ、キリン装備だしそんなことはないか。なんだそのへそ出しルック。太もも盛大露出。それが平気で水浴びが恥ずかしいってなんだそれは。

 

「ボ、ボクは遠慮しておきます!」

「はー、やれやれだ。私相手に猫を被ったところで意味ないだろうに」

「猫かぶりとかじゃなくてですね!」

 

 断固拒否とでも言うように、背中を向けるメーイル。

 

 まったく、ひとりだけ水浴びして遊んでるなんて寂しいじゃないか。防具を脱ぎたくないのなら別に構わない。キリン防具なら濡れてもたいして問題ないだろうし。

 

 水浴びの気持ちよさを布教するために、私は無防備なメーイルを背後から抱きしめた。

 

「えっ!? プ、プレ──!?」

「共に沈もう……冷たき監獄の中へ……」

 

 暴れられる前に抱き締めながら後ろへジャンプ。

 バシャーン、と水柱を立ててしまった。アプケロスたちの反応は……怒ってらっしゃる。けど暴れるほどではないようだ。ごめん。

 

「な、何するんですかっ!」

「ごめんごめん。でも気持ちいいだろー? あ、あとアプケロスたちが苛立ってるから声は落としてね」

「~~~! もう出ますっ!!」

 

 顔を真っ赤にして水から出るメーイル。どこに恥ずかしがる要素があったのかさっぱりだ。

 

 仕方ない。これ以上無理やり引きずり込むと本気でキレられてしまう。すでに危ないかもしれないが。まぁ私ひとりで泳いでおこう。

 そう思い別のところへと目を向けると、水面に奇妙な物体が浮いていた。

 

「なんだこれ……?」

 

 手のひらほどの大きさの、水気を吸った布地の何か。厚みがあるが、太くはなく、どちらかといえば薄い、平面はレモン状のもの。

 どう見ても人工物だ。自然にできたものではない。それが何枚も浮かんでいる。

 

「これって……」

「あっ……」

 

 何か当たりをつけたとき、メーイルから声があがる。

 

 胸に手をやりながら、メーイルはさっきとは比べ物にならないほど顔を赤くしていた。

 

 やっぱりだ。

 

「……メーイルさん、胸、もげましたよ」

「~~~~~~!!」

 

 パッドがなくなり、絶壁の胸から布がずり落ちないように手で支えている姿にほっこり。

 

 声にならない叫びというやつだろうか。音にはなっていないが、何度も口を開けては何か叫ぼうとしている姿が少し面白かった。

 

 いやぁ! これは悪いことをしちゃったなぁ!

 だけどそうかそうか! メーイルも絶壁族かぁ! なんだか仲良くなれそうだなぁ!

 

「か、返してくださいっ!!」

「ごめんて。でもそのままの君の方が可愛いよ……」

「そういうのいいですから!!」

 

 パッドを返せと片手を出してギャーギャー叫ぶメーイルに、テヘペローと謝る私の図。アプケロスさんたちには静かなオアシスを奪って申し訳なく思う。

 パッドを渡そうと歩いて近づこうとしたとき、

 

「うおっ」

「え」

 

 水草にでも足を取られたのか、つっかかってしまい前へと倒れこんでしまった。

 顔面から落ちないようにと手を無意識に動かす。

 

 あ、手がメーイルの股間に当たっちゃう。あとで全力で謝ろう。

 

 スローモーションで見える景色の中、そんなことを思った。

 

「いギっ……!!!!」

「あぶどぅる!」

 

 妙な感触と共に、メーイルの途切れた叫びと私の謎の悲鳴。

 股間を強打されたメーイルが真っ青になってうずくまった。本当にごめん。しかし今、変な感触が手にあったような。

 

「メ、メーイル? 大丈夫……? 本当にごめんな!? マジでごめんな!?」

「……っぁ……いっ………て、ゆう…………の、は……」

 

 こ、これは不味い。

 ものすごく辛そうだ。当たり方がよっぽど悪かったのか、股間を両手で抑えてうずくまったままだ。口からも意味のなさない音しか漏れてない。

 

 こんな時どうすればいいんだ!? 回復力を高めるため……そうだ回復薬だ!?

 

「メーイル! 顔をあげろ! 回復薬を飲め!」

「マ……ヂ……ムリ……」

「メーイーーーール!」

 

 顔を上げることすらできないほどダメージを負っているのか!?

 そんなにひどい怪我に……

 

「大丈夫……ですから……」

「メーイル! 喋れるようになったのか!」

 

 良かった。痛みが少しはましになったのだろうか。だが油断はまだできない。

 怪我の度合いはどれほどのものか。こうなったら直接患部に回復薬でもぶっかけるか? そういう使い方もできないことはないらしいし。

 

「メーイル、回復薬飲めるか!?」

「……大丈夫ですから……」

「飲めないのか!? こうなったら……!」

 

 患部に直接ぶっかける!

 

 股間から両手を無理やりどかせる。変態くさい行動だが、緊急事態なのだ。許せ。詫びにはならないかもだけど、回復薬Gだけでなく秘薬までかけてやる。さらには活力剤もだ!

 

「え……ちょ、ちょっと……!?」

「すぐに楽にしてやるか、ら……?」

 

 うむ?

 股間のふっくら具合が、なんというか想定外だ。実はとてもアソコが毛深いとかそういうもの……ではなさそうな。なんというか、そう。この膨らみとこのサイズは、

 

「……フルフルベビー?」

「あ、あぅぅぅ……」

 

 ……フルフルベビーはうむ。雪山のような極寒地帯の地中にいるんだっけか。メーイルの出身は雪原地帯。うん、おかしくない。

 そういえばフルベビアイスって食べたことないけど美味しいんだろうか。あれって本当にフルフルベビーを食べてるのだろうか。成体は美味しくないらしいが。

 

「ち、違うんです……これには、訳があって……」

「……」

 

 さっきまで真っ青だった顔が、真っ赤になって泣いている。

 

「と、とりあえず……移動するアル?」

 

 わけのわからない言葉遣いになってしまった私を、誰が責められようか。

 

 

 

 

 

 

 混乱する頭のまま股間を抑えるメーイルを抱っこしてベースキャンプへ移動する。まだギルドの迎えは来ていないようだ。

 

「……プレシパスさん」

 

 とりあえず抱っこをやめて降ろしたが、メーイルは痛みが引いたのか、普通に喋れるようになったようだ。だが股間から手は離さない。断固隠す構えのようで。

 

「ボク、あ、いや、ワタクシ、実は前にあの、アソコをランゴスタに刺されてすっごく腫れてですね!」

「脱がすぞ」

「ごめんなさい嘘をつきましたっ」

 

 地面に頭をこすりつけて土下座する少女……もとい少年。

 パッドのない胸……では判断つかないが、股間で辛うじて本当の性別が判断できるような見た目だ。

 

「まあ、趣味や性癖は人それぞれだし……」

「違うんです。趣味でも性癖でもないです……」

「というか頭をあげたらどうだ? 本来、まあ、私のほうが謝るべきだし……宝玉に攻撃しちゃったわけだし」

 

 正直誰が悪いかって言われたらやっぱり私だと思うし。

 水に引きこまなければ竜玉は無事だったわけで、そしたらバレることもないわけで。

 

「でも、ボクは騙してたようなものですし……」

「勝手に勘違いしてただけだしいいんじゃない? まあ、似合ってることが悪いってわけじゃないんだし」

「似合ってても嬉しくありません……。ボクも止めたいんです、この格好……」

「止めたい?」

 

 似合ってるのに。

 

「実は……ずっと一緒にハンターをしてた人がいるんですが……その人に女性と勘違いされているんです」

「そりゃその恰好じゃそうなるよ」

「違うんです! 最初からこんな恰好をしてたわけじゃないんです! 最初は互いにマフモフ装備で、同じ駆けだしだから一緒に狩りに行こうって……」

 

 マフモフ……あー、たしかめちゃくちゃ厚着のやつか。寒冷地らしい恰好の。

 たしか男女どちらも顔しか出してないやつだっけか。

 

「そのころから勘違いされていたと」

「はい……当時はボクも勘違いされていることに気づかなかったんですが……」

「普通に男の装備着たらあっさり解決では……」

「それが、ハンター登録の際に書類不備があったのか、防具を頼んでも女性用のを出されて……」

「普通に男ですって言えば解決では……」

「当時はそれが女性用だと気づかず、そのまま着てました」

「どういうセンスだ」

 

 マフモフみたいな男女同じようなデザインのはそんなに多くないと思うけど。まあ、男女どちらでも使えそうなものもないことはないか。

 

「太ももを出すなんて恥ずかしいなぁとは思ってたんですよ!」

「もう今じゃ慣れ切ってるご様子で」

 

 指摘したらそっと手で太ももを隠そうとした。だけど露出面積が多すぎて隠しきれていない。

 

「ま、まあとにかく、しばらく勘違いしたままハンターをしてたんです。ですがある狩りが終わった時、凶暴竜が狩場に現れ、ボクたちは追い詰められたんです」

 

 急に話の流れが大きく変わった。

 

「なんとか撃退したのですが、その例のハンターが大怪我をしたんです。命に関わりそうなほどの、どう見ても助からないと思えるほどの怪我を」

「ありゃまあ」

「彼は息も絶え絶えに、言ったんです」

 

 凶暴竜イビルジョー。

 かわいい言い方をすれば食いしん坊ででっぷりとしたお腹が特徴の竜だ。

 かわいくない言い方をすれば、なんでも際限なく食べて生態をぶち壊す環境破壊者だ。

 

「互いに無事にいられたら結婚してくれ、と」

「おめでとう」

「おめでとうじゃないですよっ!」

「あ、ごめん! そっか。いや、ほんとごめん」

 

 そこで勘違いに気づけたのだろうが、その彼は命を落としてしまったのだろう。

 あれか、幽霊になってしまった彼をがっかりさせたくなくて女装を続けているのか。

 

「その時はボクも必死で、せめて彼が安らかに逝けるように、いいよって答えたんです……」

「うん……」

「その後、ギルドの方が来てくれて…………全治1ヶ月だそうです」

「うん?」

「その、彼の怪我の度合いが……」

「あ、生きてるんだ。良かったじゃん!」

「良くないですよ!! 結婚の約束しちゃったんですよ!? ボク男なのに!!」

「そういう愛の形もあるって」

 

 そう言われても、まあいいんじゃないかな。

 

「あと1週間ほどで彼が退院するんですっ! それまでにボクは! 別の防具を着こんで変装するんですっ!」

「他の装備ないのか」

「ないですっ! 前の場所では加工屋さんに頼んでも女性用で作られちゃいますし、ここで男性用を制作してもらえるように頼みたかったんですっ!」

 

 それでディアブロス……

 たしか男用ディアブロ防具ならフルアーマー装備だ。顔もばっちし隠せる。

 

「胸パッドを詰めていた理由は」

「女装ってバレたくなくて……ディアブロ装備を作ったらそっとフェードアウトしようと……」

「女装とバレないように完全な女装をするとか、まあうん。わかんなかったけどさ」

 

 しかし、ディアブロ装備ねぇ。

 まああれなら線の細さも誤魔化せるし、声も多少くぐもって別人に思わせれるかもしれない。だけどなぁ。

 

「結婚の約束をした相手を誤魔化せるか……?」

 

 むしろ素直にごめんなさいした方がいいと思う。

 

「大丈夫ですっ。ディアブロ防具がどんなのか確認したのでっ」

 

 ……滲み出るあざとさが、ディアブロ防具で隠しきれるかどうか。

 あのごつい鎧でくねくねされたらちょっとアレだが、言葉の節々からあざとさが出てるんだし……

 

「ギルドカードの偽証とかできなくないっけ?」

「ボクのギルドカードを見せなければ大丈夫ですよ」

「見せてって言われたら?」

「言われるわけないじゃないですかー」

 

 あー、ダメっぽそう。

 すっごい能天気な笑顔で言ってるあたりダメっぽそう。

 

「あ、もちろんちゃんと別人っぽく振る舞いますよ」

「……一応やってみて」

「コホン……どう、かな?」

「何が変わったよ」

「言葉遣いだけど……だめ?」

「あざとさの塊かよ」

 

 本気かコイツ。

 ただ丁寧語を崩しただけじゃないか。マジかコイツ。

 キリン娘の恰好であざとい雰囲気を出されたから思わず手が出かけたわ。拳で。

 

「もう素直に謝った方が一番すんなりいくと思うよ……なんつーか、うん」

「……やっぱりだめなんでしょうか」

「うん?」

 

 急に声のトーンが落ちた。

 

「わかってるんです……勘違いされたのは、ボク自身に男らしさが足りないからだって……」

「男らしさとかはわからないけど、勝手に勘違いした方が悪いんだから気にする必要ないんじゃね? 騙そうとしてたわけじゃないんだし」

 

 まあ今は騙そうと画策しているみたいだけど。

 

「でも、ボクがはっきり言わなかったから……勘違いに拍車をかけてしまったんですよ……今日だってたくさんの人を勘違いさせて……」

「知らんがな」

「えぇ……」

 

 ネガティブモードに入られたって困る。私はカウンセラーでもなんでもない。

 それに今日の勘違いした連中だって勝手に勘違いした組だ。

 

「そんなに自分のせいだって思うなら普通に謝ればいいだろ?」

「そんな簡単にできませんよ……」

「えー? そう?」

「きっとひどいことを言われちゃいます……」

 

 繊細か。

 ディアブロスの角をへし折ったのに繊細な心の持ち主か。

 

「ま、嫌われるかもしれないなー。今日の連中からも、その結婚の約束をした彼からも」

「ですよね……」

「だけど心配すんな。私は嫌わないでいてやるからさ」

「……っ」

 

 ……

 

 なんか無言になった。

 かける言葉を間違えたか。面倒だから何も考えずに思ったことを言ったけど、やっぱりちゃんと考えるべきだったか。私にもっと心の包容力があればもっとマシなことを言えたかもしれないのに。

 

「……プレシパスさん」

「な、なんだ!? この胸で泣くか!? 泣くのか!?」

「男らしすぎて、ズルいです……」

「意味がわからん……」

「あと……ふふ。その胸は硬かったので、遠慮しておきます」

「そっか」

 

 なんか知らんが笑ったのでよし。

 私は立ち上がり、メーイルの後ろに回り込んだ。そのまま背中から抱きしめるように両腕を回し、

 

「え、あ、ありがとうございます。でもいいですよ、恥ずかしいですし」

 

 メーイルが何か言っているが、知ったこっちゃない。

 

「いつ胸触ったこのムッツリがァ!!」

「じょぜふ!?」

 

 怒声と共にジャーマンスープレックスをお見舞いしてやった。

 

 それから10分ほどしてギルド職員が迎えに来てくれた。それまでメーイルはずっと伸びていた。

 

 

 

 

 

 1週間後。

 

「プレシパスさーんっ」

「ん? メーイル。まだ防具作ってないの?」

「はいっ」

 

 相変わらずキリン娘姿の少年がそこにいた。私の姿を見かけては大きく手を振りながら駆け寄ってくるさまは、小犬を彷彿させる。あざとさの塊かよ。

 

「ていうか、また詰めてるのか……」

 

 彼の胸部は詰め物によって膨らみを帯びている。勘違いされるのが嫌とか言ってたけど結局続けるか。まぁいいけど。

 

「あとで外しますよ。その時はプレシパスさんにも見ててほしいんです」

「え、脱衣ショーでもすんの? そういうのは夜の繁華街でやってよ」

「違いますよっ。彼、ここに今日来るそうなんです。その時に外そうかと」

 

 彼、というと、例の結婚の約束の人か。

 ていうかその時に外すってことは謝るってことかな。勘違いさせてごめんなさいって。ということは、例の彼は失恋か。プギャー。

 

「それなら最初から詰め物取ってても良くないか?」

「そう思いましたけど、目の前で外したほうが説得力あるじゃないですか。さすがに、その……アソコを触らせるわけにはいきませんし」

「フルフルベビー?」

「プレシパスさんっ! はしたないですよっ!」

「ご、ごめん……」

 

 ちゃんとぼかしたのに……

 

「とにかく、彼に正直に言います」

「ほいほい」

「やっぱり嫌われるのは怖いですけど……プレシパスさんがいるなら、大丈夫な気がして……」

 

 なんだその熱い視線は。

 私の包容力に気づいたのか? だとしたら見る目がある。

 

「メーイルー!」

 

 酒場の入口で1人の男がメーイルの名前を叫んでいる。

 ひょっとしてあれが結婚の彼なのか。

 

「来たみたいです……」

 

 遠慮がちに私の手を掴むメーイル。ついてきてほしいということだろう。そういうところがあざとさの塊なんだぞ。

 

 まあついていくのは全然いい。私は自分で言うのもなんだが、図太さなら結構あると思っているからな。そうじゃなきゃ突然グラビド防具で突進しまーす!とか言いださない。

 

 さてさて、これから振られる哀れな男はどんな顔かなっと。

 

「オルザウェイ。退院おめでとう」

「メーイル、ありがとう。見舞いに来てくれなくて寂しかったぞ!」

「あ、あははー……」

 

 ……結構なイケメンだ。真面目で爽やかな雰囲気を感じさせつつ、はっきりと聞き取りやすい声質。それでいて寂しいなどと庇護欲そそる物言いで母性を刺激してくる手練れっぷり。

 

 え、メーイルはこのイケメンと結婚の約束を? 勝ち組かよ。

 

「そちらの人は?」

「あ、この人はプレシパスさんって言って、すごいハンターさんなんだ」

「プレシパスさん、はじめまして。俺はオルザウェイと言います。メーイルがお世話になったみたいで」

「あ、ああ。はじめまして。紹介に預かったプレシパスだ」

 

 やっべ。イケメンと握手しちゃったよ。

 え? これ狙い目では? 私と握手する際嫌そうな雰囲気ゼロだったよ? だいたいは「うわ、グラビドを着こんでるとか、ごつい……」って嫌がられるのに。これフリーなら狙っていい物件では? あ、今からフリーになるのか。最高かよ。

 

「あのね、オルザウェイ。大事な話があるんだ」

「大事な話?」

 

 おお、切りだすのか。早速切りだすのだな!

 そして傷心となったオルザウェイを私が慰めてやればいいのだな! この包容力を持って!!

 

「実はね……」

 

 メーイルは言いながら、胸の詰め物を取っていく。……6枚も詰めてたのか。

 

「メ、メーイル? な、何をしてるんだ」

「ほら、見て。この胸、偽物なんだ」

「お、おお?」

 

 オルザウェイ君顔真っ赤。ウブか。イケメンでウブとかお前、あざとさの塊かよ。高得点だわ。

 

「それから、ボク、男なんだ」

「お、おお。……おお?」

 

 さっきから「お」しか言ってないぞ。混乱具合がうかがえる。

 

「だからあの時の結婚の約束は、なかったことにしてほしいなって。騙しててごめんね」

「……おお?」

「良ければ、これからも友達でいてくれると嬉しい……」

 

 さて、どうなるだろうか。

 私としては、できることならメーイルと友達関係になってほしい。じゃないとオルザウェイ君を私が落とすとなんていうか、気まずいし?

 だから円満な終わり方をしてほしいところ。

 

「……だめ、かな?」

 

 反応が乏しいオルザウェイ君に、メーイルが揺れる言葉で尋ねた。何度も思ってしまう。あざとさの塊かよ。

 

「いい! いや、よくない!」

 

 なんと。

 

 ……まあ、仕方ないか。

 

「友達でいられない。俺はお前のことが……」

 

 うん?

 

 なんだこの流れ。なんだか、私の予想とは違う流れになる予感がすごく……

 

「性別とか関係なく、お前のことが好きだぁぁあ!!」

「うぇぇ!?」

 

 ……あれだな。あざとさの塊が悪い。これはあざとさが悪い。

 

「本気だ! 確かに戸惑った! だけどこの心に嘘はつけない!」

「ちょ、ちょっと待って! ボクはそういうふうに見れなくて……!? きっと気の迷いだよそれはっ!」

「気の迷いではない! 本気なんだ! なんなら証拠を出そうか!」

「しょ、証拠?」

 

 その言葉を皮切りに、オルザウェイはがばりとメーイルを抱きよせ、口と口を近づけようとする。

 

「ひぃっ!?」

「本気を見せて────」

「変態かァ!!」

「でぃお!?」

 

 無理やりキスを迫るとか変態か。強姦魔か。

 そんな輩をさすがに見過ごせない。いくらイケメンと言えど許されない行為には制裁のジャーマンスープレックスだ。

 

「プ、プレシパスさぁぁん……!」

「おー、よしよし。こわかったな」

 

 よもやイケメンが変態だったとは。

 本当に短い恋だった。いくら愛は盲目と言えど、変態を愛する心を私は持っていない。ごめんよオルザウェイ。君にはもっと相応しい人がいるはずだから。

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後。

 

「メーイルー! 俺だー! 一緒に狩りに行こうー!」

「ひぃっ……」

 

 2人とも元の村には戻らず、ここに移住することを決めたらしい。それはいいが、オルザウェイはメーイルのことを諦めきれないのか、積極的にアプローチを仕掛けている。一途な様子から、あれで変態じゃなければなぁと思わずにいられない。

 メーイルの方はそんな変態に恐怖を感じているのか、だいたい私の背後に回り込んで盾代わりにしてくる。まぁ一応ランサーだから、盾として扱ってくれても構わないけど、なんというかしっくりこない。

 

「くっ、また俺とメーイルの邪魔をするのかこのグラビモス!」

「ぶっころ」

「プレシパスさん、や、やりすぎないでくださいよっ!? また職員さんに怒られちゃいますからっ!」

 

 私は悪くない。

 乙女をグラビモス扱いした元イケメンが悪いのだ。

 

 愛とはこうまで人を変えてしまうのか。いつものスープレックスによって珍妙な姿勢で伸びているオルザウェイを見ながら思う。

 

「オ、オルザウェイ? 気を失ってるや……」

「もう落ち癖がついてそうだな」

「じゃあ今日も2人で狩猟に行きましょうかっ。なんなら採集とかでも付き合いますよっ」

「あいあい」

 

 しばらくは恋愛なんていいや、と。

 

 

 

 

 

 




 

名前について

プレシパス
絶壁という意味だそうです。

メーイル
Male。男。

オルザウェイ
一途という意味だそうです。
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