どうして。
どうしてこうなった。
『飛び入り参加の挑戦者、剣を落としたというのにその顔に浮かぶ闘志! まだまだ諦めてなァァーーーい!!』
実況がうるさい。なんであんなにハイテンションを維持できるんだ。
眼前のモンスターが、黒い体毛を金色に輝かせる牙獣、ラージャンが剛腕を振り上げる。
こいつもなんでまだまだ元気なんだ。相当斬りつけたぞ。やせ我慢か? やせ我慢であってくれ。
『ラージャンの暴風雨のごとく吹き荒れる乱打ァァー!! ここで勝負を決めるつもりだァァーー!!』
普段と違う武器種、片手剣はやっぱりしっくりこない。いや、今はもう盾だけだから片手剣とは言えないか。この猿め、闘技大会慣れしてやがるのか、剣ばっかり狙ってきた。そのせいで、ついさっき剣を叩き落とされてしまった。
だが、盾を無力と決めつけたのは失敗だ。
『おおっと!? 挑戦者のシールドバッシュゥゥウウ! まさに夜空に流れる星のような芸術のカウンターが炸裂ゥゥーーー!!』
どんなカウンターだ。くそ、実況が気になって仕方ない。
それよりラージャンだ。反撃に怯んだ今がチャンス。何度も盾殴りを決めてやる。
『挑戦者グラビモス選手の反撃の狼煙が今あげられるゥゥ! 乱打乱打乱打ァァ!!』
実況の盛り上がりに応じてか、観客席からも謎のコールが流れだした。
『グッラビモス! グッラビモス! グッラビモス!』
この闘いが始まった時はたしかにプレシパス選手って呼ばれてたはずなのに。なんでグラビモス呼ばわりされているんだ。
確かに今もグラビド防具を身につけているけど、まさか運営が用意した防具の中にグラビドシリーズがあるとは思わなかったから驚いたけど。
って今はそれより闘いに集中だ。
「しゃおらぁああああ!」
『ラージャンが倒れたァァーーー!! 立ち上がれ……なァァーーーーい!!! 見事なノックアウト、グラビモス選手の逆転勝利ィィーーーー!!!』
観客席が熱い歓声で盛り上がる。
私も観客席に拳を掲げ応えるとと、さらに熱狂は沸き立った。
うん。
本当にどうしてこうなったんだ。
ハンターの狩猟は基本的に、多くても4人で行われる。5という数字が忌数だからだとかなんとか。詳しい理由は知らない。
とにかく一緒に狩りに行けるのは最大4人だ。
人数が増えれば増えるほど、基本的に安全性は高まる。まあ、報酬が4人で分けられるため取り分が減ってしまうが。だが命か金か、という選択ならば普通はいのちを取るだろう。
まあうだうだと何が言いたいかというと、4人で狩りに行ってみたいなって。
「そのためにはあと1人なんだけどなぁ……」
「あはは……そうですね……」
自然と口からぼやきが漏れてしまった。
私のぼやきに対して乾いた笑いで応じたのはメーイル。相変わらずのキリン装備姿だ。
この男の娘はディアブロ装備を作ったが、露出ゼロの装備に違和感がありすぎて普段通りに動けなかったらしい。そのため着なれたキリン装備に戻ったのだ。ちなみに胸に詰め物はない。ぺたんこだ。当然か。
「選り好みをしなけりゃすぐに4人になれるのに……」
「そういうわけにもいかないぞ。どいつもこいつも下心ばかりだ。そんなやつと一緒に狩猟なんて危なすぎる!」
パッと見メンバーで唯一の男枠、オルザウェイが過保護な父のようなコメントをする。
メーイルへの愛に一途なこの男の言ってることは正論のようだが、その実ライバルを1人でも減らそうとしている可能性が捨てきれない。
「考えすぎだよオルザウェイ。ボクが男だって事はもうこの町の人はみんな知ってるはずだし」
「甘いぞメーイル! あいつらにとって性別なんて些細な問題なんだ!」
「説得力がやべぇ」
実際オルザウェイの言う通り、メーイルは相変わらずモテる。1人でうろつこうものなら男にナンパされるほどだ。私が同じように1人うろついたって、せいぜい子供に「ハンターごっこやりたいからグラビモスの役やって」としか声をかけられないのに。
「プレシパスさん、ボクは3人のままでもいいと思うんですけど。知らない人って怖いですし……」
「メーイルは俺が守る! だから怖がることはないさ!」
「オルザウェイも少し怖いかな……」
「え……!?」
ショックを受けているオルザウェイは置いといて、メーイルはあまり人数が増えることを好ましく思っていない。
隙あらばオルザウェイを放置して、2人で狩りに行こうとするぐらいには少人数狩猟派だ。
「メーイルはもう少し人見知りを直そうな。じゃないといつまでも私の後ろに隠れっぱなしだよ」
「あ、あはは……」
メーイルは毎回毎回、ナンパされるたびに私の背中に抱きついてくるのだ。
盾として頼られるのは嬉しいが、それはモンスター相手の時であって、人避けの盾として使われるのは微妙な気持ちだ。効果が高いのがまた微妙な気持ちに拍車をかける。
「だがグラビモ……プレシパス、今のところ苦戦するような場面もないのだし、3人のままでもいいんじゃないか?」
「苦戦してからじゃ遅いだろー? それになんていうか……私たちの武器構成ってなんか、こう……重たいんだよ」
「グラビモスの言葉は訳がわからん」
「ぶっころ」
乙女をグラビモス呼ばわりするやつに、いつものスープレックス制裁。
……受け身を取れるようになってやがる。
「話戻すけど、ほら。私はランス、メーイルは大剣、オルザウェイはハンマーなわけじゃん。全員重量のある武器だろー?」
「まあ、そうですね?」
「だからここは軽そうな武器を扱う人に入ってもらって重量のバランスを取りたい」
「よ、よくわからないです……」
感覚よりの話だからな。理屈じゃないんだ。とにかく4人で、その人には軽そうな武器種を求めたい。
「実際4人いれば良いこと尽くしだと思うんだが。狩りの安全性が高まるし、対応力もあがるし、メーイルは人見知り克服練習になるし。まあ、報酬金が減るけど些細なことだよ」
「うーん……」
それに、あわよくば同業でイケメンとお近づきになれるかもしれないし。まあそんな目論見は口に出さないが。
「でもプレシパスさん。4人目がそもそもいませんし……」
「選り好みしなければいるけどな。だが安全性を主張するならあいつらはダメだ」
メーイルとオルザウェイの言い分はわかっている。この町のハンターで、私たちのパーティに入ってくれるやつは少ない。いてもメーイル狙いの連中ばかり。
「ほら、今度ドンドルマに行くじゃん? そこで募集しようかなと。そこならメーイルについて知らない人ばっかりだろうから下心持つやつなんていないだろ」
ドンドルマに行く理由はメーイルにある。
ハンターズギルドでメーイルの性別が間違えられている状態の訂正のためだ。出張支部では直せないらしく、ドンドルマまで赴くことになったのだ。
まあそれはともかくドンドルマは大きな街だ。それに土地柄ゆえか強いハンターも多い。ハンターを集めるなら持ってこいの場所だろう。
「無理だろ……」
「そんなことないだろ? やれやれ、これだから田舎出身のオルザウェイ君は。まったくものを知らない」
彼はドンドルマがどういう街か知らないようだ。無知とは哀れである。
「俺たちはこの町を拠点にしているハンターなんだぞ。ドンドルマで募集するとなると……」
「この町に移住してくれる人、が条件に含まれちゃうね……」
あ。
ハンターいっぱいの街ドンドルマ。としか頭になかった。そうか、住居の問題もあるか。その日限りの同行ならともかく、固定メンバー探しとしては無理か……
「やれやれ、これだからグラビモスは。人の事情を考えれない」
「このやろう……! い、いるかもしれないだろ! 移住を望むやつが!」
「やれやれ。言うは易し、ってやつだな。まあメーイルが手伝えば移住してもいいって言い出す男は出るだろうな」
「そ、そんな人いないよ……というか、いないでほしい……」
くそぅ。オルザウェイのやつ、今が攻め時だと思ってすごい調子に乗ってやがる。
「メーイルやお前の手伝いなしでも! 私にかかれば移住してもいいってハンターを簡単に見つけれる!」
「はいはい、無理しなくていいんだぞ」
「毎日フラれ続けるオルザウェイには無理に感じれるかー! そーだよなー!」
「このグラビモス……!」
告白現場を見たわけじゃないが、わかるのだ。だって今朝もメーイルが私の背中に隠れに来たし。そういう時はオルザウェイのアプローチが原因だとわかってる。
「そこまで言うならやってみせてもらおうか! メーイルと俺の手伝いなしで、ドンドルマのハンターで、この町に移住してもいいやつを誘うのを! メーイルの姿を見せるだけでも手伝いと見なすからな!」
「んな!? 私だけでドンドルマで移住オーケーなハンターを!?」
「……なんだか楽しそうだね2人とも」
メーイルが何故か拗ねた。
「あの、プレシパスさん」
「ん?」
「ボクからも募集するハンターに希望する条件を言ってもいいですか?」
「え……」
これ以上条件が厳しくなるのはさすがに辛いぞ。
「おやあ? わたしにーかかればー簡単に見つけられるー、と豪語していた方がいたなあ! どこに行ったのかなあ! 火山かなあ!」
「ここにいらぁ! メーイル、条件は!?」
「……実は2人って仲良いですよね? と、とにかくボクの希望する条件はですね、男の人じゃないことです」
「ぬ……」
男はダメとな。
まあ現状男が2人、女が1人のパーティだし、おかしくはないような気もするが……合コンじゃないのだぞ。性別のバランスなんざいらねぇんだ。
「それはいいな! 男はメーイルの魅力にやられてしまうしな!」
メーイル全肯定野郎め。
しかし現パーティメンバーの希望をガン無視するのも不和の始まりだしな……
「ぜ、善処する……」
「やった! お願いしますねっ」
あ、こいつ、確約してくれたと思い込んでそう。無邪気に喜ぶ姿がそう感じさせる。
こんなやり取りをして後日、私たちはドンドルマへと向かった。
ドンドルマまでアプトノス車に揺られ揺られて数日。いざ辿り着けば、メーイルとオルザウェイは田舎者感丸出しだった。
「ほら、ボーッとしてないでギルドに行くぞ」
「は、はいっ」
「お、おう」
人の多さに飲まれているな、これは。
「プレシパスさんはドンドルマによく来るんですか?」
「いや? 私もここに来るのは片手で数える程度しかないよ」
「へー!」
初ドンドルマには数回程度のドンドルマ経験者が輝いて見えるようだ。メーイルの眼差しがキラキラしている。まったく、やれやれだ。あとで観光案内でもしてやろうか。酒場とアリーナしか案内できないが。
おのぼりさん2名を連れてハンターズギルドに到着。
依頼を受けるためでも出すためでもない、登録情報の訂正のためというレアケースだからか少し時間がかかるようだ。
呼ばれるまでぼけっと待機。
「どれぐらいかかるかなぁ……」
「そんなに時間は掛からないと思うけど……ぶっちゃけそのままでもいいと思うし」
「誤解されるのは避けたいですから……」
メーイルは遠い目をしてそんなことを言うが。
「その格好でそんなことを言われても……」
「似合ってるからいいだろうが」
「いや、似合ってるけどさ……」
オルザウェイの言う通り、似合ってるけども……。遠出で道中モンスターが出ても大丈夫なようにと、普段通りの格好……つまり女用キリン装備だ。
今から性別の訂正に行くんだよね? いや、いいけどね? ディアブロ装備はもう使われないんだろうなぁって思っちゃうけどね?
「メーイルさーん」
「は、はいっ」
「奥の部屋へどうぞー」
ギルドの職員さんに元気よく返事し立ち上がる男の娘。それに続くように立ち上がるメーイル全肯定男。ついていく気か。過保護か。
ふと、手を引っ張られる。
引っ張っているのはメーイルだ。
……ついてきてくれと。いや、まあいいけどさ。
個室に通されると、受付とは別の職員さんが羊皮紙に囲まれながら座っていた。対面にソファがあり、そちらにお掛けくださいと勧められる。とりあえずメーイルを真ん中にして左右に私とオルザウェイが座った。
うわ、このソファ、めちゃくちゃ沈む。
「この度はメーイルさんの登録情報が誤っていたとのことですが……それも性別が」
「はいっ」
「…………ええと、メーイルさんは、そちらの方ですよね?」
職員さんはオルザウェイをメーイルだと認識しているようだ。
気持ちはわかる。
「メーイルはボクです」
「これは失礼しました。……えぇと、性別に誤りがとのことですが、登録情報は女性になっていますよ」
「はい」
「……えぇと」
職員さんが混乱している。これは助け船を出さなくては。というかメーイルも察してくれ。
「この子、男なんですよ」
「……はあ。………………はあ?」
「こんな格好ですが本当に男なんです、この子」
「……からかうのでしたら他をあたってもらえますか?」
「ほんとなんですっ!」
「あなたも、嫌なら嫌とハッキリ言った方が良いですよ」
やはり信じるのは難しいか。仕方ない。これ以上主張したところで変なクレーマー扱いされかねない。
私は立ち上がった。
「メーイルも、立って」
「え、でもプレシパスさん、まだ……」
「いいから。私に任せろ」
「は、はい……」
職員さんは私たちが帰ると思ったのかもしれない。だが違う。
私は右手でメーイルの腰回り、もといミニスカを全力で勢いよく捲った。すかさず左手でパンツをずり下ろした。
「この通り、メーイルにはフルフルベビーがあります!」
「いやああああああ!?」
「な、何を!? え……ほ、ほんとうに……?」
メーイルが真っ赤になって悲鳴をあげる。捲られたミニスカを下げようとする抵抗が強い。大剣使いのゴリラめ、だが私とて大盾を扱うゴリラよ。簡単には負けない。
「ほら! どうみてもこのフルフルベビーは男のもので──」
「その汚らわしい手を離せ変態!!」
「かみぃゆ!?」
突如ハンマー使いの拳が私の頭部を襲った。急な痛みに思わず手を離すと……
「ぷ、プレシパスさんの……ばかぁ!!」
「びんた!?」
顔に鋭いビンタが迫るのが見えた。
「この度は深く反省しております」
「当たり前だ! この馬鹿グラビ!」
「ばか! ばか!!」
今回ばかりは何も言い返せない。いくらでも馬鹿ともグラビモスとでも呼んでくれ。それで気が晴れるなら安いものさ……
一悶着あったが、メーイルの登録情報は男に直してもらえた。といってもギルドカードの訂正だけだ。あと、今後も女用装備を着ても構わないらしい。本人が望むなら防具の見た目はギルドとしてはなんでもいいそうだ。わいせつ物を見せつけるとかしない限り。
「本当にあの時はどうかしてたんだ。なんていうか、人助けする自分にハイになってたっていうか……」
職員さんとメーイルが困ってたから助けようと……
「あ! そうだ、アリーナ行こう! アリーナ! 今日のことはそこで楽しんで忘れよう!」
「このグラビモス、反省の色が見えねぇぞ?」
「……」
「心から反省しておりまふ」
ジト目で睨みながら頬をつねらないでくれ、メーイル。
「ふぁ、ふぁりーなふぁ……アリーナは、楽しいぞ! 特にハンターは二重に楽しめる! 参加するもよし、観戦するもよしってな具合に!」
「へー」
ぐっ、普段のキラキラお目目のメーイルじゃない。まだ怒ってる……!
「この鎧竜、アリーナのモンスターとして売れないか……?」
「できるわけねぇ!」
何ほざいてんだ、オルザウェイは。
「そっか……」
「うん?」
「プレシパスさん、アリーナに行きましょう?」
「あ、はい」
アリーナでは闘技大会が行われている。
捕獲され、特別な餌を与えられたモンスターを相手に闘う大会だ。あらかじめ大会運営が用意した武具で闘い、その技術や時間を競うのだ。
噂では餌と武器に特殊な薬が塗り込まれているらしく、2つ合わさって麻酔効果になるとか。それによって何度も同一個体モンスターで大会を行えるとか。
まあ大会説明はどうでもいい。今日の大会はイャンクック、ケチャワチャ、ティガレックス、ラージャン。
危険なモンスターほど、参戦の場合ファイトマネーは大きい。観戦の場合はチケット代が高い。
「ラージャンか……」
今回私は参戦側。相手はラージャン。メーイルのリクエストだ。あの2人は観戦席にいる。観戦チケット代は当然私持ちだ。
「ま、これで許してもらうために全力で頑張るか」
メーイルが言ったのだ。強敵相手に普段と違う武器で戦う私を見たいと。
それで許してくれるかはわからないが、楽しませたらきっとオーケーだろう。使いなれてないけど選んだのは片手剣。ランスと同じく盾がついてるしなんとかなるなる。
「すごかったですよっ! プレシパスさん!」
「グッラビモス! グッラビモス!」
「ありがとうメーイル。そしてオルザウェイはぶっころ」
闘技大会も終わり、メーイルたちと合流すればもう怒りは収まってくれたようだ。いつもの子犬を想わせるキラキラメーイルに戻っていた。
「それにしても……」
周りを見渡せば、先の闘いを見ていた連中なのか「あ、グラビモス!」とか「やっぱり牙獣の拳でも鎧竜は砕けないんだなぁ」とか、色々と言われて落ち着かない。闘技大会なんてもう出ないぞ。絶対出ないぞ。っていうか早くドンドルマから出たい。
「プレシパスさん、すごく人気者になっちゃいましたね」
「この人気は嬉しくない……」
グラビモス呼ばわりが広まるとかやめてほしい。こちとら乙女だぞ。
ラージャンを殴り倒した? その前に何度も剣で斬りつけてたわ。最後だけ見て評価するな。
「ドンドルマいつ出る予定だっけ……明日出ない?」
「え、ボクは構いませんが……オルザウェイは大丈夫?」
「俺も問題ない。しかしグラビパス、お前ハンター募集は結局しないのか?」
「今はこれ以上ドンドルマで人と会いたくない……っ」
「そうっ、かっ!」
変な呼び方をしてきたから鉄拳制裁を放ったらガードされた。くやしい。ていうかハンマー使いのくせにガード慣れしてきてんじゃない。
「すまないが、少しいいだろうか」
ジャーマンスープレックスにも慣れてきているようだから諸手狩りで正面から足を狙う。正面から相手の両ひざ裏に両手を差し込みつつ肩で押し、背中から倒れさせる技だ。
「くたばれェ!!」
「くわとろ!?」
さすがに初見技には対応できないようだ。このまま絞め落としてくれようか。
「プ、プレシパスさん! オルザウェイも! やめてってばっ! 人が見てるよっ!」
「うん?」
メーイルに止められてそばに知らない人が立っていることに初めて気づいた。
その人物は女のハンターだと見て分かった。全身をナルガシリーズで統一しているのだしハンターに違いない。しかしなんだ、そのあみあみの胴体は。それで防具と言えるのか。これはキリン装備にも言えることだが頑丈さに不安を感じてしまいそうだ。
おまけに太ももの内側も露出させて、なんなんだ。最近は太ももを出すのが主流なのか。
「談笑中に突然声を掛けて申し訳ない。我はリナータフ」
「はあ、そっすか」
凛々しい顔つきでナルガ娘はそんな発言。しかしなんだこのナルガ娘。一人称が我とか初めて見たわ。
いや、今は一人称よりも……ある一点を見つめる。それはリナータフと名乗った女の胸部。めちゃくちゃでかい。かつてメーイルが偽装してた頃のサイズが大タル爆弾だとすれば、リナータフのそれは大タル爆弾Gだ。同じ大タルでもGと無印では大きな差がある。
そしてこいつのは詰め物ではない。横乳が見えている。つまり偽物ではない。イコールこいつは敵だ。
「何の用っすか? 私こう見えても忙しいんで」
自然と対応が刺々しいものになってしまうのも仕方ない。すぐにもぎにいかない私の忍耐力を褒めてほしい。
「我は先の闘技大会で君に熱くされたうちの1人なのだ。この感動を君に直接伝えようと思ってね」
「はあ」
「回りくどい言い方をしてしまった。つまり我は君たちのファンになったのだよ」
「やっぱりドンドルマは暖かいなぁ。暖かくなると変なのって出るよなぁ」
ファンとか意味の分からないことを言いだしたが、こいつが敵であることに変わりはない。
「少し虫の居所が悪いんで、もういい? あとちょっとで噴火しちゃうから」
「おお、まさにグラビモスだな! あと少しでグラビームが出るというわけか!」
「お望みのグラビームをくれてやらぁ!!」
「じゅどぉ!?」
切望していたようだし遠慮なくたった今グラビームと名付けたジャーマンスープレックスをぶっぱなった。
私はたしかに忠告したはずだ。だから今のは私は悪くない。
「プレシパスさん!? 何してるんですかっ! この人はオルザウェイじゃないんですよっ! ダメじゃないですかっ!」
「お、俺でもダメだと思うぞ!?」
「ごめんごめん、ごめんて。ついうっかり」
「えと……リナータフさん? 大丈夫ですか? ……気絶してる」
思わずドヤ顔を浮かべてしまった。メーイルが「めっ」と怒った。それで怒ってるつもりかコイツ。
「この人、どうしよう……」
「その辺に放っておいたらいいんじゃないか?」
「そんなのダメですよっ」
伸びてしまったリナータフを結局放置できず、仕方ないので私たちの宿まで運ぶことに。
一応女同士ということで私の部屋に運び込むことになった。ちなみにメーイルとオルザウェイはそれぞれ個室だ。私のも1人用の部屋。
「……コイツいつまで気絶してるんだよ」
私のベッドを占領しやがって。
シングルだぞ。何故お金を払った私がベッドで寝れず、人をグラビ呼ばわりするこいつがベッドで寝てるんだ。
いっそベッドから落としてやろうかと思ってしまった。いかんいかん。
考えれば確かにこいつは人をグラビ呼ばわりした無礼ものだが、私の名前をそもそも知らなかったという可能性がある。これ以上鞭を打ちつける真似はやめておくべきだ。
「それにしても」
……でけぇな。胸。
これ絶対将来垂れるだろ。可哀想に。だが巨乳が悪いのだ。つまりコイツの自業自得だ。
「……」
無意識に、引き寄せられるように私の手が、そいつの胸へと動いていった。
うっわ。なんだこれ。変な感じ。防具部分で押さえられているとはいえ、抵抗があるようでないような不思議な感触。え、これ潰れちゃわない? 大丈夫? いや、潰すべきか。もぐべきだな。この感触はNTRする邪悪な感触。正義のためにもぐべきだ。
「……っていかんいかん」
私は何をやっているんだ。
正気に戻らなくては。もぎたい欲望に従ってはいけない。もいでいいのは心の中でだけだ。
「……んっ」
お、気づいたようだ。良かった。もう少し早く目覚められていたら私に変態のレッテルが貼られるところだった。
「気づいたかー? 気づいたなー? ほら、起きろ。いつまでも私のベッドを占領するな」
「ああ、すまない」
上半身を起こすリナータフ。防具からはみ出ている横乳は動きに対応して形を変える。くそが。
「……っと、言っておく。私はグラビモスと呼ばれるのは嫌いなんだ。またグラビ呼ばわりをしたら私は私を止めれる自信がない。いいか、私の名はプレシパスだ」
「ああ、なるほど。プレシパスか。改めて我はリナータフ」
ふむ、やっぱり名前を知らなかっただけか。巨乳ではあるが、性格は悪くないのかもしれない。一人称は変だけども。
「一緒にいた他の2人は?」
「2人は別の部屋で今頃のんびりしてるよ。もう夜だし寝てるかもな。で、リナータフの取ってる宿はどこ。しょうがないからそこまで送ってやる」
「いや、大丈夫だ」
私の申し出を彼女は断った。
まぁ向こうがそう言うなら別にいいけど。
彼女はそれより、と別の話題を出す。
「実は話し掛ける前に、君たちの会話を盗み聞きしてしまってな。その内容が興味惹かれるものだったので話し掛けたのだが」
「うん?」
「なんでもハンターを募集しているとか。見たところ君たちは普段3人なのだろう? そこに4人目を募集しているのなら、我は是非とも立候補したくてね」
「あー。その話か」
ひょっとして闘技大会で見た私の戦いっぷりを間近でも見たいというファン魂だろうか。まさか希望者がいるとは思わなかった。だがこちらの条件をまだ彼女は知らない。
「まぁ確かに募集してるけどね。つっても私たちはドンドルマを拠点にしてるわけじゃないし、結構遠い町を拠点にしてるから。だから募集しているハンターは移住オッケーなハンターだよ」
改めて考えてもこの条件ってやばいな。普通は集まらないわ。
しかし向こうは伊達にファンを名乗ってないらしい。
「つまり、我でも大丈夫と言うことかな?」
「マジか。え、移住オッケーなの? え? マジで?」
「むしろこちらから近くに住まわせてくれと頼みたいぐらいだよ」
……一人称が変で巨乳だけど、防具の質から見て結構ランクが高いと思われる。性格も問題なし。
そして移住オッケー。さらにはメーイルの条件もクリアしている。巨乳ではあるが……あと当初の私の密かな目的から外れるが、優良物件かもしれない。コイツを確保すれば、オルザウェイを煽り倒せる……
「……よし! 合格!」
「本当か!? ありがとう!」
私の手を取り喜ぶリナータフ。少々スキンシップが激しめなようだがまぁこれぐらいなんてことはない。
だがリナータフは私の手を自分の胸へと移動させていき、柔らかな感触を伝えさせてきた。
これは……何考えてるんだ?
「えっと……?」
「ああ、感謝を伝えたくて、どうしようと考えたのだが、これしか思いつかなくてな」
「おう……? えと、やめてもらえる?」
感謝を示すのに巨乳を揉ませるとか? ビッチか。やっぱり邪悪だわ。
「フフ、さっきまでは積極的だったじゃないか。照れているのか?」
なんだコイツ。
なんか、鼻息が荒い。なんか、身の危険を感じつつある。
「ああっ……イイッ……! その目、最高……ッ。はぁんっ……」
「……うっわぁ」
こいつはやばい奴だ。絶対やばい奴だ。
これはオルザウェイの女版なのかもしれない。同性もイケるクチだ……!
「あ、こっちも、触ってほしい……っ」
「え、ちょ、や、やめろ!? ほんとにやめろ!? 私はノーマルだからやめろ!?」
私の手をすごい力で握りながら移動させるリナータフ。その移動先はヤツの股間部。
全力で抵抗しているが性欲に忠実な化け物に力負けしてしまっている。やっぱりハンターはどいつもこいつもゴリラだ。
くそ、今日はすでにメーイルの股間を触ってしまったのだぞ。1日で2人の股間を触るとか私がヤバイ奴じゃないか。やめろマジで。
そんな願いむなしく、とうとう前掛けの下、パンツまで私の手を動かされ……そして触れた。
……え、何コレ。硬い。
「ひゃぁんっ」
「……え、うわ、ビクンビクンしてる」
え、これって、え? 大きい目のボーンククリじゃないよねこれ。大きすぎるし……え?
「ふわぁっ……じらさないでっ」
「えと、あの、え?」
すでに手は自由になっていた。
リナータフが私から手を離し、自分でパンツをずりおろし始めたからだ。
そして私はそれを見た。
フルフルベビーではない、成体のフルフルを。いや、フルフルというよりはガムートだ。
「そんなに見ないでっ、でももっと見てっ」
「お前も男じゃねぇか!!」
「はまぁん!?」
まさかメーイルと同じパターンとは。しかもこっちは変態。うん? あれ? しかし胸は間違いなく本物だった。いや、今も触ってみた感じでは本物だ。詰め物でもない。……まあいいか。
制裁のスープレックスにより伸びたリナータフのパンツを元に戻す。腰巻もしっかりと、念のため簡単には緩まないように全力で締めてやった。若干締めすぎて本体が苦しそうだがまぁいい。
またベッドに寝かせるなんてしない。部屋から追いだして身の安全を確保して寝ることにした。
明日、メーイルたちにヤツのことをなんと説明しよう。そんなことを考えながら。
翌日。
「プレシパスさん! 本当にハンターを見つけるなんてすごいですっ」
「なんつーか、変な人もいるんだな」
私より早く起きたメーイルたちが、先にリナータフと遭遇してしまったようだ。
「フフ。これからよろしく頼むよ。我の名前は言いづらいだろう? リナでいいよ」
「ボクはメーイルですっ」
「俺はオルザウェイです。こちらこそよろしくお願いします」
爽やかに挨拶を交わしている所悪いが、そいつは危険人物だ。
「あー、その、やっぱり昨日の話はなしで。というわけでよろしくしなくて大丈夫です」
「プレシパスさんっ! ひどいですよっ! 確かにリナさんは変わった体質かもしれませんが、だからって!」
「変わった体質って……」
「ああ、この子たちには正直に話したよ。一緒に行動するならどうせバレるだろうからね。我が両性具有ってことが」
「りょーせーぐゆー?」
なんだそれは。専門用語を言われてもわからん。
「まぁ簡単に言えば男女どちらでもある……でいいのかな? リナさん」
「うん、その認識でいい。他の人はどうか知らないけど、我はそう認識しているし」
ほーう?
「まぁなんにしろリナータフは危険人物なので、よろしくしなくて……」
「ダメですっ! リナさんはもうボクたちの仲間ですっ」
「ダメじゃないですぅ! そいつは私の花を散らそうとしたんだぞ! 私を餓えた野獣の目で見てるんだぞ!」
「ええっ!?」
メーイルが本当かどうか確認するかのようにリナータフを見た。
「誤解されてそうだからハッキリ言うとするが、我はプレシパス狙いで仲間にいれてほしいと言ったわけではないよ」
「嘘つけ! 私に嬉しそうにガムート見せつけるわ触らせるわと変態行為しまくったくせに!」
「ガ、ガムート……? え、フルフルベビーじゃないの……?」
「メーイル、大丈夫だ。大事なのは大きさじゃない。それにベビーじゃないかもしれないからあとで俺に見せ──!?」
言いきる前に制裁。
「いや、本当なのだけど。我は君たちを見てティンときたんだよ」
リナータフはまるで歴戦の勇姿のような顔つきで言った。
「全員可愛がりたいなって。だからプレシパスだけを狙ってるわけじゃなく──」
「ハーレム狙いとかなお悪いわァ!!」
「じゅどぉ!?」
なぜだ。メーイルと関わってから変人との遭遇率が上がっている気がする。類は友を呼ぶというのか? メーイルが原因だな? ちくしょう。
「よし、帰るぞ! こいつが目覚める前に!」
「え、でも……」
「でもじゃない! さっきの発言聞いてただろ!? コイツマジやべぇよ!」
「そういう冗談なのかもしれませんし……」
メーイルは納得がいってないようだがそんなの関係ねぇ。
こいつを連れていくということは私の危機だけでなく、メーイルの出口が出入り口にされかねないのだ。オルザウェイも同じくだ。危険すぎる。
危険な生物は置いて、私たちは自分たちの町へと帰った。
それから数日後。
「……なんでいんの?」
「メーイルちゃんから町の名前は聞いていたからね。それと我は確かに全員を可愛がりたいなーとは思っているけど、無理やり手籠めにしようとは思っていないよ。同意って大事だからね」
ナルガ装備のヤベーやつが酒場に当たり前のようにいた。
「移住も済んだし、今後とも末永くよろしく頼むね?」
「うげぇ……」
「フフ。戦っている姿も素敵だったけど、怖がる顔も可愛いね……興奮しちゃうじゃないか。ほら、我のココ、収まらなくなりそう……」
ぞっとした。もう純粋に怖い。
そんな思いを隠しながら、私は変態にラリアットを喰らわせた。
名前について
リナータフ
逆から読めばフタナリ
言い訳
キリン装備男の娘ってメジャーなのかな……とぼやいた私に、
「ふたなりナルガぐらいメジャー」と教えてくれた方のおかげで頭の中にずっとふたナルガがいたんです。
だから発散させたくてなんか書いてしまいました。
正直続く予定はなかった。