町の公園にて。
「な、なぁメーイル? そろそろ機嫌を直してくれない?」
「……」
私の言葉を無視し、ガムをクチャクチャ噛みながらヤンキー座りをしているメーイル。似合わないグラサンはどこで買ったんだ。
「プレシパス、どうしてくれるんだ……」
「うるせぇ、私だってこうなるとは思わなかったんだよ……」
「メーイルちゃん、その座り方だとスカートの中が見えちゃうよ。正直涎が止まらない」
「……」
無言で座り直すメーイル。
まぁなんというか、メーイルがグレてしまった。
こうなったきっかけは、きっと昨日の出来事だ。
いつもの4人で飯屋にて昼食を取っていた時だった。テーブル席で2:2で向かい合って座る。私の対面はオルザウェイとリナだ。
「ハァハァ、ねぇ、パンツ何色? 我のを教えるから教えてくれないかい?」
「お前の血の色で染めてやる!」
「いけずぅ」
いつものようにリナのセクハラ。そして今回は近いこともあってオルザウェイによる制裁。
私の隣では美味しそうにオムライスを頬張っているメーイル。
私はメーイルをじっと見つめた。
美味しい~とかいいながら幸せそうにしていたメーイルは、しばらくしてから私が見ていることに気づいたようで。
「? プレシパスさん、どうかしました?」
「なぁ、メーイル」
「はい?」
ここ最近で気づいたことを、私は能天気そうなメーイルに言うことにした。
「お前、結構影薄くない?」
「………………え?」
何を言われたのかよくわかっていなかったのか、ポカーンと間抜け面を晒すメーイル。
「なんていうか、地味っていうか……存在感が無くなりつつあるっていうか。まぁ可愛いけども普通だよな」
「…………え」
「丸鳥卵とじのお客さまー、お待たせしましたー」
「あ、私ですー」
「………………え」
「いただきまーす」
「……………………え」
その日はご飯を一緒に食べるだけで、特に狩りに行くことなく解散となった。
ずっとメーイルはポカーンとしていた。
次の日にはすでに、冒頭の姿になっていた。
「メ、メーイル、そんなことしなくてもお前の存在感はすごいから。輝いているから。ほら、こんなグラサン外しちゃおうな」
ガムをくっちゃくちゃ噛むメーイルからグラサンを外そうとすると、ぺしっと手をはたかれた。グラサンを外させる気はないらしい。
「ボク……じゃない。おれだってたまにはこういうことしたいんだよ」
「お、おう。メーイルもたまにははっちゃけたいよな。わかる、わかるぞ! だがなんというか、もう少し落ち着いたはっちゃけ方の方がいいんじゃないか?」
「うるせーサイテー男」
「メーイルッ……!?」
言葉だけで膝から崩れ落ちるサイテー男は放置でいいか。
今はこの反抗期を迎えてしまった男の娘を矯正しなくては。ていうかグレてもキリン装備はやめないのな。
「2人ともメーイルちゃんの意志を尊重してあげなよ。我もメーイルちゃんとイケナイ遊びをしようかな」
「すみません、触らないでもらえます?」
「メーイルちゃんに素で冷たく返されると我も傷ついちゃうな……」
セクハラ魔が傷ついたのは良いことだからヨシ。
「どうせおれなんて存在感ないんだよお」
「そんなことないから。ほら、機嫌直そう? 普段通りの可愛いメーイルに戻ろう?」
「おれは可愛いメーイルじゃないんだよお。カッコいいメーイルなんだよお」
「お、おお……そうか」
やべぇな。
早く止めないとメーイルの黒歴史が更新され続けてしまう。これ絶対あとで思い返して赤面するタイプのやつだ。
しかしどうやって説得しようか。たぶんグレた切欠は影薄い発言のせいだろうけど。
「オルザウェイもリナもメーイルの説得をもっと頑張ってくれよ! 私だけじゃ荷が重すぎる!」
「そ、そうは言ってもだな。俺もこんなメーイルは初めてで……」
「おー? やんのかおらあ」
「くっ……! グレ方まで可愛いな……!」
オルザウェイはもうダメだ。
グレメーイルすら肯定してしまうダメ男だ。
一方でリナはというと、
「メーイルちゃんの自由にさせてあげたらいいじゃないか。我はメーイルちゃんを止める気はないよ」
「えぇ……コイツ絶対あとで後悔するよ。あとで思い出しては枕に顔をうずめる日々を送るって、コレ」
「そうかもね。だけどメーイルちゃんだって子供じゃないんだから、自分の選択ぐらい自分で責任を取れるよ」
「これってそんな規模の話か……?」
リナは説得放棄。オルザウェイと違った方向でのグレメーイル肯定派だ。
ということはやっぱり頼れるのは私のみ。
「メーイル、私はお前を見捨てないからな! 黒歴史がこれ以上増えないようにお前を──」
「うるせえ絶壁」
「そぉい!!」
「ふぁいやぁ!?」
あっ! 反射的にジャーマンスープレックスが。
だが今のはメーイルが悪い。人の身体的特徴を馬鹿にするやつが悪いのだ。グレていようと許されません。
「メ、メーイル大丈夫か!? き、気絶している……」
「今のうちにガムとグラサンは没収しとこ」
「じゃ、じゃあ俺はメーイルの介抱を……」
「目つきがやらしい。私がやる」
「なっ!? 犯人のお前より俺がやるべきだろう!」
何が犯人だこのやろう。たしかにスープレックス犯だけどお前の目つきと手つきが危ない雰囲気ありすぎなんだ。だったら私がやるべきだ。
「我がやるよ。といっても安静にさせるだけなんだけどね」
「もっとも信頼できないやつが何を……」
「リナが介抱とか、ロクでもない未来しか見えない……」
「失礼な。気を失ってる子に手を出すほど我はろくでなしではないよ」
リナにふざけている様子はない。
あまりリナについて詳しく知らないから普段のイメージで考えてしまっていたが、案外分別はあるのかもしれない。だとしたらさっきの私たちの態度は悪かったか。
だが全面任せるわけにはいかない。というか、私たちにできることは多くない。ただメーイルが気がつくのを待つだけだし。
つまり刺激しないように、安静に、だ。なので今だけは制裁をやるとしても控え目。万が一メーイルに流れ弾ならぬ流れラリアットがいったら大変だからね。
「それにしても、今のリナはなんというか真面目な感じだな。普段からそういう雰囲気でいてほしいんだけど」
「激しく同意する」
「我はこれでも良家の子だからね。猫を被るのも得意だよ。ふふ」
そう言って穏やかに微笑む姿はとても変態には見えない。ナルガ防具ではなくドレスとかなら本当に良家の令嬢のように見えるぐらいだ。
考えたら私たちはそれぞれの生い立ちを全く知らない。まあ知らなくても問題ないとは思っているが。
しかし良家の子がハンターなんて危険稼業をするのは……
「ひょっとして、わざわざハンター業を選んだのはお家への反抗的なやつ?」
「それもあるかもね。けど大部分は趣味だよ」
「趣味ぃ?」
「フフ、生命の危機に陥ると人は種の保存を行いたくなる本能があると聞いてね……」
「あ、もういい。それ以上言わなくていい」
「雰囲気の風紀を即座に乱すな、こいつ」
隙あらば変態発言。風紀のために是非とも永遠に猫を被り続けてほしい。
「まあ俗説だったのか、それとも我にそういった本能がないのか。期待どおりの展開は一度もなかったね」
……俗説か。
私のパートナー探しに利用できるかもとか少し考えかけたが無用のようだ。
「命の危機になったことがないってことか?」
「というより、我は少し身体のつくりが違うからね。子を成すことできないんだよ。どちらの性別としても」
なんでもないようにリナは言うが、デリケートな部分っぽく思えてしまう。オルザウェイも同じように捉えたようだ。
「それは、なんというか……」
「気にすることはないよ。この身体は子を成せないけど、男女どちらの楽しみも味わえる便利なものなんだからね。我はこの身体を誇りに思うよ」
そう言って自分の胸と股間を撫で回すリナ。それやめろ。真面目な話のなかで流れるような変態行動はやめろ。
「それに我は言ってしまえば性別を超越した個体だよ。人間の上位存在にも思えないかな」
「おう、上位存在。普段の変態行為で自分の評価が地に落ちてることに気づこうな」
「現在進行形でめっちゃくちゃ落ちてるからな」
「ちょっとしたお茶目なのに……」
私の知っているお茶目とは大きく違う。良い家柄の教育方針は謎に包まれてそうだ。
今なお伸びてるメーイルを3人で囲んでいると、酒場の受付、というかハンターズギルドの出張支部の受付の子がやってきた。
「リナータフさん、探しましたよ~。あなたを尋ねてこられた方が来ているんです」
「我を? ああ、なるほど。もう見つかっちゃったのか」
「なんだか気難しそうな人だったので、すぐに来ていただけると嬉しいんですが……あの、メーイルさんはなんで寝てるんですか? まさかそちらの2人が……サイテーですね」
「違う! 俺は悪くない!」
「私も悪くない! メーイルがグレたんだ……!」
「メーイルさん、かわいそうに……。あ、リナータフさんは酒場までお願いします。メーイルさんは私が介抱しておきますんで」
この受付の子、私たちの主張は完全無視する気か。
弁明に力を注いでも良かったが、必死過ぎて逆にダメになるパターンを予見。それよりリナの客というのがなんとなく気になったので私も酒場に行くことにした。
オルザウェイは受付の子についていくようだ。きっと追い返されることだろう。
「誰が来たか心当たりありそうだったけど、ドンドルマの知り合い?」
酒場につくまでの間に気になったことをリナに尋ねる。
見つかっちゃったかとか言ってたあたり面倒臭そうな雰囲気はある。コイツ見てくれだけはいいからなぁ。痴情のもつれとかなら勘弁してほしい。いや、それよりもセクハラによる恨みを買ってたという可能性のほうが高いか。
「いいや、おそらく来てるのは我の親だよ」
「ほー」
「両親は心配症でね。連れ帰りに来たんだと思う。すまないね、まだそれほど一緒に狩りに行けてなかったのに」
「なんと」
まぁついさっきの話からして立派なお家だろうし、子供の心配なんて当然しているか。
メンバーが減るのは残念だけど、家の事情なら強く言えない。日常のセクハラ行動はともかく、狩りでは心強かったんだけどなぁ。
「もしまた縁があったら一緒に遊んでほしいな」
「性格がまともになってたらな」
「手厳しい要求だ」
「めっちゃまともな要求だと思うんすけど」
そんなやり取りをやっているうちに酒場へとつく。
近くには豪華な拵えの車が停められていた。家紋らしきものまで描かれている。
「……ひょっとして結構なお貴族さま?」
固まる私をよそにリナは酒場へと入っていく。
今更ながらこれまでのセクハラ制裁って不味かったかな……
「うおっ、なんだこの竜車……」
「あ、オルザウェイ。思ったより早く来たんだな」
「……締め出されてしまったからな。それよりこの車ってリナの客か?」
「うん。家族らしい。連れ帰りに来たっぽい?」
やっぱり追い返されたか。良かった良かった。もしもリナの家族が制裁の件で怒ってきたら、オルザウェイも一緒に怒られるコース。そう、私はひとりじゃない。
「本当に良家の子だったんだな。しかし連れ帰る、か……過保護な感じがするな」
「まあ貴族っぽいしなぁ。私たちとは違うのかもしれん」
普通の家庭ならリナの年齢ぐらいだと独り立ちしているだろうが、立派なお家は跡取り問題とかあるだろうしね。
雑談を済ませ私たちも酒場へと入る。店内を見渡せば、少し前までとなりを歩いていたナルガ装備のリナが隅のテーブル席に座っていた。対面には両親らしき姿。
考えたら、迎えに来ただけなら私たちは行く必要ないのでは。あー、でも挨拶とかした方がいいんだろうか。
うーん、わからん。とりあえず近くの席から様子を窺おう。
少し離れた席に腰かけ聞き耳を立てる。
リナからは見えてしまう位置だが、両親からは見えない位置だ。
「お父様、このお店ではブリートが人気ですよ。私などは2日に1回は頼んでしまうんです」
聞きなれたリナの声の、聞きなれない口調。っていうか私とか言ったよ。普通の一人称使えるのかよアイツ。ていうかお父様って、滅茶苦茶似合わなくて笑っちゃいそう。
特に打ち合わせなどしていなかったが、オルザウェイも盗み聞きをしていたようだ。変顔で驚きを表現してくれている。
「そんなことはどうでもいい。リナータフ、他に言うことはないのか」
「……勝手な行動、反省しております」
やーい怒られてやんのー、と普通のお家なら揶揄いに行ってた。だけど変に目立って「あ、このグラビ、以前私の頭を叩きましたの、お父様」とか言われたらたまったもんじゃない。なのでここは心の中だけで揶揄っておこう。
よーく反省するんだぞ。反省して変態行動を控えるんだぞ。親父殿、もっと言ってやってくだせぇ。
「何について反省しているのか言ってみろ」
「……家に戻らなかったことです」
うわぁ、親父殿ネチネチしてるなぁ。あんな親父殿じゃ家出もしたくなるわな。その点だけは同情しちゃう。
「私たちがどれだけ心配したかわかっているの? 夕方には戻るからと言って、闘技大会を見に行ったきり戻ってこず、ドンドルマ中を探し回っても見つからない。やっと居場所がわかったと思ったら、またハンターとして活動しているだなんて、聞いたときは倒れそうになったわ」
おふくろ殿もリナを責めるように言う。
しかし闘技大会を見に行ったきり戻ってこなかった……?
「おい、今の話って……」
「……みなまで言うな。私の良心が傷つく」
隣からオルザウェイが私を責めてくる。理由はわかっている。わかっているとも。
今、リナの怒られている理由って私のせいだわ。闘技大会のあと、私が気絶させたせいだわ。リナが目覚めた時には夜になってたし。
「……これ、私も謝るべきだよな。やっぱり……」
「そりゃそうだろ……」
だよなぁ。
貴族さま相手に怒られにいくのはさすがに緊張する。だけど行かねば。
そう思い席を立つ。するとリナは私を見ながら手のひらを向けてきた。「待て」みたいなニュアンスに見えたのは私の勝手な思い込みだろうか。
「何だ? まさかこの町で知人を作ったのか?」
「顔見知り程度の仲です。気になさらないでください。お父様の許しなく勝手に友人など作りませんわ」
アイツは顔見知り相手にセクハラをかますのか。ってそうじゃない。それよりあの親父殿は子供の人付き合いにすら口出しするタイプか。うわぁ、超めんどくせぇ。聞いてるだけで腹立ってきた。
「わかっているならいい。これはお前のためでもあるのだからな」
「はい」
「何度も何度も勝手な行動ばかり、いつまでも親の手をかけさせおって」
「申し訳ありません」
「何がお前のため、だ。制裁すっぞてめ──!」
「待てプレシパス! 相手は一般人だ! さすがにまずい!」
無防備な親父殿に制裁を下そうとしたが、オルザウェイに羽交い絞めされてできなかった。
「な、なんだ? 喧嘩か? 物騒な……」
「こ、この町ではよくあることですわお父様。それよりもお店を出ましょう」
「わかった! 軽く小突く程度に済ます! その程度で済ますから離せ! あいつには制裁を下さなくちゃいけない!」
「謝るって話はどこいった! それと人間はグラビモスが小突いただけで死ぬんだ馬鹿グラビ!」
「グラビかどうかお前で試してやらァ!!」
「ふりぃざ!?」
羽交い絞めされている状態から両足を同時に上げ、下ろす勢いで乙女をグラビ呼ばわりする馬鹿を投げる。変な悲鳴をあげたが生きているし意識も残っているようだ。死んでないということは、私はグラビではない。乙女であることが証明された。
「は、はやくお店を出ましょうお父様、お母様」
「そうだな、こんな野蛮な場所は危なすぎる……。こんな治安の町でよく暮らせたものだな」
「みなさんとても優しい方ばかりでしたので……」
「だからといって気を許してなどいないだろうな。お前のそのみっともない身体が世間に知られれば、苦労するのはお前なんだ。すぐに家に戻るぞ」
みっともない身体、というのはリナの巨乳のことではないのだろう。
たしかにあのデカチチはみっともないと思う。もぎたいと思う。だがそれのことではなく、あの男が言っているのは両性具有のことだろう。
あの男に制裁だけして、他人のお家事情にあまり突っ込む気はなかったが。だけどあんまりすぎるだろう、今の発言は。
『気にすることはないよ。この身体は子を成せないけど、男女どちらの楽しみも味わえる便利なものなんだからね。我はこの身体を誇りに思うよ』
気が変わった。普段の制裁では何も変わらないだろう。
子離れできない親父殿に、私から親切なお話を聞かせてやろう。
メーイルから没収したグラサンをかけて、ズズイとリナ一家に近づいた。
「おうおうおう! おっさん、ちょっと面貸せやオラァ!」
「な、なんだね君は……」
「プ、プレシパス? ま、待ってくれ」
「なんだ、リナータフ。このチンピラみたいなのはお前の顔見知りか?」
私には怯えていたがリナには強気をキープする親父殿。
一方リナは返答に窮している。それどころか私にどうするつもりだと目で訴えてきている。心なしか、余計なことはするなとも言われている気分。
だけど私は図太いのだ。そんな目なんて知ったことか。
「おいおいおい、人が話し掛けてるのに無視しないでくれるかなァ? あァ!?」
「……何か用かね」
自分の父の身が心配なのだろうか。珍しくリナが慌てているのがわかる。普段飄々としているから新鮮で面白い。
だが安心してほしい。親父殿だけじゃなくお前も大変な目に合うから。
「おたくの教育方針について聞きてぇことがあんだよ」
「君には関係ないだろう」
「大有りなんだよ! いや? おたくのお子さんが真っ当に育ってたら私も口出さねぇよ? けどリナータフさん普通じゃないよね?」
どこかから、あのチンピラグラビを止めろだのと声が聞こえる。私のチンピラ演技は結構上手いようだ。
「……うちの子が何やら迷惑を掛けたようで。後日謝罪しよう」
「謝罪なんざいらねぇんだよ。私はおたくのお家でリナータフが更正できるか聞きてぇのよ」
「甘やかしてきたことは私も反省している。今後は厳しく育てるよ。もういいかね」
「私に無理矢理股間を触らせてきたんだよ、そいつ」
周囲の視線が一斉にリナに向かったのがわかった。その中にはおふくろ殿の視線も含まれている。
親父殿は言われた言葉を飲み込めていないのか、ワンテンポ遅れて反応した。
「え?」
「だからリナが嫌がる私に無理矢理股間をまさぐらせたんだよ! パンツの中まで見せてきたぞ! 抵抗したのにすげぇ力でさぁ!」
「え?」
「1日だけじゃねぇぞ! 毎日毎日、セクハラに怯える顔が興奮するだのなんだのと、私の心労やべぇんだよ! 隙あらばセクハラだ! 私は毎日セクハラ犯に教育的指導してるんだよ!」
「セ、セクハラ?」
「お家でその異常性欲を更正してくれるなら文句ねぇよ? でも無理なら私のとこで更正させてやるからさ。連れてくのやめてもらえねーかな?」
引き留めるための口実4割、本心6割って具合だ。割りと本気で更正は望んでる。
しかし証人が私だけでは弱いか。周囲の観衆はリナが変態って知らないしな。この暴露も嘘っぱちだと思われてるかもしれない。
「……リナータフ、今の話は本当かね」
リナに確認する親父殿。突然喚きだしたグラビド装備のチンピラの言葉は信じるに値しないというのか。
しかし確認に応えたのは、別の人物だった。
「本当のことだ。ちなみに俺もそいつのセクハラ被害に何度も遭ってる。昨日はパンツの色を教えろとせがんできたし、今朝は尻を撫で回されたぐらいだ」
見てくれだけは爽やかイケメンのオルザウェイだ。
「まさか男にまでも……い、いや、男に興味をもつのは正しいのか?」
「あなた、セクハラ自体間違ってるわ……」
親父殿、すこし混乱してない?
確かにリナの性別はややこしいけども。男の尻に興味をもつのは正しいことだろうか。
まあオルザウェイの掩護射撃は助かる。よそから来た人にはあいつの評判なんて知らないしな。誠実そうな雰囲気のある好青年の証言に思えたことだろう。
証人も増えたことだし再度聞く。
「それでどうなんだよ、リナの変態性を更正できるのか?」
「……できるとも。この話はこれ以上ここでするのも不味い。君たちへの謝罪は後日必ずしよう」
お、折れないだと。
私の頭に浮かべていた計画。リナの変態っぷりに両親ドン引き、この子の教育は君たちに任せるよ。という流れが完全に崩れてしまった。
「マ、マジ? 無理しなくていいんだよ? そいつの変態度合いは一般人には抑えられないよ?」
「確かに面を食らったが、親として子に正しい道を教えなくてはいかん」
急にまともな父親っぽくならないで? さっきまでの糞親父っぷりはどこ行った。
「い、いや! 甘いぞ! リナは本当にヤバいやつなんだ!」
「おお! オルザウェイ、言ってやれ! リナのやべぇところを教えてやれ!」
「や、やめてくれないか君たち。こんな衆人環視の中でうちの子の風評が悪くなることは……」
「え、えっとだな……こう、隙あらばセクハラするっていうか」
「それはもう言った!」
くっ、使えないやつ!
「い、今でもリナは変なことを考えてるはずだ!」
「そうだ! リナ、今考えてることを言ってやれ!」
テンパり気味の私たちはリナへと話の矛先を向けた。
突然のパスにリナは令嬢の微笑みを浮かべる。
「プレシパスにオルザウェイ君、2人とも余計なことを言い過ぎです」
いや、そこは変態発言をするべき場所でしょ。空気読んで空気!
「2人のせいでお父様もお母様も、私を見る目に警戒が入ってしまったじゃないの」
「い、いや、私たちは事実を言ったまでで……」
「俺はプレシパスに流されただけで……」
何をさりげなく私のせいにしようとしてるんだ、オルザウェイは。
リナは困ったようにため息をひとつついて言った。
「まったく、今日はお父様を可愛く鳴かせようと思ってたのにやりづらくなったわ」
「え」
「……ドン引き発言を求めてたけどさすがにキツいぞ、それ……」
近親相関はどうかと思います。
可哀想に、親父殿が固まっちゃったじゃないか。
「フフ。性技には背徳感がまた最高のエッセンスになると思うんだ。お父様にも良い話だと思うよ。娘に可愛がられる倒錯感なんて味わえる機会はないからね」
「え」
「ああ、もちろんお母様も一緒に可愛がるよ。我は仲間外れなんて作らないとも。家族仲良く3Pと洒落こもうね」
「え、り、リナータフ……?」
「ちなみに今日の我は挿入したい方の気分だからお父様、アナ──」
「ハイ、強制ストーップ!」
「さんだぁ!?」
「リナータフ!?」
これ以上ヤバい発言をさせるわけにはいかない。この酒場から出禁を受けかねない。
しかしさすがに制裁を受けなれていやがる。変な悲鳴をあげたがまだまだ元気そうだ。
「プレシパス、嫉妬してるのかな? 大丈夫、次に会うときちゃんと可愛がって──」
「ヒェ……い、いけ! オルザウェイ!」
「どりゃあ!」
「みゅう!?」
大勢の前での堂々とした変態発言だ。オルザウェイの制裁も大衆を味方にしてるためキレがいい。でもサイテー男の評判は覆らないと思ってる。
「…………プレシパス、と言ったね」
「うん? 何か」
攻撃を掻い潜られて尻を撫で回されるオルザウェイを横目に親父殿に応対する。
「リナータフに伝えてほしい。我が家に変態は要らない、と」
「……ま、承りやーす」
「私たちは帰らせてもらう。それでは失礼するよ」
まあ狙いどおりになってくれたけど、素直に喜べないのはなんでだろう。
「プレシパスさん、あの人がごめんなさいね」
親父殿がもう行ったのに、おふくろ殿は私に声をかける。なんとも、夫のフォローに回る苦労人気質なのかな。
「リナータフのこと、ずっと心配してたのよ。私もだけど、あの人なんて特に」
「はぁ」
「その、アソコを触らせられたぐらいだから知ってると思うけど、リナータフの身体は特別でね。それを知った人は気味悪がって、いつもリナータフから離れていった。でもあなたたちなら大丈夫みたいで安心したわ」
「離れようとしてもすごいくっついてくるんすけど。今もオルザウェイの被害がすごいですよ」
リナの動きがヌルヌルすぎて怖い。絶好調だ。オルザウェイがこのままでは喰われてしまう。なんで防具が脱げつつあるの。こわ。
「……あの子のこと、今後もよろしくね」
「目の前の惨劇、見なかったことにしました……?」
「もしもあの子に愛想をつかしたのなら教えてちょうだい。あの子を迎えに来るから」
「え、でもさっき」
「リナータフはあなたたちの前だから変態になってるだけよ、たぶん。あの人は言い方が素直じゃないの。家族との縁を切ったわけじゃないのよ」
めんどくせぇな、それ。ていうか私たちの前では変態って質が悪い。
おふくろ殿はぺこりと会釈をしながら酒場を出ていった。
救援を求めるオルザウェイを無視して私も酒場から出ていくことにした。
翌日。飯屋にて。
「納得がいかん……」
「おう、どしたー?」
「リナの昨日の痴態が演技扱いされて、俺は相変わらずサイテー評なことが納得いかん」
それはなんというか、ご愁傷さまだ。
「他人事みたいな顔してるがお前もサイテー評価を受けてるからな」
「私は影で殴ってそう、なんてイメージはつけられてないから」
「くそっ……!」
「2人とも普段が乱暴だからね。我みたいにおしとやかにしなくちゃ」
「お父様とお母様のお躾のおかげですわね」
「お育ちがよろしくて羨ましいですわね」
「……そういうところが評判が低い原因だと我は思うよ」
まぁリナの帰省がなくなり、結局普段通りだ。
評判に関しても普段通り、オルザウェイは酷いものだし私も意味不明鎧竜だし、リナは何故か貴族属性がついただけでマイナス評価は受けていない。
「それにしてもプレシパスのチンピラ演技は様になっていたね」
「この中じゃたぶん一番ハンターの経験が長いからね」
「ハンターの経験とチンピラ演技に繋がりがあるのか……」
まぁグラサンがあったから余計チンピラ風に見えたのかもしれない。
丁度グラサンを持っててよかっ……
「……あ」
「どうしたんだい?」
「なんだ? 財布忘れたのか? しょうがないな、あとでちゃんと返せよ」
対面の席に座っているのはオルザウェイとリナ。
私の隣は空席。
「……メーイル呼ぶの忘れてた」
「あ」
「!!!!」
オルザウェイは忘れるなよと言いたい。
「どうせボクは影が薄いですからね……不良になっても忘れられるほどですもんね……」
「そ、そんなことないぞ! だから出てこい、ほら!」
「メーイルちゃんがいないと我も寂しいな!」
「メーイル、違うんだ! 昨日は本当に色々あってだな……!」
3人でメーイルの家の前で必死に呼びかけるも、芳しい反応はない。ネガティブな反応ならあるけども。
「いいですよ、3人でご飯食べに行ってください……」
「み、みんなで食べよう! な!? その方が美味しいぞ!」
「メーイルちゃんがいないと華がないんだよ! だから拗ねないでくれないかい!」
「昨日はセクハラ魔に唇を奪われかけたが死守したぞ! 俺の初めてはお前に捧げるって決めて」
「んな時に意味分からん告白してんなァ!」
「みゅうつぅ!?」
次の日までメーイルは機嫌を直してくれなかった。
たまには真面目回……?
なんだかんだで続いているし、もうこれ短編じゃないですね(´・ω・`)