戦姫絶唱BLACK SHADOW 作:ロヒシ&かづ えい子しょうゆ味
今回もクリス視点でお送りします。次回からはまた光太郎視点に話が戻りますので。
感想などいただけたら励みになります。
あの日の戦いから数日後、あたしは一人廃墟になったマンションに潜伏していた。
ザーザーと降る雨で冷える身体を毛布一枚羽織って耐えながら。
ぐぅー
不意に腹から音が鳴りやがった。手持ちの金が無くなり、昨日から何も食べずにいたんだが、どうやらあたしの腹は限界のようだ。
こんなドブネズミみたいな姿……なんだが昔に戻っちまったようだと自分でも笑ってしまう。
「……結局、あたしは一生一人ぼ……ッ⁉︎」
刹那、扉がガチャリと開く音が聞こえた。まさか、ビルゲニアの野郎が⁉︎
あたしは毛布を脱ぎ捨て部屋の入り口ににじり寄る。
入ってきたらぶん殴ってやろうと身構えていると……
「ほらよ」
突然目の前にデカい腕と袋が現れた。
「応援は連れてきていない。俺一人だ」
そう言って現れたのはいつかの赤毛のオッサンだった。
たしかこのオッサンは奴らの親玉だった筈だ。
あたしは警戒を解かない。するとオッサンはその場にドサリと座ると袋を開け、中に入っていたタッパーの蓋を開けた。
すると、中から美味そうな匂いが漂ってきた。
「フッ、差し入れだ」
そう言ってオッサンが差し出したのはお好み焼きだった。
何でお好み焼きなんだよ⁉︎内心思わず突っ込んでしまった。
「何も盛っちゃいないさ」
あたしが警戒を解かないからかオッサンはお好み焼きを一口食べるとそれをあたしに向かって差し出してきた。
空腹とお好み焼きの美味そうな匂いがアタシの食欲を唆る。
敵からの施しだというのにあたしはとうとう根負けして差し出されたお好み焼きを奪い取って貪る。
その瞬間、あたしは思わず「美味い」と口にしてしまった。こんなに美味いのを食べたのは初めてかもしれない。
すると、オッサンが美味そうにお好み焼きを食べるあたしを見てニヤニヤと笑みを浮かべる。それが気に入らなくて思いっきりオッサンを睨みつけた。
「バイオリン奏者、雪音 雅律とその妻、声楽家のソネット・M・雪音が難民救済のNGO活動中に戦火に巻き込まれて死亡したのが8年前。残った一人娘も行方不明となった。その後、仮面ライダー…当時『黒い悪魔』とバルベルデ軍に呼ばれていた彼の介入により事態は急転する。バルベルデ軍は壊滅、軍によって囚われていた人々も国連軍によって救出、保護された。そして、君もその一人として日本に移送される予定だった」
「ヘッ、よく調べているじゃねぇか。そういう詮索反吐が出る!」
「そういうのが俺達の本職でね。当時の俺達は適合者を探す為に音楽界のサラブレッドに注目していた。天涯孤独となった少女の身元引き受け先として手を挙げたのさ。ところが、日本帰国後に少女は消息不明。二課から相当数の人間が駆り出されたが、この件に関わった者の多くが死亡、或いは行方不明という最悪の結末を迎えた」
「昔話をごちゃごちゃと……何がしたい⁉︎」
「俺がやりたいのは、君を救い出す事だ。引き受けた仕事をやり遂げるのは大人の務めだからな」
「ヘッ、大人の務めときたか……余計な事以外は何もしない嘘つき連中のくせに!お前も!あの南 光太郎も!どいつもこいつも大人は……!」
「その南君の事なんだがな。君の誤解を解きに来た」
誤解だと?そんなもんあるはずがねぇ!あいつは『黒い悪魔』で、あたしの大切なモノを全部奪ったんだ!
それだけじゃない。あいつは人間じゃないバケモノだったんだ!
「君は南君が両親を殺したと思っているが違う。彼は、仮面ライダーは、君を助けようとしていたんだ」
オッサンの話では、南 光太郎はあたしが軍に捕まったと思って助け出そうとして戦っていたらしい。だけど、最初に破壊した施設の中で大勢の子供が殺されていたのを見てあたしも殺されたと勘違いをして怒りのままに軍を壊滅させたらしい。
だけど、そんな話は信じられなかった。
もっと信じられなかったのはその後にオッサンから語られた事だった。
南 光太郎はこの世界とは違う世界からやってきた人間だった。しかも、その世界でゴルゴムとかいう暗黒結社に改造人間にさせられたと。
人間では無くなった南 光太郎は仮面ライダーとしてゴルゴムとずっと戦い続けた。その中で育ての親や兄弟同然に育ち敵の幹部となってしまった親友を失ったらしい。
「身体は人間ではなくなっても心は、心までは彼は人間のままだった。そして彼は最後まで戦い続けたんだ。改造人間になってしまった事や、大切なモノを守れなかった悲しみに苦しみながら……」
「そんな話信じられるか!」
「信じるか信じないかは君次第だ。だが、そのお好み焼き美味かっただろう?それは南君が君の為に作ったモノだ。彼は今も君の身を案じながら君を探し続けている。俺は、そんな彼や君自身の為にも君達の力になりたいと思ってる」
「ふざけんな!」
あたしは声を荒らげる。
突然そんな話を聞かされて、今さらあたしの勘違いみたいな話をされて納得なんかできるかよ!
だって、もしそうだとしたらあたしは……
ズキッ…!
刹那、あたしの頭にまた激痛が走る。何なんだこの痛みは⁉︎まるで頭の中に何かが入り込んでくるみたいだ。
「大丈夫か?」
「うるせぇ!あたしは大人の言う事なんか信じねぇ!」
あたしは窓を突き破ると聖詠を唱えギアを纏う。
そして、そのまま雨の中を一人突っ走っていった。その間、また頭の中を塗りつぶされるような感覚があった。
それから数日後の夜、港にノイズの大群が現れた。
あたしはギアを纏いノイズどもを蹴散らしていく。あの時の謎の頭痛はいつの間にか治っていた。
クッ、ノイズの数が多い。おまけにバカでかいヤツとビルゲニアが作り出した怪人ノイズまでいやがるから手こずっていた。
バカでかいノイズの放った砲弾があたしを襲う。直撃は避けたがノイズの砲身があたしに向く。
クソッ、このままじゃ…!
刹那、突風と共に赤い閃光があたしの横を通過する。それと同時にバカでかいノイズと雑魚ノイズ達が一斉に吹き飛ばされた。
いったい何が……?
呆然としていると、現れたのはバイクに跨った黒い悪魔ーー仮面ライダーだった。
まさか、あたしを助けたのか?いや、そんなハズはねぇ!そんなハズは……!
「クリスちゃん、大丈夫か⁉︎」
「うっせぇ!あたしは、あたしはお前なんかに守ってもらう必要なんかねぇんだ!あたしは一人ぼっちなんだ。死んだって誰も悲しまねぇ……だからあたしの事なんか……ッ⁉︎」
刹那、パンッと乾いた音と共に頬に痛みが走った。
殴った…?光太郎兄ちゃんが…あたしを……?何で…?
「誰も悲しまないなんて…そんな事言うんじゃない!俺は、俺はもう二度と『家族』を失いたくないんだ!」
仮面越しに奴が泣いているように思えた。
茫然とするあたしを他所に、奴は怪人ノイズと戦闘を始めた。
すると、飛行ノイズが奴を狙っているのが見えた。だが奴は、怪人ノイズと戦いに夢中で飛行型のノイズに気づいていない。
すると、飛行ノイズが一斉に奴に襲いかかった。
あたしは咄嗟に引鉄を弾き飛行ノイズを蹴散らす。
「クッ、これで貸し借りは無しだかんな!」
自分でも何でか分からない。何であたしは奴を助けるような真似をしたんだ?
あいつはあたしから全てを奪ったんだ。なのに、それなのに……
と、考え事をしていたせいか目の前に怪人ノイズが襲いかかってきたことに気づかなかった。
ヤバい!目を瞑るが一向に痛みが襲ってこない。
目を開けると、奴があたしを守るようにして立ち塞がっていた。
その後ろ姿を見てあたしの脳裏にあの時の光景が蘇る。
炎が上がる中、奴は冷たい目をして死んだ子供達を見下ろしていたんじゃない。
あの時、奴は……仮面ライダーは泣いていたんだ。子供達を守れなかった事を悔いて泣いていたんだ。
それにさっき奴が言っていた言葉や色んな人があたしに言ってきた言葉が蘇る。
ーー俺は、俺はもう二度と『家族』を失いたくないんだ!
ーー昔ね、光ちゃんから聞いた事があるんだよ。妹のように大切に思っていた女の子の事。その子を助けてあげられなかったって事をね
ーーそのお好み焼きは南君が君の為に作ったモノだ。彼は今も君の身を案じながら君を探し続けている
奴は……あの人は、あの頃と変わらずずっとあたしの事を考えてくれていたんだ。
なのにあたしは勝手に誤解して、あの人に……光太郎兄ちゃんに何て酷い事を……うっ!
刹那、またあたしの頭に激痛が走る。いったい何だってんだよこの痛みは⁉︎
すると、どこからか声が聴こえてきた。薄暗い闇の底から聴こえる気味の悪い声が……
……チガウ。ヤツガスベテノゲンキョウダ。ヤツガオマエノタイセツナモノヲスベテウバッタノダ
何なんだこの声は…?
すると、何かがあたしの中に入り込んでくる感覚があった。
…ニクメ…オマエノスベテヲウバッタブラックサンヲニクメ!
止めろ!あたしの中に入ってくんじゃねぇ!
あたしは必死にその謎の声に抗おうとした。
だけど、身体が全く言うことを聞かない。
黒い何かがあたしを包み込んでいく。
そして、あたしの意識は引きずられるようにして闇の中へと落ちていった。
次回予告
「あたしに近寄るんじゃねぇバケモノ!」
クリスの言葉に苦悩する光太郎。そんな彼の心を救うのは誰か。
そして、ビルゲニアの卑劣な魔の手がクリスに、光太郎に襲いかかる。
「ハハハハハッ!見たか、この俺が創り出した新たなノイズを!」
窮地に立たされるライダー
その時、不思議な事が起こった。
変身!仮面ライダーBLACK!
次回、戦姫絶唱BLACK SHADOW
第10話『出現ゴルゴノイズ』お楽しみに!