小説 真夏の空席   作:Nagi.rekka

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小説 真夏の空席 prologue.Ⅰ-Kouichirou Phase-

 

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“航一郎、君は ”

 

――僕は

 

“考えねばならない”

 

見つけられるだろか。

 

“君自身の”

 

僕自身の

 

“課題を”

 

答えを――

 

 

 

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「――っ」

 白い光が、視界を満たした。

 閉じていた目は、眩しさに萎縮する。ゆっくりと、まぶたを開ける。

 同時に、低い駆動音と小さな飛行音が聞こえてくる。ぼやけた視界が整うにつれ、ここが飛行機の中だった事を思い出す。

 側面にある楕円形の窓からは、雲の海と水平線が見えていた。そしてその先の空には、どこまでも澄んだ青が広がっている。もう、雲の中を抜けたのだと分かった。

 段々と、加速度的に思考が覚めていく。記憶が蘇る。

 日本行きの飛行機に乗った事、むこうでは雨が降っていた事、搭乗して間もなく眠ってしまった事。 

 時計を見ると、もうアジア圏まで来ている時間だった。7時間は眠っていた事になる。ぬるくなってしまったコーヒーを、少し飲む。

 思考は完全に覚めた。そして対照的に、さっきまで見ていたはずの夢は思い出せなくなっていた。

 けれど、強い印象だけは残っている。それはきっと、あの時の会話をまた夢に見たからだ。もう何度も見慣れているはずなのに、印象だけは目覚めの時に強く、衝撃のように身体に残ってしまう。

 あの会話が、すべてのはじまりだった。

 僕がここにいる理由。大学を休学し、国際線の飛行機に乗り、そしてわざわざ日本へと向かう事になったきっかけ。

 

 “航一郎、君は考えねばならない。君自身の課題を”

 

 あまりにも単純なその言葉に、返す答えを僕はまだ見つけられずにいる。むしろ単純であるがゆえに、その難題が僕を悩ませた。

 僕は、見つけられるのだろうか。この飛行機の向かう先で、日本で、まだ見ぬこれからの日々の中で――答えを。

 

 白状すれば、今日までずっと行き詰まっていた。だから少し休みたいという気持ちが、正直あった。

 こんなにも手掛かりなく、手立ても思いつかない事なんて今までになかった。

 進展もなく同じ場所をぐるぐるとまわる、脱出する糸口を見つけられない日々が続いていた。向き合う課題が答えのあるものならばひたすら挑めばいいし、ペース配分や目処もつく、スケジュールも立てられる。けれど、今目の前にあるこの課題は違った。

 もう少し考えれば、あっさり答えが出るかもしれない。あるいはもっともっと先まで考えないと分からないかもしれない。どんなに遠くてもゴールが見えているものとは、本質的に違う。

 近くにあるのかも遠くにあるのかも分からない。たとえ見つけたとしても、それが本物か分からない。暗中模索、としか言い様がない。

 自分の事なのにという苛立ち、焦り、このまま答えが出せなかったらという不安。

 これがミレニアム問題のような世界的難問ならまだ諦められる。けれど自分自身にとっての課題だと分かっている以上、諦める事が出来なかった。

 人から見れば、大人になりきれないからこんな事に悩んでいるんだと言われるかも知れない。普通はそんなことを、いちいち悩みはしないと。

 けれど、僕は気づいてしまっていた。

 知ってしまった以上、もうこの課題を僕は無視する事が出来ないという事を。 

 

「――ふっ」

 そこまで考えて、小さなため息をついた。

 今日までこんな風に、あれこれと考え続けてきた。けれど答えは出なかった。いや、答えにたどり着く為の方法さえ満足に思い浮かばなかった。しばらく考えるのをやめよう、そう思ってはいるのに気を許すとまた考えてしまう。ふとコーヒーを持ったままだったと気づき、ドリンクホルダーに置いた。

 目線をまた、窓の向こうに向けてみる。

 そこには相変わらず、美しい青空が広がっていた。まるで切り取られた絵のように、鮮やかなグラデーションが水平線から空に向かって続いている。

 自分の心境とあまりにかけ離れた、澄み渡った空。その対比、コントラストに思わず苦笑してしまう。

 日本に行けば、こんな風に晴れやかな気分になれるのだろうか。近づけるのだろうか。今はまだ見えないこの先に、こんな風に卑屈にならず、青空を眺める事が出来る日が来るのだろうか。

 

 僕の憂鬱などまるで知らずに、飛行機は淡々と飛び続けた。

 起きがけにこんな事を考えたせいか、少し疲れてしまい到着するまでもう少し眠る事にした。

 まぶたを閉じ、緊張した思考を鎮めていく。目覚めたら何か思いつくんじゃないかという淡い期待を胸に、僕は静かな眠りについた。

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