――目指す場所も、欲しいものも分かっている。
けれど、行き方が分からない。
遠くに輝く星のように、輝きだけがはっきりと私を魅了し続ける。
魅了されている自分だけが確かに、絶対に、ここにいる。
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午後の教室は、白い光で満ちていた。
梅雨が明けた途端、窓から見える景色は一気に夏の色で染まった。カレンダーを見ればもう嫌でも夏休みを意識してしまう。
同級生達の顔には休みへの期待と共に、どこか緊張感が漂うようになっていた。そしてその原因は、皆ほとんど一致していた。
受験。
もちろん全員が受ける訳じゃない、けれど昔も今も受験に頭を悩ませる高校生は一定数存在していて、私もまたその一人だった。ただ、私の受験は人とは少し違っていた。
美大。
それが私の第一志望だった。もちろん一本に絞る訳じゃない。けれど、他に受けるのは別の大学。それは美大ではない別の道。
経済的に私大は受けられない。だから――
「えー、クーロンの法則とは、電荷に働く力を示します。分子にはこのように比例係数と二つの電荷を置きますが、では分母には何を置くか。神谷さん、分かりますか」
「距離です。距離の二乗です」
「正解です。さて、この式を使って例題を解いてみましょう。まず――」
だからこそ、私は落ちるわけには行かない。
授業態度も内申点も維持してきた、学校のテストならそこそこの点も取れていた。それなのに・・・・・・模試の結果は、いつも今ひとつだった。
美術予備校には通っているし評価も悪くはなかったけれど、準備の遅れた私が絵の力だけで合格できる自信は、正直なかった。
だから、学科配点の高い美大を狙うことにした。学校の成績は今まで決して悪くなかった、だからこそその方針に切り替えた。それなのに・・・・・・。
今までの成績は“学校の中”でしか通じないものだったと思い知らされた。そこからは必死に“模試でも通じる勉強”に切り替えたけれど、自力ではそもそも学校のそれと何が違うのか、どうすればいいのかも分からなかった。
悩んでいる時間さえない私は、学費を稼いで塾に通う事を選んだ。両親には、言い出せなかった。
反対さえせず美術予備校通いもあっさり許可してくれた。けれど、経済事情は分かっていた。これ以上無理は言えなかった。
だから、年齢をごまかしてバイトをはじめた。
お金を貯めて塾に行けば、きっと模試の結果は変わる。そう信じて、夜になるとバイトに出かけるようになった。両親には、美術予備校に通うと伝えて。
最近はようやく目標金額に近づいてきた。このまま行けば、来月には塾に通いはじめる事が出来る。ただ、私には安堵より別の考えが頭に浮かび始めていた。
“・・・・・・本当に、本当に塾に通ったら効果があるのだろうか”
必死にお金を貯めている間は、通う事が目的だったからあまり考えなかった。いや、考えないようにさえしていた。通いさえすれば、すべて解決すると思って。
けれど今、塾そのものに暗い可能性を考えてしまう。もし、もしもそうだったら、私は・・・・・・。
チャイムが鳴り、今日の授業が終わる。
いつものように帰る準備をしていると、後ろから声がした。
「朱鷺子、放課後どーする?」
「ごめん。今日もバイトだから」
「そっかぁ残念。じゃ、頑張ってね」
「うん。受験終わったら、絶対卒業旅行するから」
軽く手を振り、教室を出た。
誘ってくれるのは嬉しいし、断るのは申し訳なかった。もう随分、みんなと遊んでいない。
けれど、やるべき事は目の前にずっと残っている。今は、とにかくやるしかない。
「――よしっ、行こう」
塾に行って、勉強して、本当に成果が出るかなんて分からない。
それでも、迷ってたって始まらない。選択肢なんてない。出来る事を、出来る限りやるしかない、今は。大好きな絵を勉強するために。もっと描ける為の力を手に入れるために。
自分にそう言い聞かせて、長い廊下を早足で歩いた。急がなければ、目指す場所が遠ざかってしまうような気がして。