落雷ブレイブガール!~TS転生勇者、子孫に惚れられる~   作:もぬ

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49. 女子会の恋バナ

 王の住むべき住居とはいまいち思えないような、やや薄暗く埃っぽい部分のある城内をまっすぐ進んでいく。

 大きな階段を上がってそのまま行くと、ここまでの歩みで目にしたものの中では最も重厚なつくりの扉に行き当たった。

 先導していたイシガントが首だけで振り返り、オレ達に向かって笑みを作ってみせる。

 

「さ、こちらが我が王のおわす玉座の間です。まずはあいさつくらいしておかないとね」

 

 すぐ隣で、ユシドが緊張しているのがわかった。

 まあ、なにせ“魔王”だからな。最初は誰でもそうなる。それにオレも久しぶりに会うとなると、イシガント同様、どう会話したものか難しい。

 厚く大きな、古めかしい扉が開いていく。少しだけ、鼓動が速くなった。

 

「王よ。国外からの客人が謁見に参りました」

 

 視線の先には、貴人の姿を隠す薄いベールが、その大きな影だけを映している。

 イシガントにひけをとらない大きな一対の角と、眼球からあふれる剣呑な光がこちらを射抜いている。人間のものとは思えない、凶暴なシルエットだ。

 

「……ああ。ごくろう」

 

 影の魔王が言葉をひとこと漏らすと、それだけで強烈なプレッシャーがのしかかってくる。これは、相手の禍々しいほどの魔力による圧力だ。己を上回る者と相対しているとき、人はそういうものを感じる。勇者に選ばれるオレ達をも上回る“力”がうかがえる者。それが、この魔王だ。

 ユシドが跪き、礼の姿勢をとる。汗をひとすじ流し、委縮している様子だ。

 オレも倣って、適当にしゃがむ。

 

「この国へは、何をしに来た?」

「や、“闇の勇者”を探しに参りました」

「軍団長を? ふむ。もうそんな時世か。ならば、貴様らが今代の勇者どもか」

「え、ええ」

「なるほど、旧人にしては練り上げられた魔力だ。それにその魂の色――ん? あれ? ちょっと待って」

 

 ユシドにやりとりを任せていると、魔王が途中から変な声色になった。席を立ちあがったのか、巨大な影がさらに大きくなる。ユシドが唇を引き締め、その姿を見つめる。

 そして。

 幕の内側から……、青い肌色をした幼い少女が、ひょっこりと出てきた。

 

「あれ? お前、そこのおなご、まさかシマ――」

「勇者パンチ!!!」

「マオーーーッッ!?」

 

 人の正体を口にしようとする悪い魔王は、勇者の聖なる拳によって成敗された。

 

「ええー!?」

 

 素っ頓狂な声をあげるユシドや笑いをこらえるイシガントは一旦放っておき、吹き飛んで玉座に受け止められた女の子に近寄る。ちなみに、王の護衛っぽくこの部屋に立っていた魔人族たちも、とくに彼女をかばうとかはしなかった。人望ないんじゃない?

 オレは昔のように彼女の首根っこを掴み、小声で話しかけた。

 

「魔王ちゃん……久しぶり……」

「いやこんな無礼者おる? シマドだろおまえ。手ぇ離さんか!」

「元気そうで嬉しいな」

 

 にこりと笑って語りかけると、魔王ちゃんは独特の言葉遣いで反抗してきた。魔人族の人々はこうして、各々が妙な訛りの言葉を話すことがある。古代人の伝統を後世に残すためだとかなんとか。

 彼女はこの国のリーダーだが、イシガント共々、ずっと昔に酒を酌み交わした親しい仲だ。あんなに時間が経つのに、相変わらずその体型は出るべきところが出ておらず、青い肌はナスのようにつるつるしていて、角とかが無ければその辺の子どもとそう変わらない。懐かしさが刺激されて、嬉しかった。

 ちなみに、こう見えてイシガントの姉だ。体型を除けば、よく見れば容貌は似ている。

 

「思い出話は後でするとして、最初にひとつ大事なことを確認しておこう。……オレがシマドだということは、決してあそこの少年には明かすな……。いいな……」

「わ、わかったから。というかいきなりそこまで怒る? 理不尽の権化じゃ。カルシウム足りとらんが」

「大事なことなんでな」

 

 小声で強く念押ししてから、彼女の身体についた埃を手でパッパと払って、服の襟をピッピと伸ばしてやる。じゃあ、もう一回やり直しということで。

 オレは元の位置に戻り、再び適当にしゃがんだ。

 

「あ、あの、ミーファ?」

「……いやあ、子どもの頃ぶりに会ったものだから、つい。興奮して昔のようにじゃれあってしまった。びっくりした?」

「そうなんだ……?」

 

 ユシドの訝しむ視線がつらい。オレだってもっと穏当に解決したかったんだ。

 

「では……王よ。客人がお目通りを所望です」

「う、うむ。よくぞ来た、今代の勇者どもよ」

 

 そこからやってくれるんだ。

 取り繕うように咳払いして、魔王ちゃんは玉座に再び腰かけた。魔力で編んでいたらしいベールは取り払われ、大きく豪奢な椅子に、足の短い少女がふんぞり返っている絵面がしっかり見える。

 とはいえ、真面目な表情で話せば、やはり長年リーダーをやっているだけあってカリスマを感じる。仕切り直した魔王ちゃんの言葉に、ユシドが真剣に耳を傾けていた。

 

「訪れた目的は、うちの軍団長を連れ出したい、ということでよろしいか?」

「はい。七勇者の使命についてはご存知でしょうか」

「ああ、嫌というほど知っている。説明はいらん。だが……」

 

 少女は足を組んで、行儀悪く肘掛けに頬杖をつく。そして、冷たい視線で見下ろしてきた。

 

「今はダメだ。我が妹、軍団長イシガントは貸せん」

 

 そう言って拒絶する。イシガントもまた、眉尻を下げた申し訳なさそうな表情でこちらを見ていた。ユシドの緊張が高まるのが、わかった。

 ……彼女たちがオレの頼みを断るというなら、相応の理由があるはずだ。魔王ちゃんは、“今は”ダメだと言った。

 また、何かしらの厄介ごとを抱えているらしい。

 

「しかし、シマ――あ、えー。そうだ、そなたらの名前はなんといったかな?」

「っ! そ、そうか。名乗らずにいた無礼をお許しください。ユシド・ウーフと申します」

「……ミーファ・イユ」

「ウーフ? は? シマドの子孫ってこと?」

「え、ええ。先代はこちらの人々と懇意にさせて頂いたと聞いております。あ、こちらおみやげです」

 

 ユシドが荷物から食料品の入った箱を出す。それを、傍らに控えていた召使いらしい魔人族の女性が受け取っていた。なにそれ? 律儀な性格。先代感心しちゃう。

 ……そんな様子を見た魔王ちゃんは、妙な目つきでオレ達ふたりを見比べていた。

 

「ほおん……はあん……子孫と……へえ……」

 

 意味ありげな視線である。それがだんだんと嘲笑の雰囲気というか、喜色に傾いてきた。ほっておくとムカつくことになる予感がした。

 

「ん。ということは、魔法剣の使い手だったりしないか?」

「ええ。この腰の剣も、先代から継いだものです」

「おお! 魔法剣……! 風の勇者はいつも、そこそこいいタイミングで来よるな。なー?」

「そうね、姉さん」

 

 やがて魔王ちゃんは、ぱん、と手を叩き合わせ、王様モードから一転して人懐っこい笑みを浮かべた。

 

「ともあれ! 今夜は、旅で疲れていることだろう。礼儀正しい者は好ましい。客人として、この城に泊まっていくがよろしい。シマドの血縁、ユシドよ」

「あ……ありがとうございます、魔王様!」

「ふふん」

 

 ちなみに魔王というのは彼女の自称するあだ名であり、他人からそう呼ばれると喜ぶ。

 正確に役職名を言うなら、こう呼ぶのが正しい。

 魔人族の治めるこの地……『影の国』の女王、とでも。

 

「あ、貴様は起きとけよ、シマ……ミーハ? あとで部屋に行く」

「かしこまりましたわ、魔王様」

「オエエ~ッ」

 

 しゃらん、とへりくだって礼をすると、気分の悪そうな顔をされた。は? お前が礼儀正しい方がいいと言ったんだろう。

 こちらです、という従者たちに従い、謁見の間を後にする。

 すれ違いざま、イシガントが「後で女子会ね」とつぶやいた。今は女性として生きている自覚はあるが、彼女の前ではどうも頷きかねて、苦笑してしまった。

 

 

 

 その後は、王の客として会食に招いてくれた。オレが豪華な食事をもりもりと口に放り込んでいる間、ユシドは、魔王ちゃんやイシガントからこれまでの旅の話をしつこく聞かれていた。

 

「幼馴染? へえ」

「魔法剣の師匠? なるほどな」

「――そうなんだ。ということは、5つの魔力を担う勇者たちを仲間にしたの! すごいわね」

「ふん。勇者の使命など、よくやるのぉ」

「ところで……」

 

 会食の途中、イシガントがオレの方を見た。

 

「ミーファちゃんの右耳の飾り、素敵ね。誰かからの贈り物かしら?」

 

 残りのみんなもこちらを見る。だから思わず、ユシドと視線をぶつかり合わせてしまった。

 ……答えられない。でも、答えは教えてしまったようなもの。うつむくと、白いテーブルクロスに、先ほど乱暴に口に入れた果実酒が一滴、こぼれた跡が目立っていた。

 

「……え? マジ? この魔力……お互いの魔力入りの品を?」

 

 何も言っていないのに、魔王ちゃんが勝手に言葉にしてきた。魔人族は、オレ達よりずっと感覚が鋭敏だ。だから、知られてしまっている。

 それを深堀りするのはナシだろ。オレとユシドだけの想い出なのに。

 やっぱり、イシガントのそういうところは変わっていない。これだけは苦手だ。あと魔王ちゃんはムカつく。

 

「あ、あはは。その。ちゃんと冒険に役立つアイテムでして。拙い手製ですが」

「手製!?」

 

 ユシドは少し恥ずかしがりながらも、あまり気にせず答える。

 すまんが、今回は、これ以上話さないでくれ……。

 ちら、と視線を上げる。

 イシガントと魔王ちゃんが、ねっとりとした目でこちらを見ていた。

 

 

 

 会食や湯浴みを終え、広々とした客室でゆっくり夜を過ごしていると。

 宣言通り、おそろしい二人の、まずは妹の方が乗り込んできた。

 

「好きなの!!??」

「帰ってください」

 

 扉をぐっと閉めようとすると、しかし魔人族のすさまじい膂力には勝てず、結局押し入られた。

 はぁはぁと興奮したような吐息を漏らすイシガントは、昔と変わらず妖艶だ。だが、今日はなんか、目つきがヤバい人みたいだった。

 しかたなく招き入れ、互いにテーブルを挟んで腰を落ち着ける。

 彼女が持ってきてくれた、とっておきの酒を開けて、オレ達は向かいあい、笑った。

 

「シマド。本当に、こうしてまた会えることが嬉しい。あなたには、不本意なことかもしれないけれど」

「そんなことないよ。オレは今が楽しいんだ。……イシガント、君とまた会えたことも」

 

 グラスを軽く打ち合わせる。ほんの少しだけ、その液体を、舐める程度口にすると、それだけで顔がほんのりと熱くなった。これくらいなら、前後不覚にはならないだろう。たぶん。

 

「それにしても、すっかり可愛くなっちゃったね。それにその髪の色を見てると……ミナリのこと、思い出すな」

「ああ……そうだな」

「ね、ちょっと意識して手入れしてるでしょ。彼女のこと好きだったもんねー」

「う。まあ、そうだよ。悪いか?」

「まあちょっとキモイかなー」

「………」

「うそ。冗談です。あの子も喜ぶと思うよ」

「……そうかな」

「そうだよ」

 

 200年ぶりくらいに二人になると、自然と、足りないあとひとりのことも恋しくなってしまう。

 思い浮かべる姿は、先代の3人の勇者たち。闇の勇者イシガントに、風の勇者シマド。そして、雷の勇者、ミナリだ。

 彼女は……オレの、憧れた女性だった。

 

「何度もお膳立てしてあげたのに、あなた、結局ミナリに気持ちを伝えなかったわね。意気地なしすぎてもう、呆れたわ」

「おい、今さら説教するのか。……いいだろ別に。ほら、勇者同士でくっつくのって、良くないって言うし」

「その言い訳も懐かしいな~」

 

 オレ達は、思い出話にふけった。

 オレとミナリがこの国にやって来てすぐ、魔人族の人々に窮地を助けられたこと。

 魔王ちゃんが王を引き継ぐための儀式に、従者として付き従ったこと。姉妹喧嘩中だったイシガントと剣を交え、わかりあったこと。

 他の王候補たちと、いくつもの激しい対立争いを繰り広げたこと。候補のひとりが、王になるために呼び出した禁忌の召喚獣を操り切れず、世界が滅ぶ窮地に陥り、けれどそれを、この国の全員が協力して打倒したこと。

 あれはシマドの旅の中でも、一、二を争う修羅場だったな。

 イシガントが旅に同行して、共に戦ってくれたこと。本当に素晴らしい仲間だった。オレ達が聖地までたどり着けたのは、彼女の力が大きい。あの3人だったから、最後まで進むことができたんだ。

 そして……

 

 最後に彼女たちの顔を見たのは。オレが、死ぬ直前だったかな。わざわざ遠い、オレの住むシロノトまで来てくれて。

 嬉しかったな。

 だから……またこうして話すことができたら、たくさん、礼が言いたかった。

 

「ところで……。次の恋の相手は、まさかの子孫の男の子ってことでいいの? ねえ? そうなの? 詳しく聞かせてくれるまで寝かさない」

 

 お礼、言いたくないな。

 

「……別に? まあ、ほら。先達として、とっても優しくしてやったから、向こうは懐いてくれているかもしれんな、もしかしたら」

「告られたの? 魔力入りの贈り物なんか貰っちゃって」

「……………」

 

 ここで返答に詰まってしまったのが、まずかった。

 イシガントは目を輝かせ、オレにユシドのことを根掘り葉掘り聞いてくる。

 酒精で茹だってきた頭をなんとか動かし、なるべくこいつの好みそうな部分を避けながら、これまでの出来事を話してやった。そうしないと本当に寝かせてくれないからだ。彼女は本当にそうする。

 

「……それでさ。その闘技大会で、あいつはついにオレに勝ったんだ。悔しかったな。このシマドさまが、こんな若者に、って」

「その割に、嬉しそうな顔」

 

 どうやらへらへら笑ってしまっていたらしい。口角を手で揉む。

 イシガントがユシドのことを聞いてくれるのは、まあ、楽しい。共通の思い出話に続く、次の話のタネとしては、悪くはない。

 

「で、旅のどっかで告られたわけだな。それで、あんまり好意をまっすぐぶつけられて、ほだされつつある。自分の魔力入りのまじないものなんかを、返してあげちゃったりして」

「………あぇ……?」

「図星! さすが私ね」

「……ち、違う。バカだお前は。そんな事実はない」

 

 情報を与え過ぎた。いい歳して人の恋愛がどうのこうのに興味津々とか、田舎のおばちゃんか、きみは。

 

「あ~おかしい。シマド、昔より少し隙があって可愛いわ。子孫くんに影響されちゃった?」

「くそ……」

 

 ごまかすようにしてグラスを煽る。顔が、かっと熱くなっていった。

 

「ほだされてるとかいうな! あっちが……あっちが、オレにほだされているんりゃ」

「かー、ちょっといいと思ってた男が、美少女になって恋してるとか……」

「は? しっ、しとらんわ。してない」

「自覚がないふりをしてるのね。あ、なんか顔熱くなってきた、あてられて」

 

 イシガントは手をぱたぱたとやって、自分の顔をあおいでいた。

 けれど、そんなのは小休止どころか息継ぎのようなもので、彼女は青色の顔を赤らめ、オレに一方的に詰め寄ってくる。黒い眼球の中の蒼い瞳は今、好奇の色をしている。

 

「ちゃんと返事はしてあげたの?」

「へっ、へんじは……まだ……」

「あ? 保留ってこと? 脈ありの人がやることだよ、それ」

「ちが……」

「どうして答えてあげないの。このままだと、あなたは……」

「だ、だって――!」

 

 イシガントがあんまり畳みかけてくるものだから、大声が出てしまった。

 それで、彼女が口をつぐむと、逆に部屋が静かになって、オレの声がいやに通って、自分の出した言葉が、自分の耳にちゃんと入ってくる。

 

「だって。……懸想している女の中身が、先祖のじじいだなんて……嫌、だろ。どう考えても」

 

 考えないようにしていたそれを、言ってしまって。

 イシガントの顔色を窺う。彼女は、あの頃と同じ優しい表情で、オレを見つめていた。

 

「いや~、長生きもしてみるものね。200年ぶりの再会の話題が、甘酸っぱい恋の悩みとか……」

「旧人どもは性欲旺盛で大変よな」

 

 いつの間にかすぐそばに魔王ちゃんも来ていて、うお、と声が出た。

 にやついた表情が腹立たしい。こういう目に遭うから、オレは、この手の話題は嫌いだ。もうお前たちの口車にはのらん。

 やつらの追及を逃れようとしてそっぽを向き、目を閉じて見せる。

 そうすると自然と、話題の中心だったやつの顔が脳裏に浮かんでしまう。今はこれは良くないと思って、頭から追い出すために、グラスの液体をまた口にした。

 

 ……ユシド。

 あれからずっと口を閉じたままのオレを、キミは、嫌いになったりは、しないのかな。

 それに、中身はじいさんだし。ずっと、隠し事をしているし。

 本当のことを知ったら、どう思われるのだろう。オレを慕ってくれるあの目は、どんなものに変わってしまうのだろう。

 …………怖い。

 

 妙な感傷から逃げて、3人での話に花を咲かせる。オレが去ってから今日までに、この国がどんなふうに発展したのかとか、対立していた王候補たちともうまくやっている話だとか、魔人族の使命に苦労している話とか、いろいろ喋った。最後の方はやっぱり、頭がくらくらして、早く眠ってしまいたかった。この身体は酒に弱いのだとふたりに言うと、目を丸くしてから、大笑いされた。オレも、この変化は大きいと思う。

 そして。酒瓶が底を尽きて、窓から見える夜の空気も深くなってきて、楽しい夜会がお開きになる時間。

 

 ずっと、それを聞きたかったんだろう。

 イシガントは、あのことについて、最後に触れてきた。

 

「ねえ、シマド。あなたがこうして、違う人間に生まれ変わってここにいるということは、まだ……」

 

 イシガントの視線を感じる。魔人族の色の深いひとみは、オレの身体に刻まれた何かを見透かしているようだった。

 

「いいの? 今の仲間たちに、伝えなくて。特に、あの風の子に」

「シマド。後悔するぞ」

 

 かつての仲間たちが、これからの未来のことを心配してくれる。そういうところは、やっぱり好きだ。

 

「いいんだよ。言いたくない。言うなら解決してからがいい。だからふたりも、ずっと、内緒にしていてくれ」

 

 だから、こう返して、それで悲しそうな顔をされるのが、心苦しいと思った。

 そんな顔をするものじゃない。だって、こうして、また会えたんだから。

 

 

 ふたりが部屋を出ていく。

 楽しい思い出話に礼を言って、そして、おやすみを言う。

 それともうひとつ、思いついて。ずっと昔の、最後の最後には言えなかった言葉を、付け加えた。

 また明日、と。

 


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