落雷ブレイブガール!~TS転生勇者、子孫に惚れられる~   作:もぬ

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05. 水魔ミト=ケタ

 トオモ村は、ナキワ地方最大の山岳であるトオモの頂近くに存在する。

 そんな辺鄙なところに誰かが村を立てた結果は自明だ。村人たちは滅多に山を降りては来ないし、よそ者が村を訪れることもない。彼らは稀に特産物である装飾品や山菜を交易の場に持って現れるのみで、ナキワ地方の中では閉じられた里であると言える。

 そうなると。

 村が天災や魔物に襲われて壊滅、などということがあっても、人が気付くには時間がかかる。人間を好んで食らうタイプの魔物が巣食うには、ずいぶんと好条件の土地だった。

 

 僕たちは休憩の回数を通常より控えながら、山を登っていった。あまり時間はかけたくない。

 順調に登山を進めたはずだが……目算より、いささか険しい。

 道中で魔物や凶暴な獣に襲われることはなかった。急ぎながらも、体力と気力の消耗は最低限に抑えている。

 しかし、僕たちがようやく開けた場所に出て、民家が見えてきた頃には、天の日は地平線へ沈みゆくところだった。

 

「これは珍しい! 旅のお方ですかな」

 

 村の入口をくぐると、民家の影から人々が現れた。

 建物や畑が荒れている様子もなく、魔物の襲撃など無かったのだと思わせる。

 村人たちは滅多にない来訪者に相好を崩し、僕たちを快く歓迎してくれた。

 

「ユシド」

 

 わざわざ対応してくれた村長の案内に従い、村唯一の宿であり酒場でもある店へと向かう道すがら。ミーファは僕にしか聞こえない、小さな声を投げかけた。

 

「ここで出されたものは決して飲み食いするな」

 

 

 

 夜も深まり、人々が寝静まる時間。

 しかしそれはすべての生物が眠りにつくわけではない。たとえば夜行性の動物たち。

 たとえば、魔物。

 あまり使われることのない宿の一室を、旅の少女が使っている。村を挙げての歓迎に気を良くし、結果として旅人たちは深い眠りに囚われている。

 虫の鳴き声すらしない、不気味なほど静かな夜。誰も立ち入るはずのないその部屋に、少女のものではない人影がうごめいていた。

 盗人か、悪漢か。どちらでもない。それは人影でありながら、その実、ヒトではなかった。

 害意ある侵入者の細腕がどろりと溶け、鋭利な刃物のように形を変える。やわらかなベッドに身を預けた少女は、もはや二度と目覚めることはないだろう。

 悪意がついに、凶刃を少女の首へと振り下ろした。

 

「村長殿、我々に何か御用ですか」

 

 魔物が振り下ろそうとした腕を斬り飛ばす。

 襲撃に失敗し、振り返った彼の顔には、何の表情もない。

 謝意も、焦りも、痛みも。まったくの平坦そのものだった。言葉が通じているのか測りかねる。

 

「無駄な会話はしなくていい。斬れ」

 

 ベッドから身体を起こして冷たく言い放つミーファの声に従い、つい先刻に笑顔で村を案内してくれた老人の身体を、両断する。

 人間の姿は精巧にできており、非常に気後れしたが……先程斬りつけた腕の傷口も、今しがた真二つにしたものの断面にも、血肉の色やにおいがない。

 

「やれやれ。念願の二人一部屋を台無しにされたな」

「はは」

「……出ようか」

「うん」

 

 戦いの予感に心臓が揺れる。

 旅人の宿となっている2階から下りた。ほんの少し前に人々が騒いでいたように見えた酒場には、誰もいない。テーブルいっぱいに並べられた食事のあとも、綺麗すぎるほど片付いていた。

 まるで村の人々が、夢の泡となって消えてしまったようだと思った。

 ……酒場の出入り口に手をかける。

 消えてしまったのではない。たぶん、最初から、いなかった。

 自分を落ち着けるために、深呼吸をする。覚悟を決めて、戸を開け放った。

 

 外には、大勢の人がいた。こんなに深い夜だというのに、目はらんらんと光っている。反して顔色には生気がなくて、そこがちぐはぐだった。

 村人たちがこちらへゆっくりと近づいてくる。陽気に歌っていた男性、優しく食事を運んでくれた女性、村の外の話をせがんだ女の子。

 彼らは……彼らは、魔物に操られているんじゃないだろうか?

 

「少ししゃがめ」

 

 ミーファに肩を触られて、自分の身体が震えていることに気が付いた。

 言う通りにする。

 

「あまり余計なことを考えるなよ、切り替えなさい。……はあッ!!」

 

 気付けのような一声とともに、ミーファの身体から幾条もの稲妻が伸びた。

 規模も威力もそこらの魔導師とは桁違いだ。そして明らかに、細かい狙いなどつけていない。

 そんなふうに撃ち放てば当然、加減のない雷撃が村人たちを襲う。

 金色の雷霆が、彼らを貫いた。

 

「あれが正体だな」

 

 ドロドロにとけていく人々。雷に焼かれてああはならない。やがてそのまま消え失せてしまった。

 誰かの立っていた場所に近づいてみる。死骸はなく、そこには液体のあとがあった。

 濡れた地面をミーファと共に調べる。

 

「水だ」

 

 不定形の魔物たちの正体は、水のようだ。危険な薬品に使われるたぐいのものじゃなくて良かったと考えられるか。

 立ち上がり、腰の長剣を抜く。

 いつの間にか僕たちは、どこからか現れた新たな村人たちに囲まれていた。

 

「……! くっ!」

 

 手や首を槍や刃のように変化させてこちらを襲ってくる。水とはいえ、まともに食らえば切り裂かれてしまうだろう。

 いなし、斬り返す。次々と順番よくかかってくるやつらを、剣で水に還していった。

 

「きりがないな」

 

 彼らはつぎつぎと湧いてくる。試しに強力な技でまとめて吹き飛ばしてみたが、次の相手をしているうちに、すぐに空いた布陣が埋まっていた。

 

「ユシド、ここを抜けて村の水源を探せ。そこに大元がいるはずだ」

 

 敵は消耗戦を仕掛けている。このままでは飲み込まれてしまうかもしれない。

 ミーファは彼らをここに引きつけるという。残していくのはためらわれたが、彼女はわざわざ僕に目を合わせて、いつもの笑顔を見せてくれた。

 

「"風神剣・断"!」

 

 剣を横一閃に振るい、長大な太刀風で敵の一角を薙ぎ払う。

 囲いを脱出し、水の出所を求めて走った。

 

「はっ、はっ」

 

 湖か、川か、貯水池か。

 そういえば、登ってくるときにトオモ山を流れ落ちる小川を見た。中腹かどこかに、源流があるはずだ。

 村を一歩出て、足を止める。

 あまりに静かだった村内と違い、山中の木々が強い風にざわめいていた。

 集中する。ありがたい。風たちは決して僕の邪魔をしない。むしろ彼らを助けとし、困難を吹き飛ばす。それが風の勇者の担うべき役割だ。

 耳が、水のせせらぎを捉えた。

 

 走る。山を飛ぶように下る。見つけた小川を、今度はさかのぼっていく。

 やがて、村ほどではないが、広い平地に出た。

 中心には巨大な湖。想像以上だ。岸から湖の中心までずいぶんある。

 

「待って!」

 

 後ろからの声に振り返る。ミーファだ。

 

「はあ、よかった、追いつけました。共に魔物を倒しましょう」

「ん、そうだね」

 

 湖をにらむ。あそこに魔物の親玉が潜んでいるのだろうか。

 どうやって引きずり出す? 剣を抜き、魔力を身体に充実させながら考える。

 ひとまず、背後から僕を襲おうとしていた偽ミーファを、なるべく見ないようにしながら切り捨てた。

 

「グ、グ……何故、わかった」

「……好きな女の子を見間違えるわけがない」

 

 などと、初めて魔物が口を利いてきたものだから、格好つけてしまったのだが。

 あれを間違えたら勇者とか向いてないからやめたほうがいい。

 魔物たちはたぶん、僕とふたりで話しているときのミーファをきちんと確認していなかったのだろう。あの子がいつも猫を被っていることにこんなメリットがあろうとは……。

 

『ならばこれはどうだ?』

 

 肝まで底冷えさせるようなおそろしい声が、空気を震わせた。

 

 警戒の度合いを引き上げる。自分を守るように、長刀を正眼に構えた。

 湖から、いくつものヒトが這い上がってくる。身体の動きを阻害しない要所を守る軽装備に、美しい金の髪を濡らした可憐な女性。

 両手で数え切れない人数のミーファたちが、妖しい笑みを浮かべて立ちふさがった。

 

「ぐえ~……」

 

 魂が腐っているのか、この魔物は。

 人を馬鹿にしたような趣向に付き合う気になれず、刀身から旋風を巻き起こして一掃する。

 

「つまらぬことをせずに姿を現したらどうだ。小賢しい」

 

 人間を弄ぼうとする知能はあるようだが、あまり強い魔物のやることとは思えない。

 搦め手ばかりの悪党など、さっさと倒してしまいたいものだが。

 

『安く見おって。良かろう、お遊びはここまで』

 

 湖にあらわれた波紋が、徐々に大きくなっていく。

 太く、長い触手が何本も持ち上がる。それとは別に、湖の中心が山のように盛り上がった。

 ……威容。

 魚の首だ。いや、竜。

 いや、蛙か亀の首にも見える。

 ただしこれまでに見た生物の中で、目の前のものは最も巨大だった。それもそのはず、敵の血肉はこの広い湖そのものなのだから。

 

「水源に大元がって、そういうことね……」

 

 剣を握る腕に力を込める。

 臆するな。あの悪鬼を討てずして、なにが勇者か。

 

「――“断”ッ!」

 

 刃を飛ばす。湖の中心までは遠く、遠距離攻撃でしかダメージを与える方法はない。

 十分に練った魔力が、水面から伸びた柱のような触手を伐採していく。このままやつに届けば……。

 しかし、風の刃は、新たな腕にねじ伏せられた。

 

『やはり人間は弱い。意気揚々と挑んでくるものだから歓迎したというのに……つまらん』

「う……!」

 

 水の巨腕が、目の前に迫っていた。

 飛び上がって避け、湖岸を駆け回る。なんとか躱せるが、防戦に追われていても仕方がない。

 裂帛の気合で、向かってくる水流を両断する。

 そのまま敵に向き直り、右手で剣を水平に構え、左手で狙いをつけた。

 

「“風神剣・穿”!」

 

 刺突の形で魔法剣を放つ。剣先から起こった竜巻がうなり、うねり、竜のあぎとのようにやつへ食らいつく。顔の中心、水山の腹に、風穴が空いた。

 

「よし!」

 

 巨大な魔物には、力の源となる核が身体のどこかにある。

 体積のほとんどを吹き飛ばした。今の技が核に届いていれば……!

 

『風使いなんぞが我に歯向かうとはな。そうれ、貴様の風を返してやるぞ』

 

 ――水の壁が、落ちてきた。

 全身が強い衝撃に打たれる。全身とは、顔から、胴、つま先、耳の穴、余すところなくすべてだ。

 

「ご、が、あッ……!」

 

 山の木々に背中を打ち、肺の空気を何度も交換して、自分がおぼれてはいないことに安堵する。

 ……波だ。重い濁流に、自分は飲み込まれた。

 障壁で身を守ったにも関わらず、多大な全身への負荷。そして踏ん張れずに後ろへ押し流された。

 人にとって恵みであるはずの水が、強烈な質量を伴って襲いかかってくる。攻撃は面となって自分を圧し潰し、なんとか耐えたとしても、はげしく体力を奪う。

 ……水属性の魔法術など、攻撃に向かない。そんなふうに思っていたさっきまでの自分は、空前絶後の馬鹿に違いない。

 人にとって、それはあまりに脅威だ。ともすれば風や火などより、ずっと……。

 

「ハァッ、ハァッ、くそ……!」

 

 巨大な触手が何本も、鞭のようにしなり、追いかけてくる。

 あの腕も、何度斬ろうと無駄だ。身体に風穴をあけても死なない。

 膝に力を入れ、駆けだす。命からがらに丸太のような水塊から逃げる。

 どうすれば倒せる。

 広い湖から核を見つけて潰す? 湖そのものをまとめて攻撃する?

 不可能だ。現実的じゃない。

 

「ぶッ……ぜええ、ぜえ」

 

 無数の腕のひとつに叩かれ、飲み込まれる。

 力を振り絞り、風の守りで自分を包む水塊を散らした。

 ……ただの水ではない。体力が、魔力が、消耗していく。

 目がかすんできた。

 

「ユシド。自力解決はできそうか?」

 

 うずくまる自分のすぐそこで、誰かが砂利を踏みしめた。

 足音には、バチバチと、火花が瞬くような音が混じっている。

 僕を何よりも勇気づけてくれる音だ。

 ……でも。

 

「いや……悔しいけど、糸口が見えない」

「わかった。今回はそこで見ていなさい」

 

 唇を噛みしめる。

 襲ってくる眠気を、霞む目を、痛みでごまかした。

 期待に応えられなかったと思う。そして、悔しい。村人たちをどこかへ消してしまったあいつ。あんなやつに勝てない自分が情けない。

 強くなりたい。

 

 顔を上げる。

 僕の前に、守るように堂々と立つ彼女。その背中を、一挙手一投足を見逃さぬよう、見つめ続けた。

 

 

 

 

「ふんっ!!」

 

 しつこくこちらを狙う触手を、雷で打ち払う。

 

「む」

「そ、んな」

 

 終始水しぶきが飛んでいるものだから、気が付くのにしばし時間がかかった。

 雨だ。分厚い黒雲が、まるで夜の山をさらに暗くしているようだ。

 すべてを洗い流す雨は、しかし、今この場ではあの魔物の力となり得る。見上げていた山のような怪物は、さらに高さを増しているようだった。

 ……背中の情けない声は、聞かなかったことにする。

 

『ファ、ファ、ファ。どこを狙っている。小娘』

 

 湖岸から雷撃を放つも、遠くてやや狙いから逸れる。そのうちの一条は大きく反り、上空の雨雲に吸い込まれていった。

 

 そうやって、笑っていろ、バカが。

 

 まず、自分の足に手を添える。

 右耳の魔石があたたかい力をくれるのがわかる。オレの脚は、淡い風を纏っていた。

 

「いいか、これは本当なら風の得意分野だ。明日にでも身につけろ」

 

 振り返らずに、後ろのやつに言い聞かせる。

 オレは地を蹴った。

 そのまま“空”をも蹴る。

 飛行の魔法術――移動系の技は、7属性の中では、風の領分である。それ以外の属性にも空を行く方法などいくらでもあるが、このように自在に翔けるには、風がもっとも適している。

 湖の中心に向かって飛ぶ。

 遠距離攻撃では、必要な火力が足りない。オレは“剣士”だ。

 腰にずっと大事にしまっていたそれを、さびついてしまう前に引き抜いた。

 触手をかいくぐり、そして届かない高さまで昇る。

 水の化け物に目を落とす。良い眺めだ。

 

 ……右手の剣を、天高く突き上げる。

 真上にはかすかに帯電する黒雲。先程わざと外したように見せかけ、雷術を突き刺した雨雲だ。

 極限まで練り上げた魔力を鋭く放出する。刃のように。いや、もっと。針のように。

 そうして、ソレを喚んだ。

 

 耳をつんざく轟音。紫の稲妻が、掲げた白刃に落ちた。

 人間では到底扱えぬ、極大の力。己の全身を焼こうとする霹靂を、金色の魔力が包み、混ざり、制御し、剣という小さすぎる世界に閉じ込める。

 湖上の矮小な存在を見下ろす。

 今にも飛び散りそうなイカズチを、墜落しながら、そいつに振り下ろした。

 

 ――雷神剣・紫電一閃(シデンイッセン)

 

『ぎいいいいいいああああああああああッ!!!!』

「わっ、うるさ」

 

 雷鳴を轟かせながら、紫光が醜い水塊にひびを入れていく。

 

『よもや、七つの魔の一たるこの身が……ただの一撃で……!! グアアアアアアアッ!!!!』

 

 なんて言ってるか全然聞こえない。

 全身を雷轟につんざかれた魔物は、その体積を縮めていく。

 ……やがて、さざ波も立たない静かな湖だけが、そこに残った。

 にわか雨は止んでいた。

 

 

 

 

 犠牲になった人々への祈りを済ませ、僕たちはトオモ山を下りた。

 

「いやあ、最後の叫び声聞いた? いかにも小物って感じでしょ。風の勇者たる者があれくらいに手こずるんじゃないよ」

「いてっ」

 

 ミーファは僕の額を指で弾き、やがてくつくつと笑った。

 がっかりされていると思っていたが……そんなに機嫌は悪くないみたいだ。

 

「全身が水でできていたんだ。君みたいに雷で焼き尽くす以外にないのでは」

「まあ、風だと相性は悪かったかもしれんが……勇者ならそんなの関係ないぞ」

 

 そうだろうか。火の勇者など、やつには太刀打ちできないのでは?

 

「火の勇者なら、池の水全部蒸発させて勝つ! 地の勇者なら池ぜんぶ埋める! 風の勇者なら……」

「風の勇者なら?」

「水全部よそに吹き飛ばして勝つ!」

「勇者って脳筋しかなれない感じ?」

「バカ言え。最終的にはそれくらいの力がなきゃ、星の台座は動かせないよ」

 

 自信がぞりぞりとすり減っていく。

 なんで僕なんかが勇者に選ばれているんだろう。本当にそこまで強くなれるんだろうか。この紋章、偽物じゃないのかな。

 

「おまえ常識にとらわれ過ぎなんだよ。潜在魔力は、あるの、ここに。鍛錬じゃなくて吹っ切れが足りないんだよ」

 

 指で僕の胸をつついてくる。

 うぐぐ……。

 溜息を吐く。救えなかった村人たちのような悲しい出来事を起こさないためにも、他の勇者たちに並び立たなければ。

 とりあえず、鍛錬は倍だな。

 

「……ところでミーファ。その剣……」

 

 僕の視線を受け、ミーファが腰の片手剣を抜く。

 あのとき垣間見えた美しい刀身は、ほとんどが炭化して崩れ落ち、残った刃元までがボロボロに焦げていた。

 

「最大火力に耐えられないんだよ、キミのみたいにすごい剣じゃないから」

「そうだったのか……」

 

 ミーファが剣を使わない理由は、これ以上ないカタチではっきりした。

 彼女の使う魔法剣の威力に、剣が耐えられない。

 覚えのある話だ。例えば木の剣で風の魔法剣を使うと、刀身がずたずたに裂ける。ミーファの呼び起こす雷となれば、鋼の剣ですらこのようになるのか。

 

「それよりさ。どうだった? オレの技は」

 

 壊れた剣を仕舞い、ミーファは僕の正面に立って顔を覗き込んできた。

 賞賛を期待している目だ。アメジストがきらきらしている。

 

「それはもう……メッッッチャすごかったよ」

「ブハハ」

 

 バカっぽい笑い声をあげて、ミーファは無邪気に喜んだ。

 かわいらしくて、つられて僕も口の端がゆるむ。

 

 正直、化け物染みていると思った。

 彼女がやったことは、『本当の雷』を剣に留めることだ。

 ……人間技じゃない。常人の使う雷術とは比べ物にならないエネルギーがあるはず。自然の雷とは、いわばこの世界自身が扱う魔法術なのだから。

 一生その背中に追いつけない。彼女は天高く飛び、自分は地べたに這いつくばっている。

 文字通り、雷神の一撃。そう感じた。

 

「………」

 

 鞘に仕舞った剣の柄を握り締める。

 名ばかりの風神。勇者たりえない半端者。

 でも。

 顔を上げる。

 歩みは遅いけれど、彼女がこうして隣を歩いてくれるのなら、いつかその手を取れる。一緒の道を、同じ歩幅で進めるようになる。

 僕の心を白く照らす、雷光のように鮮烈なその笑顔を見て、そう思った。

 

 

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