語られなかった者たちの饗宴   作:ゆくゆく

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三人称をちょっと練習したくてやりました。後悔しかしてません。


酒池……肉林……?

 「うえっへっへっへ、ほらぁ〜けーいー、飲めーもっと飲めー! えへへへへへ!! 」

 

 「はぁもう……」

 

 「どうしてこうなったんだ!! 」

 

 

 

 

 遡ること数時間前

 

 

 暖かな秋の日の午後。日頃の疲れを癒さんとソファでうたた寝をする魚臣慧の元へ台風がやってきた。

 

 「やっほー、慧。遊びに来たよー」

 

 陽務楽羽、その人である。以前の慧の誕生日から魚臣宅の心地良さに気づき入り浸っている彼女は、今日も今日とて彼氏の家に遊びに来ていた。

 

 「楽羽……別に来るのは構わないから連絡してからって言ってるじゃん」

 

 「えー……別にいーじゃん。暇してたんでしょ? 」

 

 「いや、まあそうだけどね……」

 

 眠りを邪魔されたにもかかわらず、柔らかな笑みを浮かべて対応する慧。

 

 「ま、いいや。今日は何するの? 格ゲー? それ以外? 」

 

 「私が言えたことじゃないけど彼氏の家に遊びに来た彼女にその二択ってどうなのー? 」

 

 ニヤニヤと意地の悪い笑顔を浮かべながら慧をからかう楽羽。それに応じて慧もまた軽口で返す。

 

 「それ正しくおまいう案件でしょ。それともまさかそれ以外の何かを用意してあるの? 」

 

 「ふっふっふ、そのまさかですよ。てなわけで今日はこれを見よーずぇ」

 

 そう言ってごそごそとカバンを漁り何かを取り出す楽羽。

 

 「んー? なにこれDVD? 」

 

 「そそそ、ちょっと古めのホラー映画。クソゲーの棚漁ってたらなんか紛れ込んでたみたいでさー。戻そうとしたんだけど地味に面白そうだったし丁度いいかなって」

 

 「ふーん……楽羽ってホラー映画とかって好きだったっけ」

 

 「いやー、別にそういう訳じゃないんだけどさー」

 

 あーっとー、えーっとー、等と普段のズケズケ言う態度からは考えられないような態度で言い籠もる楽羽。

 

 「……なんか企んでない? 」

 

 その怪しさに慧も目を細め追求する。

 

 後ずさる楽羽。

 

 距離を縮める慧。

 

 

 (ループ中)

 

 

 「わ、分かった! 言う! 言うから離れろ近い! 」

 

 1人用にしては広いとはいえ、そこまで大きいという訳でもないリビングでは捕まるのも時間の問題であった。壁際に追い込まれた楽羽と追い込んだ慧。構図だけ見れば壁ドンにも見えなくはないが……

 

 「いやー、慧ってホラー見ると女子っぽい反応するんでしょ? それが見たくって」

 

 女側がこれである。ロマンスなど起こるわけもなかったのだ。

 

 「全く……そんなことだろうとは思ったけどさ。あんなのテレビ用だよ。そんなビビるわきゃあないでしょ」

 

 「あっ、フラグ……」

 

 「その納得したような顔ムカつくなぁ……」

 

 「くふふ、いいじゃんいいじゃん。ほら、早速見ようよ。電気消して、カーテン閉めて。ポップコーンは買ってきたよ」

 

 「あー、コーラとかあったっけな……」

 

 そう言いながら台所へ向かう慧。その間に映画の準備をする楽羽。こういうところだけを切り取ると仲の良い夫婦にしか見えないのだが。

 

 「ごめん、楽羽。楽羽が飲めそうなのエナドリかりんごジュースしかない」

 

 「りんごっ……ジュースっ……」

 

 「おいコラ、何がそんなに面白いんだ。りんごジュースは徹夜明けの身体を程よく癒してくれるんだぞ。エナドリ漬けの楽羽にもぴったりじゃん」

 

 「いやいや、別にぃー? ふふっ……子供舌の慧きゅんにはお似合いだなって! 」

 

 流れるように煽りあいをするあたり変わらない二人であった。

 

 

 

 

 「さて準備万端! レッツ視聴! 」

 

 「ちょいちょいちょい楽羽さん、近くない? 」

 

 ポップコーンとりんごジュースを用意し、テレビの前に陣取る二人。その距離はほぼゼロである。

 

 「……? 」

 

 「いや、? じゃないから。こんなくっつかなくてもいいでしょ」

 

 「……いーじゃん別に。細かいこと気にしてるとモテないよ」

 

 「えぇ……まぁ楽羽が良いならいいけどさ」

 

 「でしょ? ほら、見よ? 」

 

 部屋は暗く、互いの顔も見えない状況だった。だからだろう。顔を赤く染めつつ不機嫌そうにクッションに顔を埋める楽羽に慧が気づかなかったのは。

 

 

 

 

 

 

〜映画鑑賞中〜

 

 

 

 

 

 

 

 「…………」

 

 「…………」

 

 映画が終わり、二人は一言も発することも無く手を繋いだまま部屋の電気をつけに行く。苦言を呈していた慧も楽羽にピッタリとくっつき離れる気配がない。と言っても楽羽の方からもくっついているので離れようとしても離れられないだろうが。

 

 

 「「こ……」」

 

 「「怖かったぁああああああああああ!!! 」」

 

 「何あれ何あれ何あれぇ! 全然B級じゃないじゃん! めっちゃガチガチのホラーじゃん! 」

 

 「いやいやいや、こっちのセリフだよ! めっちゃヤバいやつじゃん! 超ビビったわ!! 」

 

 詳しい内容は伏せるが魚臣慧、陽務楽羽ともに渾身のガチビビりである。

 

 「ね、ねぇ慧」

 

 「う、うんどうしたの楽羽」

 

 「そ、その今日泊まってっていい? あと一緒の布団で寝ていい? 」

 

 「……こっちから頼もうと思ってた。よろしく頼むね」

 

 「と、トイレ行く時は着いてきてね? 一人で行ったら明日ぶっ飛ばすからね? 」

 

 「むしろ積極的に起こしてよ。夜起きた時に隣に楽羽が居なかったらビビり散らかす」

 

 甘々なカップルの会話に見えるが2人ともガチビビりのせいで気づいていない。ある意味シラフじゃない状態の方が関係が進むあたり恋愛偏差値の低さが伺えるというものである。

 

 「やー、びびった……適当にご飯作るから手伝って楽羽」

 

 「はいはーい……今は1人で待ってるのさえ怖いわ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ん、こんなもんかな。楽羽、冷蔵庫から適当に飲み物持ってきてくれない? 」

 

 「りょーかいっと……んー、あれ? 慧、これお酒? 」

 

 「んー? ああ、そうそう。何、気になるの?」

 

 「まー、ちょっと飲んでみたい気はするかも」

 

 「いーんじゃない、別に。家で軽く飲むくらいなら大丈夫でしょ。まぁ、楽羽さんがお酒によわよわな可能性はあるけどねぇー? 」

 

 「お? 喧嘩売ってんの? りんごジュース(笑)さんが飲んでるお酒とか余裕なんだけど? 」

 

 一緒に料理をしている間に落ち着いたのか、甘い雰囲気はどこかに消え去り何時もの二人である。

 

 「ほーん? じゃあ飲んでみなよ、ちなみに俺はそれを1ダース一晩で開けたことがあるよ」

 

 

 嘘である。

 

 

 「いやいやー? 私だって正月に親戚と飲み比べして勝ったことあるしぃー? 」

 

 

 当然のように嘘である。

 

 

 「「………………」」

 

 

 

 「「勝負じゃオラァ!! 」」

 

 

 

 

 

 

 

 そして話は冒頭に繋がる。そこまで強くないとはいえ自分の限界量を知っている慧と、元から酒には弱いくせに調子に乗ってがぶ飲みした楽羽。勝負の結果は明白であり……生まれる状況もまた明白であった。

 

 

 「んだよー、けーいー。さぁっきからぜぇーんぜんのんでないじゃーん! なんだぁ? わらしのしゃけがのめないゆーんかぁ? あーん? 」

 

 「いや、もう楽羽その辺にしときなよ……べろべろじゃん。飲み屋のおっさんとかわらないよ」

 

 「んだとぉー! こんなうら若い乙女をつかまえてぇ、おっさんだとぉー! けいはそんなんだから乙女心がわからんいわれるんだー!! 」

 

 「きょうだってぇ、いい雰囲気になりぇるとおもってホラー持ってきたのにきづいてくんないしぃー」

 

 「くっつきたかったのにないがしろにしゅるし!! 」

 

 「ばかぁ! けいのばかー! 」

 

 人は酔うと様々な反応を示すが───陽務楽羽という少女はいわゆる本音を言いまくるタイプであった。そしてそういうタイプの人間は往々にして……

 

 「いや、ちょ楽羽さーん……あのごめん。謝るからその辺にして。双方ともに恥ずかしさで死ぬ」

 

 「うるさぁーい! だいたい私はけいのことこぉーんなにすきなのに! けいは全然言ってくれないし!! ばかぁー……すー」

 

 

 言いたいことを言うだけ言って寝る。残された側の心情はそれはもう大変なことになるのだ。だが、

 

 「そんなに言ってないつもりは無かったんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 「……好きだよ」

 

 「楽羽、大好き。愛してる。めっちゃ好き」

 

 魚臣慧もまた同じタイプの人間であった。机に倒れ込んだ楽羽の頭を優しく撫でながら愛を囁く姿はなんとも絵になっている上に据え膳と言えなくもないのだが……

 

 「……うえっ、やばいちょっと吐きそう。調子に乗って飲みすぎた……」

 

 そこで襲えないからこその魚臣慧、総受け鰹なのである。とはいえ楽羽をベッドに運んでからトイレへと行くあたり男らしいとも言えるが。

 

 

 

 

 

 

 翌朝

 

 

 「……楽羽さーん」

 

 「おーい、楽羽さーん」

 

 「布団にくるまってアルマジロみたいになってる楽羽さーん」

 

 酒の席での失態は覚えている人間とそうでない人がいる。そして楽羽はどちらかと言うと前者であった。

 

 「…………慧」

 

 「はい、なーに」

 

 「昨日のことは忘れて。あと私の顔を見ないようにトイレまで連れてって。あと3秒で吐く」

 

 「ちょ!? そういうことはもっと早く言えって! あああ、もう顔見ないでってどうやんのさ! 」

 

 「あ、ちょ、変なとこ触んないで。マジで吐いちゃう」

 

 「だあぁ、もう! しょうがないなぁ!! 」

 

 青ざめながらも昨日の失態を思い出しているのか赤面し顔が紫色になっている楽羽と、もう死体を運ぶ要領で運ぼうかなどと考えている慧ではあるが

 

 ───二人ともどこか幸せそうな雰囲気であった。




私、こういう普段は本音を言えないけどお酒の力で素直になる系のシチュ大好き!


※この世界線では家飲みに限り合法だけど、現実では未成年飲酒は違法だからね!
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