「おーい、
ふと気がつくと見知らぬ場所に居て、サンラクくんが私の名前を呼びかけてきていて。その時点でこれが夢だと気づく。
「やぁ、サンラクくん……どしたの? 」
偽装でもなんでもない、心の底から出てくるような冷たい笑みを浮かべ疑問をぶつける。
「どしたの? ってデートの予定だろ? だって今日はお前の誕生日なんだから」
ああ、そういうこと。
この夢のコンセプトを理解すると共に己の脳みそを引きずり出してぐちゃぐちゃにしたいような感覚に襲われる。
イラつく。人並みに誕生日を祝って欲しいなどと思っている自分がいることに。
ムカつく。それを夢という形でしか実現できない己に。
腹立つ。
ここが現実ならば頭を掻きむしり、物にあたり、爪を噛み……とにかく癇癪を起こしていただろう。だけれども夢の私は動かない。冷たい笑みを浮かべ、凍りついたかのように。私が動こうと思わない限り動かないということだろうか。
ああ、もういいか。どうせすぐには目覚めないだろうしそれまでこの泡沫の夢を楽しむのも悪くない。その後に感じるであろう諸々は未来の自分に放り投げよう。サンラクくんもそんなこと言いそうだし。
「あははぁ、ごめんねぇ……? ついつい浮かれて忘れちゃったよぉ……」
「んだよ、それ。ま、行こうぜ」
「おやおやぁ、こんな昼間からどこに連れ込まれちゃうのかなぁ? 若い獣欲、ぶつけられちゃうのかなぁ!? 」
「公衆の面前で痴態を晒すな! 普通にデートだっての」
「私は公開プレイも悪くないけどねぇ……ま、それは別に機会にしようかなぁ? 」
「するか! ったく……」
うーん、認めたくはないけど私の脳が生み出しただけあってすごい再現度だなぁ。でもこれは所詮夢。VRと似たようなものとはいっても現実でこんな事が起きる訳もなく。
……あー、ムカつく。
◆
「やー、色々したな。どうだ、
「んー、まぁねぇ……ただちょーっと疲れちゃったかなぁ」
ふと気づくとシーンが飛んでいた。まあ夢だしこういうこともあるのだろう。何となく楽しかったという気持ちだけが残っていてなんともまぁ気持ち悪い。
「そっか……あー、そのさ」
「……? 」
というかさっきから感じるこの違和感というか苛立ちは何だろうか。夢であることは別にどうでもいいし……
「うん……これ、プレゼント。
「…………ああ、そっか」
チッ……違和感の正体はそういうこと。何ともまぁ私らしくエゴに満ち溢れた答えね。
私が好きなのはサンラクくん。私が愛して欲しい
でもこの夢の
それはつまり私は私が嫌いな私を彼に見て欲しいと願っているということ。いや、それに留まらずどこかでこうも願っているのだろう。私の全てを受け入れて欲しいと。
同情なんてクソ喰らえ。
憐れみなんか消えてしまえ。
そんなものを向けられても私は怒り狂うだけ。
でも誰よりも真っ直ぐに私のことを見てくれる彼にそれを向けて欲しいと願う自分がいる。この夢はそれを見せつけてくるようで。
「………………最悪」
表情を取り繕うことも出来ず苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てる。
ああ、最悪。本当に最悪。さっさとこんな夢覚めろ。最悪の誕生日だ。
◆
「………………チッ」
ベッドから身体を起こすと共に舌打ちをする。
詳しい内容は覚えていない。いないが……とてつもなく不快な夢を見たということだけはわかる。
「…………サンラクくん」
最近会えてない。新大陸にいるというのは知ってるけど。……探しに行ってみよう。何となく今はそうしたい。
◆
「……チッ」
何回目かも分からない無作為な転移。MP的な問題は無い。かかった時間だってスペクリの後に彼を探していた期間を考えるととても短い。でも何故だかとても不快だ。
「はぁ……【
「ひょっ……【
NPCもチョロいもんだわ。適当に囁いてやれば簡単に言うことを聞く。
「……ここは…………ッ!? 」
しまった、油断した。乱数転移はあくまでもセーブポイントの近くに飛ばされるだけ。つまり転移先でモンスターに襲われることは十分にあるわけで。
「…………はぁ」
ダルいな……やっぱり最悪のたんじょ……
「ぉぉぉぉぉぉぉぉおらあああぁぁぁぁぁ!!」
……何かがとんでもない速度でカッ飛んできたかと思えばモンスターごと吹っ飛んでった。
「……くふ」
自然と口から喜悦の感情が零れる。私は知っている。あの星の輝きを。龍災の夜に見たあの五芒星の輝きを……!!
「ったく、着地地点にいるんじゃねぇよ……おーい、そこのプレイヤー! 大丈夫かー……あ? 」
「うえへへへ、サンラクくぅん!! これはもう運命ということで宜しいかなぁ!? 」
「げっ、ディプスロ……てめぇなんでこんなとこにいるんだ、ああ"? 」
「いいじゃなぁい、そんなことぉー……それよりさぁ、私実は今日誕生日でしてぇ……え? 」
自分で言いかけた言葉に驚く。……私は何を言ってるんだ。彼にこんなことを言ってもどうせ何時もの憎まれ口が飛んでくるだけ。さっき見た夢のせいかどうも思考が纏まらない……ムカつく。
「あ、いやなんでもな」
「あー、誕生日ぃ? あのなお前……」
……はぁ、聞かれてたのか。さっさとどっかに跳ぼうか。ホント最悪の誕生日だ 「そういうことは早く言えよ。プレゼントとかなんも用意してねぇぞ」
…………えぇ?
「え、今なんて……? 」
「あ? だから誕生日とかいきなり言われてもなんも用意してねぇって。あれか? プレゼントはサンラクくんが良いとか言うのか? 悪いが非売品だぞ」
え、え?
「え、あの、祝って……くれるの? 」
「……あのなぁ、確かにお前は絡まれるとうざいしスペクリの時のことは未だに許してねぇし下ネタ大魔神だけどな」
そんな前置きの後に彼はいつもの調子で、いつものように私の予想を上回る言葉を投げてくれた。
「それでも誕生日祝わねぇほど冷たく思ってもねぇよ」
きゅっと胸の前で手を握りしめる。
ときめくとか、胸が踊るとか、私とは無縁の概念だと思ってたし、そんなこと言ってる奴は嫌いだった。でもそれがどうだ。好きと言われた訳でもない。キスやら性行為に走った訳でもない。ただ冷たく思ってないと言われただけで
───こんなにも胸の高鳴りが抑えられないなんて……
「……おい、なんか言えや。柄にもなく黙りこくって。そんなに誕生日用意されてなかったのが悲しいのか? 」
「うぅ……違うよ、ばかぁ……」
「……へっ!? 」
ううう、涙が、感情が抑えられない。私が私じゃないみたい。だって何時もだったらこんな姿、誰にも見せたくないのに今だけは彼に居て欲しいと願ってる。しかも心のどこかでとかじゃない。全身全霊で願ってる。
「……サンラクくん」
「はっ、はい、おう、ど、どどどした? 」
「……ふはっ」
今度は可笑しい。すごくテンパってるサンラクくん。こんなの初めて見たし、こんな素直に笑えたのなんていつぶりだろう。
「えとね、誕生日プレゼントなんだけど」
「お、おう……てかお前ホントにディプスロか? なんか変なもんでも食った? 」
「失礼な、私は今日なんにも食べてないよ。ってそうじゃなくて……」
なんか……こうして素で喋ってるとすごい違和感。あの猫なで声が慣れてるのもあるけど、人前で
「誕生日プレゼントとして……その、えっと……デート、して欲しいです……」
「……なんの隠語だ? 」
「違うよ! あー、普通に……普通にデート、です。シャンフロ内で」
今の私の顔はきっと髪の色と同じかそれ以上に赤い。でも、一度あの胸の高鳴りを……恋を知ってしまったから。きっともう今までには戻れない。それならば行き着く所まで行ってしまおう。
「……変なことをしない、変なことを吹聴しないなら許す」
「…………ホント? 」
「ここで嘘つくほど俺は外道に魂を売り渡してねんだわ」
……今までの私ならきっとここで軽口を叩いてた。でも……
「……ありがと、嬉しい」
心からの笑顔で、心からの感謝を伝えよう。今の私ならそれが出来る気がした。
まだ自分のことは嫌いだ。10年以上に及ぶコンプレックス、そう簡単に消えはしない。でも、それでも思う。
───今日は最高の誕生日だ。