ヴー ヴー ヴー
「……んん、電話? 誰から……って夏蓮……」
……やば、寝過ごした。
「も、もしもーし……」
「……葉、遅い」
ご立腹でいらっしゃる……
「ご、ごめんごめん。ちょっと昨日遅くまで起きてて……ネフホロね。すぐ行くよ」
「ん、分かってるならいい。待ってる」
「……ふう」
夏蓮との電話を切って軽く息を着く。今日十月一日は僕の幼なじみ、佐備夏蓮の18歳の誕生日だ。プレゼントは普通に用意したけど僕が悩んでいたことはそれではない。僕は……
「……ってまずいまずい、早く入らないともっと機嫌が悪くなっちゃう」
今考えてもどうしようもないことだしね。
「……ごめん、ルスト! 遅れた! 」
「……まぁ、許そう。今日の私は機嫌がいい」
ん? 別に夏蓮は誕生日ではしゃぐようなタイプじゃないよね?
「何かいいことでもあったの? 」
「……ネフホロ2が発表され、最後のイベントが来た今もう新しい要素が無印に追加されることは無いと思っていた」
「……? うん」
「これを見よ! 」
「ん? 何これタッグマッチ……? 」
「そう! 今までオペレーターこそ居れど基本的に一体一での戦いがほとんどだったネフホロにタッグマッチが試験的に追加されたということはこれはネフホロ2ではタッグマッチが正式に追加されてリリースされるということではないだろうか、それはとても楽しみ! 」
ああ、また病気が……でもタッグマッチか。何ともまたタイムリーというかなんと言うか……
「てことは今日はこれをするの? 」
「いえす! もう対戦相手も見つけてきた。モルドと一緒に戦うのなんて久しぶりすぎるけど楽しみ」
「あはは……まぁ頑張ろう」
「ああ、そうだルスト。話したいことがあるんだ。何戦かした後でいいから1回落ちてくれない? 」
「……? ……ああ、誕生日? 分かった、でも手短にね」
それだけじゃないけど……まあ今訂正する必要も無いだろう。
「早速戦う! モルド、機体の準備は出来てる? 」
機体……機体ね。色々と趣味で作ったやつだったり色んなコンセプトで作ったりしたやつはある。だけどルストと一緒に戦うってなると……
「うん、大丈夫。遠距離メインだから前線は頼むね」
「当然……! 」
口の端を釣りあげてルストが笑う。ごくたまにうかべる笑顔とも、ネフホロ2が発表された時の笑顔とも違う心躍る戦いに身を投げる時の戦士の顔。そんな顔も愛おしくてたまらない。
ああ、いけない。昨日の夜の思考の影響がまだ残ってる。切り替えないと……
そして試合が始まる。
戦いの場はシンプルな荒野ステージだった。程よく遮蔽物があるため遠距離狙撃が少ししづらいかな……
今回選んだこの機体は二つの形態を持つ。一つは最初の姿。黒に染め上げられた重装甲に遠距離特化型の装備。遠距離メインとは言ったがこの形態では近距離戦はほぼできない。……ルストがいることを前提としたカスタムだ。
スコープの中でルストが舞うように激しく戦っている。そんな彼女を支援しながらも思考は深く暗い所へと沈んでいく。
僕は今日ルストに……夏蓮に告白する。結婚を前提としたお付き合いを申し込む。
今日のこの日を迎えるにあたって僕たちの関係について色々と考えた。相棒、親友、恋仲、家族……色々な関係が当てはまりそうで当てはまらない。
そして思考は1つの問いへとたどり着いた。
そう、僕に彼女の隣に立つ資格はあるのだろうか、と。
いつかどこかで誰かが僕たちのことを比翼連理の関係だと言った。確かに間違っていないかもしれない。その当時はそう思った。でも違うと。そうでは無いと気づいたのはいつのことであっただろうか。
比翼とは片翼しか持たない鳥。2人揃わなければ飛ぶことは出来ない鳥。ああ、確かにこれ以上ないくらいに仲睦まじいことを示す言葉であろう。だが僕たちの関係を表す言葉としては足りないんだ。だって………………
………………ルストは一人で飛べる。
◆
誰よりも紅く速い機体が縦横無尽に駆け巡る。並の相手であればその姿を捉えることも出来ず撃墜されるだろうが、相対するのはネフィリムホロウという世界に魅せられた
(……チッ、コイツらかなり出来る)
「……モルド、援護」
「…………分かってる」
或いは彼女の相方が普段通りであればもっと早くにこの戦いは終わっていたのかもしれない。
だがそれは単なる仮定に過ぎず、現在の彼は己の資格を問うている。支えるものとしての資格はあっても、共に並び立つ存在としての資格は無いのではないかと。
そしてその迷いは伝播する。
「───ッ、しまっ……!! 」
極限の戦闘空間の中、ルストの一瞬の虚をついて行われた自爆に近い特攻。いや、爆弾を持って突っ込む時点で近いどころか単なる自爆である。
だがそれは普段の戦いでは到底取れない戦法。タッグマッチという己が死んでも残りの1人が立っていれば勝ちであるからこそ取れる戦法。そして今まで1人で戦い抜いてきたからそこ彼女の反応は遅れ、爆発をもろにくらってしまう。
「貰った!! 」
昏く淀んだ装甲を持つ
だがその目は戦意を失ってはいない。その口は言葉を紡ぐ。
傍から見れば諦めの言葉に見えるだろう。はたまた負けることに対しての悪態であろうか。
その真偽を知るのはこの世界にただ2人。言葉を放った張本人と…………
───求められた者だけだ。
◇
「自爆特攻……!? まずいっ……! 」
思考の海から一気に意識が引き戻される。
……精彩を欠いていた自覚はあった。ルストのことを考えていた……? そんなことは言い訳にもなりやしない。今日は一年で一日しかない大切な人の大切な日。そんな日に僕のせいで黒星を贈ることになるなんて。
「……ルスト、ごめん」
手はまだある。だがもう心が折れてしまった。一度負のスパイラルに巻き込まれた心はそう簡単に戻っては……
「…………モルド」
声が、聞こえた。
「……………………助けて」
今にも消えてしまいそうなそんな声が耳に入った瞬間、心のどこか奥底深くで
僕は……僕は何をしているんだ! 彼女の横に並び立つ資格がない!? そんなものは僕が決めることじゃない、ルストが……夏蓮が! 今この時僕の助けを待っているというのなら!!
「───飛べ、双宿蒼緋!」
それに応えることに迷いなんてあるはずがない!!
他の機体とは違う。この機体は僕の心だ。心の奥底に宿したルストと並び、戦いたいという想い。そんな想いを幾重にも覆った建前で隠した逃げの機体。
でももう迷わない、隠さない。普段どんなに僕に頼っても弱音だけは吐かなかった彼女が、僕へと素直な気持ちを見せてくれた。だったら僕だって───! !
「ルストは墜とさせない! 彼女は───僕が護る!!! 」
◆
その時、その瞬間、ネフィリムホロウという世界に存在する人達は見た。
黒き無骨な機構の獣がその動きを止め、刹那の後に───
───蒼き流星が黒を貫き
そして蒼い星と紅い鳥は機構の世界に伝説を刻む。
双宿双飛……
夫婦の仲がよく、常に離れることがないこと。▽「双」はつがいのこと。「宿」は住むこと。つがいが一緒に住み、一緒に飛ぶという意。雄と雌が寝るときも起きているときも、いつも寄り添って一緒にいること。
彼女は一人でも飛べる。だからこそ彼は共に飛ぶものとしてこの名を刻んだ。ユメとネガイを託して……