「……は?」
いつものようにラビッツで目覚めるはずの俺を待っていたのは一面の花畑だった。いやいやいや、どういうことだ。バグ?バグなのか?ついにシャンフロにもクソゲニウムが侵食してきたのか?……ええい、何だこのウィンドウさっきから邪魔くさ……
『ユニークシナリオ「
「はぁ?」
そういえば意識が完全に戻る前になにか言われたような……いやにしても唐突すぎるだろ。まずクリア条件はなんだ、クリア条件は。目標が明示されてないクエストはクソゲー化の第1歩だぞ?
「………………びえええぇぇ……!」
今のは……泣き声か?こんな所で?……いいや、今は少しでもヒントが欲しい。たとえ罠だったとしても行ってやろう!
「この辺か……?」
どうもさっきから泣き声が止まっている。やはり罠だったか?それとも時間制限系?
「おーい、泣き声の人ー、どこだー」
なんて、返ってくるわけねぇか……
「あ、あの…………」
……っ!?どこから……え?
「え、レイ氏?その姿は一体?」
俺のズボンをくいくいと引っ張ってきたのは幼女化したレイ氏だった。何言ってるんだって?俺にも分からん。
「えっと、泣いてたのはレイ氏でいいのか?」
「わ、わたしないてないもん!」
「えぇ……」
ホントかよ、いや絶対嘘でしょ。ていうかレイ氏、精神年齢も幼児化してるの?記憶とかある?
「えっと、俺の事分かる?」
「わかりゃないでしゅ……で、でもあったの初めてじゃない気がします!こ、こうやってぎゅってするとおちつきます……」
そう言って俺の足にしがみついてくるレイ氏(仮)。うーん、記憶は部分的に残ってるってことか?というか子供の相手かぁ……そんなに得意じゃないんだが。
「うーん、とりあえずレイ氏。一緒にこの辺歩こっか」
「あ、あにょ!」
「あにょ?」
「うぅ……れ、れいしじゃないです。ちゃんとれいって呼んでください」
「えぇ……(2回目)」
いや確かにレイ氏(幼)からしたら名前呼び捨ては普通かもしれないけど……よし、この子はレイ氏とは別物として扱おう。それが一番いい。
「よぅし分かった。じゃあレイちゃんでいいかな?」
「はいっ、はいっ!」
下を向いてもじもじしてたのが一気に満面の笑みになったな。どうやら正解の選択肢を引けたみたいだ。
「にしてもこっからどこ行きゃいいんだ?レイs……レイちゃん、俺以外に誰か見なかった?」
「えっと……あっちのほうから泣いてる声がきこえました!」
「そっか、ありがと。じゃあそっち行ってみるかな」
レイちゃんが指す方向に歩き出し……足を引っ張られ顔面から地面に突き刺さりかけた。
「ちょ、レイちゃん何すんの。あっち行くよ?」
「えと……その……な、なでなでしてください……」
「へぁ?」
「あぅ……やっぱりいいでしゅ……」
いやいや待て待て、考える。幼児が頭を撫でてもらいたがるシチュエーション……ああ、褒めて欲しい時か。なるほどなるほど。レイちゃんも可愛いところがあるじゃないか。
「ほーれほーれ、これでいいか?」
「はぅっ…………びゃ、びゃいじょぶれしゅ」
あ、バグった。この辺はレイ氏と変わらんのな。なんか微笑ましい気持ちになってくるな。
「じゃあ行こっかレイちゃん」
「はいっ!いきましょう、らくろうくん!」
さて、何が待ってるかね。出来れば少しでもヒントになるものがあればいいが……?
「うぇぇ……おかあさーん、おとうさーん……」
「………………」
レイちゃんの指さす方向に進んできたらまた幼女がいた。なんなんだマジで。どういう空間なんだここは。俺はサバイバアルじゃねーんだぞ?
「あー、大丈夫か?」
「ひゃっ!?……らくろうおにいちゃん?」
妹は瑠美以外にいた記憶はねぇなぁ……というかその狐面、お前秋津茜か?
「ね、ねぇひょっとしてあかねちゃん?」
「え?う、うん……あ、もしかしてれいちゃん?」
「うん!」
レイちゃんコミュ力高ない?いや、これコミュ力高いと言うよりかは知り合いだった?ほんとにこの世界の世界観どうなってるんだ?
「ねぇねぇらくろうおにいちゃん!」
「お、おう。どうした秋津茜」
「むぅー、あきつあかねじゃない!ちゃんとあかねって呼んで!」
お前もか秋津茜ぇ……
「あー、あかねちゃんどうしたの」
「えへへぇ……あ、そうだ!あそこにね!うさぎさんがいるの!」
「兎?」
あかねちゃんが顔を向けている方向を見れば服を着た二足歩行の兎が……あ、逃げた!これ確実にクエストフラグだな?メンバー全員が集まるのが条件って感じか?
「あーっ、にげた!追いかけっこだね!らくろうおにいちゃん、れいちゃん!行こう!!」
そう言って駆け出すあかねちゃん……いや、はえぇな!?速さが普段の秋津茜と変わらないから幼女の見た目だと違和感しかねぇ!
「ら、らくろうくん!いこう?」
「……ああ、行くかレイちゃん!」
待ってろ謎兎!情報をよこせぇ!!
◆
兎は速かった。いや、兎なんだから当然といえば当然なんだが。とはいえその鬼ごっこもつい先程終了した。どう考えてもお前サイズ的に入れねぇだろと言った感じの木のウロに兎がとびこんだからなんだが……これあれだろ。金髪の幼女がトランプ人間とか笑う猫とか卵妖怪とかと戯れる話がモチーフだろ。
「こ、ここにはいるんですか?」
「ああ、多分そうだな……とりあえず俺が先に入るから……」
「いっちばーん!」
「あ、おい!」
止める間もなく飛び込みやがった……ええい、何があるかもわかってないんだぞ!?これはお叱り案件だな。
「レイちゃん、行こう!」
さすがに戦闘力なんてないであろうあかねちゃんを放置しておくのはまずいだろう。レイちゃんには悪いが引っ掴んでダイブだ……!
「ひゃっ……!?ち、ちか……!」
◆
木の中の穴を滑り降りてきた先には上と同じような花畑が広がっていた。
「あはははっ!おもしろかったー!」
「あー、コラ!」
「ひぇっ!ら、らくろうおにいちゃん……?」
うぐっ……涙目で見上げられるとざ、罪悪感が。いやいやダメだ。危険な行動をしたんだからちゃんと叱っておかないと教育に悪い……いやなんで教育に悪いとか考えてるんだよ、相手秋津茜だぞ?
「あー、その、な?何があるか分からないんだから今みたいに突っ走っちゃダメだ。あかねちゃんに何かあったら困るからな」
「……らくろうおにいちゃん、あかねのことしんぱいしてくれるの?」
「当たり前だろ?」
「分かった!ごめんなさい!」
「よしよし、良い子だ。次からは気をつけてな」
「うんっ!」
うむうむ、聞き分けのいい子供は嫌いじゃない。子供の何が一番苦手かってこちらの言うことを欠片も聞かず暴れ回るところだからな……
「悪いなレイちゃん、待たせ……」
「ふにゃあぁ……」
「れ、レイちゃぁーん!?」
抱えたままだったレイちゃんを離してみれば顔を真っ赤にしてそのまま倒れてしまった。解せぬ。
◆
ようやく復活したレイちゃんを連れ兎を追う。なんかアイツあれだろ、こっちの速度に合わせて速度変わるタイプのやつだろ。絶対に追いつけないように設定されてるやつ。
「……ん?なんだあれ、看板?」
兎が消えたかと思えば急に進行方向に看板が現れた。
「うにゅ……見えないです」
「みえなーい……らくろうおにいちゃん、なんて書いてあるの?」
……はっ!?2人が背伸びしてぷるぷるしてるのをついついニコニコしながら眺めてしまった……俺はロリコンじゃない、俺はロリコンじゃない、俺はロリコンじゃない……
「えっとちょっと待ってな……なになに?」
『ここは理想の世界。普段言えないあんなことやこんなことを言ってみよう!』
「……はぁ?」
この2人に普段言えないようなこと……?なんかあるかな、玲さんなんでそんな頻繁にバグるの?とかか?
「らくろうおにいちゃん、らくろうおにいちゃん!」
「ん?どうしたあかねちゃん」
「わたし、らくろうおにいちゃんのことだいすき!!」
「おぉん……」
これはあれだよな?家族的な好きということでOK?というかそうじゃないともれなくロリコンのレッテルを貼られる。
「えぇっ!?……わ、わらひもりゃ、りゃくりょうくんにょことが……だ、だだ、だだだ……でゃいしゅきでしゅぅ!!」
「んぐぅ……」
れぇいちゃーん……おまえもかぁ……
「あー、うん……2人とも大好きだよー」
「えへへぇ……」
「ふにゃっ!?……ぷしゅう」
まさかこんな感じのが続くんじゃなかろうな。俺のメンタルが死ぬのが先か、兎に追いつくのが先か……わーい、もうどうにでもなれー
◆
「っはああぁ……追い詰めたぞ、クソ兎ぃ!」
長々と続いた鬼ごっこもゴールが近いらしく、俺たちはようやく兎を追い詰めていた。ようやくだ、ようやくあいつに報復できる。いや、別に時間はそこまでかかってない、かかってないが……詳しく言うと俺が社会的に死にかねん状況が続いたため精神面での疲労が素晴らしいことになっている。だがそれもここで終わりだ……!
「オラァ、覚悟しろや兎野郎がァ!!」
スキルが使えないからってステータスまで下がったわけじゃねぇんだよ……!喰らえ、正義の拳!
「はっ……!?」
なっ……消えた、消えやがったあいつ!しかもなんか最後に笑いながら!ああ、クソがぁ!!この!苛立ちを!どこにぶつければいいんだ!!ええい、とりあえずログアウトしたらカッツォのやつに最新の魔境のURLを送り付けてやろう。最近のトレンドは筆記用具×学生服魚臣だとか……いや、詳しくを思い出すのはやめよう。
「あ……、ら、らくろうくん!」
「ん?どうしたレイちゃん」
「あの、あそこにはこがでてきました!」
「箱?」
あ、ホントだ。いかにもクリア報酬ですよと言わんばかりの宝箱が。いやいや、このクエストの悪辣さを考えるとあれも罠という可能性が……
「らくろうおにいちゃん!あけていい?」
「いーや、ダメだ。危ないから俺の後ろから見ときなさい」
「むぅー……はーい」
でもステータスは変わってないからなぁ……安全を取るならレイちゃんに空けさせるのが一番いいのだがさすがに幼女にそんな危険な真似をさせられない。
「ええい、南無三!……なんだこれ、本?」
そこそこ大きい箱の底にはやや小ぶりの本しか入ってなかった。
「うーん……あ、これ違うな漫画か」
「らくろうおにいちゃん!見せて見せて!!」
「あ、こら引っ張るな……うぉわ!」
「へ?きゃあああ!!」
「わあああああ!!」
ばさりと音を立てて地面に落ちた漫画。偶然開かれたページから光が迸り俺たちを包み込む。最後に見えた文字は…………
『コミック版シャングリラ・フロンティア』
「あっ、おはようですわサンラクサン!」
「あー……?エムル?」
意識が戻るとそこはいつものラビッツのベッドの上だった。転がっていたはずの漫画もなければレイちゃんとあかねちゃんもいない。
「んふふー、その様子だとちゃーんと夢は楽しんできてくれたみたいですわ!」
「夢?どういうことだ?」
「今日はラビッツのお祭りなんですわ!だから開拓者さん達には特別な夢を見てもらうんですわーっ!」
はぁなるほど?……え、なになに?望んだ内容が見れる?ははーん、するってーとエムルさん、あなたひょっとして俺がロリコンだって言いたいのかい?
「うがーっ!!なんだそれぇぇ!」
「うにゃーっ!?サンラクサンが怒ってるですわーっ!?」
なお後ほど2人に聞いたら覚えていないとの事。そこだけは不幸中の幸いだったな……
◆
「あの……サイガ-0さん……その、覚えてますよね?」
「…………はぃ……秋津茜さんも、ですか?」
「はい……サンラクさんの前ではああ言いましたけど……」
「私……明日以降顔を合わせられる気がしません……」
「そんなの私もですよ……」
「「はあああぁぁぁ…………」」
今読み返すと……うん。 ってなる