「と言うわけでよろしくお願いします、ルストさん!! 」
「……うむ、何がと言うわけでなのかは知らないけどその意気や良し。存分に私がネフホロの楽しさを教えてあげる」
秋津茜……隠岐紅音にネフホロを教えて欲しいと頼まれたのはつい昨日の事だった。突然の事だったとはいえネフホロをプレイする人が増えるのはいい事だと思い、今日教えることとなった。
「えっと紅音……じゃないストリカザー……? 」
「はい! 確かロシア語? でトンボのことらしいですよ」
ああ、なるほど。サンラクの影響か。サンラクと秋津茜が付き合っているという話はもはや旅狼の中では常識みたいな感じになっているが、当然その話が出た時にはみんな驚いていた。……私はその話が出るより前に紅音から相談を受けていたので驚きはなかったけど。
「なるほど、いい名前。じゃあチュートリアルは終わっているとの事なのでまず1回戦ってみてどれくらいスドリカザーが動けるのか試してみる。……OK? 」
「はいっ! わかりましたルストさん……いやっ、ルスト
むっ
「あか……もといスドリカザー、今なんて? 」
「えっ? 師匠って言いました……えと、ダメでしたか? 」
「そんなことない、べりーぐっど。これからは是非そう呼んで欲しい」
「はいっ! よろしくお願いします、師匠! 」
ふふふ、師匠。良い響き。これは指導にも身が入るというもの。
◆
「……ううう、ぎもぢわるい……」
「……だ、大丈夫? 」
……ちょっと張り切りすぎてしまった。紅音が思った以上に着いてくるのが楽しくて本気を出してしまった。反省……
「ちょっと休憩。その状態でやっても大した上昇は見込めない」
「うう……ありがとうございます」
そこら辺に備え付けられていたベンチに寄り添い座る私たち。……そういえば紅音のアバターは割とリアルに近い見た目だ。ベルセルクパッションオンラインなるゲームでは筋骨隆々の男アバターを使ってるって聞いたけど……どういう心境の変化なのだろうか。
「……ねぇ、スドリカザー。何で
「へっ? あ、あー……えーっとぉ……」
??? そんなに言い難い理由でもあるのだろうか。
「あ、別にちょっと気になっただけだから言いにくいなら言わなくてもいい」
「い、いえいえ! そういう訳じゃないんです! ……そ、そのサンラクさんと一緒に遊ぶことがあるならこの見た目の方がいいかなーって……そ、それだけです」
……そっか、この子はサンラクとプレイするためにネフホロを遊んでいる。もちろんネフホロをやること自体素晴らしいしその動機はなんでもいいけど……ちょっともやもやする。ネフホロプレイヤーたるルストはその理由を納得してるけど、
……隠岐紅音の友人の佐備夏蓮としての私がその理由に納得できない。ワガママな考えだけど友達と一緒に遊ぶこの時間だけは私のことを考えていて欲しい……
「……なるほど、相変わらずラブラブ。でもこの世界のサンラクはやかん頭だから隣に並ぶと違和感しかない」
「や、やかん頭……あはは、サンラクさんらしいですね! 」
「ホントに。普通の頭でゲーム出来ないのか」
でもこれでいいんだ。紅音が1番輝くのは、笑っているのはサンラクの話をしている時。だったら私のわがままでその笑顔を曇らせるようなことをしちゃダメだ。
「よしっ! 気分も直ったので指導お願いします! 」
「ん、良いやる気。存分にかかってくるといい」
◆
「ふぅ、結構やりましたねぇ」
「うむ、最後の方はかなりいい動きをできてた」
「ホントですか!? ありがとうございます! 」
ほんとにほんとだ。初心者とは思えない。やっぱり好きな人のためならここまでの力が出せるのだろうか。
「……」
「……? どうしたんですか、ルストさん」
「……ねぇ、紅音。サンラクと一緒にいる時間は楽しい? 」
「へ? どうしたんですか、いきなり」
「いいから。答えて欲しい」
「……そうですね。楽しいです。今までの人生のどの瞬間よりも。私は彼と一緒にいる時間が1番幸せです」
ちょっと照れくさいですけどね、と言いながらはにかむ紅音。……うん、これは無理だな。紅音の心に私が入り込む隙間はない。
「……ん、その気持ちが1番大事。ゲームをするならやってて楽しい相手とするのが1番。一緒にいてそう思える相手とのゲームの時間は大切なものになるから。……これが師匠としての私からの最後の教え」
……別に絶交したとかそういう訳でもない。紅音は普通に接してくれる。でも、それでも……
……紅音がネフホロをやりたいと言ってくれた時嬉しかった。紅音がサンラクと付き合うことになってもちろん祝福したけど……寂しかったから。だからネフホロで遊べるってなって嬉しかったのに……
「……じゃあ今日のこの時間は私にとって、とっても大切な時間ですね! 」
「……え? 」
「私は今日ルストさんと一緒にネフホロで遊べて楽しかったです。だって途中からサンラクさんのことも忘れてルストさんと戦ってましたし! 」
「それに、ルストさん……夏蓮さんは私にとって一番大切な友人ですよ? そんな相手と一緒に過ごす時間が大切じゃないわけないじゃないですか! 」
「……あかねぇ……」
……やばい、普通に泣きそう。嬉しいし、ちょっと自己嫌悪だしで……もう無理。
「わわっ!? ……もう、急に抱きついてきてどうしたんですか? 私も抱き締め返しちゃいます! 」
うう……あったかい……
「……ねぇ、紅音」
「はい、何ですか夏蓮さん」
「……これからも私と一緒に遊んでくれる? 」
返事はなかった。けれども私の体に回された腕がさっきよりも強く、優しく抱きしめてくれて。
───赤い夕焼けの中、2人の少女はいつまでも抱きしめあっていた。1人は友人へ自分の愛を伝えるように、1人は友人からの愛を存分に感じられるように。