「はぁ……渡せなかったなぁ……」
机に突っ伏しながらうじうじと独り言をつぶやく玲。目を横に向ければそこにあるのは丁寧に包装した想い人への
決してチャンスがなかった訳では無い。むしろ誰よりも渡すチャンス自体はあったと言えよう。ではなぜ渡せなかったのか?
「……いきなり誕生日プレゼント渡すなんてハードルが高いです……それに気に入ってもらえるかも分からないし……」
なんてことは無い。いつものようにただヘタレたと言うだけのことである。
11月21日当日の朝、いつものように一緒に登校していたというのに、眠そうだから……だの朝から渡したら置き場所に困るから……などと理由をつけて渡せず。
学校の中にいる時は隣のクラスの楽郎に話しかけに行けるだけの度胸は無く。
帰り道、楽郎の荷物が増えていることに言及し誕生日の話題に持っていくことが出来たにもかかわらず私からも……という流れに持っていけずそのまま帰宅。
紛うことなきヘタレである。
ヴー ヴー
そして今回もまたヘタレを救う女神からの福音が鳴り響く。
「岩巻さんから……? なんでしょうか」
「もしもし? 」
『あ、もしもし玲ちゃん? 突然で悪いんだけど今日この後お店に来られるかしら』
「え? ええ、まあ可能ですが……」
『そっかそっか、良かった。じゃあまた後で! あ、それと……』
非常に短い会話の後電話が切れ、残された玲は首を捻る。
「……なんで誕生日プレゼントをもってこい、なんて言うんでしょうか? 」
「こんにちはー、岩巻さんいますか? 」
「あ、玲ちゃんいらっしゃい! ごめんねー、突然呼び出しちゃって」
「いえ、それは別にいいんですが……その、なぜ呼び出されたんでしょうか。それに誕生日プレゼントも」
「ああ……もう少しでわかるんじゃないかなー」
「……? 」
と、そこに扉が開く音とともに何者かが店内に入ってくる。
「岩巻さん、頼んでたアレが入荷したってマジ……ってあれ? 玲さんじゃん。奇遇だね」
「へぁっ!? ら、楽郎君!? なんでここに……」
「え? あー、岩巻さんに取り寄せ頼んでたクソゲーが届いたよって連絡が来てさ、すぐに駆けつけてきたって訳よ。それで岩巻さん、例のブツをはようください」
「ハイハイ、これね。お代は1000円でいいよ」
「え? これって元値けっこうしますよね。いくら中古とはいえ安すぎませんか? 」
「まぁそうなんだけどね。楽郎くん、君昨日誕生日だったんでしょ? 私からの誕生日プレゼントみたいなものだよ」
と、そこで先程から話に入れず所在なさげに佇んでいた玲へと岩巻からアイコンタクトが送られる。ヘタレとはいえ才女は才女。すぐさまその意図に気づいた玲であったが……
「あー、なるほど。それならありがたく頂きますね」
「はい、1000円確かに受け取りましたっと。じゃあこれ商品ね」
「ありがとうございます! よし、今日は徹夜だな……」
「じゃあ岩巻さん、さようなら。玲さんもまた今度学校で」
なおヘタレている、というか一歩を踏み出す勇気が出ない玲であった。岩巻も流石にそこまで口出しをする気は無いのかただ黙って玲を見つめている。そして楽郎がドアの前に立ち、ドアが開き……
「りゃ、楽郎君! 」
開いたところでようやく玲は一歩を踏み出した。
「ん? どしたの、玲さん」
「あ、あの、えっと、その……」
「ん? 」
「あぅ……」
顔を真っ赤にし、頭から湯気を吹き出す玲。だが数秒後には覚悟を決めたのか赤みの残る顔で叫ぶ。
「こ、これ、た、たた誕生日のっ! プッ、プレゼントっ、ですっ!! 」
後ろ手に持っていたプレゼントを楽郎の胸に押しつけ、その勢いのまま店を出ようとする玲。
「あ、待って玲さん」
「はひゃいっ! な、なななんでしょうかっ」
「ありがとう。玲さんから貰えて嬉しいよ」
「ふびゃっ」
元々限界に近かった玲。そんな彼女に想い人の少し照れの混じる笑顔を与えたらどうなるか? 答えは明白である。
「玲さん!? 」
「ちょ、玲ちゃん大丈夫!? 」
なんとも幸せそうな顔をしながらぶっ倒れる玲であった。
この後ロックロールのバックヤードで起きた玲さんは横で控えてた楽郎くんに寝ぼけて擦り寄り正気に戻ってもう1回倒れます。