◇
「あー、ごめんね陽務。突然呼び出しちゃって」
「いや、それは別にいいんだけど話ってなんだ? 」
「んーっとねぇ……」
私は今日、目の前の男……陽務楽郎に告白する。結果は分かりきっているけれど。
「その、さ。陽務って付き合ってる人とか居ないよね? 」
「え? まぁそりゃいないけど。なんで今そんな話を……」
……これ以上引き伸ばしてもしょうがない。女は度胸っ!
「……私、陽務のことが好き」
「…………へ? 」
「だから、陽務楽郎さん。あなたの事が異性として好きです。良ければ私と付き合ってくださいっ! 」
◆
クラスの友人の女に呼び出されてきてみればいきなり告白を受けてしまった。正直な気持ちをいうのなら戸惑いこそあるが嬉しい、だろうか。そもそも自分で言うのもなんだがこんなゲーム中毒者のことを好きになってくれる人なんてそう居ないだろう。コイツとは何だかんだ話も合うし付き合えば楽しいのかもしれない。だが、だが何故だろうか。
告白を受けて真っ先に頭に浮かんだのが玲さんの事だったのは。
◇
驚き、喜び、そして罪悪感、だろうか。告白をしたあとの陽務の表情の変化は。自分では気づいていないのかもしれないがこいつは意外と顔に出る。それくらいには一緒にいた。そしてきっとその罪悪感は私の告白を断ることに対してのものなのだろう。
「ねぇ、陽務? 聞こえてた? 」
でも私はわがままでいじわるだから。そんなことを言って返事を催促する。
「あ、ああ……いや、もちろん聞こえてたぞ。ただ少し驚いてな、うん」
そう言った陽務の顔はまだどこか迷ってるようで、だから私は背中を押す。
「陽務さぁ……付き合ってる人はいないって言ってたけど好きな人は居るんじゃない? 」
「それは……」
分かっていた。自分が振られることくらい。だって彼女といる時の陽務は私と一緒にいる時よりもずっと楽しそうで、煌めいてて、勝ち目がないことなんてすぐにわかった。だから私はこの役目を負う。陽務の背中を押すこの役目を。私は自分の気持ちを伝えられてスッキリできる。陽務と彼女……斎賀玲さんは両思い同士付き合える。誰も損しない……ハッピーエンドだ。
◆
俺に好きな人がいる……? 考えたこともなかった。誰かを好きになるよりはゲームを好きになり、誰かを喜ばせることを考えるよりNPCの好感度を考える。そんな俺が誰かを好きになることなんてあるのだろうか。
……いや、1人だけいたか。玲さん。彼女の存在は間違いなく俺の中で非常に大きなものになっている。少なくとも彼女と一緒に登下校しないだけで違和感を感じるくらいには。まだ自覚は薄いが……これが人を好きになる、いやなっていたということなのだろうか。それを友人だと思っていたやつに告白されて気づくとは……我ながらなんとも酷い男だ。
だが、気づいてしまったからにはもう無視することは出来ない。目の前のこいつには悪いがこの告白は断らなければならないだろう。例え玲さんが俺に好意を持っていなくても、この気持ちを抱えたまま誰かと付き合うなんて器用なことは俺にはできない。
「○○。お前の気持ちは嬉しいよ。だけど……お前の言う通り俺には好きな人がいるみたいだ。だからお前の気持ちに答えることは出来ない。……すまない」
「……いやいや、いーっていーって! 他に好きな人がいるならしょうがないし。まぁ、これからは今までとおなじ友達ってことで、よろしくねっ……ほらほら、そうと決まったらもう行っていいよ? 斎賀さん、だっけ? またせてるんじゃないかな? 」
「あ、ああ。そうだな。じゃあまた明日」
「うん、また明日ー」
にこやかに手を振ってくれるが……辛くないはずがない。俺はその優しさに甘えたってわけか……
◇
「〜〜〜〜っ!! 」
走っていく陽務を笑顔で見送って……そこでもう限界だった。後から後から涙が零れてくる。これはきっと私の本気の証。この涙を流しきった後にはきっとまたいつもみたいに彼に接することが出来る。でも今だけは、今だけは隠すことも出来ない。
ハッピーエンドだ、なんてそんなわけが無いのに。誰だって自分の気持ちを伝えたからには叶って欲しいって願ってる。どんなに言い訳を重ねても、どんなに相手のことを思っていても、叶わない恋ほど辛いものは無い。ああ、だからね陽務。
「……きみには、そんなおもいはして欲しくないんだ…… 」
だから私はこれでいいんだ。
翌朝、陽務が感謝の言葉と共に斎賀さんと付き合うことになったということを話してくれた。少し胸は痛んだけれど、そう話す彼の笑顔は私が1番見たかった笑顔だったから。私も笑ってこう言うんだ。
「おめでとう! 」
モブ子ちゃんの名前は無いです。