「楽郎さんって結構女の子に人気ありますよね」
「おおう……いきなりどうした」
「ちょっと思ったんですよね。斎賀さんや永遠さんみたいな綺麗な人に囲まれてて…………でも楽郎さんが1番好きなのは私ですもんね!」
「まあそだね」
……最近紅音の様子がおかしい。表面上は変わらないし明るいままなのだがなんと言うかこう…………狂気的?そんな感じがする。今だってデート中だぞ?普通そんな時にほかの女の話をするか?
「ま、まあいいや。次はどこ行く?」
「どこだって良いですよ?楽郎さんの行きたいところならどこでも」
「お、おう……じゃあゲーセンで……」
「はいっ!行きましょうか!あ、ここは私が払っておきますね?」
「え、いやいや。年下の女の子に奢らせる訳には行かないって」
「うふふ、良いんですよ楽郎さん。何も出来なかった私が貴方のために何か出来るのがどうしようなく幸せなんですから」
「いや、にしたって……せめて割り勘で!」
「……全く楽郎さんもしょうがない人ですねぇ。分かりました、今回は譲ってあげます」
いや、怖ぇよ!やっぱり変だって!
◆
道を歩く時はいつもこうだ。車道側には俺が立つといくら言っても譲らず俺の腕に引っ付いている。それでいて妙にご機嫌……最近は紅音のことを怖く感じるようになっている。
「……あ、玲さんじゃん。久しぶり、こんなとこでなにしてんの?」
「へ?……ひゃっ!?りゃ、りゃくろうくん!?」
「はは、まだバグるの直ってないんだね……あ、ごめん。急いでるから行くね」
「あ……は、はい」
玲さんには悪い事をした……いや、こっちの方が玲さんのためか。なんせ今俺の隣には…………狂犬が居る。先程までの笑顔はどこへやら、凄まじいまでの無表情である。それでも先程までと変わらず俺の腕に引っ付いてきてるんだぞ?ホラーでしょこんなん……
「あー、紅音?大丈夫か?」
「っはいっ!大丈夫ですよ!」
そのくせ俺が声をかけると直ぐに元の笑顔に戻る。正直道を間違えたとしか言いようがない。こんな関係いつか破綻する。
◆
ゲーセンで適当に時間を潰し、そろそろ日も傾いてきた。
「んじゃ紅音、そろそろ帰るか」
「……私もっと楽郎さんと一緒にいたいです」
「いやいや、そろそろ帰らないと時間的にもまずいだろ?」
「……? 楽郎さんが泊めてくれればなんの問題もありませんよ?」
……これはまずい。もう手遅れな気もするが、紅音がこれ以上道を踏み外す前に止める必要がある。
「紅音……大切な話がある」
「はいっ!なんですか!?……あ、まさかけっこ「別れてくれ」ん……?」
「あの、すみません楽郎さん。いまなんて?」
「別れてくれ、と言った。このままじゃ俺たちはダメになる。だから一旦距離を置こう」
「あ…………あははははっ!何言ってるんですか、楽郎さん!そんな事しなくても私は楽郎さんのこと大好きですよ!あっ、そうだ!そんなに不安ならずっと一緒にいてあげます!ずううぅっと一緒に!!」
どんなに言葉を並べられても……俺の表情は変わらない。それが紅音にも伝わったのだろう。顔から色が抜けていくのがわかる。
「そう、ですか……本気なんですね?」
こくり、と言葉は出さずに首を縦に振る。
「分かりました……さようなら、楽郎さん」
そう言って紅音は走り去ってしまった。……辛いさ、もちろん辛い。一生大切にしようと思った。ずっと一緒に居たいと思った。でもあのままじゃダメだ。ああいう兆候を見せてるやつがまともになったのを俺は見た事がない。
「……帰るか」
紅音が見えなくなったのを確認し踵を返
………………ここは?俺は一体……?目は何かに塞がれている。手は後ろ手で縛られている。そして体に残る痺れ。……マジで何があったんだ?
「ああ……起きたんですか……?」
聞き覚えのある声。しかしいつもの光を帯びた煌めくような声でなくどろりとした闇に包まれたような声。
「らくろうさんが悪いんですよ……?私から離れようとするから……」
目隠しを取られた視界に入ってきたのは見覚えのある目。しかしいつもの希望と喜びに彩られた目ではなく、狂気と愛慕に満たされた目。
「でも大丈夫です……これからはずっと、ずぅっと…………一緒ですからね……?」
深い狂愛を宿した笑顔。常に彼女が見せてきた純粋な笑顔とは正反対のそれを…………
………………美しい、と思ってしまった時点で俺の運命は決まった。