「……ん、用意完了」
今日は2月14日。巷はバレンタインで盛り上がっているが私と葉の間には特に変わったことは無い。一応日頃の感謝といった感じで市販のチョコを用意するくらいだ。
「あ、でも……」
思い出した。今日は葉は日直だからとかで早く行くって言ってたな。……1人で学校に行くのも久しぶりだ。あれ、道大丈夫だろうか……
まぁ、道は大丈夫だろう、多分。チョコもどうせ渡す機会は沢山ある。というか別に明日でいい。ホワイトデーだって大体だし。
「……いってきまーす」
……だからきっとこの微かに感じるナニカは、寂しさなんかじゃない。せいぜいが変なのに絡まれないかという不安だろう。
◆ 昼休み
「……むう」
おかしい。何故か今日に限って全然葉に会えない。というか葉も葉だ。少しくらい私のことを気にかけてくれてもいいと思うのだが。
今だってクラスの女の子と何か喋ってる。ひょっとしてチョコでも受け取っているのだろうか。
「……むう」
……何でだろう、気に入らないな。
◆ 放課後
「…………」
いつもは2人で帰る通学路。それを私は今1人で歩いている。
私は今すごく機嫌が悪い。とても。それはもうイラついている。
原因は当然どこぞの葉のせいである。
まあ、日直なのだから一緒に帰れないのは分かる。今までも何回かそういうことはあった。でもその時はちゃんと待ってたし。今日は機嫌が悪いので置いてきたけど。それは大した問題じゃない。
気に入らないのは今日1回も葉と話せていないことだ。
……別に毎日話す義務がある訳でもないし葉は私以外の友人だっている。だから別にそんな気にすることでもない。良くあることのはずなのに……なんでこんなにモヤモヤするんだ。
……今日が、バレンタインだからだろうか。好きな人に想いを伝える日。世間一般のバレンタインで伝える好きとは違うが、私は間違いなく葉のことが好きだ。
だから、葉が今日という日に私のところに来てくれないのが気に入らないのだろうか。私が一方的に思っているだけで、葉は私のことを好きとは思っていないから。だから話しかけても来てくれないのだろうか。
「…………っ」
……そうだとしたら、それはとても悲しいな。
「……夏蓮っ! 」
……あ。
「……葉」
「やっと追いついた……普段待っててくれるのにどうしたの? 何か用事でもあった? 」
「…………」
何も言えない。さっきまで考えてたことが恥ずかしいのと、葉を置いてきたことからくる気まずさ、今日1日で溜まった苛立ちなんかが混じって何を言っていいのかわからなくなる。
「んー……夏蓮、怒ってるよね? 僕何かしたっけ?
」
別に葉は悪くない。わたしが勝手に考えすぎて、行動しなくてイラついているだけ。
……でも素直にそれを言うことはできない。
「……今日、全然話しかけてくれなかった」
「え!? あ、あー……確かに。えっと、ごめん。課題の提出やら日直の仕事やらが重なってて」
「……じゃあ、昼休みは? 葉、昼休みにクラスの女の子と喋ってたよね。そんな時間があったなら私に話しかけてくれても……」
良かったのに。
とは言えなかった。だってそんなのあまりに自分勝手すぎる。話したいなら私から話しかければ良かったんだから。
「あー、あれは同じ委員会の人だよ。……って夏蓮も知ってたよね」
……そうだったのか。すぐ目を逸らしたせいで気づかなかった。
「…………」
……何も、言えない。葉は何も悪くなかった。私が勝手に癇癪を起こしただけ。普段なら軽く謝って、冗談交じりで葉にも責任があるとか軽口を叩いて、それで元通りで、それで、それで……
「…………ぅぅ」
「……ぅえ!? か、夏蓮!? 大丈夫!? 」
「大丈夫じゃないぃ……ばかぁ、ようのばかぁ……」
溢れて、溢れて、止まらない。
私を見て。
私に構って。
私と一緒に居て。
そんな想いが嗚咽混じりに溢れ出る。
葉は、受け入れてくれた。ちょっとヘタレながらも私が落ち着くまで優しく撫でながら抱きしめてくれた。
すごく恥ずかしい。きっと明日は今日とは違う意味で葉の顔が見れない。
でも、今日はバレンタイン。好きな人に想いを伝える日。そんな日ならまぁ───────
素直になってもいいかな。
何度か貰う機会はあったけど「あー、ごめん。最初に貰うのは夏蓮からがいいんだ」的な感じでチョコを断る葉君を入れたかった。入れるところがなかった。