「なぁ、葉。お前いつも佐備さんと一緒にいるけどホントに付き合ってないのか? 」
休み時間の雑談で男子の中では1番の友人がそんな質問をなげかけてきた。
「この質問何回目……? 僕と夏蓮はそんな関係じゃないってば」
「……葉、俺はな? お前のことを心配しているんだ」
心配……?
「どういうこと? 」
「いいか? 佐備さんは基本無表情とはいえ顔はかなり整っている。そんな女性がいつも傍にいるとなると周りの女性はお前に気軽に声がかけられなくなる。つまり……」
「……つまり? 」
「このままではお前に彼女が出来ることはないってことだよ!!! 」
「……ッ!!! …………? 」
ついつい話の流れ的に驚いちゃったけど、そんなに大問題かな? 別に彼女がいなくて困ったことは無いし、むしろ彼女がいたらネフホロをやる時間が無くなる気がする。
「……別に僕はそれでも問題ないのだけれど」
「葉……お前それでも思春期真っ盛りの男子高校生なのか? 思考形態が完全に枯れきったおじいちゃんのそれだぞ? 」
「そんな事言われても……」
「よし、じゃあこうしよう。葉、明日から佐備さんと距離をおけ」
「夏蓮と距離を置く……? 」
……いや、無理じゃないかな。そんなこと言い出した日にはものすごく不貞腐れそうだ。
「なぁに、明日はエイプリルフール。嘘でしたということにすれば誰も傷つかない」
「そんな上手くいくかなぁ……というかやることは確定なの? 」
「鹿尾谷ァァァ!!!!」
「うぇっ!? い、いきなり大声出さないでよ」
「お前って奴は何にも分かっちゃいない! 1度距離を置くことは佐備さんにとっても意味のあることなんだぞ! 」
「夏蓮にとっても……? 」
「ああそうだ! どうにもお前達は依存し合ってる感があるんだよな。葉はそれでも俺みたいな友人がいるが、佐備さんがお前抜きで誰かと喋ってるところとか見たことないし……」
それは確かに……夏蓮の友人の少なさは僕も常々心配してるけど。
「そこでお前が一旦距離を置くことで嫌でも佐備さんは他人と会話せざるを得なくなる。人間としてより成長できるって寸法よ。お前だっていつまでも一緒にいられるとは考えてないだろう? 」
……なんか上手く乗せられてる感が凄くあるけど。うーむ。
「……分かった。そこまで言うなら少しやってみるよ」
「おっ、ホントか!? よしよし、ちゃんと結果報告しろよ! 」
あれ、これやっぱり興味本位だったのでは?
◆ 翌日 朝
「……葉、さっきぶり」
「あ、うん。おはよう夏蓮」
……さて、いつ切り出すか。出来れば学校に着く前には言っておきたいけど。
「……葉」
「…………」
「…………葉」
「…………」
「…………葉! 」
「え……あ、ごめん夏蓮。どうしたの? 」
「……どうしたもこうしたも、さっきから変。何悩んでるの? 」
「あ、あーえっと……」
これは……チャンスだろうか。よし、言うぞ……
「か、夏蓮! 」
「……何? 」
「そ、その……」
「……さっさと言う」
「あ、ハイ……えっと、僕達1回距離を置くべきだと思うんだ」
すっと夏蓮の表情から色が抜け落ちる。そんな今まで見た事がない……いや、向けられたことの無いような表情を見て思わず動きが止まる。そしてその隙に、
「………………そ」
「あ…………」
ぽつりと一言零し、夏蓮はそのままスタスタと歩き去ってしまう。その時点で気づいた。僕はかなり大きな地雷を踏み抜いたのだと。
……ほんの一瞬見えた夏蓮の顔は幼い頃によく見た、涙を堪えようとするものだった。
◆
それから数日がたった。幾度となく夏蓮に話しかけようとはしているが、その度に顔を背け逃げられてしまう。……ネフホロにも夏蓮はログインしてないみたいだ。それだけ衝撃的だった、ということだろう。自分の短絡さに嫌気がさす。
「……葉、大丈夫か? 」
ついでにこの友人にも。
「……大丈夫に見えるの? 」
「いや、見えないな。……すまんな、俺が適当なこと言ったせいだな」
「……それに乗った僕も僕だから。全部が全部君のせいってわけじゃないよ」
「……こうなったらもう全部素直にぶちまけるしかないだろう」
……またこいつの言うことを素直に聞いて良いのだろうか。
「まずは謝罪。そしてお前の素直な気持ちをそのままぶつける。許してもらおうとか余計なことを考えないで何故この行動に至ったのか。それを素直に伝えるんだ」
……僕がなぜ夏蓮に距離を置こうと言い出した、か。……色々理由はあるかもしれないけど1番はやっぱり、
「……夏蓮が少しでも自立できるようにするため」
「だろう? つまり佐備さんのためだということだ。それを素直に言ってくればいい」
「……分かった。やってみるよ」
◆
「……夏蓮、来てくれてありがとう」
「…………」
放課後、空き教室に夏蓮を呼び出す。自分から迎えに行くのが道理かもしれないけれど、今近づいたら逃げられてしまうから。さて……
「夏蓮……ごめんなさい!! 」
「………………何が? 」
「……それは、夏蓮の気も考えないで一方的に距離を置こうとか言い出したりしたこと……です」
「…………確かにそれはそう」
「……えと、それで「………………でもそれだけじゃない」……え? 」
それだけじゃない? 他に何が……
「………………葉は? 」
「……僕? 」
「…………葉は、辛くなかったのっ!? 」
「……え」
「私はっ! 葉にあんなこと言われて辛かった! 嫌だった! 葉は違うの!? 」
「……葉は、私と距離を置いても平気でいられるの……? 」
……何も言えなかった。これほどまでに夏蓮が感情をあらわにしたことがあっただろうかという驚き、そして夏蓮にここまで言わせるほど追い詰めてしまった自分への悪感情が溢れてきて。
でも、言わなきゃいけない。伝えなきゃいけない。
「そんなことない」
「そんなことないよ、夏蓮……! 僕だって、僕だって……」
夏蓮の居ないこの数日は、今までの十何年の人生の中でもとても辛かった……!
「…………じゃあなんであんなこと言ったの」
「それは……」
僕は語った。全て話すと長いのでかいつまみながら。それでも大事な部分は漏らさないように。
「…………なるほど、理解した」
「……夏蓮」
「…………そのうえでひとつ言わせてもらう」
「……うん。いいよ」
どんな罵倒でも悪態でも受け入れる準備は出来ていた。それだけの事をしたんだから。当然であると。でも、それでも、
「……私のことを想ってならっ……二度とこんなことするなバカ葉っ……!! 」
ぽろぽろと流れる涙と共に放たれたその言葉は、僕もまた涙無しでは受け入れることは出来なかった。
◆
「……で、そうなったってか」
夏蓮と仲直りをしてから数日が経ったが、夏蓮はいつもに増して引っ付いている。今までは学校の中ではそこまで身体的な接触は無かったのだが、最近は常に張り付いていると言っても過言ではない。
「なんてーかあれだな。2人は今のままが1番良かったってことだな。うん。じゃあそういうことで」
「…………逃げるな」
「うっ……」
なお、友人は夏蓮によるネフホロの布教を受け続けるという罰を与えられたことをここに記しておく。
「……葉、葉」
「ん? どうしたの夏蓮」
「……これからもずっと一緒。嘘つかないで、約束」
「……ああ、そうだね。約束だ」