語られなかった者たちの饗宴   作:ゆくゆく

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Surprise!

 その日、天音永遠は酷く機嫌が悪かった。6月13日は天音永遠の誕生日。とはいえ、20代も半ばに差し掛かってくれば誕生日もそこまでレアリティの高い行事ではなくなってくる。それに永遠はどちらかと言うと人の誕生日をサプライズで祝う方が好きであった。

 

 故に、永遠の機嫌が悪いのは誕生日に仕事がガッツリ重なった上に長引いたから───では無い。

 

 今年の誕生日が今までのそれとは別物……陽務楽郎と結婚してから初の誕生日であったが故にである。つまりある意味では誕生日に仕事が長引いてイラついているとも言える。こうなったらもう、せめて夫にとことんまで愚痴り倒しながらいちゃつこう……などと疲れきった脳内で考えながら、永遠はマイホームの玄関を開いた。

 

 「ほらー! らーくろーうくーん!! 最高可愛いカリスマお嫁さんのお帰りだよーー!! 」

 

 最高可愛いカリスマお嫁さん、ご乱心である。普段であればここまではっちゃけることは(後々煽られることを考えて)控えているのだが、ストレスやらなんやらが溜まっている今の永遠はある意味無敵である。甘え倒すことに関して、何の躊躇も抱きはしない。楽郎もこれには何らかの反応を返すはず。そんな思惑とは裏腹に、

 

 「……んー? 楽郎くん? 居ないの? お風呂入ってる? 」

 

 家の中からは何の返事も帰っては来ない。見る限り廊下には明かりがついていなく人の気配もない。じんわりと心の深いところから湧き上がってくるもやもやと苛立ちに身を任せ、永遠は強めの足音を立てながら廊下を進む。

 

 「ちょっとー! 楽郎くん!? 今日が何の日か忘れたとは言わせないよー!? 」

 

 だが、それでも返事はない。風呂場を確認してみても人のいた痕跡は見当たらない。永遠の心に徐々に不安が芽生えてきた。彼に限って有り得ないだろうが浮気でもしてるのではないか、あるいは自分の誕生日など忘れてどこかへ遊びに行ってしまったか。はたまた、いつまでも帰ってこない自分に嫌気がさしてもう寝てしまったのか。そんな悲しい想像が頭をよぎっては消えていく。

 

 「……ねぇー、らくろうくーん……ホントに居ないのー……? 遅くなったのは謝るからさぁー……」

 

 いつしか呼びかける声からも力が失われていく。それでも、ひょっとしたら、ひょっとしたらこれはサプライズ好きの自分のために用意された演出で。楽郎や友人達が未だ捜索していないリビングで待っていてくれているのではないか。そんな淡い期待を残し、リビングへと続くドアを開ける。

 

 

 

 深い闇、人の気配のしない冷えきった部屋、少しの音すらも飲み込むような、底冷えするような空間がそこには広がっていた。

 

 ぷつりと何かが永遠の中で切れた。それは心を繋いでいた最後の砦であり、吐き出すまいと抑えていた感情の防波堤の最後のひとつであった。

 

 永遠の化粧が崩れる。どんな時も完璧であるはずのカリスマモデルの完璧が崩れる。その一瞬前、

 

 「ハッピーバースデー、永遠!!」

 「ハッピーバースデー、永遠さん!!」

 「ハッピーバースデー、鉛筆!!」

 

 重なる声と共に響き渡るクラッカーの音。音が重なり、闇が掻き消え、光が空間を満たした。

 

 「…………へ? 」

 

 ぽかんと呆気に取られる永遠。それもそのはず。そこに居たのは探し求めていた自分の夫だけではなかった。自分と夫の悪友、素直な後輩、恋敵、他にも電脳の世界(シャンフロ)で縁を紡いだ友人達が勢揃いしていたのだ。

 

 「どうだ、驚いたか? 永遠」

 「楽……郎くん」

 

 声を掛けられ目を向ければ、最愛の人が笑って立っている。

 

 「やー、お前が遅くなるって連絡が来たからさ。瑠美とか紅音とかの学生組は帰っていいって言ったんだが、絶対に祝うって聞かなくてな……まあ、でもその顔を見るに成功か? 」

 

 言っていたことの半分以上は頭に入らなかった。私の誕生日は忘れられていなかった。その事への嬉しさと、少しでも夫を疑ってしまった自分への罪悪感、そして未だ多少残る夫への不満が全て零れ落ちる。

 

 「ぅえっ!? ちょ、永遠!? え、だ、大丈夫か? 」

 「やーい、楽郎が鉛筆泣かしたー。女泣かしー」

 「ええい、黙ってろ女たらし魚類め!! 」

 

 「と、永遠さん? 大丈夫ですか? 」

 「……ん、これで拭くといい」

 

 その場にいる全員が心配して駆け寄ってくる。1部野次を飛ばしている奴もいるが、何だかんだで不安げな表情で永遠の様子を伺っている。その温かさがますますもって永遠の心を溶かし、流れ出させる。

 

 「あー……永遠」

 「……ぐずっ、なに、らくろうくん」

 「その、何だ。不安にさせて悪かったな。ちゃんとプレゼントも用意してあるし料理もあるぞ。ケーキだってある。だから、な? 泣き止んでくれないか……? 」

 

 そのあまりにも必死な様子と少しズレた心配がおかしくて、永遠はようやく笑顔を見せる。普段の完璧な笑顔ではないが、心の底から出た柔らかな笑顔を。

 

 「全く……楽郎くんはしょうがないなぁ……」

 

 もうこうなったら仕方がない。とことんまで彼の用意したパーティーを楽しんでやろうという気分に頭を切り替える。

 

 「いいかい、楽郎くん! この借りは大きいよ? 分かったら私を存分に楽しませなさーい!!! 」

 

 そう言って楽郎に飛びつく永遠。そして、一行は飲めや騒げやの大宴会を繰り広げるのであった。めでたしめでたし。

 

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