語られなかった者たちの饗宴   作:ゆくゆく

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なんか途中から方向性バグりまくった


ただただクソ可愛ええだけのルストが書きたいという欲のもとで書かれた話

 

 最近、夏蓮の機嫌が非常によろしい。

 

 ここだけを見れば、とてもいい事であると思う。年中無表情で、興奮を示すのは新しいネフィリムの組み合わせを見つけた時や、コンボを見つけた時。こんな状態は流石に年頃の女性としてはマズイのではないだろうかと思い始めていたため、今の状態は概ね問題は無いと思う。

 

 ……その原因が、ある一人の男だと言うことを除けば。

 

 

 

 

 

 「……ほら、葉。さっさと帰って今日もネフホロ」

 「あー、ごめん。ちょっと待ってて。日誌出してこないと」

 「む、葉は分かっていない。今この間にもサンラクが新しい対策を生み出しているのかもしれないというのに」

 

 ……まただ。最近の夏蓮はいつもこんな感じ。口を開けばサンラクの対策を、サンラクに勝てる構築を、サンラク、サンラク……

 

 率直に言うとすごくやな感じだ。夏蓮がサンラクさんに対して特別な感情を抱いているわけでないというのは分かってる。そもそも僕が夏蓮が思うことに対してどうこう思うこと自体が間違っている。

 

 けれどそんな理屈で納得できない部分が僕の中で声を上げている。

 

 「……葉? 聞いてる? 」

 「……聞いてるよ、そんなに早くやりたいなら先に帰ってやってればいいだろ」

 「……え? 」

 

 あ。

 

 「い、いや。今のは、その」

 

 何か言わなければ、と理性が訴えかけてくる。けれど口は動かない。それは心のどこかで今の言葉を放ったことは正しいと認めているから。そして、その逡巡がもたらした時間は夏蓮にある決断をさせるには十分過ぎた。

 

 「……もういい」

 

 荷物をひっつかみ、教室を飛び出して行く。

 

 

 今追えばきっと追いつける。普段は2人ともあまり運動はしないけれど、足は僕の方が早い。今追いかければ、追いついて、謝って、仲直りして、夏蓮に蹴られながら帰って、いつもみたいにネフホロをして、そして、そして……

 

 

 …………また、ルストがサンラクとの戦いに魅入られる。

 

 

 

 

 

 

 ………………足は、動かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもは2人で通る帰り道を今日は1人で歩く。たったひとつ、いつもの日常からピースが欠けるだけで、そこにある全てが台無しになったかのようにも感じる。まるでジグソーパズルのようだと独りごちた。

 

 どんなにそれ以外が綺麗に嵌っていても、ひとつ欠けているものがあれば不完全になる。夕陽が伸ばす影も、腕に伝わる荷物の重みも、早く早くと叱咤する声も、何もかもが足りない帰り道だった。

 

 

 

 

 足が止まる。家の前で止まる。佐備、と書かれた家の前で。

 

 指が伸びる。呼び鈴へと伸びる。もう何回目かの挑戦だ。

 

 普段上がり慣れた短い階段が、押し慣れたインターホンが、難攻不落の城塞が突きつけてくる防衛設備に見えて仕方がない。

 

 それからも何度か指を近づけては戻しを繰り返し、息を整える。いざ、指を伸ばして――――――

 

 「あら? 葉君、うちの前で何してるの? 」

 

 指はインターホンを逸れ、横の壁へと突き刺さった。家から出てきたのは夏蓮のお母さん。

 

 「……お、おばさん……こんにちは……」

 「はい、こんにちは。それでどうしたの? 夏蓮とは一緒じゃないの? 」

 

 ……痛いところを突いてくる。

 

 「あはは……まあ、色々ありまして……」

 「ふぅん? ……まあいいわ。ほら、上がって上がって」

 「え!? いや、ちょ、まだ心の準備が……」

 「なーに言ってるの! もう何回も入ってるでしょ! 」

 

 おばさんには一生勝てないだろう、きっと。そんな確信を抱きながら僕は夏蓮の家へと連行されていった。

 

 

 

 

 

 

 「それで? 夏蓮と何があったの? 喧嘩しちゃった? それとも無理やり襲っちゃったとか? 」

 「襲っ……そ、そんな事するわけないじゃないですか! 」

 「そうよねえ、ってことは喧嘩? 」

 「うっ……え、ええまぁ」

 

 実は僕は夏蓮のお母さんがあまり得意ではない。何というか凄く理解されているんだ。見透かされているとも言う。この人の前で隠し事ができた試しがない。

 

 「そうなの……うちの娘がごめんなさいね」

 「えっ、いや! 夏蓮は悪くない、というか僕が一方的に怒っちゃっただけで、そんな……」

 「でもあれだけ娘の面倒を見てくれてる葉君が怒るってことはよっぽどでしょう? あのネフィリム・ホロウとかいうゲームが関係してるんじゃない? 」

 

 何だこの人……本当に心が読めてるんじゃないだろうか。

 

 「……実は」

 

 

 

 

 

 

 

 「……なるほどねぇ、そんな事が……」

 「……謝らなくちゃいけないっていうのは分かってるんです。でも……」

 「夏蓮の気持ちがまだ自分に向いているか分からないから。サンラクさん? との戦いの方が楽しくて、自分とあそぶゲームは楽しくないんじゃないか。……こんなところかしら? 」

 

 「……はい」

 

 そう、その通りだ。僕は怖い。夏蓮が、ルストが、僕と一緒にサンラクさんと戦うことより、1人で、でもいいからサンラクさんとの戦いをすることを優先する。そんなことを考えているんじゃないかという恐れが常にある。

 

 だから、僕の用事よりサンラクさんとの戦いを大事に思っているような夏蓮の態度に苛立ちを覚えた。

 

 だから、謝らなくてはいけないとおもっているのに体は動かず、言葉も見当たらない。

 

 

 「そうねぇ、私にはゲームのことはよく分からないけど……難しく考えすぎてるんじゃないかしら、葉君は」

 「考え、すぎ? 」

 「ええ、そう。だってあの子、興味がなくなったら何でも直ぐにポイだもの」

 「へ……? 」

 「夏蓮がまだ待っている。ゲームもしないで部屋にこもってる。動く理由なんてこれで十分でしょう? 」

 

 あの夏蓮が、家に帰ったにもかかわらずネフホロをしてない? ……そんな事有り得るのかな。でも腹は決まった。伝わらなくても、伝えれなくても、伝えようとしなければ何も始まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 「……夏蓮、聞こえる? 」

 

 返事はない。けれど軽い何かが扉にぶつかる音がした。多分夏蓮は今そこによりかかってる。そう信じて言葉を紡ぐ。

 

 「その、さっきはごめん。あんな突き放すようなこと言って」

 

 「……僕は不安だったんだ」

 

 

 「夏蓮はサンラクさんとの戦いをするようになってから凄く輝いてた。あんなに輝いてる夏蓮は今まで見たことがなかった」

 

 

 「……そうだ、無かったんだよ。僕と一緒にネフホロに出会って、のめり込んで、何度も対戦して、頂点をとって……その中でこんなに輝いてる夏蓮は見たことがなかった」

 

 

 「だから、こう思ってしまったんだ」

 

 

 

 

 

 「……夏蓮にとっては僕と一緒にいるよりサンラクさんと戦ってる方が楽しいんじゃないかって」

 

 

 「……ねぇ、教えてよ夏蓮」

 

 

 

 

 「……僕は、夏蓮の相手には足らないのかな……? 」

 

 

 

 

 静かに、静かにドアが開いた。そこに立っていた夏蓮はまだ制服のままで、目は赤く滲んでいて、きゅっと結ばれた口は今にも泣き出しそうに震えていて。

 

 けれど、眼光だけは。瞳の光だけは変わらずそこにあった。いつもの強い光が。

 

 

 

 

 「……葉は、前提」

 

 

 「……」

 

 

 「居ると楽しいとか居ないと楽しくないとかそういう次元の話じゃないの」

 

 

 

 「私が、私であるためには葉の存在は必要不可欠……! 替えがきくような存在じゃないっ! こんなことも言われないと分からないのか、バカ葉っ……!! 」

 

 見開かれた目にはまだ液体が残っていて、それは今も増え続けていて。何か、何か彼女が求めている言葉をかけてあげないと今にも決壊しそうだった。

 

 「……ごめん」

 「……謝罪なんていらない」

 

 分かってる。でも言わないと僕が納得できない。

 

 「……葉はホントにバカ。うじうじとして、余計なことばっかり考えて。ホントにどうしようもない」

 「……返す言葉もございません……」

 

 全くもってその通りだ。でも言い訳させてもらうなら僕にも独占欲の一つや二つあるというか。

 

 「……だいたい思ってることがあるなら直接言えばいい。なのにあんな態度とってっ……! 」

 「あ、ちょ夏蓮、痛いから。痛いから! 」

 「うるさいっ……甘んじて受ける! 」

 

 げしげしと僕の脛を蹴り続ける夏蓮。ちょっと……いや、かなり痛い。

 

 それにしても、思ってることがあるなら言え、か……思い返してみれば、確かに今回のことは僕が悪いけど夏蓮に全く非がないかと言われればそんな気もしない。

 

 だからちょっとした意趣返しのつもりだった。いつも夏蓮にやられっぱなしだから、ちょっと驚かせるくらいのつもりで。

 

 「……夏蓮! 」

 「な、何……」

 

 僕らの間にあった距離を詰め、夏蓮の両肩に手を置いて顔を近づける。……ちょっと恥ずかしいけど、我慢しよう。これからもっと恥ずかしいことを言うのだから。

 

 「僕は、この先もずっと夏蓮といたい。夏蓮の隣で一緒に戦って、夏蓮と助け合って。夏蓮の意識の中でずっと一番の存在でいたいんだ。……これが僕の思ってることだよ」

 「……ひぇ? ぇ? 」

 

 ……言ってやった、言ってやったぞ! 正直テンパってて何を言ったかあまり覚えてないけど、それでも夏蓮の様子を見るに反撃は成功したと言っても…………あれ?

 

 「か、夏蓮? 大丈夫? 」

 「…………ぅぅぅぅぅ」

 「か、夏蓮!? なんかもう色々と凄いことになってない!? 」

 「…………ぅぅぅぅぅぁああ!! う、うるさいっ! さっさと帰れぇっ!! 」

 「わ、ちょ、夏蓮!? 」

 

 無理やり廊下に蹴り飛ばされ、思いっきり扉を閉められてしまった。や、やりすぎちゃったかな。いくら何でも引かれてしまっただろうか……うーん、謝りに来たのに余計こじらせてしまったような……

 

 その後はさすがに夏蓮に声を掛けるのも難しく、おばさんに挨拶をしてそそくさと家へ帰った。一応ネフホロにログインこそしてみたものの、夏蓮はログインしてなく不安な気持ちを抱えたままで眠りについた。

 

 

 そして翌日。

 

 あんなことがあった次の日なので、夏蓮を迎えに行く足も鈍りを見せている。のろのろと歩き、夏蓮の家に近づく。

 

 「……あれ? 」

 「……む、葉。遅い」

 「ご、ごめん。って、じゃなくて! 」

 「……とりあえずさっさと行く。このままだと遅刻」

 「あ、うん。そうだね」

 

 何故か夏蓮が家の前に立っていた。どういう風の吹き回しだろうか。何とか表情を伺おうにも、前をスタスタと歩く夏蓮の顔はここからではよく見えない。

 

 結局、昨日のことは無かったかのように夏蓮は振る舞っていた。僕としては仲直り出来たことは喜ばしいのだが、微妙なしこりの残る出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ side夏蓮 葉帰宅後のお話

 

 「~~~~~~~~~っ!!! 」

 

 布団にくるまり、枕を顔へ押し付け、全力で声にならない悲鳴を出し続ける。顔どころか全身が暑く火照っている。まるで鼓膜から全身へと血液を送り出しているのではないかと思うほどに鼓動がうるさい。

 

 原因は決まっている。何処ぞの幼馴染が投げつけてきた爆弾のような言葉。

 

 ずっと一緒にいたい……一番の存在でいたい……そんな言葉が脳内でリフレインし、その度に口から悲鳴が漏れる。

 

 「……反則、あんなの反則っ……! 」

 

 葉から拒絶されて、何も考えられないままに家に帰ってきて。ネフホロをやる気も起きず縮こまっていたら、葉が謝ってきたから怒りをぶつけて。普段の諍い程度ならそれで終わるはずだった。葉がぺこぺこと謝るのを私が怒りながらも許す。

 

 それなのに、それなのに……!

 

 「ぅぅううぅぅ……!! 」

 

 反則だ。ズルだ。あんなの、あんなの意識せざるを得なくなる。

 

 ……明日会う時までに何とか平静を保てるようにしよう。

 

 

  




当初の予定ではイタズラっぽく笑いながら前提のところ言わせる予定だったんですけど? (威圧)(逆ギレ)

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