語られなかった者たちの饗宴   作:ゆくゆく

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楽紅交際時空。どっちも大学生くらい?


春風と共に

 「……あ」

 「ん? 何かあったか? 」

 「あっ、はい! あそこに桜が……」

 

 紅音が指を指す方に目を向けてみれば、まだ咲き始めといった風情の桜の花がゆらゆらと暖かな春風に揺られていた。

 

 「桜か……どうしても桜を見ると色々思い出すな」

 「そうですね、楽郎さんと初めて出会ったのも春の日だったし……その、告白されたのも……ですね、うん」

 

 付き合い始めてからもう数年近くが経たんとしているというのに、未だに恥じらってくれるのは嬉しいやらこちらも恥ずかしくなるやらで妙な気分になるんだが?

 

 瞬間、一際強い風が遊歩道を吹き抜け、花びらと共に俺たちの間を通り過ぎていく。何となく視線を向ければ横でも同じように紅音がそちらに顔を向けており、2人で顔を合わせ笑う。

 

 

 俺が紅音とリアルで初めて出会ったのも、今日のような桜が咲きはじめる時期だった。

 

 春風が俺たちを導いてくれた、なんてロマンチックなことを言う気は無いが、それでもあの時の出会いは運命的なものであったとそう思える。

 

 ひらひらと淡雪のように舞い落ちる桜吹雪の中で彼女に出会い、そして恋に落ちた。

 

 今思い返すと、当時感じた雷光のような衝撃は単にゲーム内で酷く見慣れた顔をリアルで見たことによる混乱が多分に含まれていた気もするが……それでもあの時に見た紅音はとても可憐で儚くて、とにかく見る者の心を惹きつけて離さないような、そんな魅力を持っていた。

 

 

 

 

 

 「……さん……楽郎さん」

 

 「楽郎さんってば!! 」

 「……あ、ああ。ごめん、ぼんやりしてた」

 「もー、大丈夫ですか? またちゃんと寝てないんじゃ……」

 「大丈夫大丈夫、1徹は徹夜のうちに入らないから」

 

 そんなふうにおどけて返せば、目を釣りあげながらもー! と怒る紅音。可愛い。

 

 「冗談だよ、さすがに大事な彼女とのデートの前日に徹夜するほど女心が分からないわけじゃない」

 「だ、大事な……というか女心云々でもないですし……」

 「んー? 急に下向いてどうしたんですかぁ? 」

 「かっ、からかってますね!? 最近わかるようになってきましたから! 今の声は完全にからかってる時の楽郎さんでした!! 」

 「ははは」

 

 ははは。

 

 

 

 

 

 「紅音、俺は君の事を異性として意識している……というか正直に言って大好きだ、愛している」

 

 というのは俺が告白する時に言おうと思っていたセリフである。実際は告白しようとした時には既に告白されていた。

 

 恋愛暴走ドラッグカーこと隠岐紅音さんの前では心の準備なんてものはさせて貰えなかった。良い雰囲気を作ろうとか考えていた俺が悪かったのだ、現実の恋愛はラブクロックより非情……!

 

 

 

 

 

 

 「……やっぱり嬉しい思い出とか楽しい思い出ってどれだけ時間が経っても忘れられないですね」

 

 桜を見上げながらぼんやりと思い出に浸っていた意識を紅音の声が引き戻す。

 

 「……きっと同じ時のことを考えてるさ」

 「え? 」

 「え? 」

 

 ちょっと待て、何だそのキョトンとした顔は。え? 違うの? 初めて出会った時の事とか告白合戦した時の事とか考えてない?

 

 「え、えーっと紅音さんや? ちなみにどんなことを考えていたか聞いてもよろしゅうございまして? 」

 

 「えっ、えっと中学の卒業式の後にお友達とお花見に行ったこと、ですけど……」

 

 

 

 ……アナガアッタラハイリタイデス

 

 

 

 

 「あっ、あっ、アレですよね! あのっ、楽郎さんに告白された時のお話ですよね! もちろんその時のことも考えてましたからっ! ねっ、ねっ!? 」

 

 ああ、その優しさが身に染みる……そして心に刺さる。

 

 「あー……いいんだいいんだ、良いよな友達との花見。うん。大事大事」

 

 あー、思い上がっていた自分が恥ずかしい!!

 

 「ら、楽郎さん! 」

 「はいっ!? 」

 

 火照った顔を冷ますように、手で仰ぎながら少し前を早歩きで歩いていたらいきなり後ろから呼び止められる。

 

 振り返れば、いつかと同じように桜の花びらの中で紅音が真剣な顔をしていて。でもその姿は俺の思い出の中にあるどの姿よりも綺麗だった。

 

 「違うんです。 私、楽郎さんと見たこととか感じたことは過去の思い出にしたくないんです」

 

 

 声が聞こえる。

 

 あの時、あの瞬間の彼女の声が今目の前にいる彼女の声と重なる。

 

 

 「私、楽郎さんのことが大好きです」

 『私っ、楽郎さんのことが……大好きなんです! 』

 

 

 

 「だから、貴方と一緒にいられる時間を一瞬だって離したくないんです」

 『貴方とずっと一緒に過ごして、同じ時間を共有して、そんな未来を過ごしたいんです! 』

 

 

 

 

 「『……だからっ!! 』」

 

 

 

 

 「……あ」

 

 

 俺の体は自然と動き、紅音を胸の中に抱き寄せていた。ぎゅっと深く抱きすくめ、耳元で囁くように思いを漏らす。

 

 「俺だってそうだよ、ずっと紅音と一緒に居たい。出会った時の衝撃も告白された時の喜びも、全部鮮明に残していきたいんだ」

 「楽郎、さん……」

 

 おずおずと回された紅音の腕が、俺の背中に組み合わされた状態で触れる。

 

 きっとこれからも俺たちはこの春風の中で色んなことを体験していくのだろう。そんな根拠の無い確信が胸の中に去来する。けれど、どんなことであっても彼女と一緒にできるように。そんな思いを込めて紅音を抱きしめ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 




数分後にめっちゃ赤くなった紅音ちゃんが「……あのぅ、人が……見てます……」って言って離れるんだきっと。
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