語られなかった者たちの饗宴   作:ゆくゆく

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某サボテンVTuberの方の概念にございます。何故か本家本元作者様が補強した概念です。何でぇ?


秋津茜メイド概念ッ!!

 

 少し早めの校外学習が無事に終わり、生徒たちの間に仄かな高揚感が漂う初夏。

 

 うちのクラスでは、とある会議が紛糾していた。

 

「絶対に! お化け屋敷だろ!! 」

「いやいや、メイド喫茶でしょ!! こればっかりは譲れないから!! 」

「お前ら、落ち着けよ! ここは穏便に演劇にしよう! 」

「あえての女性執事喫茶!! 執事しか勝たん!!! 」

 

 青春の1ページを飾る重要行事、文化祭の出し物決めの会議である。生徒の自主性を慮るこの学校、どこのクラスも出し物決めは毎年白熱しているのだが……このクラスは少しばかり理由が違う。

 

 無論、僕もその理由が違う連中の気持ちはよーくわかる。先程の会話に、副音声をつけてみよう。

 

 

「絶対に! (隠岐さんのお化けコスが見れる)お化け屋敷だろ!! (あわよくば驚く隠岐さんが見たい……!! )」

 

「いやいや、メイド喫茶でしょ!! これ(紅音ちゃんのメイド姿)ばっかりは譲れないから!! 」

 

「お前ら、落ち着けよ! ここは穏便に演劇にしよう(隠岐にドレスを着せよう)! 」

 

「あえての女性執事喫茶!! (紅音さんの)執事しか勝たん!!! 」

 

 

 細かいところは分からないが、大凡の所はこんなもんだろう。自分で言うのもなんだが、欲望の坩堝である。ちなみに僕はメイド喫茶派。いいよね、アレ。特に和ロリが好みです。

 

 当の本人は何も気づいておらずに、楽しそうに出し物を考えているのがまた、教室のカオスを加速させている。

 

「はいはい、皆が色んなことやりたいのは、よーく分かった! だから1回落ち着けっ! 」

 

 結局、混沌は委員長の雷が落ちるまで続き、出し物は無難に多数決で決められた。……多数決で決められたのだ。

 

 クラスの全員が、あるひとりの動向を伺いながら決議に参加し、そのひとりが手を挙げた瞬間、全員が同調したとしても、それは民主主義の表れたる多数決で決められたものなのだ。

 

 

 その結果、決まった出し物はメイド喫茶。余りにも僕に得すぎる結果になったため、夢を疑ったがどうやら現実らしい。演劇派の友人が、執拗に肩パンしてくるこの痛みは間違いなく現実のものだ。隠岐さんのメイド姿が見れる喜びで誤魔化してるが、そろそろ肩が痛いんだけど。

 

 

 

 と、そんな一悶着があったりもしたが、メイド喫茶をやると決まってからの団結力は、流石の一言だった。各々が自分の持てる技術を、人脈を、ありとあらゆる経験を惜しみなく注ぎ込み、隠岐さんのメイド服を拝むための舞台作りに邁進する。

 

 

 当然、準備の過程では幾度となくクラスメイト間での衝突があった。第一次フード戦争、第二次ドリンク戦争、第三次デザート戦争からなる大規模メニュー戦争を皮切りに、クラシカルウォー、ケモ耳大反乱、果てにはミニスカ、バニーのサブカル連合が引き起こした文化闘争は、恐らく今後長らく語り継がれることとなるだろう。……悪い意味で。反面教師的に。

 

 

 しかし、それらの戦いを全て叩き潰してきた最強の集団がいる。それこそが、委員長率いる和メイド軍団である。ちなみに僕は一番隊隊長だ。日頃鍛えたプレゼン力がこんなところで役に立つとは、人生何があるか分からないものだ。

 

 

 結果として、うちの文化祭は和メイド喫茶に決定した。メニューや内装も和風で統一され、衣装もかなり気合いの入った物が用意された。惜しむらくは和ロリオンリーではなく、着物バージョンもある事だ。着物バージョンも可愛いけど、ちょっと違うんだよ。伝われこの微細な違い。

 

「ちょっと、一番隊隊長〜? 何ひとりで百面相してんのよ? 」

「あ、いいんちょ……ぅひゃぁ」

「何その反応……不安になるんだけど」

 

 今日は、文化祭前日。故にリハーサルという形で、接客担当の女子生徒はメイド姿を初お披露目してくれる。和メイド軍団総司令官こと委員長も、接客担当のため着替えに行っていたのだが……

 

 

 あえて言おう。最高だ。本人は少し前まで「私、背も高いし隠岐さんみたいな可愛げもないから、着るとしても着物の方かな〜」なんて言っていたのに、まさかの和ロリ! ちょっと照れながらも不安げにしてる姿最高ですありがとうございました!!!

 

「委員長、マジやばい。超最高。女神はここにあらせられたのか……」

「ちょ、やめてよ! 照れる! てか、拝むなっ!! 誰が女神よっ!? 」

 

 着替えを終えた女子生徒……いいや、メイドさんたちがぞろぞろと教室に入ってくる。それを見た男子たちも粛々と祈りを捧げ始める。教室はまるで新興宗教の会議場だ。

 

 教室のあちこちでメイドに魅了された男子たちが、ともすれば告白とも取られかねないセリフを素面で叫び、女子達も満更では無い様子で受け入れる。そんな空間が展開されていたのだが。

 

 

 その空間が維持されたのも、()()が教室に入ってくるまでだった。

 

 

 普段の明るく天真爛漫な雰囲気は少しその勢いを収めている。だが、それ以上に彼女の全身から発散される魅力は僕たちを捉えて離さない。

 

 学校の制服よりは少し短いスカートが気恥しいのか、少し頬を染め、それでも可愛らしい服に身を包むことが嬉しいのか、顔には喜色が滲んでいる。

 

 普段は邪魔にならないように後ろでくくっている長い髪も、今は楚々たる雰囲気に花を刺すように、いわゆるおさげの形で両肩に垂らしている。

 

 

 和ロリに身を包んだ隠岐紅音さんは、一言で言えば理想の体現であり、天使だった。

 

 

 

 バタバタと何かが倒れる音が聞こえ、鋼の精神で視線を横にずらせば、もはや教室内で意識を保てているのは僕と委員長だけ。委員長は何度か見慣れているのだろう、うんうんと頷きながら満面の笑みを浮かべる余裕を見せているが、僕はヤバい。委員長の和ロリ姿で少しだけ抗体ができたのが幸いして、少しは耐えられているがもう限界だ。さよなら、僕の意識。幸せな夢を見せてくれ。

 

「あのー、皆さん。どうでしょうか……ってあれ!? だ、大丈夫ですか!? 」

 

 最後に聞こえたのは、隠岐さんのそんな叫び声だった。

 

 

 

 

 

 数分後、意識を取り戻したクラスメイト達からベタ褒めされ、顔を真っ赤にした隠岐さんが出来上がったり、文化祭が始まる前だと言うのにクラスのあちこちで恋の蕾が芽生えていたりしたが、それらは割愛する。……ぺっ、青春しやがってっ!! そんななまっちょろいヤツはうちの隊には要らねぇんだよぉ!

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、文化祭は無事に始まった。

 

「すみませーん、現在2-Aの和風メイド喫茶満員でーす!! 」

「店内の旦那様、お嬢様方は利用時間の厳守をお願い致しまーす!! 」

「いいんちょ〜……お客様の列がそろそろやばい事になってるよぉ〜」

「ああもうしょうがないわね! はいこれ、整理券! 今並んでる人に配ってきて! 」

 

 ……無事に始まった。うん。従業員の体力は無事では無いが。

 

 

 1日目が始まり、既に数時間が経過したが、今なお客足は衰えるどころか、増加の一途をたどっている。

 

「はい、委員長! 3宅のオーダー上がったよ! 」

「ありがと! お待たせいたしました、旦那様♡ 」

 

 当然、僕もキッチン担当として大忙しだ。一番隊隊長に休みは許されない。ちくしょう……

 

 キッチンは基本的に出来合いのものを盛り付けるだけとはいえ、オーダー数が馬鹿にならない。……3卓の客、ちょっと距離が近すぎやしませんかね。少しでもお触りの気配見せたら即出禁にしてやる。隊長権限だ、職権乱用など知ったことかっ!

 

 

 ……それはともかく。

 

 うちの店がこんなにも大反響なのは当然彼女……隠岐さんのおかげであろう。そもそも前日の時点で彼女を見に来るギャラリーが絶えなかったのだ。ある程度の忙しさは予測できた。予測できたのだが……

 

「アレは余りにも宣伝効果として強すぎたな……」

 

 思い返すのは昼前の事。シフト交代やら何やらのために少しだけ、お客様の入りをストップさせた時の事だった。

 

 

 

 

 

 

「やー、開店直後担当の子達ありがとね! 存分に休むなり遊ぶなりしてこい! 」

「委員長もお疲れー……ってまだ働くんだっけか。偉いねぇ、拝んじゃお。ははーっ」

「だから何で皆、私の事拝むのよ……誰のせいかしら」

 

 ぎくり。委員長の無言の圧力が突き刺さる。

 

「……委員長のカリスマのおかげだよ!! ヒューッ!! 」

「嘘くさっ!! 」

「相変わらず仲良いねぇ、おふたりさん」

 

 などと、談笑をする余裕もあった。この時までは。

 

 問題が起こったのは、次の時間帯のシフトの人が来て、席の清掃を始めた時だった。

 

「あれ、忘れ物……って委員長っ!! これヤバイかも! 」

「どうしたの……ってうわぁ……金品、貴重品諸々入ったカバン丸ごと……なんでこんなもん忘れんのよっ!! 」

「スマホで決済できるのがアダになったなぁ……」

 

 ある客の忘れもの。これが普通の飲食店なら預かっておけたが、ここは学校で今は文化祭。どうしたものか。

 

「委員長、どうしよう……」

「んー……とりあえず本部に連絡して校内放送してもらおう。後は、総合センター……という名の職員室に届けるくらいしか出来ないかな……」

 

 委員長が妥当な解決策を挙げ、皆がそれに取り掛かろうとしたその瞬間、事件は起こった。

 

「これって5卓の人の忘れ物ですよね。私、その人の顔とか格好覚えてるので追いかけてきます!! 」

「え、ちょ紅音ちゃん!? ……って早ぁ!? 」 

「ちょっ、紅音ぇ〜! スカートで全力疾走は乙女としてダメぇ〜!! 」

「確かに5卓は隠岐さんが担当してたけど……大丈夫か? 」

 

 キラッキラした笑顔でカバンを引っつかむと、隠岐さんは猛ダッシュで視界から消えていった。それはもう綺麗なフォームで。メイド服なのにあんなにも走るのが早いのは、もう陸上部だからとかそういう理由で済ませてはダメな気がする。

 

「─────だぁ──いじょぉ──ぶぅ──……!!! 」

 

 あ、なんか遠くで聞こえてきた。隠岐さんの友達が手を伸ばしたままへたりこんで悲嘆に暮れている……演劇部だったね、この人。

 

 

 

 結果から言えば、無事にカバンは持ち主の元へと帰った。だが、その代償として、学校中に爆走和ロリ美少女メイドがあそこのクラスにいるらしいという噂が広まってしまった。

 

 

 そしてその結果が、この大盛況である。企画側としては嬉しいが、働く側としてはただの地獄である。なお、当の本人はお食事休憩中だ。シフト通りとはいえ、中々の精神力じゃないかな。

 

 

「ありがとうございましたぁーっ! 」

 

 ああ、もう委員長がちょっとおかしくなってきてる。メイド喫茶というか居酒屋店員みたいなテンションだ。

 

 ……こんなんで今日明日を乗り切れるのかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 後日談

 

「そういえば紅音ちゃん、やたらとメイド服での走り姿が様になってたけど、理由とか聞いてもいい? 」

「あ、それ私も思ってた〜」

「そんなに大した理由は無いですよ? 普通に知り合いの男性の方にメイド服の走り方を教わったことがあるだけですから! 」

「そ、そうなの……」

 

 メイド服の走り方を教えてくる男性って何!? って叫びたくなったとは、後の本人談である。

 

 




和ロリは私の趣味です。
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