語られなかった者たちの饗宴   作:ゆくゆく

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らくれが書きたかった。みゅすかが書きたかった。そんな2つの感情が合わさって核融合を起こした作品。


ONE NIGHT ONLY μ-SKY

 

 異変にはすぐ気がついた。

 

 「サンラクサン、おはようで、す……わ? 」

 

 いつもと変わらないはずのラビッツのベッドがやたら大きく感じられる。

 

 「さ、サンラコサン? 」

 

 身体を起こせば絡みつく重力はいつものそれよりはるかに少なくて。

 

 「いや、でも……えぇ? 」

 

 けれどこの感覚はこことは違う世界(ゲーム)で味わったものだから。

 

 「そ、そうですわ! び、ビィラックおねぇちゃんに相談を……」

 

 正しく脱兎のごとく逃げようとしていた兎を捕まえ、銃を……

 

 「ぴぃぃぃい!? さ、ザンラグザァン!!? 」

 

 「ふぅぅぅ……? あれ、エムル? 何してんだお前」

 

 「こっちのセリフでずわぁぁぁ!! 」

 

 

 

 

 ◆

 

 「それで? サンラクサン、なにかアタシに言うことないですわ? 」

 

 「悪い悪い、すまんかった。べりーそーりー」

 

 「誠意が感じられませんわ!! 」

 

 「そりゃお前、俺だってこの状況が訳わかんないんだ。襲ったことは謝るがそれ以外は知らん」

 

 「ぷぅぅぅ……」

 

 あっ、やめろエムル蹴るな! この姿だと踏ん張りがきかないんだよ! ……しかしまさかシャンフロでこの姿になる時が来るとはな……バグか、やはりバグなのか。

 

 「くく、気分としては最高だがなぁ……」

 

 なんせシャンフロエンジン下でこの体を動かせるのだ。こうなったら早速狩りに……

 

 「あ……やっべ」

 

 完全に忘れていた。俺が今日シャンフロにログインしたのはなんのためか? 答えは単純。ある人物と狩りの約束をしていたからだ。まずいまずいまずい! さすがにこの姿で行くのは……1度ログアウトすれば直るだろうか。

 

 「……っ……くっ……」

 

 宙に浮かぶウインドウの1箇所を軽くタップするだけでいいと言うのに俺の指は動いてくれない。そりゃそうだ。こんな千載一遇のチャンス、バグ報告するにしても遊び尽くしてからに決まっている。

 

 「いや、でもなぁ……」

 

 ああ、こうして悩んでいる間にも約束の刻限が刻一刻と近づいてくる。道中はまだいい。それこそメジェドダッシュを決めれば良いだけの話だ。

 

 「ええい、男は度胸! エムル、フィフティシアにゲート開いてくれ! 」

 

 「はいな! 行ってらっしゃいですわー」

 

 頭から白布を引っ被りいざフィフティシアへ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 「……ふふ」

 

 フィフティシアに着いてからもう30分は経っただろうか。その30分の間にもう何回笑いが零れたかは数えていない。

 

 (楽郎くんと一緒にシャンフロ……これはもうデートと呼んで差し支えないのでは?)

 

 「ふふふ……」

 

 このように先程から含み笑いをこぼしているが彼女の見た目は装備も相まって単なる不審者である。それなりに人のいる時間だと言うのに彼女の周りにはプレイヤーが少しも寄り付いていない。

 

 「…………レイ氏」

 

 (……?)

 

 何処からか想い人の声が聞こえた気がしたが、気の所為だろうか。しかし、周りを見渡しても特徴的な半裸の姿は見えない。

 

 「気の所為、でしょうか」

 

 「……レイ氏……! 後ろ……! 」

 

 いや、気の所為ではない。確かに聞こえる。だが……

 

 (後ろ……? )

 

 記憶が確かなら後ろにはちょっとした植え込みがあるだけで大の大人が隠れられるようなスペースはなかったはずだが……?

 

 一応振り向いては見たもののやはり想い人の姿はそこにはない。

 

 「えっと、サンラクくん? ……きゃっ!? 」

 

 「しーっ! 」

 

 それでも一応と声をかけた彼女の身体は何者かによって引きずり込まれる。慌てて戦闘態勢を取った彼女の前に現れたのは、

 

 「女の子? あれ? サンラクって……」

 

 「あー、その……何と言うか俺です。サンラクです」

 

 「え……」

 

 「ええええぇぇぇ!!? 」

 

 幼女の姿となった想い人だった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 「あー、レイ氏。落ち着いた? 」

 

 「はっ、はい! でもなんでそんな姿に……」

 

 運良くレイ氏の後ろに身を隠せそうな植え込みがあったので後ろから声をかけたのだが驚かせてしまっただろうか。とはいえ正面から声をかけるのもなぁ……

 

 「あー、ちょっと俺にも理由は分からないんだよね。でも戦闘には支障はないから行こうか」

 

 「はぁ、なるほど……? 」

 

 うーん、困惑している。でもホントに理由分からないからなぁ……

 

 

 

 

 裏路地を歩き始めてしばらく立った頃、どうもレイ氏の様子がおかしい。いや、もちろん友人がいきなり幼女になったら驚くだろうがそれだけでは無いというか……何らかの衝動と戦っているような……具体的に言うと俺の頭に手を伸ばしては引っ込めるということを繰り返している。

 

 「あー、レイ氏? どしたの? 」

 

 「へっ!? な、ナンデモナイデスヨ? 」

 

 「いやいや、思いっきり嘘でしょ……俺に出来ることなら言ってよ。できる限りやるよ? 」

 

 「へぁっ!? にゃ、にゃんでも……」

 

 「あ、あのサンラクくん、その、お願いがあるのですが……」

 

 「うん、なぁに? 」

 

 まぁ、お願いと言ってもそんな大したことは要求されないだろう。外道共と違って。

 

 「……あ、頭を……撫でさせてください……! 」

 

 「……へぁ? 」

 

 頭? ナンデ?

 

 「や、やっぱりなんでもないですっ……! 」

 

 「あー、いや。それくらいなら別にいいけど……」

 

 「ほっ、ほんとですか! 」

 

 「お、おう……」

 

 何だろう、そんなにこの見た目がレイ氏の琴線に触れたとでも言うのか。

 

 「で、では失礼して……ほわぁ……すべすべぇ……」

 

 んむ……こ、これはすごく変な気分になるな……安請け合いしたことを微妙に後悔している。

 

 

 

 数分後。

 

 「はぁ……満足です」

 

 「そ、それは何よりで……」

 

 レイ氏……非常に満足気な表情を浮かべているのはいいのだがそんなにも幼女が好きなのかい?

 

 「あっ、ち、違うんですよ! その……小さい子とか好きなんです。親戚に結構いたんですけど、最近撫でさせてくれなくて……それで」

 

 「まぁそういう事なら良いけどね……」

 

 ただ同年代の女の子に幼子にするように頭を撫でられるのは高校生男子としては微妙な気分になるというか……

 

 「うーむ……」

 

 「や、やっぱりいやでしたk……きゃぁっ!? 」

 

 「……っ!? 」

 

 「へへへ、お嬢ちゃん……この子の命が惜しいなら金をだしなぁ! 」

 

 これは……ゴロツキNPCか? いや、確かに今の俺たちは傍から見たら幼女と少女(首から下は重装甲)だが……刻傷の効果効いてないのか……?

 

 ……何だ、この感覚は。身体が自然と震える。恐怖? まさか。この感覚は……そうか。()()()の感覚。夜に身を溶かし、野生を駆け巡り、獲物を刈り取る捕食者の感覚……!!

 

 「……っ!? ど、どこいっ「黙れ」た……? 」

 

 無数のスキルとレベルに裏付けられたステータスはあの頃以上の速度での動きを可能とする。一瞬でゴロツキの後ろに回り込み、インベントリアから出した銃を突きつけ引き金を……

 

 ……やべぇ、いかんいかん。ここはシャンフロ。こいつはNPC。ゴロツキとはいえ殺したらPK判定が下りかねん。とはいえレイ氏を拘束されてるのはムカつくしな……

 

 「その人は俺の大切な(友)人だ……即座に離さなければ……」

 

 殺す。そんな無言の殺意が伝わったのか、ぐりりと押し当てた銃に怯えたのか。

 

 「な、なんなんだよちくしょう! 」

 

 涙目になりながら典型的な捨て台詞を吐いて逃げていった。いや、そんなになるなら最初から手ぇ出すなよ……

 

 

 「あ"ー、レイ氏? 大丈夫? 」

 

 まぁ俺より圧倒的に高い耐久力とリアル戦闘力を有しているレイ氏だ。心配するほどの怪我は……

 

 「うきゅぅ……」

 

 「レイ氏ィ!? 」

 

 直立不動で立っているように見えたレイ氏は顔を真っ赤にして半分気絶していた。そして俺が至近距離で顔を覗き込んだことがトドメとなったのか

 

 「我が人生に……悔い無しっ……! 」

 

 「れ、レイ氏ぃぃぃぃ!!! 」

 

 サイガ-0、フィフティシアの路地裏にて殉職。享年僅か17であった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあそれは冗談として恐らくリアルでも気絶したレイ氏は強制ログアウト機能によって現実世界へと旅立っていった。

 

 「……物足りねぇ」

 

 後に残された俺はボソリと呟く。そう、物足りないのだ。この昂る戦意、殺意、戦闘欲! 本来レイ氏との狩りで満たされるはずだったこの欲望をどこにぶつけてくれようか……森だな。この()が行くのなら森が1番相応しい。

 

 

 

 

 「エムルぁ! ゲートを開け、新大陸だ! 」

 

 「へ? サンラクサン、約束は良いですわ……な、なんか怖いですわぁ!? 」

 

 「ははははは! 良いから良いからァ! 」

 

 「ううう、サンラクサンが変ですわぁ……」

 

 さぁ、待っていろ。新大陸のモンスター達。……一夜限りのμ-sky復活だ……!!

 

 

 

 




レイ氏は熱出してぶっ倒れた。
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