堕天使に恋をするまで   作:公証人役場

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EP.04 シエスタ③

 

 

 

 

 p.m. 01:42 シエスタ・市長室

 

 

「そこで俺は言ってやったわけよ『そんなに言うなら自慢の男とやらを連れてきてみな!』ってな」

「なるほど。それで連れてきたのが彼というわけだ」

「とんでもねぇ話だ! マルスマルス、おおマルス! 邪悪なる天魔! 戦場の死神、血に濡れた狂人よ! 自称サルカズ最高の詩人とやらが褒めたたえてたぜ」

「……聞かなかったことにするよ。私の知る彼は非道ではあるが残虐ではないのだから」

 

 言って、ソファで寛ぐ鳥類に形容し難い目を向けている友人に目を向ける。シエスタの市長として多くのことを経験してきたが、年の離れた友人として長年関わりのある彼のこんな顔を見るのは初めてだった。

 得体の知れない生命体を見たような、興味深いが腹立たしいことを言っているので三枚におろすか悩んでいるような、なんでこんなのに臨時とはいえ雇われてしまったのかというような顔だった。

 

「本人的には今のどう?」

「鬱陶しいサルカズの阿呆共を思い出すから二度と聞きたくない」

「意外な弱点だ。どうやら私も知らない弱さを君が抱えていたとはな。マルス、この十数年でどうして教えてくれなかった?」

「お前までボケはじめるなヘルマン。そういう絡みはこいつだけで十分だ」

「私だけがいればいいって? 中々に大胆な告白だね、痺れちゃうよ」

「……その角引っこ抜くぞ」

 

 わーこわーい、などと戯れ始めた二人を視界から追い出す。彼女もペンギン急便の例に漏れず型破りなようだが、彼も満更ではなさそうだし良いだろうとヘルマンは納得した。

 多少の騒がしさに目を瞑れば、今の状況はシエスタにとってかなり都合がいい。

 

 街に侵入した集団は早くも半壊。シュヴァルツを筆頭に駆け回る治安維持隊によって、そう時間も掛からない内に残党も処理されるだろう。

 協力体制にあるペンギン急便から提供されている戦力はこの場にいる三名。テキサス、モスティマ、マルス。

 

 テキサスという女に関してはヘルマンもここ数回のエンペラーとの交渉の際に面識があり、実力も申し分ないと把握出来ている。

 マルスは言わずもがな。この十数年お得意様として、また警戒すべき最悪として関わってきたが故に戦力として過剰な所にあると判断する。

 しかしモスティマという女はよく分からない。角の生えたサンクタなど見たことも無いし聞いたことも無い。戦力としても不明瞭。だが疑う必要はないだろう。

 

 あのマルスが傍に居ることを許している時点で、彼女もまた普通から外れた異常者だ。

 

「おい、ヘルマン」

 

 声をかけらた方に視線を向ければ、黄金の瞳が目に映る。

 

「俺がここに来るまでに捕らえたやつらは軒並みサルカズだったわけだが」

「なにか気になることがあるのかね」

「……爆弾を扱う女は確認しているか?」

「いいや、報告には上がっていない」

「なら刀を二本持った男は? 恐らく鉱石病を隠してもいない、高身長の男だ」

「……確認している。シュヴァルツも彼を警戒していた」

 

 マルスが顔を顰める。彼がこうして聞いてくるということは知り合いか、或いは傭兵や兵士として名が売れているということだろう。

 シュヴァルツの力を疑う訳では無いが、そうなると彼らにも急いでもらうべきかもしれない。

 

「鳥もどき、ヘルマン」

「構わねぇぜ、行ってこい。モスティマとテキサスも連れて行け」

「お前はともかくヘルマンに護衛は残すべきだと思うが」

「構わない。君ならば我々が死ぬまでに間に合わせれるだろう」

「楽観的だな」

「信頼の表れだ」

 

 溜息を吐いたマルスが頭を搔く。

 

「あー、モスティマ。それからテキサス」

「なんだい?」

「残れ」

「……意図を聞きたい、マルス。私とモスティマでは足手まといだと?」

「いや、あれが関わってる以上完全に出払うとダメになる。あれはめちゃくちゃなやつだが、それゆえに生半可な奴らには味方しない」

 

 いいな? とヘルマンとエンペラーを見るマルスの視線は有無を言わせないものがあった。

 テキサスは彼が相手を知っているなら指示に従うのに抵抗はなく、モスティマはどことなく不満そうにするがそれに気づいたのはマルスだけ。

 不満を見抜いた上で封殺して、ヘルマンとエンペラーに可能な限り周囲に気を払うように行って部屋を出た。

 

「……あれが天魔か、モスティマ」

「もう捨てたらしいけどね」

 

 テキサスの呟きを拾いながら少しばかり訂正する。傭兵として名を馳せる最悪な人。埒外の依頼料の代償に護衛だろうが軍隊の殲滅だろうが必ず達成する規格外。

 噂によると気に食わないからと絡んできた傭兵たちを血祭りに上げた事もあり、総じて破天荒かつ暴力的な印象を抱くような話題しかない。

 

「俺もビビったぜ。天魔といや金次第で遂行中の依頼の依頼人すら殺すって噂だったからな。それが無条件で手伝い? ……なんの冗談だってんだ」

「まあ、彼はあれで結構優しいからね」

「私の知る彼もお嬢さんの認識に近いのだろうが、それよりは幾らか非情だ。今のように無条件で手を貸すほどの優しさはなかったように思う」

 

 結論としては、モスティマの認識する彼は他の認識する彼とはズレているということだった。

 エンペラーはそれを人間味があっていいと肯定し、ヘルマンもまた人らしくて良いと判断する。

 彼は古い友人が孤独でなくてよかったと心の底から思っている。

 

「ありがとう、サンクタのお嬢さん。私の友人を人としてくれたのはどうやら君だったらしい」

「よく分からないけれど、お礼を言われて悪い気はしないから受け取っておくよ」

 

 微笑んだままのモスティマの表情からは特別何かが読み取れるということは無い。

 なるほど、とヘルマンは一人で納得する。彼にもこの少し面倒な匂いのしてきた問題が終わればやりたいことが出来たらしい。

 怪しい笑みが浮かび、それを見たエンペラーが気持ちが悪いと罵倒する。

 

「しかし狙いが読めないな」

 

 呟くヘルマンの脳裏に浮かぶのは市街地で暴れ回っているというサルカズを中心とした感染者の集団だ。

 この街は感染者に対しても比較的どころではなく寛容であり、例えばウルサスのような厳しい行為は一切行っていない。近頃活発だというレユニオン・ムーブメントとやらの暴動などの対象にもなりにくいはずだ。

 市街地で暴れて保安局が出てくれば散り散りになりながらも破壊活動を行う意図が不明だ。

 

 マルスが護衛として二人は残るべきだと置いていったが、狙いに関して何が理解があったのだろうか。

 こういう時に説明を省く悪い癖があることに慣れ過ぎて聞かなかった己の愚行を僅かに後悔する。

 

 今のヘルマンとマルスには契約によるものではなく、ただ雇用者と傭兵という立場から生まれた友人であるという繋がりだけ。

 私人としてはそれで十分だが公人としてはあまり宜しくないというのもまた事実。敵の狙いが可能性であっても共有出来ていないのは致命的ですらある。

 

「……ふむ」

「判断材料のねぇもんを考えても答えなんか出ねぇだろ。ここはどっしり構えとくべきだぜ」

「常日頃から襲撃されている人物は言うことが違う」

「まあ慣れってやつが足りてねぇんだよ! 世の中慣れちまえばなんとでもなるからな!」

「ふふ、覚えておこう」

 

 偉そうにエンペラーがふんぞりかえったその時、カチッという音が聞こえた。

 

「あん?」

「……失礼するよ、市長さん!」

「む?」

 

 エンペラーが怪訝そうに声を発し、モスティマが腰に提げていたアーツユニットを抜いた瞬間、爆音と共に部屋が弾けた。

 

 

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