堕天使に恋をするまで   作:公証人役場

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──今作戦の戦闘記録及び観測記録より抜粋
シエスタにて◼◼、並びに角のあるサンクタを確認。◼◼はアーツユニット無しで◼◼◼異を引き起こすことを確認。
また、サンクタも並外れた力の保有が認められた。危険度の上方修正の必要有。
市庁の爆破は成功。都市内における隠密活動も一定の成果が確認された。

そして、今作戦における最大の戦果は戦闘行為を行った本人の記録により裏付けが取れた()()()()()()()()という事実である。




EP.06 シエスタ⑤

 

 

 

 

 p.m. 04:30 シエスタ・市街地

 

 

「調子はどうだ」

「問題ありません。ありがとうございます」

「無事ならいい。紅茶を淹れてもらうまでは死なれては困る」

 

 一部地域にて外部から侵入した暴徒が暴れたが鎮圧がほぼ完了したことを市民に周知し、治安を取り戻すのもシュヴァルツの仕事の内に入る。

 そうやって混乱していた市民と観光客を落ち着かせた市街地で、シュヴァルツとマルスは一服していた。

 

「あのサルカズは知り合いだったのですね」

「……知り合いじゃない。生きるか死ぬかの狭間を楽しむような狂人の顔なんぞ見たくもないんだ」

「まあ、それはそうですね」

 

 アロハシャツにサングラスの鉄壁構成にかすり傷の一つもないマルスと薄着に少し傷が見えるシュヴァルツの組み合わせは視線を集めていたが、二人とも我関せずと注文したフルーツドリンクに口をつけている。

 南国でしか生育しない果物から出来たそれは程よい甘さで根強い人気があるシエスタの名物の一つだ。

 

「見つけましたわシュヴァルツ!」

 

 周囲の視線を集めるような声量で呼ばれたシュヴァルツは一瞬飛び跳ねるようにして振り向き、声の主を視界に捉えてあたふたとし始める。

 

「もう! 絆創膏も貼らずに放ったらかして! 小さな傷から病気が入ると聞かせたのを忘れたの!?」

「あの、お嬢様、そういう訳ではなく……」

「ではどのような訳なのか聞かせて頂戴?」

「賊がまだ何処に潜んでいるか分からず、治療行為という隙を見せる訳にはいかないと判断しました」

「セイロン嬢、それ嘘だ」

「マルス!!?」

 

 シュヴァルツ! と声を張り上げてプンスカ怒りながら消毒して絆創膏を貼ったり包帯を巻き付けたりと献身的に治療するセイロン。縮こまるシュヴァルツ。

 姉と妹のような光景を眺めるマルスと周囲の視線は心做しか温かった。

 

「全くもう! マルス殿もシュヴァルツにかすり傷でもちゃんと治療するよう言ってくださいまし」

「そいつ俺の言うことは聞かんぞセイロン嬢。しっかり首輪とリードを着けて面倒を見てやれ」

「お嬢様お嬢様、そういうマルスも多少の傷ならないのと同じだとか言います」

「シュヴァルツはお黙りなさい」

「はい……」

 

 完全に沈黙させられたシュヴァルツを見てケラケラと笑うようなことはせず、とりあえず手元にあるものを飲むマルス。深く踏み込むと誘爆する危険を察知したが故である。

 

「マルス殿はお怪我はないのですか?」

「もちろんだともセイロン嬢。上を脱いでもいいぞ」

「公衆の場ですよ? やめてくださいませ」

 

 軽く笑って冗談だと言ってアロハシャツの裾にかけた手を離す。

 

「ヘルマンが心配か?」

「……いいえ。貴方とシュヴァルツがこんな所にいるというのはそういうことでしょう?」

「まあ不味いことになったら俺はともかくそいつは走るだろうな」

 

 恨めしそうに見てくるシュヴァルツを指さして言うが、セイロンは目線も向けずそうですわねとしか言わず、シュヴァルツが若干萎れた。

 こいつ案外愉快だなとマルスが認識するまで時間はかからなかった。

 シュヴァルツがセイロンに弱いことは把握していたが、ここまで弱いのは少し予想外で微笑ましい。

 

「噂をすればだな。ほらセイロン嬢、ヘルマンの奴が来たぞ」

「ああ、マルス。それにセイロンもいるのか、心配をかけたな」

 

 父親に駆け寄る娘を見ていれば、護衛も立ち上がって主人に歩み寄るのが見えた。なるほど、三者の仲は相も変わらず良好らしいと一人で頷く。

 ヘンテコペンギンとモスティマ、それからテキサスの姿を探す。ヘンテコペンギンもテキサスも見慣れていないとはいえ、両者ともにいい意味でも悪い意味でも目立つ容姿だ。

 

「……ん?」

 

 しかし居ないなと思いながら見ていれば、肩を叩かれた。

 振り向いてみれば、肩に置いてあった指先が頬にめり込んだ。痛くも痒くもないが鬱陶しい。

 

「どうした」

「なんだか私が狙われてたみたいなんだけど心当たりないかな?」

「…………すまん」

「許してあげよう、私は寛大だからね」

 

 そう言いながらまだ三割ほど残った飲み物を手元から奪って飲み干した。一瞬だけマルスの顔がしょんぼりした。

 

「あ、これ美味しいね」

「……イチオシだからな。まだ飲むなら買ってくるぞ」

「じゃあ一緒に行こうよ、小腹も空いたし何か食べたいな」

「仕方がないな」

 

 揃って買いに行った二人を後ろから見守るペンギンとループス。それからシエスタの市長らは三者三様の表情をしていた。

 唖然とした様子のペンギン、変なものを見るようなループス、微笑ましいものを見るようなヘルマンたち。

 

「……驚いた。モスティマはあんな表情をするんだな。ボスは知っていたのか?」

「あ〜、まあ一応な。あそこまでとは思わなかったし、その上まさか本気で入れ込んでるとは知らなかったが……」

「良いことだと思うがね。マルスにとっても彼女にとっても、穏やかに暮らせるということはそれだけで価値あることだろう」

「そりゃそうだがちょいとな」

 

 含みがあるようなエンペラーに首を傾げつつ、まあ問い詰めても無駄だろうなと諦める。

 元より、これはあまり多くを語るタイプではない。無駄なことはペラペラと喋るが重要なことは必要な時にしか話さないだろう。

 今は束の間の休息を満喫すべきだ。

 

「セイロン、シュヴァルツ。たまには三人で食べ歩きでもしてみようか」

「まあ、それは良いですわねお父様」

「……かしこまりました」

 

 そうやって、市長の一行も人混みの中に消えていった。

 市庁の建て直しに掛かる費用と歳月、マルスが破壊した一帯の修繕費等の計算からは目を逸らして。

 ペンギン急便の二人はさてどうしようかと炎天下の下で立ちっぱなしだったが、少しすればホットドッグと大人気フルーツジュースを四人分買ってきたマルスとモスティマが戻ってきた。

 

「一応買ってきたけど、ボスとテキサスも食べる?」

「戴こう、感謝する」

「珍しく気が利くじゃねぇか、有難く貰うとするぜ!」

「少しボリュームを下げろ鳥もどき、焼くぞ」

「待て、いい加減訂正するが俺は鳥もどきじゃねぇ」

「ならなんなんだ。鳥か?」

「見て分かれよエンペラー様だよ! いや、そもそもなんでてめぇ俺にだけ異様に辛辣なんだ??」

「気分だが」

「気分ならしょうがねぇな……て、なるわけねぇだろ! 雇わねぇぞ!」

「……無職も悪くないな。モスティマ、金は出すから養ってくれ」

 

 それは養う事にならなくないか? なんてまともなツッコミを入れる人物は不在。テキサスはホットドッグとジュースに夢中だった。

 エキサイトしていくエンペラーを平坦なテンションで煽り続けるマルス。それを見ながらニコニコしているモスティマ。追加のホットドッグを頬張るテキサス。

 

 喧しい四人組の騒ぎはあまりにも五月蝿すぎて通報され、保安局が来るまで続いた。

 

 

 

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