ポケモン世界で配信者、始めました!   作:ルルル・ルル・ルールルールー

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配信者、始めました!
#1 配信を始めるまで 前


 

 

「うーん。かわいい。天使?」

 

 鏡に映るは亜麻色の髪の幼い天使。

 

 胸の上ぐらいまで伸びた亜麻色の髪はさらさらで、手ぐしをすれば引っかかることもなくスッと通る。長い睫毛に縁取られた碧眼はやや眠たげなタレ目で、ジト目っぽくなっているのもあざとかわいい。幼げな顔の造形も恐ろしいほどに整っており、真っ直ぐな鼻梁も仄かに色付くほっぺも桜色の唇も、文句の付けようのない美少女だ。ちなみに声もかわいい。

 

「これが神のご利益。名も知らぬ神様、ありがとう」

 

 生まれた瞬間から付き合ってきた私の身体だけど、我ながら何度見ても完全無欠の美少女すぎて震える。惜しむらくは私が私自身と結婚できないことである。

 

「さて、準備しなきゃ」

 

 身嗜みをきちんと整えてからパソコンを起動し、動画配信サイトの私のチャンネルから配信の待機画面を開く。予定の配信の開始時間までまだ数分あるが、すでに待機中の視聴者はかなりの数だ。配信を始めた当初の私に見せれば、まず間違いなく怖気付くような人数だけどもう慣れたもの。

 

「あー、あー、あー。声も大丈夫かな」

 

 発声の練習と今日の配信内容の段取りの確認を軽く行い、配信の準備をしていればあっという間に開始の時間だ。

 

「みなさん、こんにちは。ジムリーダーのカレンです」

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 初詣で近所の寂れた神社の絵馬に何を血迷ったか『超絶かわいいロリになってお姉さんとおねロリ百合したい』と煩悩と性癖にまみれたこの世の闇のような願いを書いたら神様は何を思ったか、本当にTS転生したようだ。

 

 

 

 

 前世の記憶が蘇ったのは5歳の夏。ポカポカな陽気の中で近所の公園でお母さんと一緒に元気に遊び回り、お弁当のサンドイッチをたらふく食べて日向ぼっこしながらスヤァしてた時。夢の中で、『俺』の人生を作文用紙1枚分ぐらいに適当にまとめたものを追体験し、目覚めたら『私』の頭の中に『俺』の記憶が混ざり混んでいた。

 

 突然のことだったけれど、それでもなぜだか変にパニックになったりすることはなく、「あぁ、なるほど。『私』は『俺』なんだ」とすんなりと納得し、『私』は『俺』との共存を受け入れた。『俺』と混ざり合った『私』は精神が成長し、趣味趣向で『俺』の影響を受け、人格は『私』のモノになり、成人男性だった『俺』の知識を手に入れた。

 そうして最後に残ったのは『私』でも『俺』でもない、二つが複雑に混ざり合って新たに生まれた私となった。

 

『私』の様子の変化を敏感に察知したお母さんが「どうしたの」と心配して顔を覗き込んでくるけど私は一言「だいじょうぶ」と答えた。実際に問題はなかったし、前世のことや転生のことをお母さんに話すのはなんとなく憚られたのだ。その後は遊ぶのを再開して、日が暮れて家に帰る頃にはお母さんも本当に私に何ともないと判断したらしい。

 

 ところでこの世界は、前世の世界とは違う。

 端的に言うとポケモンの世界だ。

 前世が生粋のポケモン大好き人間だった私は、この幸運に神様への感謝の祈りを捧げ、お母さんにはポケモンちょうだいのおねだり攻勢をしかけた。

 三日三晩に続くおねだりに遂に屈したお母さんが私のために捕まえてくれたポケモンはクチート(♀)だった。クチートは前世で一番大好きなポケモンだったので、嬉しすぎて狂喜乱舞した。

 

 それからクチートには『トト』と言う名前を付けて毎日片時も離れず一緒にいるようになった。トトちゃんは構い過ぎるとそっぽを向き、放っておき過ぎると甘えてくる猫のような性格で大変かわいらしい。数ヶ月も経てばすっかり仲良くなり、私とお母さんにとってトトちゃんは掛け替えのない家族になった。

 

「トトちゃん、ずっといっしょにいようね」

 

「くぅくぅ」

 

「ずっと、ずっとね」

 

「くー」

 

 うへへぇ……かわいいなぁトトちゃん……。

 

 

 

 

 

 

 それから私はお母さんとトトちゃんに見守られ愛し愛され幸せな日々を送り、タケノコのようにすくすくと育ちあっという間に10歳を迎えた。

 10歳と言えばそう。ポケモントレーナーとして旅立つことが許されるようになる年齢だ。しかし、この設定はアニメ版ポケモン特有の設定であって、ゲーム版──原作準拠っぽいこの世界にはそんな法律は特にない。というか、10歳で旅立つとか常識的に考えて非常識である。

 

 私が転生したこの世界では少年少女がポケモントレーナーとして旅立つのは、だいたい最低でも14〜16歳くらいが普通だ。それもそのはず、10歳じゃまだ義務教育すら満足に終わってないのだから。

 そういう事情があったため、10歳の誕生日を迎えるとともに旅に出ると言った私は、お母さんに必死に止められた。10歳の女の子が一人で旅をしてロクな目に遭うわけがないと言われれば、その通りだと納得せざるを得ないし、ぐうの音も出ない正論であった。

 

 旅に出るのはせめて後2年は待つように約束させられ、代替案としてお母さん同伴のもとポケモントレーナーとしての活動は許された。なので私はこの2年を雌伏の時として力を蓄え、12歳で旅に出るときに鮮烈なデビューを図ることにした。

 

 私の生まれ育ったガラル地方には、多種多様なポケモンが生息し、たくさんのトレーナーが集まるワイルドエリアという場所がある。私はこの2年間で暇さえあればお母さんと一緒にワイルドエリアに繰り出し、トトちゃんとともにポケモントレーナーとしての経験を積み、新しいポケモンを捕まえたり、キャンプしてカレーを食べたりと充実した日々を過ごした。

 

 ワイルドエリアで新たに捕まえたポケモンはリオル、ココガラ、ヒトツキ、イワーク、ジュラルドンの5匹。見事に進化後がはがねタイプのポケモンで揃ったけれど、これは当然狙ってやった。理由は単純ではがねタイプが一番好きだったから。前世でも『俺』はよくはがねタイプ統一パーティを使っていた。だから私もはがねタイプ統一で戦うことにしたのだ。「好きこそ物の上手なれ」って言うしね。好きなポケモンを使って勝つのがきっと一番楽しいのだ。

 

 はがねタイプのポケモンばかり集めようとする私にお母さんは「もっとポケモンのタイプはバランス良くした方がいいわよ」と至極もっともな助言をしてくれたけど、私がはがねタイプが好きだからと言えば「カレンがそうしたいのなら良いと思うわ」と笑って背中を押してくれた。

 

 お母さんも若い頃はポケモントレーナーだったとのことで、私にポケモンの育て方からポケモンバトルのこと、コンディションの整え方などいろいろなことを教えてくれた。本人は別に大したトレーナーではなかったなんて謙遜するけど、前世の記憶によるポケモン知識を持つ私にはわかる。バンギラスにカイリューを持っているトレーナーが大したトレーナーでないわけがない。

 

 少し残念だったのがポケモンバトルにおいて、前世のゲーム知識があまり役に立たなかったことだ。ポケモンの能力に関する知識や技や特性、タイプ相性に関しては前世のゲーム知識が大いに役立っているが、実践的なバトルはそれだけで全てが決まるわけではない。

 指示の出し方、技の使い方、地形の使い方、エトセトラ。ゲームのターン制バトルでどれだけ強くとも、この世界では何の意味もない。当然と言えば当然だけど、格ゲーの世界チャンピオンがボブサップにリアルファイトを挑んで勝てるわけがないのと同じだ。

 前世知識でマウントを取れるなんて思ったけど、人生はそんなに甘くないらしい。

 

 それでも私はこのアニメ版ポケモンに近いバトルに熱中した。コマンドを入力してその通りに動くだけのデータと違い、この世界のポケモンは確かに生きている。言わば、血の通った生きているポケモンバトルだ。

 

 ポケモンが大好きな私にとってポケモンバトルが何よりも楽しい時間となるのには、時間はそうかからなかった。

 




ココガラはポケモン剣盾より登場した新ポケモンです。
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