ポケモン世界で配信者、始めました! 作:ルルル・ルル・ルールルールー
私は今、お母さんと一緒にバウタウンに来ている。理由は二つ。お寿司を食べることと、お父さんに会うこと。
「お父さんはどこにいるの?」
アーマーガアタクシーを呼んで、バウタウンに降りると同時にお母さんに尋ねた。待ち合わせをしていると聞いたが、その場所はまだ聞いていなかった。
「灯台の前で待ち合わせよ」
「そっか」
肌を撫でる潮風の香りが懐かしい。バウタウンは数ヶ月前のジムチャレンジで訪れたきりだ。あの時はモタモタしていたらジムチャレンジの期限に間に合わないと思って急いでいたから、ほとんど観光などはしていなかった。結局、期限に追われることはなくかなりの余裕を持ってジムチャレンジを終わらせることになってむしろ暇を持て余したのだけど。今考えると、もう少し色々な街を見て回っておけば良かったと少し後悔する。
これから行く灯台もそうだ。バウタウンの観光スポットとして有名だけど、当時の私は完全にスルーしていた。次にジムチャレンジに参加することがあればもっと、色々と見て回ろうかな。
そんなことを考えながらしばらく歩いて、やがて灯台に辿り着く。
「海、すごいね」
「綺麗ね」
まず目に入るのが、見渡す限り一面の綺麗な青だった。地平線の先までどこまでも広がって行く海は、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。ざざーん、ざざーんと規則的に寄せては返す波の音と、胸いっぱいに吸い込む潮風の匂い、空を自由に飛び回るキャモメの鳴き声に、港を包む人々の喧騒。なんだか、前世の高校生の頃に修学旅行で行った沖縄の海を思い出す。あの時は初めて見る海に感動し、友人たちと一緒になってはしゃぎながら遊び回ったっけ。あいつらは今、元気だろうか。
なんて、前世を思い出しながら望郷の念のようなセンチメンタルに浸っていると、お母さんの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「スミレ」
その声にお母さんと共に振り返る。灯台の前、2匹のストリンダーの銅像の近くにその人は立っていた。短く刈り込んだ亜麻色の髪と、厳格な雰囲気を感じる鋭い碧眼を持つ偉丈夫。私と同じ色だ。一目でわかった、この人が私のお父さんなんだ。
◇◆◇
「大トロうまーっ!」
白く輝くシャリに、鮮やかなピンク色の
前世ぶりに食べるお寿司の美味しさは端的に言ってやばかった。
「好きなだけ食べるといい」
「ダメよ、ほどほどにしなさい。太っちゃうわ」
お父さんと合流した私たちは、早速予約していたお寿司屋さんに来ていた。店構えは和風で、店内もお座敷の個室で背の低い卓に旅館なんかで見る座布団の座椅子。急須で入れるお茶まである。徹底した和の雰囲気に私の日本人ソウルが震えた。隣に座っているお母さんを見れば、機嫌が良さそうに頬を緩めている。ジョウト生まれのお母さんにとっても満足のいくお店らしい。
お父さんは最初、開口一番に私に謝罪した。今まで、一度も会わなかったことや父親らしいことをしてやらなかったことなど、次々に出てくる自責の言葉。だけど、私はやっぱりお父さんを責める気は無かった。私には愛してくれるお母さんがいたし、お父さんの事情も聞いていた。お父さんは私のための養育費や私の欲しいものは用意してくれているのだし、ちゃんと恩も感じてる。ぶっちゃけ、私の感覚としては海外出張などで会えない父親みたいなものだ。そもそも、お母さんが今のお父さんとの関係を赦しているのなら私が何か言うのは野暮である。お父さんは私よりもお母さんを気にかけて欲しい。
そうしてお父さんの謝罪を聞いて、私も気にしていないことを伝えて、ようやく私たちはちゃんとした家族になれたと思う。これからもお父さんとは離れて暮らすが、今日のようにたまに会うこともあるだろう。お母さんは私たちのやりとりを見て静かに泣いていた。肩の荷が下りたのだろう。お母さんが今よりももっと幸せになれるなら私も嬉しい。
お父さんは厳格で高貴な雰囲気のあるイケメンで、口数が割と少ない。だけど、少ない口数の中に確かに私を思い遣る気持ちが感じられる。きっと、子供思いで優しい人なのだろう。だからこそ、自分を責めてしまっていた節があるが。
「そういえば、カレンはスミレに勝ったらしいな」
お寿司を夢中になって食べていた私に、お父さんはそう言って切り出した。話を聞いてみると、お父さんは私の配信をリアルタイムではないが、時間があるときにアーカイブで見ているらしい。なんだか嬉しい。
「お父さんはポケモン詳しい?」
「いや、正直あまりわからないな。だが、カレンやスミレが強いというのはなんとなくわかる」
お父さんは子供の頃から家の仕事の手伝いなどで、会社の跡取りとして厳しく育てられた影響で、あまりポケモンやポケモンバトルに触れる機会がなかったとのこと。
「スミレは昔、ジョウトのバトル何とかなる施設で名を馳せていたらしい。カレンは知っていたか?」
「知らなかった」
バトル何とかなる施設? ジョウトだし……もしかしてバトルフロンティアだろうか?
仮にそうなら、お母さんの強さにも納得がいく。バトルフロンティアはジョウト地方とホウエン地方にそれぞれある施設で、たくさんの強力なトレーナーが日々競い合い切磋琢磨する強者達の楽園だ。中にはジムリーダーやチャンピオンクラスの実力者だって存在していると言えばその凄まじさがわかるだろう。
そんな場所で名を馳せていたというなら、道理で強いわけだ。
「お母さん、そうなの?」
「そうねぇ……。あの頃は毎日バトル漬けだったわ。懐かしいわね」
お母さんが過去を懐かしがるように遠い目をする。今はこんなに優しくて穏やかなお母さんも、昔は戦闘狂だったようだ。びっくりである。お父さんと出会って丸くなったのかな。思えば、お母さんと戦っているとき、たまに普段は見せないような好戦的な一面を見せることがあった。血が騒ぐのだろう。
「なんで教えてくれなかったの?」
「過去のことを話すのって恥ずかしいじゃない。聞かれもしなかったしね」
そうなのかな。いわゆる黒歴史というものだろうか。私の今の配信者としての活動が、大人になったとき黒歴史になっていたりしてたらやだなぁ。
「そういえばお父さん、推薦状とダイマックスバンドありがとう」
私が旅立つときにお父さんが用意してくれた推薦状とダイマックスバンドが無かったら、ジムチャレンジに参加することはできなかった。今の私があるのは、ジムチャレンジのおかげだ。元を辿ればお父さんのおかげとも言える。
もし推薦状がなかったらそれはそれで気ままに旅を楽しんでいただろうが、そうなるとダンデとライバルになったり、配信者になったり、お母さんにバトルで勝てたりすることはなかっただろう。小さなきっかけだが、まるで世界が変わったような変化だ。
「あぁ、私にはあれぐらいのことしかできなかったからな」
「それでも。ずっとお礼を言いたかった」
「そうか」
「……うん」
…………。
話が続かない。お父さんは無口だし、未だお互いに距離感を測りかねている感じがある。
「お父さん、大トロ美味しいよ」
「そうか。よかった。これも食べるといい」
「カニっ!」
カニうまーっ!!
◇◆◇
美味しいお寿司をたらふく食べ、満足した私たちは食事を終えてお店を出た。それにしても美味しかった。是非また来たい。お会計の値段にはびっくりして震えたけど。お父さんが懐からスッと黒く輝くカードを取り出したときはかっこよかった。
その後、三人でバウタウンの港、市場、灯台、スタジアムなどの観光スポットをたくさん回ってお父さんとは別れた。この一日でお父さんとはだいぶ打ち解けられたと思う。とても楽しかった。きっと、私一人やお母さんと二人だけで観光するよりも、三人で観光する方がずっと楽しい。やっぱり家族っていいものだ。前世の家族は元気だろうか。今の私にとっての家族はお母さんとお父さん、それとトトちゃんたちだけど、前世の家族の存在を忘れたことは一度もない。
家族の暖かさに包まれて、幸せで温かい気持ちになるけれど、少しだけ寂しい。そんな複雑な気持ちだ。
「カレン、お父さんはどうだった?」
アーマーガアタクシーで家に帰って、リビングでゆっくりしているとお母さんが尋ねてきた。
「口下手だけど、優しい人だね」
「そうよねっ! カレンがそう言ってくれて嬉しいわ。あの人もきっと喜んでくれるわ」
お母さんが花の咲くような笑顔で頷く。
「こんどはケーキとか食べに行きたい」
「いいわね!」
楽しみだ。
Tips
『バトルフロンティア』
ポケットモンスター『エメラルド』『プラチナ』『ハートゴールド・ソウルシルバー』に登場する、様々な形式の対戦施設が揃った大規模な都市型のバトルエリア。
端的に言えば、エンドコンテンツ。ストーリー終盤に登場する強敵を遥かに凌ぐトレーナーがゴロゴロいる魔境。
俗に言う『ポケモン廃人』が対戦用に育てるガチポケモンでないと容易には勝ち上がれない。
執筆者はポケモンの新作が出るたびにバトルフロンティアの復刻を願っている。多分、同じ気持ちの人は多いと思う。
『ポケモン世界の食料』
ポケモンの闇の一つ。
ポケモンを食べている説や普通の生物が存在してる説など、公式が明確な答えを出していないので謎。
このSSでは普通に生物が存在していることにしています。ポケモン食べるとか嫌ですし。
ポケモンの身体の一部(ミルタンクのミルク、トロピウスのバナナ、やどんのしっぽなど)を食料とする場合はありますが、そういったケースではポケモンに負担はありません。