ポケモン世界で配信者、始めました!   作:ルルル・ルル・ルールルールー

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ジムリーダー、始めました!
#1 開戦とケーキと魔性のあの子


 

 

 ガラル地方、シュートシティはシュートスタジアム。ダイマックスポケモン同士が戦うことを想定して建設された広大なスタジアムは異様な熱気に包まれていた。何万人もの観客がスタジアムを囲み、口々に声援や応援歌を口ずさむ。それらが場を盛り上げる楽団の演奏と一体になって壮大にスタジアムを彩る。

 

 彼らの中心、グラウンドには二人のポケモントレーナーが対峙していた。

 一人は杖を突いた白髪の老婆。今にも倒れそうなほど細い身体でありながら、しかしその身に宿る力強さは彼女が只者では無いことを確信させる。その眼光は一切の油断なく対面の強敵を睨んでいた。

 一人はワンピースを着た亜麻色の髪の少女。スタジアムという戦場に不釣り合いなほど幼く可憐な外見でありながら、老婆の鋭い視線を受けながらも楽しそうにあどけない笑みを浮かべ、好戦的な光をその目に宿す。

 

 まるで対照的な二人だが、この場においての主役は紛れもなくこの二人だった。やがて、老婆は残った最後のボールを手にし口を開いた。

 

「追い詰められたけどね、まだ終わっちゃいないよ。新人に簡単に負けてやるほど、あたしは甘くないよ!」

 

 自らはすでにポケモンを五匹失い、あと一匹。対して老婆が打ち倒せたのはたった二匹だけ。すでに勝負はついている。誰もがそう思うが、このスタジアムで、何万という人々の群れの中で、唯一老婆だけが自らに残される小さな勝利の可能性を信じていた。

 だから、吠える。己を鼓舞するように。手のひらの相棒に全てを託すように。

 

「それならもっと、私を楽しませてください」

 

 その老婆の、ともすれば滑稽な悪あがきを眼前で眺める少女は、しかし。その愛らしい(かんばせ)をより好戦的に歪め、心底楽しむように笑う。

 少女は、自らの勝利を半ば確信している。だが、僅かにでもある敗北の可能性は常に考慮して戦っていた。

 

 少女にとって老婆は、猫に刃向かう鼠のような、重力に抗うリンゴのような、取るに足らない相手であったかもしれない。それでも、少女の心に慢心はない。そこにあるのはどこまでも無邪気に勝負を楽しむ心だけ。すでに趨勢は決している戦いでも、敵が吠え続ける限りその戦を楽しもうとする無邪気な心。まだ戦えるなら、まだ自らを楽しませてくれる──少女のいっそ残酷で、傲慢ですらある無邪気さだった。

 

「ふん。年寄りを、ナメるんじゃないよ! ──マホイップ、キョダイマックス!!」

 

「ナメていませんよ。ただ、もっとバトルを楽しみたいだけですっ! ──ジュラルドン、キョダイマックス!!」

 

 老婆と少女、それぞれが手にしたボールが赤いオーラを纏い巨大化する。それは、ガラル地方にのみ存在する特有の現象であり、ガラル地方のポケモンバトルを彩る花。

 放られたボールは、二人の背後で巨大な影を作る。影は瞬く間に巨大化していき、やがてスタジアムの開いた天井を突き抜けるかといったほどにまで達すると、影が晴れる。

 現れたのは、二匹の巨大なポケモン。巨大化する前の名残を残しながら、大きく変じたその姿は圧倒的な威圧感を放ち、雄大に佇む。

 これこそが──ダイマックス。否、キョダイマックスである。

 

『ワァァァァァァァァアアアアアア!!!!』

 

 歓声が地鳴りのようにスタジアムを揺らす。スタジアムの熱気はこの瞬間、最高潮を迎えた。そして、しばらく睨み合っていた二匹の巨大化したポケモンが、二人の小さなトレーナーが、観客の熱狂に突き動かされるように動きだす。

 

「マホイップ──」

 

「ジュラルドン──」

 

 老婆と少女が朗々と指示を出す。それは不思議と、歓声に包まれるスタジアムで掻き消されることもなく確かに響いた。

 

「──キョダイダンエン!!」

 

「──ダイスチル!!」

 

 二匹の技が激突し、スタジアムが大きく揺れる。観客たちは息を呑みつつその光景を見守り、戦いの結末を見逃してなるものかと注視する。

 

 

 

 

 今日ここで行われたのは、二人のトレーナーの本気のバトル。老婆と少女──ジムリーダー同士が競い合い、その順位を決める正々堂々の決戦の一。

 ガラルポケモンリーグ、リーグ順位戦の始まりを告げる戦い。

 

 

 

 

 ──その日少女は、ジムリーダーとしての初めての勝利を刻んだ。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

「本っ当に、かっこよかったです! カレンちゃん!」

 

 今日から始まったリーグ順位戦。私は記念すべきその初戦を飾ることになり、フェアリータイプのジムリーダー、ポプラさんと戦うことになった。タイプ的に有利だったこともあり、危なげなく戦いを制し、控え室に戻った私を出迎えたのは豊満な胸の圧力だった。

 豊かな胸の柔らかい弾力と、鼻孔をくすぐる彼女の甘い香りが合わさってなんだかクラクラしてしまいそうだ。

 というか、クラクラしてきた。苦しい。これはあれだ、呼吸ができなくて酸素が足りていない。私を抱きしめる彼女の背中をパシパシと叩いて、苦しんでいることを伝えれば、慌てたようにリリースしてくれた。

 

「──っぷぁ! ……死ぬかと思いました」

 

 じとり、と抗議するように睨むと彼女は目を泳がせながら、しばし。素直に謝った。

 

「ご、ごめんなさいっ! カレンちゃんが勝ったのが嬉しくって……つい」

 

「もう、気をつけてくださいね」

 

 頭を下げて謝る彼女に、もともと別に怒っていたわけではないので注意するに留める。胸の感触が気持ちよくて、離れたときに若干名残惜しかったのは内緒だ。

 

「でも、本当にかっこよかったですよ! 普段はこんなに小さくてかわいいのに!」

 

「そ、そうですか? まぁ、当然ですよね。私ですから」

 

 普段からよく褒められる私だけど、彼女は嘘なんて吐いたことが無いんじゃないかと思うほどに素直で純粋で、そんな彼女に手放しで褒められるのは少し照れ臭いというか、気恥ずかしいというか。なんだか変な感じだ。

 誤魔化すように私は、フフンと胸を張ってみせた。

 

 

 

 

 彼女の名前はベリー。名前を表すかのようなストロベリー色の長髪と綺麗なブルーベリー色の瞳が特徴的な美少女で、歳は今年で18歳だと言っていた。身長は160cmほどで、私には無い大きな胸を持っている。性格は素直で純粋、天真爛漫。かわいいものが好きで、最近の趣味はかわいい私を愛でることらしい。

 

 ベリーとは私がジムリーダーの引き継ぎで、はがねジムの事務所を訪れたときに出会った。彼女ははがねジムのジムトレーナーの序列一位で、ジムリーダーとして新米の私の補助をしてくれている。

 本来は彼女がジムリーダーになるはずだったところを、私がジムリーダーになったせいでその機会を潰してしまったことについて密かに罪悪感があったけど、そのことを話したら彼女は笑って、何とも思ってないと言ってくれた。ジムトレーナーの中にはぽっと出の私のことをよく思ってない人もいたようで、そんな人達と比べるとよりベリーの良い子感が強まる。本当に邪気も何も無い純粋さで、見惚れるような笑顔が眩しい素敵な女の子だ。

 

 そんなこんなで私は最近ベリーと一緒にいることが多い。今ではとっても仲良しだ。親友と言ってもいいかもしれない。だけど、私の身長が一年前から変わらず140cmにすら届いていないせいで、ベリーと並んでいると友達同士ではなく、歳の離れた姉妹に間違われることもある。多分、身長が伸びないのは私の前世の願いを要約すると『ロリになる』だったせいだ。もうこれ以上身長が伸びることはないのだろう。悲しいような、嬉しいような。

 

「カレンちゃん、よかったらこの後一緒にケーキ食べに行きませんか? シュートシティでケーキの美味しいお店知ってるんですよ!」

 

 目を輝かせながら名案だ、とでも言いたげにベリーは手を叩いた。

 

「カレンちゃんの祝勝会です! パーっとやりましょう!」

 

「いいですね。行きましょう」

 

「はいっ!」

 

 私が了承すると、花が開くような笑顔を見せるベリー。そんな笑顔に、私も思わず頬が緩んでしまう。ベリーの笑顔を見ると、心が暖かくなるように錯覚する。そのぐらい素敵な笑顔だ。ベリーは私やお母さんを除けば、今まで見たこともないぐらいに美少女だ。この容姿で、こんな純粋な性格だと悪い男に騙されたりしてしまいそうで心配になる。私の目が黒いうちはそこらの男にベリーは渡さない。私が守護(まも)らねば。

 

 早くケーキを食べに行こう、ということで控え室をベリーと手分けして片付ける。あまり多くの荷物を持ち込んでいないので、そんなに時間はかからない。

 ユニフォームから私服に着替えて、荷物を持って、控え室を後にした。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

「んーっ! 美味しいです!」

 

 対面に座るベリーがケーキを食べながらニコニコと微笑みを浮かべる。ベリーに連れられて訪れたのは隠れ家的な小さなカフェで、客はまばらであまり繁盛はしていない。だけど、出されるケーキも紅茶もとても美味しい。ベリーに聞いたところ、知る人ぞ知る名店なのだそうだ。得意げに語って聞かせてくれた。

 

「本当に美味しいですね。生クリームは甘すぎず、スポンジはふわふわで……」

 

「カレンちゃんも気に入ってくれたみたいで嬉しいです!」

 

 以前、私の誕生日にお母さんとお父さんと一緒に三人で行った高そうなケーキ屋さんで食べたケーキも美味しかったけど、こっちのケーキもかなり美味しい。私は食レポできるほどケーキに詳しくないので、明確な比較はできないし、美味しいとしか言えないけれど、とにかく美味しいのだ。ちなみに、私が頼んだのはショートケーキで、ベリーが頼んだのはチョコレートケーキだ。

 

「私はショートケーキをよく食べるんですけど、今日はチョコレートケーキにしてみたんです。カレンちゃんもよかったら一口、どうですか?」

 

 小さく一口サイズにケーキを切り取ったベリーが、「どうですか?」と小首を傾げ、ケーキを乗せたフォークをこちらに向ける。……これはいわゆる「あーん」というやつでは? 

 女同士だからだと思うけど、それにしてもこの子、無防備すぎる気がする。普通「あーん」とかしないよ。しないよね?

 私の方が歳下なのに心配になってしまう。

 

「え、えっと……」

 

「あーん」

 

 私が戸惑っていても関係なく、ベリーはニコニコとケーキを突き出してくる。私がなかなか食べようとしないとベリーは、ニコニコ顔から一転、寂しそうな表情でポツリと呟く。

 

「もしかして、嫌でしたか……?」

 

「────っ!」

 

 そんな顔を見せられたら断れないよ! 

 

「嫌じゃないです! あむっ!」

 

 勇気を出して「あーん」を受け入れる。……恥ずかしい。顔が熱くなってきた。多分、今の私の顔は真っ赤だろう。

 

「どうでしたか? 美味しいですよね!」

 

「う、うん」

 

 正直味なんてわからなかった。ひたすら恥ずかしい。ベリーは他の女友達にもこんなことをしているのだろうか? 

 さすがに男にこんなことをするとは思えないけど。これじゃあ、女の子でも勘違いしてしまう人が出てきそうだ。

 

 というかベリーは恥ずかしくないのだろうか。ちらっと見てみると、ベリーの頬にはわずかに朱が差していた。多少は恥ずかしがっていたようでちょっと安心した。私だけ恥ずかしがるとか不公平だ。

 

「カレンちゃんのも、一口欲しいなー」

 

「!?」

 

 そんなことを考えていると、ベリーが攻勢に出てきた。なんとなく予想はしていたけど、やっぱりそう来るよね……。

 

「あーん」

 

 ベリーは餌を待つ雛鳥のように口を開けて待ちの姿勢だ。今更断るなんて許されない。ベリーが悲しんでしまう。だけど……やっぱり、恥ずかしい。

 

 ──ええい、ままよ! 

 

「あ、あーん」

 

「っはむ」

 

「ど、どうですか?」

 

「やっぱり、ショートも美味しいっ!」

 

「……それは、よかったです」

 

 ふぅ、と息を吐く。ただケーキを食べるだけなのに、ポプラさんとのバトルよりも疲れてしまった気がする。こういうのは心臓によくないよ。

 

「あれ? カレンちゃん真っ赤だけど、どうしたの?」

 

「──っ! 知りませんっ!」

 

 ベリーのせいだよ! って叫びたい気分だ。

 

「まったく。……あんなことは誰にでもやってはダメですよ」

 

「あんなこと?」

 

「……あ、あーんのことです」

 

 私が注意すると、ベリーはいじけるように頬を膨らませた。

 

「むぅ……私だってこんなことは好きな人にしかしませんよ!」

 

「……え?」

 

 え、好きな人? 今好きな人って言った?! 

 

 違う、待って。きっとこれは言葉の綾だろう。どうせ友達的な意味で好きな人と言っているだけだ。勘違いしてはいけない。変に勘違いすると後で恥ずかしい思いをするだけなのだ。かしこい私にはわかる。まったく、ベリーといるとドキドキして大変だ。この子は魔性だ。

 

「そ、そういうことも、簡単に言ってはダメです!」

 

「はーい」

 

 思わず語気を荒げてしまう。だけど、ベリーはいじけた様子のまま、何とも気の抜けた返事をするだけだった。本当にわかっているのだろうか?

 勘違いされちゃうよ?

 

「まったく……」

 

「ふふふ、やっぱりかわいいなぁ、カレンちゃん」

 

「? 何か言いましたか?」

 

「いえ、せっかくですからもう一つくらい食べちゃいましょう?」

 

「太っちゃいますよ?」

 

「今日はお祝いですから、いいんですよ!」

 

「関係ないと思うのですけど……」

 

「いいんです!」

 

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