ポケモン世界で配信者、始めました! 作:ルルル・ルル・ルールルールー
「それじゃあ、行ってきます」
「頑張ってね、カレン」
お母さんとの約束通り2年待ち、12歳になった私は満を持して旅に出ることになった。お母さんもこの2年間でポケモントレーナーとしてかなりの成長を見せた私を止めることはしなかった。まだバトルで本気のお母さんに勝てたことはないけれど、手持ちのポケモンが全員進化したし、ワイルドエリアで戦った他のトレーナー相手には勝ち越しているから強さは問題ないと思ってる。
どうせ旅に出るならと、お母さんはジムチャレンジの推薦状を用意してくれた。それだけでなく、餞別として更にダイマックスバンドもプレゼントしてくれた。
推薦状もダイマックスバンドも簡単に手に入るものではない。推薦状はリーグ委員会の関係者に書いてもらう必要があるし、ダイマックスバンドは希少品だ。それもあって、私は特にジムチャレンジに参加する予定はなかったのだ。お母さんにこれをどこで手に入れたのかと問うと、お父さんが用意してくれたらしい。
……お父さん、いたんだ。
今まで一度もお父さんを見たことがなく話を聞いたこともなかったので、てっきり私にはお父さんはいないと思っていた。でもよくよく考えてみると、お母さんは外で仕事をしている様子がないのにお金で困ったことがないし、それどころか家は一軒家で広いし私の教育に家庭教師を雇うぐらいに我が家は裕福だ。
これは顔を知らぬお父さんがお金を出してくれていたのだろう。
お母さんに詳しく聞いてみるが、私がショックを受けると思っていたのか話すのを渋っていた。しかし、精神的に普通の12歳ではない私はどんな話が出てきても少なくとも泣き出したりはしない。お母さんも、そんな私の様子を見て平気だと判断したのか少しずつ話してくれた。
端的に言うと、お父さんは大きな企業のCEOでガラル貴族の偉い人、お母さんはその妾。そして私は妾の子、庶子であるらしい。他の地方出身のお母さんはガラルに来て、お父さんと恋に落ちるが、貴族であるお父さんにはすでに親の決めた貴族の許嫁がいた。そこに愛が無くとも貴族同士の婚姻は絶対であり、他に好きな人ができたなんて理由で覆ることはありえない。しかし二人は恋を諦めることはなく、なんやかんやあって今の関係に落ち着いた。
そんなことをお母さんは熱に浮かされたような表情で熱く語ってくれた。貴族とか妾とか、非日常的な話にどんなラブロマンスだと思ったけど、お母さんが幸せそうならいいや。
お母さんは今でもたまにお父さんと会って食事やデートをしているらしいが、お父さんは私に引け目を感じていてなかなか会う勇気が出ないとのこと。正直、私も今更お父さんが出て来ても、その人をお父さんと呼べるかと言うと微妙だ。だけど、別に会うぐらいなら何とも思わない。そのことをお母さんに伝えたのでそのうち会うことになるだろう。私の言葉を聞いたお母さんの嬉しそうな顔を見れたので、これでよかったと思う。
私としては、お母さんの話に少しだけ出て来た腹違いの姉妹という言葉に興味をそそられた。お母さんの遺伝子が入っていないとはいえ、超絶美少女天使である私の姉妹なのだからきっと美少女なのだろう。いつか会ってみたいものだ。
閑話休題。
ジムチャレンジに参加することになった私は意気揚々とエンジンシティに向かい、開会式に出た。たくさんの人達に囲まれたスタジアムの熱気には少し気後れしたが、それと同時にこの先の旅への期待を膨らませ私の思いを熱くさせてくれた。たまたま入手した推薦状で成り行きで参加することになったジムチャレンジだけど、せっかくだからリーグチャンピオンを狙ってみようかと私はこの時になって漸く決意を新たにした。
ジムチャレンジはガラルの主要な街を一周しながら、各スタジアムで行われるジムミッションとジムバトルをクリアしてジムバッジを集めていく催しだ。
8つのジムバッジを全て集めたジムチャレンジャーは、ゴールであるシュートシティにて行われるチャンピオンカップのセミファイナルトーナメントに参戦し、セミファイナルトーナメントで優勝したジムチャレンジャーは更にファイナルトーナメントに参戦する。
ファイナルトーナメントでは本気を出したジムリーダーたちと争い、たった1つのチャンピオンへの挑戦権を奪い合う。そして最後に、ファイナルトーナメントの優勝者とチャンピオンがお互いに全力で戦いリーグチャンピオンの座を争うチャンピオン戦を戦う。
ガラルのポケモントレーナーのほとんどは、このチャンピオンカップで勝利し自らがリーグチャンピオンになることを夢見て切磋琢磨する。私は前世の影響で、ポケモンバトルさえできれば満足だった少数派だが、こうなればチャンピオンになりたいという欲が出てくるもので、すっかりやる気になってしまった。
2年間もポケモントレーナーとしての修練に費やした私たちは、ポケモンの練度もトレーナーとしての能力もかなり鍛え上げられていた。
破竹の勢いでジムチャレンジをクリアしていき、あっさりとセミファイナルトーナメントへの挑戦権を一番乗りで得たときは拍子抜けしたものだ。その頃には私にもたくさんのファンが付いてくれていたようで、暖かい応援や心のこもった手紙をもらったときには心が暖かくなった。この人達のためにもチャンピオンになりたいとすら思った。
一部、幼い私の容姿に惹かれた
セミファイナルも余裕で優勝した私は、ファイナルトーナメントに挑むことになり本気のジムリーダーたちと戦った。さすがに彼らは強く、私もところどころで苦戦したがなんとか勝利を重ね、チャンピオンダンデとの最終戦。
全力を尽くした、今までの全てをぶつけた、万全を超えた状態で挑んだ。そうして臨んだ最高の舞台でのダンデとの最高の真剣勝負は楽しかった、本当に。過去全てのポケモンバトルにおいて、ダンデとのバトルの一分一秒が尊く優っているとすら思った。
そう思ったのはどうやら私だけではなく、ダンデもまた私の最後のポケモンを打ち倒した瞬間には感極まってリザードンと一緒になって雄叫びをあげていた。
「……次は私が勝ちます」
「次もオレが勝つ!」
私たちはどちらともなくシェイクハンドを交わし、次の激戦を約束する
そうして観客たちの万雷の喝采と共にチャンピオンカップは閉会となり、後にこの年は過去最高のジムチャレンジと称されるようになった。
後日、私は久しぶりの我が家でダラダラとテレビを見ながらソファに寝転がってマホイップのように溶けていた。
燃え尽き症候群というやつだ。
今でも思い出す、あの大きなスタジアムと大きな歓声、熱狂、最高のバトル。思い出す度に、私の身体は芯から熱くなっていくようにすら錯覚する。そしてそれらがすでに終わったことだと思うと急激に冷めていく。
トトちゃんが心配そうに顔を覗き込んでくる。もう少しこのままでいさせて欲しい、ソファがひんやりして気持ちいいのだ…………。
「カレン、いつまでそうしているのよ」
「後ちょっと……」
「そういって、もう一週間はそんな調子じゃない」
お母さんがあからさまにため息をついてやれやれと首を振った。
そうは言っても何もやる気が起きないのだ。何をしても身に入らない、私はもうダメかもしれない。私はこのままソファの上でナマコのように生きるのだ……。
「そんなんじゃ、またチャンピオンに負けちゃうわよ」
「……むぅ。それは困る」
きっとダンデは私がこうしている今でも強くなり続けているのだろう。それは嫌だ。もう負けたくない。
「とりあえず、配信でもやってみたら? 昔言ってたわよね、配信者になりたいって」
「言ったかなぁ……」
「言ってたわ」
……言った気がするなぁ。
前世の『俺』は配信者に憧れていた。楽しそうで華やかな世界。ゲームをやってお金がもらえる世界。ちやほやされて羨ましい世界。
今となってはそんなに気楽な世界だとはさすがに思っていないけど、『俺』は確かにそんな世界に憧れていたらしい。
私はそんな『俺』の記憶を持つのだから、配信者に憧れる気持ちは確かにわかる。わかるのだけど、今はやる気が出ない。
「……いつか、やる」
「はぁ……この子は」
このままだとダメなのは確かだ。私ももっと活動的にならなければいつか腐ってしまう。それは嫌だ。
仕方ない。
「明日から、本気出す」
今日のところはダラダラしよう。
お母さんは頭が痛そうに無言で額を覆った。
Tips
『推薦状』
ジムチャレンジの参加券。リーグ関係者のみが発行できる。
チャンピオンなどの有名人が書いた推薦状を持っていると注目される。
『ダイマックスバンド』
特定の場所で使用するとポケモンがダイマックス(巨大化)する。
ウルトラマンではないがダイマックスは三ターン、技三回分持続する。
ポケモンソード&シールドではダイマックスの使い方が勝負を分ける。
『ダンデ』
原作ポケモンソード&シールドに登場するラスボス。
10歳でジムチャレンジに挑戦してチャンピオンになり、以降無敗を誇るやべーやつ。
めちゃくちゃ強いはずなのに原作主人公が理不尽にバグすぎてあまり実感がない。わりと不憫。
このSSでは10歳で旅に出る説は諸々現実的に考えた結果オミットすることにしましたが、ダンデはバグキャラなので仕方ない。